乙女と三毛猫
シグにお面を被せてからというもの、人混みですれ違う女子の絡み付くような視線が激減し、お祭り広場を歩き回るのがとても気楽になった。
それでもまだたまにチラ見してくる人はいるけど、さっきまでの煩わしさを思えばなんて事もない。
気の向くまま辺りを練り歩いて、大道芸人の寸劇や軽業を見て楽しんだり、他愛のない土産物の露店をひやかしたりしながら思う存分お祭り気分を満喫していたら、いつの間にかすっかり陽が傾き始めていた。
「遊んでる時ってなんでこんなに時間が経つの早いのかな?」
「ハハハ、誰でもそんなもんだろ」
「ねえシグ、もうちょっとこの街にいてもいい?夜にある幻灯機のショーがどうしても見たいの」
「構わねえぜ。むしろ夜通し遊び倒してもイイぐらいの気分なんだが、グウィンの奴に釘を刺されてるからなー。━━━ただし!絶対にはぐれるんじゃねえぞ!またお前が拐かされるような事になりゃ、あの獣とババァが怒り狂って今度こそ街が更地になるぞ」
「う。わ、わかった・・・」
お母さんが怒ると恐いのは知ってるけど、グウィネスさんに関してはいまいち想像できないんだよね。
シグと拳で語り合えるぐらいだから喧嘩は強そうだけど、“殲滅”の異名を持つ魔女だと言われても、実感には到底至らない。
私が知ってるグウィネスさんは、面倒見が良くて食欲旺盛な美魔女で、根っからの研究オタク。
私の作った料理やお菓子を美味しそうに頬張る姿を見る限り、そんなに恐ろしい人には見えないんだけども。
とりあえず迷子になるのも拐われるのも御免だから、小判鮫のようにシグに引っ付いてる事にしよう。
陽が沈んでしばらくすると、広場のあちこちに台車に乗せられた奇妙な装置が運び込まれ、それぞれに技術者(?)とおぼしき人間が付きっきりで何やら作業を行い始めた。
広場で小耳に挟んだ情報によれば、それは複数の装置を同時に作動させて、空中に立体映像のようなものを展開させる魔道具なのだそうだ。
「いよいよかなー?」
ワクワクしながら完全に陽が暮れるのを待っていると、装置の調整をしていた人達が急に慌てふためいた様子で、何やら固まって相談をし始めた。
「・・・まずい、幻灯機の核にヒビが入って使い物にならねえ!」
「どうすんだこれ・・・。魔晶石をすげ替えても肝心の魔力がカラッポじゃ、ショーなんてとても・・・」
「毎年恒例のメインイベントなんだぞ!?これを目当てに他所から来る観光客もいるってのに、できませんでしたじゃ済まねえよ!」
「~~~これから急いで魔力持ちを呼び集めて、魔力充填をするしかねえ」
「無茶だ!何人もの魔力持ちが数ヶ月かけて魔力を溜めてやっと動く代物だぞ!」
「じゃあ!何もしないで指を咥えて見てりゃなんとかなるってのかよ!!」
「それはっ・・・」
何やら深刻な表情で話し合っているけど、祭りの喧騒の中で離れた場所の会話なんか聞こえるはずもない。
ただなんとなく、あまり喜ばしい事態じゃなさそうなのは雰囲気で伝わってくる。
そうこうしてるうちに方々から揃いの腕章をつけた人達がゾロゾロと集まり始め、彼等と言葉を交わしたかと思うと、皆一斉に真っ青になって頭を抱えだした。
━━━あれって、主催者側の人達かな?
・・・もしかしてかなり面倒な状況になってたりする?
「どうしちゃったのかな」
「さあなー?核がどうとか言ってるが、俺にはサッパリわからん」
「耳、良いんだねシグ」
「獣人系の奴ならこのぐらいは普通だぜ」
何やら故障が発生したのは確実みたいだ。・・・楽しみにしてたのにどうなっちゃうんだろ。
━━━とか考えてたら。
頭を寄せ合って何事か相談しあう人垣の間から、見覚えのある人影がこっちに向かって駆け出して来るのが見えた。
「お嬢ーーー!!助けてえええええーーーーー!!」
見慣れたあの白黒茶の三色頭は━━━━━。
「ニアさん?」
なんとニアさんは建国祭運営委員会の若手メンバーの一員だったもよう。




