フェウーと山で食材集め
朝のやり取りから数時間後。
俺とフェウーはアジト近くの森に来ていた。
結果から言うと……フェウーは家事の才能がまったく無かった。
俺も出来る限り教えたのだがまさかあそこまで家事ができない人間がいるとは俺も想像していなかった。
パンケーキを作ろうとしてコンロを爆発させるなんて現実に起こっていいものなのか。
異世界というファンタジーそのものの世界にやってきておいてなんだが、フェウーの料理の腕のほうがよっぽどファンタジーそのものだ。
なんとか火事は免れたが、これ以上アジトを破壊されるわけにはいかないのでこうして俺たちは森にやってきているのだ。
一応名目としては森での食料探し。山菜や木の実を採るつもりだ。
フェウーは家事での失敗に全くへこたれず、どんどん森の先を歩いて行く。
「ユータ! キノコがあったわよキノコ」
「そりゃ毒だぞ」
「ユータ! こっちには木の実がなっているわ」
「毒だな」
そういえばいつの間にか俺の呼び方が「あなた」から「ユータ」になっているな。
まぁ気まぐれかもしれないが。
「もう! 毒ばっかりじゃないの! どこかに食べられるものはないの?」
「そりゃそう簡単にはな」
「私はさっきの借りを返したいんだから、ちゃんと返せるように手伝いなさいよ!」
「なんだよそれ」
さっきの借りとは料理の失敗のことだろうか? しかし借りを返すために手伝えとは。
緊張がほぐれたフェウーは背伸びしたがる子どもみたいで可愛らしい。
ただしそれを言うとまた怒り出しそうなので黙っておいた。
俺が笑うと、フェウーはむくれてずんずんと森の奥に進んでいった。
「バカにして! 今に見てなさ――――きゃあ!?」
「グゥルルルル……!」
悲鳴を聞いて一足飛びでフェウーとの距離を詰めると、フェウーの眼前で体長2メートルを超える魔猪が牙を打ち鳴らして威嚇していた。
「おう? でかしたぞフェウー。こいつは大物だ」
「何言ってるの! にげっ、逃げるわよ!」
逃げると言いながらも、びっくりして腰を抜かしたフェウーはただ俺にしがみ付くだけだった。
狼狽えるフェウーの姿を見て興奮した魔猪は俺たちに向かって突進してきた。
「きゃあー!」
俺は落ち着いて、悲鳴を上げるフェウーの首根っこを掴み軽くぽいっと背後に放り投げると、落ち着いて魔法を唱えた。
「“GATHER”!」
アジトに置いてきた剣が一瞬にして俺の手元に出現した。
“GATHER”は視認した物体を手元に引き寄せるだけの魔法だが、使い馴れた武具など詳細をイメージできるものであれば魔力次第で視界外からでも出現させることができる。
突進してくる魔猪に俺は腰だめに構えた剣を思いっきり横薙ぎに振るった。
ズガァン!!
