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転移直後に竜殺し ―― 突然竜に襲われ始まる異世界。持ち物は一振りの日本刀  作者: 和泉将樹
第三部 第一章 争乱の島

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第344話 首都カスカへ

 コウは今回のエルランシアの護衛の報酬を受け取り、さらにカスカに行くための地図ももらい、その他に当面必要となる情報を一通り確認してから、王宮を辞した。

 この世界、大きな街は主要街道がつながっているので位置関係さえ把握していれば問題はないが、当然そこは軍事的な対立がある場合は通行不能となる。

 そのためには大雑把とはいえ地形図は必須だ。


 膠着状態に近かったファリウスの絶望より前であれば、許可があれば商人などの出入りは出来ていたらしいが、今は厳戒態勢が敷かれており、普通には街道を通ってヨーエンベルグ共和国に入ることは出来ないらしい。

 そのため、街道以外の場所から入る必要がある。


「まあ、俺にはあまり関係はないが」


 認識阻害を使って素通りすることもできるし、そもそも飛行法術であらゆるルートを無視することもできる。

 なのでヨーエンベルグ共和国に入ること自体は簡単だ。

 ドワイトが潜入支援が必要かと聞いてきたが、そこはどうにかなると断っている。

 重要なのはむしろ潜入後だ。


 年末までとのことだが、そこまで時間は使えないだろうとも思っている。

 二千の兵が悪魔ギリルの影響を受けてしまったという事態は、おそらく相当に深刻だ。

 この先、ネルテリウス王国は友軍が悪魔ギリルの影響を受けて刃を向けてくるかもしれない状況で戦わなければならないのである。


「とはいえ……そう簡単な話ではないとは思うが」


 悪魔ギリルの力はよく知っている。

 ただ、二千もの兵に影響を与えられるほどの力は、普通の悪魔ギリルにはない。

 あるとすれば、指揮官を裏切らせたか、膨大な数の悪魔ギリルがいたか。

 あるいは、ヤーラン王国のように、他者に対してある種の洗脳の様な力を使う個体がいたか。


「全部という可能性もあるか」


 話を聞く限り、かつてより悪魔ギリルは遥かに出現しやすいという。

 ならば三年前の感覚では足元をすくわれる可能性があるだろう。


 コウは一度気合を入れ直すように頬を両手ではたいた。

 問題は、カスカで反抗勢力が結集できるかという問題だ。

 カスカの人口は情報通りならおよそ十万人弱。

 住民すべてが悪魔ギリルの影響を受けているとはさすがに考えたくないが、最悪の可能性としてはあり得るだろう。そしてさらに最悪なのは、すべて悪魔ギリルと化している可能性。

 もっともその場合には容赦なく街ごと完全破壊という選択肢が出てくるが、さすがにそれは最後の手段だ。


「当面の金はさっきもらった報酬で十分だし、この街で宿を探す手間も面倒だな」


 報酬は最初金貨で支払うと言われたのを、あえて銀貨と小銀貨で払ってもらった。この方が使い勝手がいい。

 カスカまではこのエグラムからは直線距離でおよそ六百キロ(千二百メルテ)あまり。

 飛行法術でも六時間以上かかるので、さすがに移動に数日は必要だろう。

 となれば、多少の野宿の準備はいるのでまずその調達か。

 どうせなら、前線の様子も確認したい。

 そこまで考えてから、コウは何かを忘れてる気がして――思い出してしまった。


「そういやヴェルヴス、どこにいるんだ……?」


 そもそも今回の作戦に連れていく必要はないというか、連れて行くつもりもないが、かといってこの街に残していいものかどうかも悩みどころだ。

 ともあれ話を聞くしかないがどこにいるかは――すぐわかった。

 通りの向こうから何やらでかい袋を抱えて歩いてくる大男が見えたのだ。


「おう、コウ。お前も食べるか。これはなかなか美味いぞ」


 そういうと、何やら串にささったかたまりを出してくる。やや白いきつね色に染まったそれは、大きさは握りこぶしの半分くらいか。


「これは?」

「……確かテストラム(ジャガイモ)かしたものと鶏肉(クロル)猪肉(グイル)を細かくしたものを混ぜて固めたものを、小麦(ヴィト)を引いて粉にしたものと(コイル)を混ぜたもので包んで油で揚げたとか言っておったな。味がなかなか良いぞ」


