第二十九話 【引き金】
一週間が経った。
村ではもう、正式にマリアの息子だと思われている。
それはさておき、天恵者としての自分の体質と、この焦茶色の髪に混じる奇妙な赤色をどうするべきか考えていた。
「……妙だな」
一つ疑問がある。もしあの船がそのまま進み続け、嵐に流されて浜辺に打ち上げられていなかったら、一体どうなっていただろうか。
正直なところ、どこへ向かっているのかも、いつ止まればいいのかも全く分かっていなかった。
ただ、皆を守るためにできるだけ遠くへ行きたかった。捜しに来たとしても見つからないように。
こうして改めて考えてみると……。
この天恵は、本当にどんな力を与えたのだろうか?
分からない。どうして今まで疑問に思わなかったのかも分からない。
天恵者であるなら、法則上、何らかの力を持っているはずだ。そしてよくよく思い返してみると、あの嵐の最中、手がわずかに光っていた。
両手を見下ろす。
普通の手と、再生した手。
見た目は同じでも、感覚は違う。
再生したからといって喪失感がそう簡単に癒やされるわけではないが、かといって、それほど気にもならない。
うーん……そういえば、料理をしようとした時、手から火が出たな。
魔法陣の描き方を間違えたのだと思っていたが、よく考えれば、それでは辻褄が合わない。
(考えろ、あれはただの錯覚だ、そうに決まっている……)
床から立ち上がった。
万が一、自分の力が火に関係しているのなら、確かめなくてはならない。方法はただ一つ、蝋燭を手に取り、何かを感じるか試すことだ。
もし本当にその力を持っているのなら、運命は間違いなく俺を嘲笑っている。
蝋燭を手に取った。
(よし。前世では、火は俺に応え、思い通りに動いてくれた。ここでも同じはずだよな? 一種の対話みたいなものだ……)
目を閉じた。
何も起こらない。
(うーん……これじゃないなら、どうやればいいんだ? 昔はこうやってたんだけどな……)
さらに数分間試してみたが、何も起こらなかった。
あの時、船の上で何をしていた?
腹が減っていたから料理をしていたが、それが関係しているのかは分からない。
もしそうだとしたら馬鹿げている。空腹の時にしか使えない力だなんて。
理屈に合わない。
胃の空っぽな感覚が引き金になったのか……あるいは、別の何かか。
理由はどうあれ、自分の力が何なのかを突き止める必要がある。
そのためには、マリアにこの話を訊くしかない。
彼女は座って、お茶を飲みながら景色を眺めていた。
遠くには広大な森があり、鳥たちが四方八方に飛び交っている。時折、猿のような動物が跳び上がり、鳥を捕まえてはその場で食べていた。
「自然って本当にすごいのね」
宙を舞う鳥を獣が狩る光景など日常茶飯事であるかのように、マリアは言った。
状況を考えれば、実際にそうなのかもしれない。
「あら、ダイキ。おはよう」
なぜここにいると分かったのだろうか?
