いつか迎えるその日を
「ごめんね、紀之。私、今すぐには紀之の想いに応えられないよ」
汐羅がそう告げると、紀之が息を呑むのが分かった。早く耳を塞いでしまいたいような、それなのに指先一つ動かせないような、そんな顔をしていた。だが汐羅は、自分の放った言葉は、紀之の恐れたような意味合いを持っている訳ではないと思っていた。
「でも……どれだけ先になるかは分からないけど、私の気持ちが紀之と同じだって確信出来る日が、きっと来るはずだから……」
汐羅は、紀之の方をじっと見つめた。
「だから……その日まで、もし良かったら、待っていてくれないかな?」
分からないのなら、答えはこれから出していけばいい。紀之の傍で、ゆっくりと見つけていきたかった。それが汐羅のとった選択だ。
「……なるほどな」
紀之は肩の力が抜けたような声を出した。汐羅の言葉は彼にとっても意外だったのだろう。だがその内容は、紀之にとって受け入れがたい提案ではなかったらしい。
「そのくらい、今更だよな。何せ俺は、もう十年も待ってたんだから」
それは、汐羅と紀之が出会ってから今までの年月に変わりなかった。紀之もずっと待っていたのか。クラリスが幼い頃から指輪を大切に保管していたように、心の奥底にかけがえのない想いをしまい込んでいた。
「これからもよろしくね、紀之」
汐羅は心臓をくすぐられるような、今までにない気持ちを感じながら、そう言った。
「こちらこそ」
紀之は微笑んで汐羅に応えた。柔らかなその笑みは、汐羅には馴染みのある表情だったけれども、こうして改めて見ると、今までとは全く違うように感じられた。
答えの出る日まで……そして、答えが出てからもずっと一緒にいたい。
汐羅の想いは空に浮かぶ星のように瞬いて、ある時は仄かに、そしてまたある時は強く煌めくのだろう。
それでも、その想いは決して消え去る事はない。夜空を彩る赤い双星や、地上で光るあの指輪のように、いつか二つの輝きが重なり合う時が必ず来る。
きっと今度は、紀之を十年も待たせてしまう事はないはずだ。
彼の笑みに胸が高鳴るのを感じながら、汐羅は自分が答えを出す日が、そう遠くない内に来るという確かな予感を覚えたのだった。




