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第37話 花咲かじいさんが花を咲かせるために使ったのは何だっけ

「なあシータ。これから俺たちが向かう場所って極寒の地だよな?」


 船室の隙間から入り込む冷気が、もはや刃となって肌を削る中、俺は厚手の外套に顔を埋めながら尋ねた。


「あんた……この寒さでそれを言う? 頭が悪い悪いとは思ってたけど、まさか温度すらわからない? そこまで重症?」


 ほんと酷いよねこの人。

 俺って、イエスか、ノー、の質問すらまともに受け付けてもらえないんですか?


「そこまでじゃない。いや、()()()? ……って、大仰な名前じゃね?」


 確かに極寒の地方で咲く花もあるのだろう。

 でも本来、花と言えば暖かな地方を連想するものだ。

 それが極寒の地で、よりにもよって、花の……都?


「ああ、そういうことか。じゃ逆に質問。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 口元を意地悪に緩め、「ほらほら」と急かすシータ。


「そりゃ寒さに強い花があるんだろ? 冬に咲く花とかあるし、そんなだろ?」

「ブッブ~。あんたの頭はお花畑ね。ふふっ。笑っちゃう」


 いや笑えない。むしろ腹立たしい。お前の頭がお花畑だ!


「で、ダイチ。これってさ。学力試験で勉強したところなんだけど?」

「なんですね」

「私が一生懸命に教えたところなんですけど?」

「なんですか」

「不服そうな顔してるけど、あんたの頭がお花畑じゃなければなんなの?」


 お花畑で結構です。すみませんでした!


「えっと……どんなだったっけ? もう一度教えてもらっていいですか?」

七つに別れた(エンジェル)レキアの涙(・ハイロー)。七つ全部言えるよね?」

「言えません」

「バカなの?」

「バカなの」


 それが答えに繋がるのだろうか、シータによる質問返し。

 ったく、俺が覚えてるのは、この学園にあるやつだけだ!


 聖アルフォード学園にある、七つに別れた(エンジェル)レキアの涙(・ハイロー)

 “メルとクリスの鏡(ミラーズ・トゥルー)


 ――それこそが、俺の目的を完遂するための、最大の障害なんだから。


 その加護は学園を覆い、真実を映し出す。

 それのせいで魔物は何人たりとも学園に足を踏み入れることができない。

 レヴィなんかは一見すると人に見えなくもない。むしろイケメン枠だ。

 ならレヴィも学園に潜入を……なんて考えるまでもなくやっぱ無理。

 だって、あいつ肌は青白いし、翼生えてるし。牙あるし。

 魔物はどうしたって、姿かたちが人とは異なる。


 つまり、この加護がある限り、魔物はアルス大聖門で門前払いというわけだ。


 ならば俺が排除すべきはその原因。

 メルとクリスの鏡(ミラーズ・トゥルー)


 これさえ破壊できれば、あとはなし崩しに擬態した魔物が聖アルフォード学園に入学するだけだ。いずれはクラス全員が擬態した魔物になって勇者の存在が消える。

 ……なんてことも夢ではない。


 魔物に集団行動ができるかどうかは別問題として……。


 いずれにしても、

 メルとクリスの鏡(ミラーズ・トゥルー)が聖アルフォード学園を鉄壁たらしめているのは間違いない。


 じゃあ、さっさと排除してくださいよ。なんてレヴィの声が聞こえてきそうだが。そこにも、大きな問題がある。

 というより、根本的な問題がある。


 メルとクリスの鏡(ミラーズ・トゥルー)の保管場所。


 それがどうにもわからない。


 色々と嗅ぎまわった結果、学園長室が怪しいのだが、その学園長室がまた曲者で、刻一刻と位置を変えて、正確な場所がわからない。

 先日シータが学園長室へ行くにあたってディアマンテに尋ねた、“手順”、というやつだ。

 学園長室へ行くには、決められた手順を踏まないと扉すら拝むことができない。


 そんなわけで俺の華麗なる計画は絶賛……停滞中。

 ほんとこの学園、嫌になるほど手強い。


 んじゃ難解な問題は後回しに、まずは解ける問題から解いていこう。

 えーっと、七つに別れた(エンジェル)レキアの涙(・ハイロー)の名前……七つ全部だよな。


 微かに残る記憶を頼りに、思い出そうとする俺に先駆け、


千生雪花(トワユキ)

 と、シータが口にする。


「ん? 千生雪花トワユキ? って、七つに別れた(エンジェル)レキアの涙(・ハイロー)のうちのひとつで、んと、聖光七家(セブンスター)であるところのセツカ家が管理……ってことでいいんだっけか?」


「あら、ちゃんと覚えてるじゃない。ってことよ。これでわかったでしょ?」

「いや、わからん!」

「バカなの?」

「バカなの」


 ほんとこいつは説明が足りない。


「はぁ~。ダイチ。千生雪花トワユキの加護は?」

「……え? っと……」

 答える間もなく、追い打ちでもう一声。


「花の都セツカ。一つの花に見立ててついた国」

「あっ!」


 ようやく理解した。というより思い出した。


 花の都セツカ。その“名の由来”。

 それはセツカ家からでなく、雪に咲く花。

 ()()からきている。


 俺たちの向かう場所は七大陸のうちの一つ。極寒の地ブレストカーズ大陸。

 彼の地に流れた女神の涙は、形を変え、加護を与えた。


 ついた名は、千生雪花トワユキ


 つまり、花の都を統べるセツカ家が管理する七つに別れた(エンジェル)レキアの涙(・ハイロー)

 千生雪花トワユキ


 その()()()――“花”だ。


 加護は、『満開』


 見るもの全てを()()()()()()()()()()


「だから花の都。人々はその国のことをこうも呼ぶわ――奇跡の国と」


 極寒の地で鮮やかに咲き誇る満開の花。

 それを見たら、奇跡も信じれるってか……。

 半信半疑の俺に気付いたか、


「論より証拠ね」

 シータは俺の手を取り甲板へ連れ出す。


「ぐおおお~さっむ!」


 肺に吸い込んだ空気が一瞬で凍りつき、気管を内側から針で刺されたような激痛が走る。ブレストカーズ大陸の沿岸は、巨大な流氷がひしめき合い、さながら氷の墓標。太陽の光は空中で凍りついた微細な氷晶に乱反射し、視界を白銀の霞で覆い隠す。


 眼下に広がる大陸は、まさに極寒と呼ぶに相応しい光景だった。


 そんな身も凍える船上で、俺とシータは季節を飛び越える。

 船は、冬から、夏へと、季節を変える世界を旅して入港する。


 と同時に、俺はその名の意味と、奇跡を知った。


 白銀の世界で目にしたのは、吹雪でなく、花吹雪。

 咲きも咲いたり千紫万紅の花が咲き乱れ、次から次に飛び込む色彩の暴力に、色の処理が追い付かない。だから、この景色を表現するには、こう言うのが正解だ。


 ――文字にも出来ぬ美しさ。


 国全体をひとつの花に例え、

 雪に咲く大輪の花、雪花を連想させる、その国の名は、


 ――“()()()セツカ”


 俺たちは破顔で酷寒の楽園に足を踏み入れ、

 そして……俺はこれが間違いだったとのちに知る。


 正しくは――綺麗な花には涙がある。


 ここは極寒の地。

 これは、美しさの欠片もない、身も凍える『()()』の話だったのだから……。

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