 要はコロッケが近いか。

 見ると、ヴェルヴスが抱える袋にはそれが十本近く入っていた。

 ふと、バーランドで大量の焼き鳥を抱えていたエルフィナを思い出す。

 可愛げの有無の差はあまりに大きいが。


「じゃあ一つもらうか」


 一本受け取って頬張ってみる。

 こちらのテストラム(ジャガイモ)はコウの知るそれに比べると粘り気が強く、それゆえに()()()としての役割も果たしてくれるらしい。

 味付けは塩とおそらく香辛料だろうが、十分美味しかった。


「で、この先はどうするのだ?」

「ヨーエンベルグ共和国の首都カスカに向かうことになった。ヴェルヴスはどうする?」


 ヴェルヴスはコウの仲間というわけではない。勝手についてきているだけだ。あるいは元の、パリウス北辺の縄張りに戻る選択肢もあるだろう。

 だがヴェルヴスはあっさりとそれを否定した。


「前とは条件が違うからな。いつまでもこの世界にいたところで、単に滅びる世界を見るだけだ。そんなものは見飽きた」

「……それは滅ぶ世界をいくつも見てきたということか」

「そうだな。我が自分の世界を作らぬのは、どうせ壊れるなら作っても仕方ないと思っているところもある。次元結界アクィスレンブラーテを利用して滅ぶパターンは多いが、それ以外でも大体どの世界も滅ぶ。遅いか早いかの違いしかない」


 思わずコウは握る手に力を込めていた。

 その理屈だと、今コウがやろうとしていることに意味はないのか。


「ああ、だからと言ってそこで足掻く行為が意味がないというつもりはない。われらにとっては世界などしょせんいつか滅ぶものだが、お前たちそこに住む者にすれば、世界は唯一のもので、替えの効かぬものだ。まあ、お主のように世界を渡る存在は稀にしかおらんしな。ただ……」


 ヴェルヴスの目つきが少し鋭くなる。


悪魔ギリルだったか。あれだけは別だ。あれは自らの世界を滅ぼしてなお、他の世界を侵略する。その生存行為は意識体存在としては正しいが、あれはもはや世界を壊すことしかしなくなっているからな」

「どういうことだ?」

悪魔ギリルなどと呼ばれているが、あれも最初からあのような存在だったわけではないということだ。長年の間に歪んだのだろう」


 いい悪魔ギリルがかつていたということだろうか。

 ただ、ヴェルヴスのいう『長年』というのは、冗談抜きで一万年や二万年の話ではない。数百数千万、下手すると一億年以上前の話であり、コウが考えるだけ時間の無駄だ。


「その口ぶりだと、ヴェルヴスも悪魔ギリル退治には手を貸してくれるのか?」


 するとヴェルヴスは一瞬考えるような素振りを見せてから、首を横に振った。


「ないな。まあどうしようもなくなって、かつ悪魔アレが何か我が不快に感じるようなことでもすれば別だが、そうでなければ、悪魔ギリルに蹂躙されるのであれば、それがこの世界の選択だろう。それに抗うのはこの世界の住人がすべきだ。まあ、お前は少し違うだろうが、我からすれば誤差だ」


 相変わらず視座が違い過ぎる。

 三年近く一緒にいて、時々地球の話などもして、先ほどの食事をしてる時など、竜であることを忘れそうになることもあるが、やはり根本的なところで人間とは全く違う存在だと思い知らされる。


