舞姫の再来
突然ですが、ペンネームを変更致します。
今は仮に名無しとなっております。
そして今月は2日に1回の投稿ではなく、不定期の投稿となります。ご了承くださいませ。
王宮は城門が開け放たれ、貴族も民間人も参加が自由の宴が開かれた。もちろん、勝峰ろ楓が率いる警備の兵も、いつも以上に配置している。
会場は真ん中には台で高くなったステージがあり、周りには軽食がテーブルに並べられている。舞を楽しみながら、身分も関係なく話し、食をともにして親睦を深め、指揮を高めることが狙いなのである。
招待された妓女達は、美しい襦裙を着て微笑み合い、出番を待っていた。
「んげ!!」
その時、楓はステージの上を見てイヤそうに顔をしかめて、変な声を上げた。その声に気づいた勝峰は、楓を見て不思議そうな顔をする。
「楓?どうしました?」
「あー……いや、サボってる奴がいねぇか、ちょっくら見回りして来るわー」
勝峰に心配そうな顔をされて聞かれたが、楓は苦笑いをしてこの場を逃げようとする。
「そうゆう貴方がサボりたいだけでは?」
「…じゃ、あとは任せたぜ!!」
勝峰に訝しげに見られたが、楓は強引にその場を離れてしまった。
一方、会場から少し離れた高台の上の東屋では、フレグレンスからの客人と、玲とロンがいた。
「本日はお招きいただき、有難うございますわ、玲陛下」
長い金髪ツインテールがゆらりと揺らし、彼女は陛下に挨拶のカーテシーをする。ブレのない完璧なカーテシーだ。
長い金髪ツインテールには赤いリボンが2つ、猫みたいな碧眼の可愛らしい令嬢で、白のブラウスの胸元にはガーネットのブローチ、深緑色のロングスカート、白色の可愛らしいパンプス。彼女がロンの妹の、フレグレンス帝国、第四皇女ロア・プリュトン・トリューである。
「バイフウの太陽、獣王様にお会いすることができ、嬉しく思います。本日は即位のお祝いに父上から贈り物を預かっております」
そう言って玲の前に傅いた彼は、短いふわふわの金髪に、怪しげな表情だが優しい碧眼の瞳はロンに似ていて、カチッとした白のドレスシャツに青の上着の内側は水色で、首元には乱れのないネクタイに清潔感のある白の手袋、大人っぽくて可愛いイケメン、18歳くらいの少年こそ、ロンの弟の第三皇子ロゼット・ネプトゥル・リヒルターだ。
玲は、ロゼットから大きな白い箱を受取、不思議そうな顔でゆっくりと箱を開けた。そこにはプラチナでできたエメラルドの宝石が散りばめられた美しいティアラ。
「こちらは生前の叔母上が、着用されていらしたティアラですわ。このティアラを着用する資格のある者はもうフレグレンスにはおりませんから、皇帝陛下が叔母上の長女たる玲陛下に返すとおっしゃられましたの」
ロアの説明も真剣に聞けないくらいには、玲は動揺している。母が結婚前に使用していたものなどほとんど無かったし、結婚後に残った遺品の全ては比丘尼の手によって換金されてしまったものがほとんどなのだ。
感動している玲の隣でロンは父に対する悪態をつきそうになるのを耐えていた。
「お気に召しましたなら、父上が保存しております遺産の全てもお送り致しますわ」
「お心遣い感謝致します。母上の遺品の殆どは残っておらず、少しでもくださるとならば有難く頂戴致します」
ロアの言葉にバイフウ式のお辞儀で玲は、感謝を伝えた。
「陛下、宰相殿、少しよろしいかしら?」
そこへ、赤色の襦裙に茶髪のストレートロングにこげ茶の瞳の妖艶な女性がやって来る。
「これはこれは“紅鳳院”の店主様……。ご依頼を受けて頂き、有難うございます」
「いえいえ、こちらこそご依頼頂き有難う存じますわ」
貼り付けたような笑みで、社交的な挨拶を交わす二人を玲は不思議そうに交互に見ている。
「玲。この方が“紅鳳院”の店主である、魅音です」
「お初にお目にかかりますわ、陛下。いつも弟がお世話になっております」
ロンの紹介によって挨拶をする魅音だが、引っかかる発言にロンも不思議そうにしている。
「私、張・魅音は元盗賊の張・楓の実の姉ですわ」
