そのいち
こんなにブックマークがきて驚いています。
不定期更新になると思いますがよろしくお願いします
「なんでこんなに暑いの…」
ただいまの季節は真夏。まだ歩いて一時間も経っていないのに、私の体はすでにガンガンに照りつけている日差しと凸凹の道に悲鳴をあげていた。
貴族の令嬢様はこんなに体力がないなんて大きな誤算で正直泣いてる。
この調子だと、集落にたどり着くまでに三日以上かかってしまうかもしれない。前世でいうタクシーのようなものがあれば随分と楽になるのになぁ…あ、そういえばいいのがあったじゃないか。
前世のようにタクシーとか電車などの便利なものはないけど、馬車という徒歩よりも随分と楽に移動できる方法がある。さすがに買うことは予算的に無理だけどお金をいくらか払えば、同じ方向に行く人に乗せてってもらえるかもしれない。
そうと決まれば私の体は元気して足取りが軽くなった。なんて自分は単純なんだろう。というより、楽に進みたいだけか。
というわけでとりあえず近くの町―リールに行って馬車を探すとします。リールまでは、今日中にたどり着くことができるしそこで一晩宿にでも泊まろう。
それに、先ほどよりも日差しが収まったような気がする。はぁ~助かった。
いくらか余裕ができた私は、隣国に着くまでの間前世のことやこの世界について思いを馳せることにした。
生まれは日本。中小企業に勤めている父親と飲食店でパートをしている母親の間に生まれた、私はやんちゃな兄弟に囲まれ平凡ながらも充実している日々を送っていた。
死因はきっと、赤信号を突っ走っている時にトラックに惹かれたことだと思う。いや、それに間違いない。これって完全に、私がいけないんだけど仕方がないじゃない。
その日は期末テストという成績が悪い人にとってはとーっても重要な日だったんだから。遅刻して点数引かれて成績が赤点だなんて笑えない。
でも赤信号だったけど右と左は確認したはずなんだけど、おかしいなぁ。
そういうわけで、私の前世は自分の不注意で命を絶ったわけだ。次からは気をつけよーっと。
それよりも、問題なのは乙女ゲームに転生してしまったことである。
それも、悪役令嬢でバッドエンドを迎える寸前に。ここ重要!
これは、前世で悪いことをしてきた私への罰か何かですか? バッドエンドを回避して処刑は免れたけれど、エンドを過ぎたら私は一体何をすればいいんだ。
…いや、本来の私はもうすでに処刑されて死んでいるのだからそのあとなんてないのか。
私が転生した悪役令嬢の名前はリトルテット・エミリー。
見た目はとても愛くるしい容姿をしているけれど、中身はその真逆で、計算高くて気に食わない人は権力や何やらを使ってでもこらしめるというようなまるで悪魔みたいな腹黒い少女で陰で一番の有名人だった。
処刑された理由も、庶民からお姫様に成り上がり、片思いしていた王子をあっけなく奪われたヒロインに狂ったように嫉妬して毒殺を図ろうとしたのがバレて、いかに今までの自分が悪魔みたいな存在だったか目に見えてわかる。
お陰様で、国を出るまでの間罵声が飛ぶは飛ぶはで大変だったんだから。鬼、悪魔、妖怪…いくら悪役令嬢でも傷つきます。中身は、前世で平凡に暮らしていただけの学生だったんだからね!
そしてこの乙女ゲームはファンタジーな世界をモチーフに描かれており、六つの大陸と数十カ国ぐらいの国と町や集落が存在する。
ヒロインはその数々の場所を訪れながら攻略対象者と関わり最終的にどの攻略者を選ぶのかを決めるのだ。
私は、とある国にいる短髪で素敵なお兄様が好きなんですけどね。ぐふふ。
それに伴って悪役も複数存在し、私の場合は運悪く死亡エンドで終わる悪役令嬢に転生してしまった。
他は和解できたりと優しい設定になっている。死亡エンドは恐らく、私が転生してしまったエミリーだけだろう。
そう思うと、エミリーも中々にかわいそうだったんだな。
なんとなくエミリーの気持ちがわかるような気がする。気がするだけ。
「つ、ついた~」
前世のことに思いを馳せていたら、どうやら町は目の前まで見えている。早く宿を探して、私を送ってくれる馬車を探そう。
とりあえず、私はこれからはひっそりと平凡に暮らしていきたいので目立ったことはせず、アクティブなこともせずにのんびりと生きれる環境を整えることを選んだ。
今まで散々悪役としてエミリーは頑張ってきたんだから、それくらい許されるよね。
と、この時はまだ呑気に考える私なのであった。