乙女の長い一日 その2
魔道具屋での用事を早々に済ませた後、私達は最初の予定通りグウィネスさんの倉庫がある市場通りに戻って来ていた。
「さて、まずは食材の調達からだよ。二手に別れた方が効率が良いだろうから、ハネズはシグルーンと組んで行動しておくれ。買い物リストはこれだよ」
「ウィネスさん一人だと荷物が増えた場合、大変じゃないですか?」
「ああ、そこはポーターを使うから大丈夫さ」
「ポーター?」
聞き慣れない単語に私が首を傾げると、「市場で買い物客の荷物持ちをして小遣い稼ぎをする子供達がいるんだ」とシグが教えてくれた。
国によって基準はまちまちだけど、ここでは小学生くらいの年齢の子供でも立派な労働力として扱われているらしい。
「じゃあ行くぞー」
「あ、うん」
手渡されたメモに目を落とすと、野菜や果物の名称がズラリと書き連ねてある。
・・・これを全部揃えたらかなりの量になるんじゃない?
私は取り敢えず倉庫にあった買い物袋をひっ掴むと、急いでシグの背中を追いかけた。
自分より頭二つ分も背が高いシグは足の長さもそれ相応だ。
横に並んで歩こうと思ったら、どうしたって私の方は小走りになる。
シグもそれを分かってて、時々思い出したように足を止めて後ろを振り返る。
「・・・置いて行かれないだけありがたいけど、振り返る度にニヤニヤ笑うの止めてくれない?」
「相変わらず歩くのが遅ぇな。俺が抱いてってやろうか?」
「大きなお世話!」
「ちっちぇーんだから遠慮すんなって、ホラホラ」
「ムカつくっ・・・!」
いちいち絡み方が幼稚園児並でイラッとする。
「あのね・・・シグが私を抱き上げてたら、荷物はどうすんの。これからドンドン増えるのに」
「荷物ごと俺がお前を持ち運べば良いじゃねえか」
「そうそう荷物ごと私を━━━━って、そんなワケないでしょ!」
「ほら、周りは結構な人混みだろ?お前さんがプチッと踏み潰されやしないかと思ってなぁ」
「そこまで小さくないわよ!第一、私より小さな子があっちこっちで働いてるじゃない」
「━━━じゃあほら、代替え案」
ずい、と目の前に掌を差し出される。
「・・・なに?」
「迷子防止措置だ。繋いどけ」
新婚さんかっ!!
お手て繋いでお買い物しろと・・・!?
いや待って。これはむしろどっちかというと、盲導犬のハーネスみたいなもの?
「そ、そーね。どこかのお爺様がフラフラ徘徊してはぐれても困るしっ」
・・・知らない場所で迷子になるのは不安だ。
照れ隠しにガシッと勢いよく手を繋いでやったら、頭上から何かボソボソとした呟きが降ってきた。
「おめーはちょいと目を放すと、あっとゆー間に持ってかれちまうからな・・・」
「ん?なに?」
「いやいや?カワイイ孫娘と触れ合えて爺さん大満足だぜ」
「その姿で言われてもね・・・」
ウッカリ忘れてんのかもしれないけど、今のシグの見た目は若い兄ちゃんだからね?
しかもナニその、嫌味なぐらいキラッキラしたわざとらしい笑顔。
半径五メートル内の通行人(女)が、全員足を止めてこっちをガン見してんだけど。
結局その後もシグは無駄に周囲の視線を集めまくり、私が例の買い物リストを制覇する頃には、老若男女取り混ぜて逆ナンされた数が二桁にのぼった。
「はいはいご苦労さん。ほらあんた達、約束の駄賃だよ」
「毎度ありー」
「スゲー、五十ギルダもくれんの!」
「お客さん太っ腹ー。次もヨロシク」
市場通りを一往復した私達が大荷物を抱えて元の場所に戻ると、丁度グウィネスさんが荷運びの少年達に食材の詰まった木箱や麻袋を倉庫内に運び込ませているところだった。
『ギルダ』というのが大陸共通のお金で、五十ギルダは大銅貨が五枚。
大銅貨一枚が大体百円くらいの価値らしいから、五十ギルダなら一回のお使いの報酬としては奮発した方なんじゃないかと思う。
現に少年達は大喜びで表の通りに飛び出して行った。
また新しいカモ・・・じゃなくて、お客を探すのかもしれない。
逞しいってのは良い事だ。
この後グウィネスさんは自宅に転送した食材を片付けるために一足先に山の家に戻り、私とシグは午後から自由な時間を貰える事になった。
ただし、くれぐれも二人一緒に行動するようにと強く言い含められたけど。




