02.フラグ
転生主人公というものは幼い内から身体を鍛えたり、知識を取り込んだり大変な努力をした後に俺TUEEE!!状態に持っていくものだろう。
しかし、子供の頃から身体にそんな負担かけてたら身体壊すんじゃないの?というのが俺の疑問だ。筋肉つけすぎたら身長伸びないとかも聞くし、何より幼児の身体はびっくりするくらい直ぐに眠くなったり肉体欲求に忠実だ。
そういうことから俺にはテンプレ主人公とか絶対無理だな、と思う。
それに身体は子供、頭脳は大人状態であるものの精神も身体に引きずられて幼くなっているのが現状だからだ。
こんなことで泣くわけねーだろと思うものの転んだり、叱られたりするだけでびっくりするくらい涙腺が緩む。俺が泣く度に俺より盛大に泣き叫びながら、一生懸命俺を慰めようとする妹は天使以外の言葉では表現出来ないが、それは一旦置いておく。
俺が、この身体――フィンセント・ファン・ボルオムに転生して九年が経過した。
因みにこの世界がゲームの世界だと気付いたのは六歳の時だ。
そこから三年経過したが、ゲーム開始の十五歳まではあと六年ある。それまではのんびり過ごしても罰は当たらないだろうと思っては居るが、このままでは記憶にある通りの線の細い庇護欲を擽るか弱い美少年にフィンセントは成長してしまう。
自分で言ってて何だけど、そういう設定だから仕方ない。美少年っていう設定なんで、ほんと、すみません。
とりあえず、それなら例え身長が伸びなくとも筋肉をつけて、いかにも守ってあげたいという雰囲気を払拭してしまえばフラグ回避出来るのではないだろうかと考えて、身体だけは三年前からコツコツと鍛えて居たりする。あくまでも常識の範囲内で自己流の筋トレだけだが、それなりに結果は出ていると思う。
知識もあるに越したことはないと思うが、孤児である俺の家に…孤児院に本などという高尚なものが置いているわけもないし買う金もないので保留中だ。しかし、孤児といえども読み書きが出来ないというのは困るのでシスターに教えて貰っていたりする。
悲しいことにこのシスターは老婆なのでどう頑張っても桃色な展開はない。ママ先生、所謂孤児院の母親的ポジションの人だ。
俺が覚えている範囲でのストーリーにはなるが、主人公のエリーは孤児で平民出身だが国民全員に義務付けられた十二歳での適性確認検査で保有魔力が最高レベルであるレベル5であることが発覚する。
そこからあれよあれよという間に才能ある子供のみが集められるソルシエ王立学校への入学が決定し、卒業時の適性検査で十二歳の時には何故かわからなかった特殊スキル持ちであることが判明する。そして、十五歳の時に貴族と成績優秀者、特殊スキル持ちなどの人間しか通えないフロース高等学院へ編入したところから話が始まる。
蛇足ではあるがこの国アプリオスでは十二歳から十五歳までの子供達は学校に通うことを義務付けられている。貴族や優秀な成績を残した者、将来有望な者は十八歳まで学ぶことが許可されるので、主人公は特殊スキルによりその権利を得るのだ。
勿論、男主人公であるフィンセントも同じ道を辿る。二人が相違している点といえば特殊スキルの内容が違うという一点だけだ。
何はともあれ概ね平和に生活しているものの、俺が六歳の時に漸くこの世界がとあるゲームの舞台になった世界だと気付いたのはスキルが覚醒したからなのだ。
エリーのスキルは【聖なる癒しの祝福】というもので、傷を癒し状態異常を回復させる特殊なものだ。他にも回復スキルを持つものは居るが状態異常を回復させることが出来る者は世界中に数える程しか居ない。エリーの祝福は能力を使いこなせれば解呪も可能になるらしい。たぶん、エリーは、行く行くは聖女とか呼ばれるようになると思う。
次にフィンセント、つまり俺のスキルだが…【時渡りの祝福】と呼ばれるものだ。これがなかなかに厄介な能力で所謂サイコメトリーだ。人や物に触れることによって過去の出来事、記憶を読み取ることが出来る。これについては訓練次第で制御可能なので便利な能力ではあるのだが、【時渡りの祝福】の最大のメリットとされるのが未来予知だ。
こちらは制御不可能な能力と言われていて、ランダムに発動しその時最も起こる可能性の高い未来が視えるのだ。似たような祝福は他にもあるが「これ一か月後くらいに起こる未来だわー」とかそういうことまでわかってしまうのは【時渡りの祝福】だけらしい。
