乙女の決意
長年の懸案事項であった青磁の一件が、よもや異世界に来て解消するとは夢にも思わなかった。
全てにおいて“めでたしめでたし”とはいかないけど、私的には一応円満解決(?)と言って良いぐらいの結末にはなったと思う。
あの後グウィネスさんには一応和解が成立した旨を報告して、改めて自分を今後もグウィネスさんの家に置いて下さいとお願いをしたら、『今更ナニ言ってんだい』と笑顔で言われ、思わずホロリと泣きそうになった。
なので、私はこれからもグウィネスさんの弟子と家政婦業をこなしつつ、小商いをしながら婚活に勤しむ事にする。
求む、平均男子!目指せ安定の平凡ライフ!
*
最後に青磁と顔を合わせてから、私はしばらく《魔道具屋キャリコ》に行くのを見合わせている。
なんかまたアレに出会しそうで面倒臭いから。
それにキャリコでの魔力充填作業は、あくまでお小遣い稼ぎのアルバイトで、私の本業は手仕事屋だしね!
一応“魔道具師の弟子”という肩書きもあるにはあるけど、雑用程度のお手伝いしかできない自分には、はっきり言って過ぎた肩書きだ。
「ウィネスさん、完成品の魔力注入終わりましたよー」
「相変わらずデタラメな早さだねぇ」
「なんとなくコツを掴みました!」
「“なんとなく”ね・・・」
私は今日も今日とて魔道具の魔力充填作業。
だってこれしかできないもーん。
「普通の人間ならとっくに魔力が尽きて倒れてるところだよ」
「まだまだイケますよー?」
「・・・そのぐらいにしときな」
「はぁい」
机の上に山と積まれたキューブは汎用品で魔力容量が少ないタイプだから、どれだけ魔力を注いだところで後発的にとあるチートを身に付けた私には痛くも痒くもないんだけど。
「じゃあ、居間にお茶の支度してきます。午後は何にしますか?」
「このところちょっと寒くなってきたから、身体が温まるやつが飲みたいね」
グウィネスさんの注文を受けて、私はさっそく厨房に向かった。
暦の上ではまだ九月の下旬と秋の入り口だけど、この辺りは標高が高いから下手をすると十月半ばに雪が降り始める事もあるらしい。
本格的に冬ともなると山の一軒家であるこの家は雪に閉ざされ、通常の手段ではまず何処にも辿り着けない陸の孤島になるのだとか。
━━━“通常の手段では”だけど。
日頃から転移用の魔法陣を用いて、自由にあちこち行き来しているこの家の住人にはさほど不自由はないだろうけど、普通の民家ならそれ相応の蓄えが必要なはず。
「うーん・・・あんまり便利な環境に慣れすぎるのも問題よねぇ」
いざ独り立ちとなった時に、普通の暮らしに耐えられないようじゃ困るし。
そこはまあ、追々考えるしかないんだけども。
「ジンジャーミルクティーです。砂糖やハチミツはお好みでどうぞ」
「あんたと暮らしてると舌が奢って仕方ないね。・・・うん、良い香りだ」
居間のテーブルに茶器を挟んで差し向かいに座る私とグウィネスさん。
このところシグは日中家を空ける事が多くて、早朝に軽食を摂るとすぐどこかへ出掛けて行き、場合によっては数日間戻らない事もある。
帰宅時にいつも何かしら手土産を持参している事から、どうやら猟師の真似事をして捕った獲物を麓の町で売り捌いているもよう。
・・・まあね。山賊王よりかは堅気の猟師の方が真っ当な職種には違いないけど、毎回服を台無しにするのだけは勘弁して欲しい。
「ハネズ、あんたどこもなんとも無いのかい?身体が怠いとか、目眩がするとか
。あれだけ魔力を放出し続けたら、普通はかなり消耗してるはずなんだがねぇ」
「いえ、まったく。そもそも自分の魔力を無理に絞り出しているわけじゃないので」
「━━━それだよ。通常有り得ない方法で魔力を使い続けてたら、知らないうちにどっかしら不具合が生じててもおかしくはないからね」
「そういうものですか?」
「そういうものさ」
うーん???・・・特に何も不具合は感じないけど。
でも、グウィネスさんが私の体調を気遣ってくれているのは理解できる。
ここはガチで魔法が存在する世界だけど、ゲームやフィクションと違って失った魔力を補う『魔法薬』みたいな便利な品は無くて、じゃあ魔力切れを起こした場合の対処法は?というと、自然回復を待つ!の一択なんだよねー。
陽射しに干された山野の草木が雨に潤されて息を吹き返すように、自然界に漂う魔力の素を時間をかけて体内に取り込む事で、じわじわ魔力が溜まっていく感じ。
そして回復の早さには個人差があり、そこはやっぱり天性の資質が物を言うらしいんだけど・・・。
少なくとも源泉掛け流し状態で取り込んだ魔力を直に垂れ流すような魔法使いはいないんだとか。
それをやると魔力器官に物凄く負荷がかかって身体に変調をきたす場合が多くて、最悪寿命を縮める結果にも繋がりかねないのだそうな。
私の場合、魔力が溜まるのを悠長に待つ時間がもどかしくて、身体に取り込んだ魔力の素をこうギュッと圧縮して即座に放出してるんだけど、それをグウィネスさんに言ったら、浪花の漫才師の師匠みたく目玉をひん剥かれた。
私は“術”として魔力を用いているわけじゃなくて、身体を素通りさせてるだけ。
自然界に薄く広く散っている魔力の素を、手元に手繰り寄せて『魔道具』という小さな器に注いでいるだけなのだ。
いわば私は『自然』という大きな容器から、小さな容器に魔力を移し替えるための漏斗のような役割をしてるに過ぎない。
━━━そう説明したのに。
何故かその発言の直後、私はグウィネスさんから本気のメディカルチェックを受ける羽目になり、私のこの能力はくれぐれも他言しないように、と釘を刺された。
無制限に魔力を扱える人間なんて存在は、厄介事の種にしかならないから、と。
それには私も同感だけど、私が一度に扱える魔力量というのが、精々ごく一般的な魔道具を稼働させられる程度のものだし、驚異にはなり得ないと思うんだけどねぇ???
例の夏のお祭りの時、幻灯機に直接魔力を注ぎながら稼働させてたらあっという間に消費が追い付いちゃって、たいして役にも立たなかったし。
だけど“他には無い”という存在が人目を引くのは確かだから、グウィネスさんの忠告には素直に従っておこうと思う。
なんたって私が目指すのは、平穏無事に天寿を全うできるような穏やかな人生なんだし。
そこそこ魔力が多い、程度の人間で通せばそれほど悪目立ちはしないはず!
だけどそれを言ったら、何故かグウィネスさんに微妙に憐れみの目で見られた。
「あんた、あの爺とつるんでて悪目立ちしないと思ってんのかい」
あああああっ!!それもそうだったぁぁぁ━━━━━━━!!
この日私は、一日も早い独り立ちを固く決意した。
ついでにお婿さん探しも。




