難問
『 1.彼から差し出された指輪を受け取ってあげましょう。 2.彼の愛の言葉にただ頷けばいいのです。 3.どうすればいいのかなんて、自分で考えなさい。 4.行くのはやめにしたらどうですか? 』
汐羅は少し悩んだ。
まず『 4.行くのはやめにしたらどうですか? 』は、ないだろう。そんな事をすれば、クラリスにとってのバッドエンドに直行してしまう。
かと言って、『 3.どうすればいいのかなんて、自分で考えなさい。 』は、どうも投げやり気味だし、となると『 1.彼から差し出された指輪を受け取ってあげましょう。 』か、『 2.彼の愛の言葉にただ頷けばいいのです。 』のどちらかを選ぶのが正解となるはずだ。
だが、汐羅にはこの二つは同じ意味合いに見えた。指輪をもらう事と、掛けられた言葉を肯定する事。確かに傍目から見れば別物の行為だが、ヘンドリックの愛を受け入れるという意味では、本質的には変わらない。もしかしたら、1番と2番のどちらを選んでも大した違いはないというパターンなのだろうか。
そうは思ってみたものの、汐羅はこの選択肢にはまだ考察の余地があるような気がして仕方がなかった。これまでノートを何十ページと埋めながら二人の事について散々考えてきた自分の勘が、事はそう単純ではないと言っているのだ。汐羅が気付いていない決定的な違いが、『 1.彼から差し出された指輪を受け取ってあげましょう。 』と『 2.彼の愛の言葉にただ頷けばいいのです。 』の間にはあるのかもしれない。
しかし、画面に浮かんでいる選択肢をいくら眺めて頭を捻っても、何も考え付かなかった。そこで汐羅は、1番と2番のそれぞれを選んだ場合の光景を思い浮かべる事で二つの違いを明確にして、考えをまとめやすくする事にした。
まずは『 1.彼から差し出された指輪を受け取ってあげましょう。 』からだ。
天上に満天の星が瞬く夜、静かな丘の上でクラリスとヘンドリックは向かい合って立っている。そんな中、ヘンドリックがそっと跪くのだ。そして懐から綺麗な小箱を出し、その蓋を開ける。中には、幼い頃に彼が作った赤いビーズの指輪が入っていた。
――クラリス、どうかこれを受け取ってほしい。
ヘンドリックが熱っぽく囁く。クラリスは『はい』と返事しながら、その指輪を自身の手のひらにゆっくりと乗せた……。
中々ロマンチックで悪くないシチュエーションではないだろうか。では、もう一つの選択肢はどうだろう。
汐羅は、『 2.彼の愛の言葉にただ頷けばいいのです。 』を選んだ場合の事を考えた。
天上に満天の星が瞬く夜、静かな丘の上でクラリスとヘンドリックは向かい合って立っている。そんな中、ヘンドリックがやおら口を開いた。
――クラリス、愛しているよ。
ヘンドリックは情熱的な口調で続けた。
――小さい頃からずっと、君と結婚するのが夢だったんだ。どうか僕の花嫁になってくれないか。
クラリスはその申し出に目を潤ませながら、感激のあまり声が詰まってしまったように首を小さく縦に振った……。




