『昼ドラの部屋』
昼ドラ:主婦の味方。昼にやってるドラマのこと。愛憎劇が多いため、不倫の促進になる危険性もなくはない、かもしれない。
「お兄ちゃん、昼ドラって見たことある?」
「あまりないな。録画してみるほど好きじゃないし」
「ほぼ主婦の味方だもんね」
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「あ、そうだ。ごにょごにょ」
「面白そうだな」
「でしょ? 題して『どうでもいい事を昼ドラみたいに演じてみよう』だよ!」
「まんまだけどな」
「いいからいいから。やってみようよ」
「配役はどうするんだ?」
「うーん、と。浮気相手の宅配員と旦那の役が、お兄ちゃんだね」
「一人二役じゃないか」
「大丈夫大丈夫。適当でいいから。んで、私が奥様役だね」
「浮気妻ってことか」
「うっ! なんか、そう言われるとダメージが凄いよ。お兄ちゃんを裏切るなんて、残酷すぎる」
「俺を仮定するなよ。もし仮定したとすれば、宅配員も俺だぞ」
「選べないよ!!」
「早く始めるぞ」
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「だ、駄目です奥様。そんなの、この僕には」
「どうして。どうして私の愛が受け取れないというの? あなたは、こんなにも私の内側に入り込んできているのに!」
「そんなこと……」
「私はあの日、あなたにクール便を届けてもらったのに、私の心は熱くなりっぱなしなのよ! だから、受け取ってほしいの!」
「駄目です。あなたには旦那様がいるじゃないですか。僕には……僕には『福引で外れた時にもらったポケットティッシュ』は……受け取れ、ません」
「どうしてよ!!」
「あなたを愛しているからです! あなたには幸せになってほしい。だから、僕がこれを受け取ることは出来ないんです」
「お、お兄ちゃん……」
「おい、私情を挟むな」
「あ、ごめん。結構ノリノリだったのにね。コホン。わかったわ。あなたがそこまで言うのであれば、私はあの人と、別れます!」
「――これで修羅場に突入するわけだな」
「んじゃ、いってみよぉ!」
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「あ、あなた。なにを……」
「俺は、俺は知ってるんだぞ。お前が、平日の昼間、頻繁に若い男と会ってる事を!」
「ど、どうしてそれを!」
「町内会の集まりで、隣田さんに聞いたよ。もう終わりだよな、俺達……」
「……っ、終わりよ。もう、終わり」
「な、ん、だと……」
「あなたは知らないでしょうけど、私はあの人に全てを捧げてもいいのよ! いつも帰りが遅くて、私の料理を美味しいとも言ってくれない、そんな人とは暮らしていけないの!」
「よ、よくもそんなことを! まさか、その男に、したのか?」
「……彼は、私の愛を、受け取ってくれたのよ」
「このっ……!」
「――! なにを、私を殺す気?」
「許さんぞ、俺を裏切ったことは許さん! そんな男に、あのポケットティッシュを渡したっていうのか!」
「そうよ! 福引の残念賞を、あの人に捧げたのよ! もう、あなたとは金輪際、関係を持ちたくないわ。離婚して!」
「なんだと!」
「――! きゃあああ!」
ズブシュッ!
「「――!」」
「お、奥さん、宅配、です」
バタリ。シュタッ!
「あ、あ、あぁ……お、お前がいけないんだ。俺の妻を、誘惑したお前が……妻からポケットティッシュを受け取ったお前が!」
「そんな、どうして……なんであなたが」
バタリ。
「ふ、ふふ……鍵が開いていて、入ってくるなんて、宅配員、失格ですね」
「宅配員さん!」
「でも、あなたの心に、僕の心が届けられたなら、僕の、本望、です……」
ガクリ。
「宅配員さああああああん!!!」
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「はい、カット! 即興にしてはいいんじゃない?」
「一人二役に無理があったけどな。刺された宅配員が急に立ち上がって怯える演技してたら、やってる自分が恐ろしくてたまらなかったぞ」
「でも、けっこうノリノリだったよね、お兄ちゃん」
「……最近、腐ってたからな。こういうお題は新鮮だった。まあ、あれは個性だから捨てないけどな」
「さすが、修羅場に突入するフラグをとことん折りそうな一本気だね、お兄ちゃん」




