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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女の故郷にかつて蔓延っていたもの

その後私がお母さんからの返信てがみを握り締めて母屋に戻ると、保護者二人組は思ってもみなかった“成果”に目を丸くして、特にグウィネスさんは物凄く驚いた。


「はああ!?向こうから手紙が届いただってぇ?」


「良かったじゃねえか、ネージュ。もう読んだのか?」


「うん。もう嬉しくって、すぐその場で開けて読んじゃった」


「・・・そりゃ構わないけど、良いとか悪いとかの問題じゃないんだがね。いったい誰がどうやって異界から物を運んで来たっていうんだい━━━」


グウィネスさんが大きく首を傾げた、その時。

夕暮れ時で薄暗くなり始めた居間で、手紙がボンヤリとオレンジ色に輝き始めた。

━━━そう、例のあれ。

別宅の明るさでは気付かなかったけど、手紙にわんさかフェアリーランプがたかっている。


「わわっ!?」


「あぁ?こいつら今、どっから湧いて出た?」


「なるほど・・・そういう事かい」


「「?」」


何やら思い当たる節があったのか、グウィネスさんは一人で納得したような表情を浮かべて頷いているけど、私には何が何だかサッパリだ。


「・・・『そういう事』???」


「多分だけど、やっぱりコレも幻獣の一種なんだろう。実体がないから()と呼んでいいのかどうかわからないけど。希薄な存在()()()()()界の狭間も自由に往き来が可能、と」


「━━━つまりなんだ、神出鬼没なその光る珠っころが、手紙を運んで来たと?」


「えっ・・、そういうのあり!?」


何もかもあたしの仮説にしか過ぎないから断定はしないけど、とグウィネスさんは言ってるけど。

驚いて目を白黒させてる私の目の前で、トトちゃんの姿に変化したフェアリーランプ達が周囲をぐるぐると泳ぎ回り、なんとそのまま私の胸に吸い込まれるように消えてしまった。


「うっ・・・、ぶへら◎☆ほぁ@▼&§▽◇くぉぉーーーーー!?!?」


「慌てなくても大丈夫だよ、ハネズ」


「いっ、今!何が━━━━!!」


「んー?そういや、前に岩牢でも見た光景だな?」


「もしかしたらあんたの身体、“通り道”にされてるのかもねぇ。まぁ、害は無さそうだから安心おし」


「・・ホントデスカ」


「━━━多分?」


多分!?多分てなんですか!?お師匠様あああああーーーーー!!!!



フェアリーランプを『希薄な存在』と表現したグウィネスさん。

なんというか、こう、言い得て妙な感じ。もしかしたら人間が気付いてないだけで、向こう側にも存在してたりしてね?

ただし未確認生物(UMA)というよりは、心霊現象として捉えられていそうだけど。

ほら、あれよ。心霊写真とかにボンヤリ写ってる“オーブ”とかいうやつ。


「しかしまぁ、おめーも変なのにばっかり好かれる奴だな」


「す・・、好かれてんの?・・私・・」


「ああ、━━まあ。気に入られてるのは確かだろうねぇ。幻獣の側から人間に関わるのは滅多に無い事さ。あれの場合、大方あんたの異能を己に近いものとして捉えているんだろう」


つまり私はあれに同類として見られてるってこと?


「・・ふ、ふーん?なるほど?」


わかったような、わからないような。



「それで、手紙の中身はどんな内容だったんだい?」


「え?あ、はぃ。その・・」


興味津々の二人の様子に、私は当たり障りのない内容の部分を話して聞かせる。

実際に手紙も開いて見せたんだけど、当然読めるはずもなく━━━。


「はああ?・・マジでこれ、文字か!?グニャグニャしてて面倒臭ぇな!?」


「へーえ、やけに複雑な形の文字だね。ハネズの故郷じゃ、本当に誰でもこれを普通に読めるのかい?」


と、そこから久々に異世界談義が始まった。

前に自分が異界の人間だとカミングアウトした時にも、アレコレ根掘り葉掘り聞かれたっけ。


別宅には電化製品だの書籍だの、向こうの文化を示す物がたくさんあるけど、二人ともそこを勝手に踏み荒らすような真似は一切した事がない。

━━━シグの盗み食いは別として。

あの部屋が私の“聖域”だと、何も言わずとも理解してくれているのかもしれない。



「私がウィネスさんに習ったこちらの文字は“表音文字”ですけど、私の故郷の文字はそれに“象形文字”が加わったものなんですよ」


正確にはその進化版だけど。漢字の説明としてはこれで合ってるはず。


「一文字ずつに意味があるんだね?━━━なるほど、魔法陣を描く時に用いる神聖文字みたいなものか」


「げええええ・・・、いったい何文字覚えなきゃなんねーんだよ」


「常用漢字が二千文字ぐらいあって、学校で習うのはその半分ぐらい、・・・だったかな?」


実際にはもっと数があるけど、スマホやパソコンに慣れ切ってる現代人に、今時手書きの長文を書く機会がいったいどれだけある事やら。

実際に「書け」と言われたところで、漢字が思い出せずに苦戦する事間違いなしだ。


「ちなみに俺の名前はどう書くんだ?」


「え?シグの名前?」


居間の暖炉で焼却処分するつもりで置いてあった反故紙の裏に、片仮名で“シグルーン”と書いて見せると、わかってもいないくせに「もっとカッコいい文字がいい」とか抜かしたので、適当な当て字で書いてみた。



死苦流雲しぐるうん



・・・・・・・・・・・・・・・。


あかんわ。これ絶対にかつての日本に生息していたという、真性ヤンキーの様式美。

【夜露死苦!!】とかいう、無駄に画数が多いだけのムッチャアッタマ悪そうなやつ・・・!!


「おおぉ!今度はなんかカッコ良さげじゃねーか。━━━なんて意味だ?」


「・・・意味・・・」


死ぬほど苦しむとか、雲のように流れが定まらない・・・とか?

ぐっふおおおぉ!!


全力で噴いた私にシグが胡乱うろんな目付きを向けてくるけど。


「世の中知らない方が幸せなこともある」とだけ言って誤魔化した。


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