「ブゥオオオン!」
ひとたまりもなく吹き飛ばされた魔猪は森の中を水平に吹っ飛び、木を何本か薙ぎ倒して倒れた後ピクリとも動かなくなった。
「よしよし。今晩は牡丹鍋だな、こりゃ」
「フェウー、大丈夫か?」
背後を振り向くとフェウーは茂みに頭から突っ込んでパンツ丸出しの状態でもぞもぞともがいていた。
色気もなにも無い無様さだが、褐色の肌に映える白いパンツは輝いて見える。
俺は片手でフェウーの足首を掴んで引っ張り出すと葉っぱにまみれたフェウーが出てきた。
しかし怪我をさせないよう配慮したとはいえ、茂みに頭から突っ込んで擦り傷一つないとは。
今日もフェウーは昨日リーゼの店で買わされた魔法のドレスを着ている。
やはり見た目はドレスでも、なかなか値の張った魔法の装備だ。
外見上は肌の露出が多いが魔法で障壁でも張られているのだろう。
魔法防御だけでなく物理防御もかなり期待できそうだ。
「あなたねぇ……。わっ!」
何か文句を言おうとしたフェウーは横たわる魔猪の死体を見て驚いたようだ。
「ユータ。あなた強かったのね」
「うん? だから元勇者だって言っただろう」
「ふ、ふぅん。ちょっとは見直してあげるわ」
ドレスの埃を払いながら立ち上がったフェウーは何事もなかったかのように虚勢を張った。
そんなフェウーの様子を見てまた可愛らしいと思った俺は、今度はあえて口に出してみた。
「フェウーも可愛いところあるんだな」
「……」
「ん? なんだ?」
フェウーが無言でちょいちょいと招くのでかがみ込んで顔を近づけた。
「いだたたた!?」
俺は照れて怒り出すフェウーの反応を期待していたのだが、フェウーは黙って俺の耳を思いっきり引っ張った。
「待て待て俺が悪かった!」
「大人しくレディに恥をかかせた罰を受けなさい!」
どうやらフェウーはある程度より感情が高ぶると手が出る性格らしかった。
その後、魔猪の解体でフェウーが青くなったり、牡丹鍋の美味しさにフェウーが大興奮したり、洗い物でフェウーが皿を割りまくったりと、なんやかんやあった。
賑やかで楽しい1日の締めくくりに俺はフェウーに一冊の本をプレゼントした。
「なぁにこれ?」
「白紙の本だ。こいつをお前の日記代わりにすれば毎朝の説明が省略できるだろ」
「あら。良いわね、ありがとう」
フェウーは嬉しそうに本とペンと持ち、このアジト唯一の机に向かって日記を書き始めた。
俺はなんとはなしにその様子を背後から見つめていた。
「明日はお前のベッドでも作るか」
「そうね。ユータもいつまでもソファーで寝るのは辛いでしょうし」
「お前がソファーで寝るつもりはないのかよ」
「レディーよ、レディー。私は」
「けっ。せめてベッド作るのくらい手伝えよ」
「明日の私がうまくやるわ。任せておきなさい」
「今日みたいにか?」
「何か?」
「いや別に」
俺とフェウーはくすくすと笑いあった。
フェウーが日記を書き終わり、さぁ寝るかという時に俺は見た。フェウーがこっそり日記に何か魔法を掛けているところを。
「……」
それは無詠唱魔法だった。
発動速度と隠密性に優れるそれはかなり高度な魔法技術だ。
それも勇者として様々な修羅場をくぐった俺でなければ見逃してしまうほどの鮮やかな手際だった。
俺に気付かれないよう日記に対して仕掛けた魔法は恐らくエンチャント系の魔法だろう。
エンチャント魔法は物体に対し特別な効果を与える魔法だ。
武器に炎属性を付加したり、防具に耐熱属性を付与したりするのが一般的だ。
しかしこの場合は、『日記を誰かに改変されない』という効果を付与したものと推察できる。
それは記憶が1日でリセットされるという現状からは当然の処置であり、それを隠そうとしてくれたのは、フェウーなりの俺に対する思いやりなんだろう。
「どうしたの? 早く寝ましょう」
「おう、そうだな」
「……今日はありがとう。おやすみなさい、明日の私によろしくね」
「あぁ。おやすみ……フェウー」
灯りを消してしばらくすると隣からフェウーの寝息が聞こえてきた。
夜の帳の中、俺はフェウーの魔法について考えた。
伝承によれば、ダークエルフは魔法に非常に長けた種族であったという。
特に王族や皇族ともなれば他の種族が足元に及ばないような強大な魔力を秘めていたという。
だからこそ、ダークエルフは王国が没落した後は奴隷として高額で取引されるようになったらしい。
伝承が事実であることは、フェウーの魔法技術を見てわかった。
しかし、そうすると一つの疑問が浮かんでしまう。
フェウーに『0時になると記憶と肉体がリセットされる魔法』を掛けたのは誰なのか?
その誰かは、何故フェウーにそんな魔法を掛けたのか?
様々な憶測が浮かんでは消えてを繰り返しながら、俺は緩やかに眠りについた。
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