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俺と妹のただならぬワンルーム  作者: お題の人(新増レン)
2LDK(51~100)
59/102

『昼ドラの部屋』

 昼ドラ:主婦の味方。昼にやってるドラマのこと。愛憎劇が多いため、不倫の促進になる危険性もなくはない、かもしれない。


「お兄ちゃん、昼ドラって見たことある?」


「あまりないな。録画してみるほど好きじゃないし」


「ほぼ主婦の味方だもんね」



〇〇〇〇〇〇〇〇



「あ、そうだ。ごにょごにょ」


「面白そうだな」



「でしょ? 題して『どうでもいい事を昼ドラみたいに演じてみよう』だよ!」



「まんまだけどな」


「いいからいいから。やってみようよ」


「配役はどうするんだ?」


「うーん、と。浮気相手の宅配員と旦那の役が、お兄ちゃんだね」


「一人二役じゃないか」


「大丈夫大丈夫。適当でいいから。んで、私が奥様役だね」


「浮気妻ってことか」



「うっ! なんか、そう言われるとダメージが凄いよ。お兄ちゃんを裏切るなんて、残酷すぎる」



「俺を仮定するなよ。もし仮定したとすれば、宅配員も俺だぞ」

「選べないよ!!」


「早く始めるぞ」



〇〇〇〇〇〇〇〇



「だ、駄目です奥様。そんなの、この僕には」


「どうして。どうして私の愛が受け取れないというの? あなたは、こんなにも私の内側に入り込んできているのに!」


「そんなこと……」


「私はあの日、あなたにクール便を届けてもらったのに、私の心は熱くなりっぱなしなのよ! だから、受け取ってほしいの!」


「駄目です。あなたには旦那様がいるじゃないですか。僕には……僕には『福引で外れた時にもらったポケットティッシュ』は……受け取れ、ません」


「どうしてよ!!」



「あなたを愛しているからです! あなたには幸せになってほしい。だから、僕がこれを受け取ることは出来ないんです」



「お、お兄ちゃん……」


「おい、私情を挟むな」


「あ、ごめん。結構ノリノリだったのにね。コホン。わかったわ。あなたがそこまで言うのであれば、私はあの人と、別れます!」


「――これで修羅場に突入するわけだな」


「んじゃ、いってみよぉ!」



〇〇〇〇〇〇〇〇



「あ、あなた。なにを……」


「俺は、俺は知ってるんだぞ。お前が、平日の昼間、頻繁に若い男と会ってる事を!」


「ど、どうしてそれを!」


「町内会の集まりで、隣田さんに聞いたよ。もう終わりだよな、俺達……」


「……っ、終わりよ。もう、終わり」


「な、ん、だと……」


「あなたは知らないでしょうけど、私はあの人に全てを捧げてもいいのよ! いつも帰りが遅くて、私の料理を美味しいとも言ってくれない、そんな人とは暮らしていけないの!」


「よ、よくもそんなことを! まさか、その男に、したのか?」


「……彼は、私の愛を、受け取ってくれたのよ」


「このっ……!」


「――! なにを、私を殺す気?」


「許さんぞ、俺を裏切ったことは許さん! そんな男に、あのポケットティッシュを渡したっていうのか!」


「そうよ! 福引の残念賞を、あの人に捧げたのよ! もう、あなたとは金輪際、関係を持ちたくないわ。離婚して!」


「なんだと!」


「――! きゃあああ!」


 ズブシュッ!


「「――!」」


「お、奥さん、宅配、です」


 バタリ。シュタッ!


「あ、あ、あぁ……お、お前がいけないんだ。俺の妻を、誘惑したお前が……妻からポケットティッシュを受け取ったお前が!」


「そんな、どうして……なんであなたが」


 バタリ。


「ふ、ふふ……鍵が開いていて、入ってくるなんて、宅配員、失格ですね」


「宅配員さん!」


「でも、あなたの心に、僕の心が届けられたなら、僕の、本望、です……」


 ガクリ。


「宅配員さああああああん!!!」



〇〇〇〇〇〇〇〇



「はい、カット! 即興にしてはいいんじゃない?」


「一人二役に無理があったけどな。刺された宅配員が急に立ち上がって怯える演技してたら、やってる自分が恐ろしくてたまらなかったぞ」


「でも、けっこうノリノリだったよね、お兄ちゃん」


「……最近、腐ってたからな。こういうお題は新鮮だった。まあ、あれは個性だから捨てないけどな」


「さすが、修羅場に突入するフラグをとことん折りそうな一本気だね、お兄ちゃん」



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