伝説の日
そうしてついに『赤い双星の伝説』の日を迎えた。ゲームの中の時計の針がじわじわと進んでいき、夜が徐々に、それでも確実に近づいてきた。汐羅はそわそわしていたが、クラリスも落ち着かなさそうに見えるのは、立ち絵が普段と違うためなのだろうか。最後のイベントだからか、クラリスは汐羅が今回初めて目にする真っ白なドレスを着ていた。楚々としたデザインがクラリスの純真な一面を表しているかのようで、とても初々しく可愛らしい。
『先生、そろそろ時間ですね』
屋敷を出る前に、クラリスが話しかけてきた。
『忘れ物をしないように気を付けないと……』
『 1.早く行きなさい。 2.指輪は持ちましたか? 3.行くのはやめたらどうですか? 4.今夜は雨が降るそうですよ。 』
汐羅は深呼吸して、『 2.指輪は持ちましたか? 』を選んだ。
『はい、もちろん』
クラリスはにっこりと笑った。
『先生、今までありがとうございました。私、先生に色々な事を教えてもらって、とても助かりました』
クラリスは、これまでの事を振り返るような発言をした。もう物語の終わりが近いのだと感じて、汐羅はしみじみとした気持ちになる。
だが、まだ気を抜く訳にはいかない。最後まで何があるのか分からないのが、ゲームというものだ。せっかくラスボスを倒したと思ったら第二形態に変身したり、突然味方が寝返って主人公の前に立ち塞がってきたり、死んだと思っていた人物が実は生きていたり……といった事が、ゲームの中では日常茶飯事で行われている。
汐羅の見立てが正しければ、この三日間はクラリスに対するヘンドリックの好感度は上がりっぱなしだったと考えられるし、隠しイベントと思われるものもいくつか回収出来たが、最後の最後で油断して、その成果を全て台無しにしてしまう事は許されない。
『もし私がヘンドリックさんと結婚したら、先生は家庭教師をおやめになるのでしたよね?』
クラリスが言った。偽りのない、残念そうな口調だ。
『という事は、私が先生の教えを乞えるのも、もうすぐでお終いなのでしょうか……』
クラリスの声は不安げだった。だが、観察眼の鋭くなっていた汐羅は、その言葉の中には『セーラ先生』と離れがたく感じる気持ちの他に、もっと別の思いがある事も読み取れた。
『 将来、彼と結婚できるか心配なのですか? 』
選択肢は一つしか出てこなかった。
『……いいえ、と言ったら、嘘になってしまいますね』
クラリスは心細そうな声を出した。
『どうしてでしょうか。私、色々と考えてしまうんです。例えば、今夜の約束の事もなんですけど……』
『 1.大丈夫、彼はきっと来ます。 2.行くだけ行ってみましょう。 3.十年前の約束を覚えている方がおかしいです。 4.来ないかもしれないと考えていますか? 』
自分の愛情は一方的なものではないのか、彼も同じように想ってくれているのか。ヘンドリックを愛するが故に不安になっているのだろう。汐羅はクラリスを元気付けてやろうと、『 1.大丈夫、彼はきっと来ます。 』を選んだ。
『そう……ですね』
クラリスは自身を鼓舞するように言った。
『先生がそう言うのですから、きっとそうですよね。私、先生を信じます。これまでもそうしてきたんですから』
クラリスは『先生、最後の質問をしてもいいですか?』と続けた。
『私はこの後……何をすればいいのでしょう?』