「そうか。まあ期待はしてなかったが。だが、この先はどうする? 俺はカスカに向かうことになるが……」

「そうさな。とりあえずついていくか。なんとなくだが、今回はその方がよさそうだという気がする」

「……竜の勘かよ」

「ま、当たらぬがな」

「だろうな」


 三年一緒にいたのでわかるが、竜というのは基本的にとてつもなく大雑把だ。

 時間、空間などに対する認識は特に。

 竜からすれば、人間など一人だろうが百万人だろうが、同じにしか見えないのだろう。

 そういう意味では、それでも自分コウはヴェルヴスにとっては興味の対象となりえる存在なわけで、それはそれで本当に特別なことなのだろう。


「では、もう発つのか?」

「そのつもりだ。宿を探す手間も面倒だしな。必要な買い出しだけしたら、さっさと向かうことにする」


 コウはそういうと、とりあえず買い物をするためにエグラムの商店街へ足を向けるのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「あれがカスカか。思ったより大きな街だな」

「そうだな。少なくとも先にいたエグラムよりは栄えているな」


 三日後、コウとヴェルヴスはカスカのすぐ近くにまで到着していた。

 ヨーエンベルグ共和国首都カスカは平原の真ん中にある都市である。

 元々はクリウス王国の王都であったという。

 記録によると、地下水が豊富で恵みの泉(ファルテスオリュス)による水の獲得が非常に安定するため、この様に平原の真ん中に都市が建造されたらしい。


 外壁は比較的高く、見た限りは十メートル(二十カイテル)近くはありそうだ。

 少なくとも普通に攻めるのはかなり難しい。

 この世界には法術クリフがあるとはいえ、飛行が出来る人間はほとんどいないのだ。


「しかし見事に澱んでおるな。我でもわかるほどだ」

「だな。俺では気持ち悪くなりそうだ」


 コウとヴェルヴスがいるのはカスカが見下ろせる高台の上。

 彼我の距離はまだ二キロ(四メルテ)はあると思われるが、それでもなお都市から感じられる雰囲気というか魔力が、明らかに澱んでいた。

 これは間違いなく悪魔ギリルの気配だ。


 街の大きさはパリウスと同じかむしろ小さいくらいだ。規模的にはエンベルクより一回り大きいくらいか。

 ぐるりと壁に囲まれていて、外側に街が出来ていないことから、全て人々は壁の内側にいるようだ。

 内部に見える街は、中心付近に行けば行くほど高い建物があり、中央に大きなものがみえるのが、多分政府の中心だろう。

 人口密度という点では、これまで見たこの世界の都市ではエンベルクと並んで最大かも知れない。


「さて、ではどうする?」

「普通に入るさ。見たところ、少なくともまだ都市を封鎖したりはしてないようだからな」


 遠目に、おそらく食料を積んだ馬車などが街に入っていく様子が見える。

 だとすれば、認識阻害などの法術を併用すれば何事もなく入れるだろう。


「して、その後は?」

「正直に言うと決めてない。そもそもあの街が今どういう状態かを調べるのが先だからな。あの街では神殿やギルドの支援も頼めないが、一応先に潜入してる者もいるという話だったしな」


 この街に関しては、神殿も冒険者ギルドもない。

 とはいえさすがにコウ一人に全て任せるというわけではなく、ネルテリウス王国の兵が数人潜入しているらしい。

 合流方法についてはいくつかの手段を教えてもらっている。


「ところでヴェルヴスもついてくるつもりなのか?」

「なんだ。師に対してその態度は」

「……微妙に師であることは否定しづらい部分はあるが、かといって敬われるような師ではない自覚くらいあるだろう」

「ハハハ……まあそうだな。だが今回はお主のやり方に合わせてやろう。大人しくついてくるだけだ。自衛はするからいないものと思え」


 コウは小さくため息を吐くと、それ以上の問答は無駄だと判断して歩き始めた。


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