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第39話 経験者は未経験者を見下しがち

「こちらでお待ちください」


 シャーウッドに案内された、王城““紅蓮閣“”の中層に位置する貴賓会議室。

 扉を開けた瞬間に漂ってくる、この国特有の濃厚な花の蜜を煮詰めたような、甘く重い香りに俺は鼻をつまむ。

 部屋の中央でこれでもかと深紅の輝きを放つローズウッドの円卓テーブルと、花の都セツカの全景が極彩色の立体ホログラムっぽく浮かび上がっている氷晶石の作戦プレートがお互いの存在感を強調するパッと見、会議室。

 お高い椅子に腰かけ、窓より吹き抜ける風に、極寒の地で心地のよい涼しさを感じていると、


「あ、そういえば、この中でドラゴンと戦った経験のある人はいる?」


 シータは今さらのことを言い出した。


「ないですぅ~」

「ありません」

「ないね~」

「あるかバカッ」

 揃いも揃って初体験。


 そんな答えに落胆の表情を見せるかと思いきや、シータはニッコリ笑顔で、


「私も」

 なんて言いやがった!


「ちょ、お前、なに……ドラゴン“()”未経験なの?」

 自信満々にクエストを受けたことで、ドラゴンは経験済みだと思ってたんだが?


「も、って何? も、って」

「俺、ドラゴンの特徴とか生態とか、なーんも知らねーぞ?」

 なんとなく強そうだな~、とかそんな気構えだけど、マジで大丈夫?


 俺はため息をつきながら、手のひらを見つめる。

 魔王の力を使えばどうにでもなるだろうが、みんなの前で黒い炎を出すわけにはいかない。

 そもそも俺が唱える魔法は()()使()()()()()()()()()


 炎魔法のファイアを、例にとると――


 人界では詠唱というパスワード制だ。

 魔力を呼び水に詠唱を通じて炎の精霊と繋がり魔法を唱える。

 いわば、“力を借りて”、発動するわけだ。

 手順を踏み、精霊と深く繋がるほど、魔法は『ファイア』から『フルス・ファイア』へと段階的に強化される。

 回復魔法同様に繋がることを重視した、人界の進化に沿った魔法のカタチ。


 一方、俺が炎魔法を発動させる場合、手をかざして炎を念じれば、それだけで黒い炎が出る。繋がりなんて関係ない。自らに蓄えられた“魔素”を、気合と共に一気に体外へ叩き出す。イメージを力に変換する、いわば超能力や必殺技に近い。

『はあああっ――!!』と気合を入れたら光線が出るかめはめ波的なもんだ。


 そこに詠唱なんて回りくどいものは存在しないし、どれだけ魔素を込めるか、何をイメージするかで魔法の強さや種類が、もっと言うなら“能力”が変わる。


 俺独自の魔法である『絶対領域アブソリュート・サイス

 これを例に挙げると。


 その能力は――完全逃避・・・・


 交わることなく、繋がることがなく。……ふれ合うこともない。

 そんな魔法。いわば俺の強い“願い”があればこその魔法だ。

 

 問題――

 現実から逃げ出し、心配する声からも耳を塞ぎ、自らの殻に閉じこもった引きこもりは、どのような魔法を願うでしょうか?


 答え――

 ()()()()()()()()()()()()()()()


 が、正解。


 繋がりを求めて進化した人界の魔法と正反対の、繋がりを徹底的に拒絶する。

 そんな空間を作り出す魔法。


 だが、それは言い換えるなら、

 こちらからも()()()()()()()()()()()()()、という欠陥魔法。


 攻撃が届かないのは、こちらも同じ。


 ったく……欠陥というより……欠落してるな。

 俺の人としての何かが……欠落している。


 そして、ここでもう一つ、開け広げに事実を伝えると、俺、聖アルフォード学園に入学して以来、魔法の実技授業で一度も魔法を成功させていない。


 ってか、精霊と……()()()()()……。


 唯一使えたのが迷いの森でシータを助けた回復魔法の一回だけ……。

 それもなぜ使えたか……あれっきり回復魔法も使えないし。

 学力試験は最下位で? 人界の魔法も使えなくて?


 ひょっとしてだけど俺って、「みみみ、未経験って、あ、あの、アレなわけで。わ、わた、私は別にアレで」なんて未だにぶつくさ言ってる、学力試験一位、精霊シンクロ率一位のシータよりポンコツな気がしてきたんですけど。


 というか、どう見てもポンコツです、ありがとうございました。


「シータ。悪かった。お前はアレだ。さ、出来損ないの俺に教えてくれ」


 大きく深呼吸の後、顔を赤くしたまま、シータは話を先に進める。


「お、おっほん。それじゃ話を戻すわね。基本的にドラゴンを討伐すると屠竜(ドラゴンスレイヤー)なんて大層な称号を与えられるわけなんだけど、その称号を持ってる人って、私たちの周りじゃ、ディアマンテ先生ぐらいのものなのよ」


 ほえ~、やっぱあの先生、ただもんじゃないのね。ま、ただもんじゃないよな。

 授業中とか寝た瞬間に斬るもんな。マジで反応できないときあるし。


 てなわけで、これはもう……。


「やっぱ俺たちの手に余るぞ、このクエストは。なんだったら、このままごめんなさいして帰ろうぜ。お前謝るのだけは得意だろ?」

 早くもギブアップ宣言する魔王に怯むことなく、シータは豪語する。


「もおーいいから黙って聞きなさいよ! ごめんなさいするのはあんたの方だから。つまり、ドラゴン討伐ってそれほどにレアなのよ。なのに、おかしいと思わない? 難度は『()』」


「――ん!? あれ……確かにそう言われれば……?」


 難度『S』が、四鬼将や、魔王の討伐、ってことなら、ドラゴンの難度『A』に納得するところだが、そうじゃない。四鬼将や、魔王は、そもそも難度の設定がない。災害や天災扱い、いわゆる計測不可。ゲームで考えるとわかりやすいだろう。このようなボスは、クエストでなく、メインストーリー上で討伐するものだ。


 ならば――ドラゴンは『S』であって然るべき存在じゃないのか?

 頭を捻る俺にシータは答えを告げる。


「ドラゴンを対象としたクエスト。その達成条件って実は二つ(・・)あるのよ」

「へぇ~、ま、一つはもちろん、“討伐”、だよな。あと一つって?」


 シータは会話中の口を指差し、


「――“()()”」


 そう言って、唇にそっと触れるのだった。

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