乙女の長い一日 その3
「はぁ・・・残念。既製服が殆んど出回ってないなんて。古着屋さんはそれなりにあったのに、サイズが合わなかったりデザインがいまいちだったりで、結局何も買えなかった・・・」
保護者同伴での自由行動が認められた私は、まず真っ先に衣料品を扱うお店を探した。
ただ結論から言うと全部空振りで、歩き回った分無駄に疲れただけだったけど。
「普段着てのは家で女が仕立てるもんだからなぁ。既製品を買うのは大抵独り者の野郎ばっかだ」
飲食店が軒を連ねる広場の一角で、オープンカフェ風の席に向かい合って座る私とシグ。
いつものブランチタイムにシグが空腹を訴えて、手頃な店で食事を摂る事になった。
早朝から歩き回ってて思った以上に疲れが溜まってたのか、椅子に座った途端ズッシリと足が重く感じる。
「そっか・・・、服は『買う』んじゃなくて『作る』のが前提なんだね」
「後は仕立て屋に注文するか針子を雇うかぐらいだな」
「うーん・・・。どっちにしろ割高になるのは確実よね」
「お前さん裁縫は出来たよな?ほれ、あのシーツで縫った『ユカタン』とかいう・・・」
なにそのロリッ娘みたいなネーミング。
「『浴衣』ね。でも流石にあのデザインは街中で浮くし裾が捲れて動きづらいから、普段着にはちょっと・・・」
でもあれ昔の日本人には普段着だったんだよね。
私の感覚だと着物って“晴れの日に着る特別な衣装”ってイメージだから実感湧かないけど。
「・・・よし、こうなったら街中歩いてる女子の服を参考にしよう。そんで次は生地選びからやり直さなきゃ」
「あー、オイそれなんだがよ」
「ん?」
「昼メシ食ったら今度はちっとばかし俺に付き合ってくれや」
「うん?いいよ」
そっかー、そうだよね。男の人には女物の服だの生地だの、たいして興味があるわけないもんね。午前中散々振り回して悪かったかな・・・。
「何か見たい品物があるの?」
「まぁな」
そう言いながらニヤリと笑った顔には、とても二十代の青年とは思えない渋さが漂っていて、シグルーンの実年齢を垣間見た気分にさせられた。
・・・見た目は美人の不良だけど。
鉤裂きを繕ったシャツにズボンとか、こんなヨレヨレの古着を着せてても周りの視線を集めちゃうんだから、もっと見映えのする服を着せたらどうなるか見てみたい気もする。
「・・・付き合うって、ここ?」
「そーそー。おぉっ、なかなか良い品揃えしてるじゃねえか」
食事を終えてシグに連れて来られたのはなんと鍛治屋だった。
それも刀剣や戦斧なんかの武器を専門に扱う、ゴリッゴリの武器職人のお店。
ここで厳ついドワーフの職人が出て来れば完璧にRPGの世界だー、とか思ったりして。
「あんたら、うちの店に何か用かい」
「ああ、実は」
「ぎょっ・・・魚人━━━」
じゃなくて!!
「巨人っ!?!?」
現れたのはシグより身体半分も大きな男の人。
私的には壁の向こう側から進撃して来るアレと同じ存在に見えた。
咄嗟に連れを盾にした私は別に悪くないと思う・・・たぶん。
「あー・・怖がらせちまったな、悪い悪い。俺ぁこの図体だからいっつも子供には嫌われんだよな・・・うん」
「━━━おいコラ、ネージュ」
「ごっ、ごめんなさぁい」
よく考え・・・なくても、初対面の相手に取る態度じゃなかった。
しかもなんだかイイ人っぽい人(?)に対して。
かくなる上は最大級の謝意を示さねば。
「大変御無礼を申し上げましたあああーーー!!」
ズザザッと勢いをつけて両手を揃え床に額を擦りつける。
いわゆるDOGEZA。
「お、おう・・・?俺ぁいつもの事だから、その、そんなに気にしなくても・・・」
「お、怒ってませんか」
「こんぐれーの事でいちいち目くじら立ててたら、客商売なんざやってらんねえよ」
「・・・た・・食べちゃったりしませんか?」
「食っ・・・、食ってもいいなら食うが・・・」
「だーーーっ!!頓珍漢なやり取りはそこまでにしとけテメエら。俺は剣を買いに来たんだ、剣を!」
「お、おう・・・」
「あ・・・」
私が巨人と間違えたその人は、ご先祖に北方の《羅刹》という種族の方がいたそうだ。
大柄で筋骨隆々として逞しく男女共に武芸に秀で、額に立派な角が備わっているという・・・・・チョットマテ、それ『鬼』!!
