婚約
俺は朝から王都に向かって走っていた。馬を使うよりもハヤブサの指輪と疾風のコンボの方が早いからだ。
正直王都にはイヤーな思い出が多いため、近寄りたくないが王族の招集となると、国民としても貴族としても要請に応えざるを得ない。
そうやって王都に近づいていくと人の往来も多くなってくる。人々は爆走する少年をぎょっとした目で見る。驚かせてすみません。
王都に入ると流石に自重して、疾風を解いた。中央通りを通りつつ、周りの店を見ていく。おいしそうなもの、武器、便利そうなものを購入してはアイテム欄に入れていく。
あまりの爆買いにテンションが上がってきた。
気分が良くなってきた俺は、それでも重い足を引きずって王城の門へとたどり着いた。
「こんにちは。冒険者のレクです。要請に応じまして参上いたしました」
「レク様お話は伺っています。中にお入りください。ユリウス様がお待ちです」
門番が合図をすると城門が開かれる。ゲームのとき主人公が廃墟となった王城に侵入して王城の門を開けたように、奴隷が回す謎の棒みたいなのを回しているんだろうな。担当制なのかな。そんなどうでもいいことが頭をよぎった。
早速、ユリウス様の執務室に案内された。ユリウス様は羽根ペンでなにかにサインをしていたが、こちらに気がつくとペンを置いた。
「おはようございます。ユリウス様」
「おはようございます。レク殿」
挨拶は大事だ。ふたりでにっこりした。
「それでお呼びになられた理由はなんでしょうか?」
「うん。それはね、君にも関係があることなんだ。これだよ」
ユリウス様手元には一通の手紙がある。手紙には平を逆さにしたような紋様が刻まれていえる。
「ああ。彼のことでしたか」
「彼……やはりこのようなことを企図して彼を見逃したのかい」
うまい言い訳が思いつかない。素直に言おう。
「はい。彼は教団内でかなりの立場にいるようでしたので、教団そのものに失望するように仕向ければより多くの団員が脱退したでしょうし、また教団に怒りを向ければこのようなこともあるだろうと思い見逃しました」
「そうか。流石ミスリルプレートの冒険者だ。この手紙には次の邪教徒どものミサの開催について書かれていてね。奴らの殲滅にはまたとない機会だ。我が国最高の冒険者に助力を貰えればと思ってね」
ユリウス様の兵を使って囲って捕まえてしまえばいいのに。どうしてそうしないのだろうか。聞いておこう。
「ユリウス様の兵を使って捕まえることはなさらないのですか?私は戦うことはできても捕まえることは素人ですよ」
ユリウス様は両手を組んでため息をついた。
「残念ながら、わが兵の中にも信奉者がいるようなのだ。そんななか包囲作戦を取ってしまっては逃げられてしまう」
つまるところ、単騎で突入して殺してこいということだろうか。可能か不可能かでいえばできないこともないだろうが、なかなかえぐいことをいう王子様だな。
「失礼ですが、私には殺すことしかできません。また、信奉者の中には言いづらいお立場の方もいらっしゃるのでは?」
例えば、第二王子のバルブロ王子とか。貴族のだれそれとか。
「かまわない。邪教徒どもは国の癌だ。早く切除しなければならない」
「そうですか」
こちらも覚悟を決めなければならないようだ。
「それで日時はいつになるのでしょう」
「明日の夜だ。場所はここから南にある廃墟の地下らしい」
ああ。あそこか。ゲームではゾンビランドと化していたが今回のミサと関係があるのだろうか。
「わかりました。邪教徒がいれば、魔軍との戦いに集中できません。引き受けましょう」
「そうか。そういってもらえると助かるよ」
このとき、ユリウス様の眼は笑っていなかった。
「ところで、レク殿うちの妹のユリアについてどう思う」
なあ、教えてくれよ。なんていえば正解なんだ。
「大変愛らしく、聡明なお方であると思っております」
「ほう、大変結構。愛らしいと、聡明であると感じている。つまりは好意を持っていると考えても」
助けてください。この年齢で結婚させられようとしています。
「ええ。人として尊敬しています」
「人として、曖昧な答えだな。レク殿男同士だろう。なに、ここだけの話さ。女性として見ているか。女性として見られないかということさ」
その二択きつくありませんか。
「……女性として見ています」
「なら、うちの妹を貰ってやってくれないか。ナールトの都市から帰ってから君の話ばかりする」
「まだ早いかと」
「慶事に早いも遅いもないさ」
もう無理だ。観念しよう。
「婚約ということでいかがでしょう」
「結構。妹を喜ばせる報告ができてよかったよ」
「婚約は明後日発表するとしよう」
拝啓コレントの都市のみなさま、婚約者ができました。