未来予知とは直ぐ先の数日後の未来だけを予知するものだとされているが、俺の能力は大体一年くらい先まで予知することが可能なのだとか。その分制御不能とか役に立たないと思うのだが、この世界ではそれでも重宝されているらしい。
でも俺の記憶にある限りの情報では、未来予知に関しては使い勝手が悪すぎてチートに見えて全然チートじゃない能力らしいのでぶっちゃけ必要ないのではないかと思う。
面倒そうだからサイコメトリーだけで良いよ。
それに、攻略キャラに関わらず逃げ回ろうにもスキルがレア過ぎて王族とかそういう身分が高い人には関わっちゃうパターンに思える。スキル自体がフラグとかマジでやめてくれないか。
とにかく、その面倒なスキルが覚醒した際、俺はエリーに触れてしまった。
いや、エリーに触れた瞬間に覚醒したと言った方が正しいのかもしれないが、必然的に彼女のことをサイコメトリーしてしまうことになったわけだ。
俺とエリーは双子ということもあって二人で行動していることが多いが、常に二人で行動しているわけではない。
俺は治安の悪さというものを理解しているから孤児院という安全地帯から抜け出すことを余り好まない。だが、好奇心旺盛で活発なエリーは探検と称して孤児院を抜け出しては街を探索していたりする。
その日も俺は孤児院の中でチビ達の面倒を見ていたが、エリーは悪ガキどもと孤児院を抜け出して夕方頃に泥だらけになって帰ってきた。
エリーが泥だらけなのは何時ものことだとしても、話しかけても上の空で何処で摘んできたのかもわからない白い花を大事そうに握りしめているのは何時ものエリーとは違っていた。
何かがあったのは一目瞭然だった。
けれど、そう悪いことではなさそうだと思った俺は、特に問い詰めることもせずにエリーを着替えさせるのが先決だろうと水場に連れて行くべくその左手に触れた。
その瞬間、頭の中に流れ込んできた映像こそが、この世界が前世でいうところのゲームの世界なのだという記憶の引出しを開けたのだ。
それは、アニメのオープニングは元よりゲームムービーにも使われている有名な場面。
ゲームのメインヒーローとエリーの出会いのシーンだ。
幼い頃に出会った二人が成長して再会するなんて、それ系のゲームのお決まりシチュエーションだが見事にそのシーンが頭の中に流れてきた。
「エリー、その花、だれかにもらったの?もしかして、男の子?」
思わずそう訊ねた俺に、エリーは恥ずかしそうに頬を赤らめて答えてくれた。
「うん。あのね、とってもすてきな男の子にもらったのよ!まるで物語に出てくるような王子さまみたいだったわ!」
きゃー、と言いながら頬を押さえるエリーは兄妹の贔屓目なしに見てもとても可愛らしい。間違いなく天使だ。出会った瞬間恋に落ちても仕方ない。その男の子もメインヒーローであるからして相当なイケメンなので逆もしかり。
だが、しかし、それは王子様みたいな人じゃなくて本当の王子様だよとは口が裂けても言えない。王道的にエリーはメインヒーローとのルートを行くのだろうか。
とりあえず、エリーとシチュエーションは違うが、エリーが王子と出会ったことで、俺と王子との出会いフラグは多分折れただろうからそこは安心しても良いだろう。
―――なーんて、思っていた時期が俺にもありました。
俺、いま、転生九年目の人生最大のピンチに瀕しています。
誰か、助けて。フラグの折り方教えて下さい。
ちょっと余裕ぶって俺と王子はゲーム開始まで出会わないだろうとか高を括っていたのが悪かったのだろうか。
エリーと王子、俺と王子の出会いのシチュエーションは違う。出会う年も違っていたっていう部分は誤算だった。
そして、女主人公と出会ったからには男主人公とは出会わないなんて決まっていたわけではないということに俺は気付かなかった。そういうものなんだと思い込んでいた俺が愚かだとしか言いようがない。
これが世界の修正力か。なんと恐ろしい。
なんて言ってみたところで現状は変わらない。
俺は、どうやら、自分の手で王子とのフラグ立てたようです。
俺、いま、王子の手を取ってチンピラから逃亡中。
マジで、どうしよう。
でも、子供がチンピラに絡まれてたら相手が誰であろうと助けちゃうよねー。
なんていうか、ずるくねーか、このシチュエーション。
ああ、マジで、これからどうしよう。
男女二重でフラグが立った場合、先にフラグ立てた方が優先されるとか、そういうルールだったりしないかなぁ…。




