オヤジ率高め 乙女は不在
“招集”の鐘を聴きつけて集まった狩人達の内、現在組合本部の待合所に残っている者は五十名前後。
━━━全員が町の住人だ。
既にこの場を去った連中の中にも町の人間はいたようだが、その大半はまだ血の気の多い駆け出しだ。
「俺は回りくどいのが苦手なんではっきり言うが、・・・近日中に大暴走が起きる確率が高い」
話を聞いていた奴等の間にザワリと動揺が広がる。
「なんで、お前さんにそんな事がわかる・・・」
「『色々と調べた結果』としか言い様がねぇし、そこは説明すると長くなるんで省くが」
いや、ソコを説明しろよ!と全員の顔に書いてあったが、面倒臭え。
「古参のあんた達には町の守りを固めて欲しい。町に柵の無い連中は、いざという時当てにならねえ可能性がある」
「それは・・・、」
「・・まぁ、そうだろうな」
「あぁ・・・」
話の後半部分の予想について、否定する者は誰もいなかった。
狩人組合は組織としてはかなり“縛り”が少緩い方だ。
その分保証も何もあったもんじゃないが、自由だけはある。
一旦どこかの街に所属すると、その街に滞在し続ける限り、僅かな特典と引き換えに防衛の一端を担う義務が生じるため、それを厭って無所属のまま、各地を転々と流れ暮らす狩人が相当数いる。
さっきの告知を聞いて早々に出ていった連中は、殆どがそうした者達だろう。
つまり何か面倒事が起きた場合、さっさと逃げ出してもおかしくはない立ち位置にいるわけだ。
だが町に根付いた狩人達はそうもいかない。
今のこの局面で逃げ出せば、家族や友人を見殺しにする事になる。
自分達の身内が運良く被害を免れたとしても、どの面下げて戻って来らるかっつー話だ。
「ここが踏ん張り時だぜ」
厳ついオヤジ共の顔をぐるりと見回せば、全員腹を括った表情で頷く。
「━━そんじゃ、打ち合わせといくか」
*
打ち合わせはそれほど長くかからなかった。
元々その道の玄人だけが集まっての話し合いだ。自分達に何ができて、何ができないのか、全員熟知している。
幸い“自然災害”相手に真っ向から立ち向かうべき、なんぞと言い出す阿呆は一人もいなかった。
「“獣の領土”の傍らで生活してりゃあ、大なり小なりその影響は受けざるを得ねえよ。大暴走とはいかないまでも、この間のサビイロオオカミの襲撃みてえなやつは時々あるし、“はぐれ”が迷い込むのなんかしょっちゅうだ」
それでも『住めば都』だと笑う男達を、俺はほんの少し羨ましいと思う。
かつて長年暮らした国にさえ、そうした思い入れを持つには至らなかった身としては。
「とにかく事前に打てる手は全部つとして・・・、もしこれで何も起こらなかったら、お前ぇは『大ボラ吹き』の称号持ちだな?」
半分はそうであれというガラハドの願望がこもっているに違いない。
「いいんじゃね?そしたら迷惑料として俺の契約金全部つっ返してやる。そんでもって宴会でも開きゃあいい」
「おお、言ったな!よし!この場にいる連中全員が証人だぜ。━━お前らも聞いたよなぁ?こんだけ町を騒がしておいて何もなかったら、こいつの銭で浴びるほどタダ酒呑んでやれ!」
「そいつぁいい!」
「気前がいいな!兄ィちゃん!」
「よっ、女神様!」
最後なんかオカシイ表現があったが、聞かなかった事にする。
ただ、残念ながらこの宴会計画は、予想以上に早く頓挫する事となる。