双眸からの呼び声
「別に」
モテるんだね、という汐羅の言葉に対して、紀之は自分の人気などには無関心であるとでも言いたげな、投げやりな返事をした。
「不特定多数に好かれたってしょうがないだろ。本当に好きになってもらいたい奴は、他にいるのに」
紀之がこちらを見てきた。一週間前に屋上で見せたのと同じ目をしている。透徹してはいるが、熱を帯びた儚い視線。いつの間にか汐羅を手繰り寄せてしまうような直情が、双眸の中で揺らめいていた。
(どうしてそんな目で私を見るの……?)
汐羅はそんな事を考えてしまったのに気が付いて、一瞬動揺した。紀之が見ているのは『私』ではない。彼の『好きな人』であるはずだ。だというのに、どうして自分が見つめられていると感じたのだろう。これではまるで紀之が自分の事を……。
「一途……なんだね」
汐羅は、想像がおかしなところへと辿り着いてしまう前に口を開いた。それが正しい判断だったのかは、よく分からない。
「……お前とは違うんだよ」
紀之は若干不貞腐れたように言った。いつも通りの幼馴染の姿に戻ったところを見たような気がして、汐羅は少し安堵した。
「昔からずっとそうだったんだから。いつかきっと叶えてやると思ってるんだよ」
――小さい頃からずっと。ずっと、好きな奴と結ばれるのを待ってた……。
前にも言っていた通り、紀之は一途で、いつか好きな相手と幸せになりたいと思っているのだろう。健気な事だ。
「そう……だね」
汐羅はゆっくりと頷いた。




