乙女と道化師
屋台の軽食で軽く腹ごしらえを済ませた後、私達は再び広場の喧騒に足を踏み入れた。
何しろ祭りはこれからが本番。
シグがグウィネスさん経由で仕入れた情報によれば、祭りは三日間で初日の今日のメインイベントは市民主催の歌と踊りで、夜には幻灯機の投影が行われるんだとか。
ちなみにその幻灯機は魔道具らしい。
そして二日目・三日目共に各種イベントが目白押し。美人コンテストからフードファイト的なものまで、毎年少しずつ違った趣向を凝らしているらしい。
どうやら基本楽しめれば何でもいいというスタイルのお祭りみたいだ。
「にしても・・・周りがカップルだらけ・・・。ナニこのえもいわれぬ敗北感・・・!!」
━━━そうなのだ。お祭り効果で誰しも気分が高揚しているためか、そこら中どこかぎこちなさを漂わせた初々しい若者同士の男女のペアで溢れ返っている。
「あぁん?他の連中から見りゃ、俺らも同じように見えてんじゃねえのか」
「━━━じょっ・・、冗談じゃないわよーーーーーっ!!」
万が一にもこれと男女の仲に思われたら、平均男子との出逢いが猛ダッシュで遠ざかって行っちゃうじゃないの!!
「失礼な奴だなー俺じゃ嫌なのかよー」
「嫌に決まってんでしょ!!」
「うっ!グサッときた━━━」
シグがわざとらしく胸を押さえて呻いて見せるけど、鋼のメンタルの持ち主がそんなに繊細なわけないし!
「隣に並んだ女子が惨めになるほど顔の良い男なんて・・・!冬の日本海に身投げしたくなるぐらいの屈辱よ!!」
連れ立って歩く度に否が応でも周りから嫉妬と羨望の入り交じった視線を集めまくり、ウットリと男の顔を見つめる女達が、隣に並んだ自分を見た途端、鼻で嘲笑う様子がまざまざと目に浮かぶ。
実際にはまだ一度もそうした目には遭っていないけど、それは私が実年齢以上に幼く見られているからに過ぎない。
こっちの人達の基準でいくと、私は“成人前の子供”にしか見えないらしいから。
チキショーめ・・・!!
「女ってのは、顔の良い男を連れ歩くのがスキなんじゃねえのか?」
「ちょっと他人に自慢したくなる程度の彼氏ならそうかもしれないけど・・・。シグの隣に彼女として並ぶ女子には、超合金並の図太い神経が必要だと思う」
「ちょー・・???」
並み居る女達の呪詛にも似た嫉妬の眼差しをものともせず、堂々と胸を張って並び立てるような、そんな人。
そしてそれは、まかり間違っても私のような小娘じゃない。
そんなグダグダした会話を交わしつつ広場を歩き回っていたら、丁度タイムリーな物売りに出会した。
仮装用のお面を売る屋台だ。
「あああっ!━━━これよ、これ!正に天の助け!オジさん、これいくら!?」
「ハーフマスクはどれでも一つ百ギルダ。フルフェイスのやつは百五十ギルダだよ」
「フルフェイスのやつで!」
「あいよ、まいどありー。どれでも好きなの持ってきな嬢ちゃん」
日本のお祭りでよく見掛けるアニメのキャラクターのお面と違って、やけにリアルな造形のお面がズラリと並ぶ眺めは物凄くシュールだけど、こっちはこれが普通・・・なんだろう。
どう見てもナマハゲにしか見えないやつとか、しわくちゃの山姥みたいな老婆のお面とか、青白いデスマスクみたいなのとかあるけど・・・。
「うーん・・どれにしよっか」
しばらく悩んでから、結局一番無難なやつを手に取った。
道化師みたいな顔のお面で、どことなくベネチアンマスクっぽいデザインがわりとスタイリッシュに見えたし、口許と顎の部分は出せる仕様だから息苦しさも無いだろうという事で。
「じゃ、シグはコレ被ってね!」
「・・・問答無用かよ」
「仕方ないじゃない。シグが目立つのが悪いんだから」
「目立ってんのはオメーも一緒・・・ゲフン、いや、なんでもねー」
「うん?訳のわかんない事言ってないで、早くその顔隠してったら!」
「・・・スゲー言われ様」
渋々━━━という訳でもなく、至って気楽にお面を装着したシグが、道化師を真似たつもりかヒョイと肩を竦めておどけて見せる。
「では参りましょうか。━━━お手をどうぞ、お嬢さん?」
・・・なんでだろう。チャラさ加減が倍になった。
やっぱりナマハゲのお面にすればよかったかも。




