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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女の誓い

昼過ぎの飛行機で日本を発つ予定のところを大慌てで引き返し、再度娘のマンションを訪れた私は、リビングで見覚えのない一冊のノートを見付けた。


ソファーテーブルの上に無造作に置かれたキャンパスノート。

一昨日おととい自分がこの部屋に入った時には、こんな物は無かったはず━━━━。


そう思いながら手を伸ばして中を開くと、そこにはやや右肩上がりの癖のある文字で『 お母さんへ 』と綴られていた。


「っ、華朱・・・!?」


━━━見覚えのある癖字。

ならやっぱり、今朝のあの電話は・・・!!


ハッとして室内を見回しても、人の気配はどこにもない。

普通に考えるなら、誰かがこれをここに置きに来たはずで、それは自由に部屋に出入り可能な人物━━━つまりは本人の可能性が高いはずなのだけれど。


そもそも自宅に戻れる状況なら、あんな短いやり取りで連絡が途絶えてしまうのは、やはり不自然過ぎる。


「・・・華朱の、手紙?これが━━━」


私は考えるのをひとまず後回しにして、その『手紙』を読み進める事にした。





━━━結論から言うと、“手紙”は読めば読むほど困惑が深まる内容だった。

それはまるで荒唐無稽な創作フィクションとしか思えないもので。


あの子は、━━━華朱は、『ここではない何処か別の世界』に落ちてしまっているのだという。

しかも何故か、前の夫まで()()にいるらしい。


『それなりに苦労はしたけど、現在は頼れる保護者が何人もできて、自活に向けての努力の真っ最中』だそうだ。


『魔道具』だの『魔術師』だの、時折文中に見慣れない単語が混りはするものの、取り敢えず生きて元気にやっているという事は伝わってきた。


手紙には家族しか知りえない内容が多く含まれていて、最早これが本人以外の手で書かれたものだとは到底考えにくい・・・・・のだけれど。


娘の無事は素直に喜ぶとしても、手紙の中身を瞬時に受け止めきれるかというと、にわかには難しいというか。


━━━果たしてこれは真実ほんとうなのか?

現実に起こってしまった出来事なのか━━━。



なんとも言えない悶々とした気分を味わっていると、ふと鞄の中で携帯のメール着信音が鳴るのが聴こえた。


無意識に伸びた手でスマホの画面を操作すると、娘の事で頭が一杯になっていたせいで、未読のメールやメッセージが何件も溜まっている。


大事な連絡を見逃してはいないかと、受信一覧の項目ページを開いて、私は更なる驚きに見舞われた。


受信ボックスに『華朱』の文字。

━━━しかも画像付き。


急いでメールを開けて中を確認した私は、そこで思い切り“血筋”を再認識させられる羽目になる。


二人の人物に挟まれるようにして写真に写っているのは、明らかに己が娘。

向かって右側には落ち着いた雰囲気の年配の婦人。

そしてその左隣には、━━━この世の存在モノとも思えない凄まじい美貌の生物。


私は娘の“病”の発病を確信した。



・・・娘ェええええええ・・・・・・・・・!!



━━━げに凄まじきは遺伝の力。

不治の病の恐ろしさよ。


「やっぱ私の娘か・・・」




私は届く見込みのない返信をしたためて、ノートが置かれていた位置ににそっと残し、娘の部屋を後にした。


『いついかなる境遇に陥るとも、母娘の血の繋がりが断たれる日は永遠に来ない』


by 茜

茜母さんの再婚相手の旦那も結構な男前。

顔で結婚を決めたわけじゃないけど、やっぱりそこは『三つ子の魂百まで』という感じ。

遺伝怖い。


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