虐殺
次の日の朝、俺は早速ミサの会場入りを果たした。
まだ人の姿は見えない。
地下道の奥にある石棺の裏で座り込んで『スキルツリー』を開いて『暴嵐』を取得する。俺の最も好きな魔法だ。持続時間が長く、敵を巻き込み打ち上げ、切り刻み続ける。
トイレについては……最悪……アイテム欄があるから。
一応前日から食べ物、飲み物は最小限にした。
昼頃、ミサの会場に段々と人が入ってくるようになった。
どいつもこいつも同じようなフードをかぶってやがる。
聞き耳を立てていたが王国やユリウスさまへの文句が多い。
でも、ゲームでここにゾンビがいたってことから、こいつらの末路もまともなものではないのだろう。そう思うと哀れな気もする。邪教徒の扱いはひどいのである。
さらに時間が経つ。おっそろそろミサが始まる時刻か。
代表者と思しき人間が壇上に立つ。
「我々はそれほど遠くない過去に在った力について思いを馳せるためにここに集まっている。その時代では、強大なものだけが貪り、欲を満たしていた。だが、この時代を見よ。我々が抑圧され、束縛されている。我々は矛盾に気づくべきだ。我々は弱者だろうか。古き良き時代に遡り、我々こそが貪り、欲をみたすべきなのだと、そのための力を大いなる力から与えられているのだと今日こそ……」
人々は熱にくるっている。叫びだす人々もいる。多いなる力を賛美する人がいる。もういいだろう『システム』を開いてボイスを0にする。暴嵐の魔法の詠唱を始める。ボイスを0にしているので俺の詠唱も聞こえない。以前ハーピーを相手にファイアボールを使っているときに気がついたことだ。……俺は今から最悪なことをする。
暴嵐の魔法を最も人が密集しているところに打ち込んだ。俺は『システム』を開いてボイス設定を少し上げた。
人々の断末魔や絶叫が聞こえる。元々がせまい会場だ。魔法から逃げられない。
それでも逃げている奴がいるかもしれない。翡翠の剣を抜いて俺は石棺の裏から飛び出した。魔法は自身に影響を与えない。少なくとも主人公は。
案の定、群衆から離れて演説していた奴が逃げようとしていた。
翡翠の剣を抜いて、追いかける。ハヤブサの指輪を着けている俺の方が速い。
追いついて、そのまま首を跳ねた。
中は、こんなものだろう。外に出る。外からのぞき込む今宵のミサの警備がいた。はっとこちらに気がついた瞬間ステータスに任せて切り捨てた。
「こっちだ。侵入者がいるぞ」
あちらから、集まってくれる。今夜はひとりも逃がすつもりはない。
数分後、俺はひとりで廃墟に立っていた。生きている奴はいない。
なんだか心がすさんでいたので、狼煙の代わりに『スキルツリー』から『炎柱』を習得して放った。轟轟と天まで続くような炎の柱が立った。これで王都からでも見えただろ。
俺はその場に座り込んだ。
しばらくして兵を率いたローレン将軍がやってきた。……将軍まだ王都にいたんだ。
「レク殿。話は聞いた。そこが例の会場ですか?」
「はい。そうです。その廃墟の地下室からいけます。あと、警備をしていた者たちの遺体がこの辺にあるはずです」
「レク殿ひどい顔をなさっている。あとは私たちに任せておやすみください」
「自覚があるので、そうさせてください」
俺は現場から風上の方に離れると、アイテム欄からベッドを出して転がった。