その言葉に玲もロンも驚く。
「楓に弟がいるってのは聞いてたけど、姉がいるなんて初耳だぜ」
「ええ」
楽しそうに話す玲にロンは相槌を打つ。
「ちょっと馬鹿お兄様」
すると今度はロアがツンツンと兄を小突き、不快そうな顔をして声をかけてきた。
「玲陛下って聞いてた話と違うのだけれど!?まさか、客人が来てるってゆうのに影武者に挨拶させたの!?」
耳元でコソコソとはいえ、ギャーギャー騒がれ、殴ってやりたくなるのを耐え、妹の頭を思いっきり押しのける。
「そういえば、貴方の“ギフト”は【判決】でしたね」
目にしたものを本物と偽物と判断できるだけでなく、血縁関係の有り無、罪人の冤罪や解明もできるのが彼女の能力だ。
「私の目は嘘をつかない。彼女は確かに虎家の者で、私達の従兄弟だけど玲ではないって……」
それを聞いてハァっとため息が出てしまう。
「皆さん、舞のお披露目が始まりましたよ」
ロゼットのその言葉で、その場に居た全員がステージの上に目を向ける。
瑞雪、瑞娜をはじめ、多くの妓女達が華麗な舞を披露してゆく中、ひときわ目を引く妓女が一人……。白と赤の襦裙に、白色の花が刺繍された真っ赤なスカート。肩や腕には長くて薄い絹の布。頭からレース状の薄い布を被っていて、顔を見ることは出来ない。
装いが他とは違うから、目を引かれたのかと思われたが、そうではない。
彼女が持つ鈴がシャンと小さく音を鳴らしただけで、会場は静まり返った。誰もが彼女に視線を向けた。
彼女は一人ステージの真ん中に、威風堂々とした姿で立ち、天に向かって右手を伸ばす。
シャンシャン。と二回鈴がなると、楽器隊の者達が音楽を奏でだす。
彼女は一人ステージの上で優雅にひらりひらりと舞ってみせた。滑らかな動きは手先まで完璧で、軸がブレることが無い。クルクルと回っては、ヒラリと蝶のように飛んで、神に捧げるような神々しさすらある舞に9誰もが引き込まれていた。
だが、ロンは一瞬ののち、眉をしかめてしまう。
彼女はロンの様子など知らず、ひらひらと裾をなびかせてゆっくりと傅き、曲が終わる。
一瞬の静寂の後、会場は拍手と歓喜の声で賑わう。
ロンは一瞬、見えてしまった。角度によっては見えてないものがほとんどかもしれないが、その一瞬、あのレース状の布がひらりとめくれ、見えたのは衣……否、楽しそうに笑っている玲の顔だった。
「玲陛下、少し宜しいですか?」
「へ?お……おう」
ロンは玲のフリをした衣にそう声を掛けて、強引にその場から連れ出す。残った者達は不思議そうな顔で見送るしかない。
「どうしたんだよ、ロン」
二人は会場から離れた、離宮に来ていた。庭には池があって華やかな鯉が泳いでいる。
「貴方が玲で無いことは分かっております。私のことがお嫌いなはずの貴方が、私の傍で玲のフリをして笑っていたなどとは思いませんでしたよ」
ロンは衣を見ながら馬鹿にしたようなあの笑みで言う。
「………傍に居た?気持ちの悪い言葉を言わないで下さいませ。お前のような竜人族が宰相などと、身分不相応ですわ。辞退するべきです」
先程までは玲のように明るく笑っていた彼女が、冷たい瞳で毒を吐く。
「何故入れ替わったのか分からないとゆう顔ですね。玲の考えを全て知ることは私でも難しいです。ですが、玲は母上についての謎と、自身についての変化について知りたいようでした」
衣の言葉に不快そうに顔を顰め、まだ早いと小さく呟いてしまった言葉を衣が拾い、詰め寄られてしまう。
「玲を拐かす野蛮で薄汚い竜人族が、ズケズケとバイフウの領域を踏み荒らすだけでは飽き足らず、玲のことさえも影から操り、良からぬことを考えているのではありませんの?」
「……ハァ。では、まとめてお話してあげますよ」
ロンは冷たい瞳で衣を見下し、ドンと肩を押して尻餅をつかせる。冷たい声音は、今まで過ごしてきた中でも初めて聞く低い声だった………
キラリと光った瞳は黄金に変わり、衣はブルリと震え、背筋にイヤな汗が伝うのを感じたのだった。




