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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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ちょいオコ乙女

日暮れまでシグと町中をぶらついて宿に戻ると、昼間とは打って変わって“歌うカワセミ亭”の食事処は仕事帰りのサラリーマン・・・じゃなくて、労働者達で満席状態だった。


しかもお客は全員、見るからに肉体労働派の男衆。右を向いても左を向いても、ムッキムキのゴリッゴリ。


「うわぁ・・」


文字通り肉の壁。筋肉量の多さに圧倒されて思わず声が漏れた。


「今のこの時期、町で宿を利用してんのは大概他所から流れて来た無所属フリーランス狩人ハンターだ。所々地元の連中も混じっちゃいるがな」


「ふーん。・・で、どうする?お店混んでるし部屋に戻る?」


自分としてはそれでも全然構わない。“ど〇でも扉”で家に帰れば、いつも通りの食事ができるし。むしろシグはそっちの方がいいはず。


「そうだな、そうす・・」


「おい、シグルーン!んなとこ突っ立ってねーでこっち来い」


「・・・・・、、チッ」


言い切る前にカウンター席の方から声が掛けられた。

振り向くと鬼瓦みたいな厳つい顔のおじさんが、来い来いと手招きをしている。見ればちょうど二つ椅子が空いている。


「知り合い?」


「組長だ・・・しょーがねーな、行くぞネージュ」


「はいはい」


まあ、人付き合いは大事よね。



獣脂のオイルランプと燭台の仄明かるい照明が頼りの店内を、テーブルの間を縫うようにしてカウンター席に向かうと、狩人組合ハンターギルド組合長ギルドマスターだという強面のおじさんは、エール片手に例の酸っぱ辛い料理をつついているところだった。


組合ウチがわざわざ宿代まで持ってやってんのに、お前が度々(ねぐら)にとんぼ返りしてんのは、この嬢ちゃんが理由か。人に預けてるとか言ったな?」


「まぁ、そんなとこだ」


椅子に座るなり組合が顔をズイッとこっちに寄せてきた。


「嫁にしちゃ若ぇな。さてはお前がどこぞの女に産ませた娘か・・・まさか孫っ!?」


━━━あれ?もしかしてこの人、シグの実年齢を知ってる?

今の私達の見た目だと、せいぜい兄妹ぐらいにしか見えないと思うんだけどな。


「『兄』がいつもお世話になってます」


「お、おう。()()で通すのか・・・」


「ネージュ。このオヤジはな、俺の昔の知り合いなんだ。なぁ、ガラハド」


「『昔』━━━ て、どのぐらい昔?」


「傭兵時代のだ。同じ陣中で何度か顔を合わせた」


「そんなに昔!?・・・お互いよく相手がわかったね」


「お言葉だがな、嬢ちゃん。こんな非常識な面がこの世に二つとあってたまるかよ。こいつが初めて組合ギルドに獲物を卸しに来たときゃあ、顎が外れるかと思うほどおったまげたぞ」


ウンウン。四十年近く前の知り合いが、当時のままの姿で現れたらそりゃ驚くよねえ。・・・なにしろこの顔だもんねぇ。


「そりゃ俺の台詞だ。オメーはもうとっくにくたばってると思ってたんだがな」


うん??こんなやり取り前にもどこかで聞いた気がする。


「傭兵なんざとっくに廃業だ。命が幾つあっても足らねぇしな。狩人に転向して長年無所属でやってたら、いつの間にかこんな僻地に流れ着いちまったぜ。ガハハハ」


・・・ふーん?つまり「当分働きたくない」とか宣言してたシグが、期間限定とはいえ組織に所属してまで労働する気になったのは、知り合いが組合長ギルマスやってたからか。


「こいつの勧誘がまた、しつこくてなぁ・・」


「あったりめーだ。たった一人で狩人数十人分の稼ぎを叩き出す奴を、遊ばせとく手はねえ」


「契約は春までだ」


ごくあっさりと言い放つシグに、組合オヤジさん・・・もとい組合長ギルドマスターは残念そうに眉尻を下げて、エールを一息にを煽った。


「・・しゃーねえ。引き留めたところでどうせお前は、気に入らなきゃさっさとトンズラこくに決まってんだからな」


「よく解ってんじゃねえか」


会話の合間に女将さんの料理が運ばれてきて、昼間注文してた通りの味付けにホッとしながら、一通りの食事を済ませた。


ただ料理を運んで来た若い給仕の女性が、シグに見惚れて料理を乗せたトレイをひっくり返しそうになったあげく、連れの私を見てあからさまに馬鹿にした表情を浮かべたのが気に障った。


シグと一緒に行動していればこんな事は日常茶飯事だけど、慣れたからといって面白いわけもない。

隣を見上げればシグは組合さんと昔話に花を咲かせていて、さっきの給仕の不躾な態度に気付いた様子もない。


多分シグにしてみれば、周りの女が自分の事で揉めるのなんてどうでもいい事なんだろう。


こちとらシグの我が儘に振り回されて、来る必要のない所にまで出張ってきてんのに、・・・・・なんかだんだんムカついてきた。


「シグ」


「ん?」


「私、一足先に()()から」


「なら俺も━━━、」


「シグは()()()()してきてね。━━━当分その顔見たくないから」


「んなっ!?」


予想外の事を聞かされたと言わんばかりのポカンとした表情が、なんとなく小さな子供みたいで笑える。

でもダマされちゃいけない。これは六十過ぎの立派な大人━━━━。


その場に固まるシグを放りだし、私は暗がりを利用してそのまま家に跳んだ。


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