告白
「えっと……おめでとう、で良いのかな? 初めてだもんね、そういう事されるの」
汐羅は、まだ衝撃から覚めやらぬままに、指で唇をなぞりながら言った。しかし、何故自分がこんなにも動揺しているのかは分からなかった。
「もしかして付き合ったりは……しないか。紀之、真面目だし……」
本当に好きな人としか付き合いたくない、を信条としている紀之だ。告白してきた子が、紀之の以前からの想い人であったら別だろうが、恐らくそうではないだろう。
先程の集団の中に、一人、顔を俯けている子がいた。今考えると、泣いていたのかもしれない。嬉し泣きといった風には見えなかったし、悲しくて泣いていたのだとするならば、紀之が彼女を振ったと考えるのが妥当だ。
「悪い事をしたとは思ってる」
紀之は申し訳なさそうに言った。
「でも……やっぱり無理かなって」
「本当に好きな人以外と付き合うのが?」
「……ああ」
その相手の事を考えているのだろうか。紀之の目に一瞬憧憬が宿ったような気がした。汐羅はその瞳に吸い寄せられかけた。まるで、紀之に名前を呼ばれたかのような気になったのだ。もっとも、どうしてそんな事を考えてしまったのかは分からない。
「もしかして、さっきの子にもそう言ったの?」
おかしな考えを振り払うように、汐羅は紀之に質問を浴びせた。
「だから、私、睨まれたのかな。紀之と付き合ってるって誤解されたから……」
「……そうかもな」
紀之はため息をついた。何となく遣る瀬なさそうな顔になっているのは、そんな勘違いが、彼にとってあまりにも迷惑で、的外れだからなのだろうか。
「後、俺が告白されたのは、今回が初めてじゃないぞ」
この際だから、全部ぶっちゃけてしまおうと紀之は思ったらしく、さらりと衝撃的な事を言った。
「今までにも、二、三回あった。汐羅には言ってないから知らないだろうけど……」
「そ、そうだったの?」
汐羅はポカンとした。そして、初めて自分が誰かに告白された事を紀之に嬉々として話していた頃の事を思い出して、恥ずかしくなった。そういった経験は彼の方が豊富だったのに、いかにも自分の方が先を越したと言わんばかりの態度を取っていた自覚があったからだ。
「何て言うかその……モテるんだね、紀之って」
汐羅は居心地の悪さを感じつつも、尊敬を込めた視線を紀之に送った。
だが、ふと不思議な感覚に陥る。意外な事実が発覚してから彼の姿を改めて見ると、今までさして関心を払っていなかった事に注意が向くようになったのだ。
最初に思ったのは、紀之はこんなに背が高かったのかという事だ。もちろん長身である事は情報としては理解していたが、何故かそれを今し方初めて知ったような気になった。昔は汐羅よりもずっと小さかったのに、今では首を動かさないと、隣にいる紀之とは目が合わない。それに肩幅も手も大きくて、声は低く、首元では、話すのに合わせて、喉仏が上下していた。
突然、汐羅は紀之が『男性』である事に気が付いた。近くにいすぎて、今までそんな事は考えた事もなかった。そして、汐羅がずっと素通りしていたその事実に、あの女子生徒は勘付いたのだ。だから、『男性』として魅力的な紀之を好きになったのだろう。
汐羅は、急に紀之が別の生き物のように見えてきた。まるで、おたまじゃくしから足が生えてカエルになったところを初めて見てしまったような、奇妙な心地だ。