思わず日本人の感覚で突っ込みを入れそうになったけど、この鍛治屋さんの店主はなんとなく『気は優しくて力持ち』のタイプに思えた。
・・・・・顔は怖いけど。
「あんたの得物は何だ?」
「主に片手剣だな。両手剣の威力は捨て難いが、小回りが効かなさ過ぎていらん物まで斬っちまいそうだ」
「曲刀と直刀なら?」
「使い慣れてんのは直刀だな」
短いやり取りを何度か繰り返した後、雑然と並べ置かれていた剣の中から何振りかを選び取った店主が、それらをまとめてシグに手渡した。
「裏庭を貸すから、試しに振ってみろ」
店主に言われた通り、間口の割に奥行きが深い“鰻の寝床”形式の店をどんどん奥に進むと、やがて坪庭のようなこじんまりとした空間が現れた。
庭木一本花一輪植えられているでもないその場所は、全体が高い木の塀で囲まれていて、その用途のためだけに作られた庭である事を物語っている。
「━━━離れてろよ」
「うん」
私は建物の出入口ギリギリの位置で大人しく立ち止まった。
剣を振るうシグルーンを見るのはこれが初めてだった。
細身の長身が音も立てずにしなやかに舞う。
身体の重みを感じさせないその動きは、時に激しく、時に緩やか。
目にも留まらぬ速さで繰り出される白刃は、向けられた相手に慈悲を乞う暇すら与えないに違いない。
舞は三度剣を替えて続けられた。
最後の剣を鞘に収めこちら側に向かって歩いて来るシグは、まだ幾らかいつもより引き締まった表情のままだ。
なんで普段からこのくらい真面目な顔してらんないかなー・・・。
「よぉ」
口を開いた途端、あれだけ凛々しかった雰囲気がたちどころに霧散した。
「どーよ、俺に惚れ直したか?ん?」
「最初から惚れてもないし」
「素直じゃねえなぁ。━━━ちなみにお前はどの剣が良いと思った?」
「私に訊いてどうすんのよ」
「なんとなく?」
「・・・そうねぇ。完全に私の趣味で答えていいなら、三番目の剣かな」
「へー、なんで?」
「風を切る音が一番小さかったから」
「・・・?」
「あんなに重い物振り回すんだから、空気抵抗が少ない方が楽なんじゃないかと思っただけよ」
「・・・」
「だーかーらー、完全に私の趣味だって言ったじゃない。剣の良し悪しなんか私にはわかんないわよ」
「・・・」
えええ。なにこのいちゃもんつけられてる感じー。
「見た目とかで適当に答えた訳じゃねえのか?」
「はああ?それこそ見た目なんか何の役に立つのよ。剣なんか切れてナンボの道具でしょ?第一それにしたって当てずっぽう言っただけだからね!?」
段々イラついて声を荒らげたら、突然ニュッと伸びてきた左腕に捕らえられて、またしてもシグの肘に座らされる格好で抱き上げられてしまった。
「ぴゃっ!」
「やー悪ぃ悪ぃ。やっぱお前さん面白ぇわ」
「下ろしてえぇーー!」
「後でまた毛皮モフらせてやっから」
「えっ!?じゃあ山猫シグでお願いっ!!」
「即答かよ!どんだけ毛皮が好きなんだオメーは!?」
「そりゃあもう、筆舌に尽くし難いほどに!」
この後シグが例の三番目の剣を買い、剣帯までちゃっかりサービスで付けて貰ってお店を出た。
ちなみに剣のお代はシグがグウィネスさんに前もって借りてたお金でまとめて支払い、後から地道に返済するという約束になってるらしい。
取り敢えず、働けニート。