「おはよう。何をしてたの?」
「モロイの朝の狩りを見ていたのよ。すごいでしょ?」
「ごめん、モロイが何か分からないんだ」
マリアは振り返ってこっちを見た。
「ああ、この地域にしかいないから無理もないわね。小さな猿なんだけど、すごく大きな脚を持っていて、どんな場所にもしがみつける足先をしているの。信じられないくらい速くて力強いけれど、機敏さはないわ。環境に依存しているからね。平地ではそれほど上手く動けないし、幸いなことに彼らは私たちを嫌がるのよ……主に着ている服のせいでね。ただ、他の猿と比べるとすごく頭が悪いの。他の動物に狩られたりもしているわ。私、あの森に何度も通っているから色んなことを知っているんだけど、その一つが、彼らは別の種族と戦争状態にあるみたいってこと。もう一度言うわね。すごいでしょ?」
天恵について聞きに来たのに、気づけば未知の生物について学んでいた。
小柄でそこまで大きくないが、腕、そして何よりも脚に途方もない力を持っているらしい。
「うん、すごいね……」
半ば諦め気味にそう答えた。話を合わせておいて、ついでに自分が関係していると悟られずに天恵について聞き出したかったからだ。
ただの好奇心旺盛な子供として。
「それで、何か用だったの、ダイキ?」
深く息を吸い込む。
難しい質問だった。
これがマリアにどう影響するか分からないし、口に出すことすら怖かったが、聞くしかなかった。
訓練するには、まだ子供であるというこの猶予を無駄にはできない。
「えっと……聞きたいんだけど、自分が天恵者だって、どうやって気づいたの?」
「ああ、それね……そうね、困難な状況に巻き込まれた時に気づいたって言えばいいかしら。その時、私は怒っていて、悲しくて、すごく悔しかったの。それで……その相手は無事では済まなかったわ。食堂の横にあるひび割れ、見たことある? まあ……人が激突した跡なのよ」
「本当に?」
「ええ、本当よ。その人はとても酷いことをしたから……まあ、自業自得ってやつね」
何かを隠しているのは分かっていた。
怒り、悲しみ、そして悔しさが入り混じっている以上、単なる出来事ではないはずだ。
天恵について知っているのは、これだけだ。
マリアは感情を頼りに力を引き出している。
アレクシオは立ち止まることで盾を展開している。
コービンは肉体的な状態を頼りに念動力を扱っている。
そしてオソリオは……正直、よく分からない。
つまり、感情だけが引き金ではないということだ。
自分の暁の目醒めという体質が関係しているかどうかも分からない。
「それで……そういうことがあったの」
そう言いながら、マリアは再び森の方へと視線を戻し、お茶を飲んだ。
語尾の声が少し震えていたが、それ以上深く聞くつもりはなかった。
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家の中に戻り、二度目の蝋燭を手にした。
手を伸ばし、待つ。
二分、三分、四分と経ったが、何も起こらない。
諦めて、手を横に振った。
その瞬間、窓から強い風が吹き込み、蝋燭をなぎ倒す。
「え?」
窓に近づく。
強風が吹いたような形跡はない。それどころか、天気は不気味なほどに穏やかだった。
再び自分の手を見る。
「あの船の時と同じだ。光を見て手を振った時、強い風が吹いた……」
もし火と関係ないなら、一体何なんだ?
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昼夜問わず練習を続けた。
何も掴めていない。それでも、方法らしきものは見えつつある。
手を乱暴に振った時、怒っていなくても力が発動したようだった。発動条件は、ただ腕で動きを描き、風に循環するよう命じることなのかもしれないが、確証はない。
ただ、前世の神話や空気操作の導き方についての知識を頼りにしているだけだ。もちろん、当時は念動力で対話をしていて、動作を使っていたわけではない。これは新しい経験だった。
空気操作とは、風を導き、気流を意のままに操ることだ。単に突風を起こすだけでなく、空気の流れを感じ取り、自分の一部であるかのように方向付ける。
問題は、その感覚が分からないことだ。
窓から風が吹き込んだ時も、空気がぶつかる衝撃しか感じなかった。本来ならあるはずの、事前の動きや風を導く流れを一切感じ取れなかった。
命じたわけでも、導いたわけでもなかった。
思っていた以上に複雑だったが、ここで諦めるわけにはいかない。自分の命が危険に晒されている今、あまり時間をかけすぎれば、かつてのコービンのように成長の機会を逃してしまうかもしれない。
窓からこっそりと抜け出し、庭へ出た。
今日の風は強い。
遠くから嵐が近づいていたが、今はどうでもよかった。
重要なのは、自分の発動スイッチが何なのかを突き止めるために、この風を導くこと、あるいは少なくともその試みをすることだった。
手のひらを開き、空気を叩く。
何も起きない。
空気操作の原理を用いて、風を導くように、あるいは波の動きを真似るように、流れるような絶え間ない動きで試してみた。
これも駄目だった。
その時、ふとヴァレリアのことを思い出した。
今、彼女なら何と言うだろうか?
「ダイくん、中に入って。寒いから風邪ひいちゃうよっ!」
...
ヴァレリアは俺を「ダイくん」と呼んでいた。そして今、俺はダイキだ。
これまで考えたこともなかったが、ふいにその記憶が蘇った。
その思いと共に、もう一度手を動かした。
その時、それは起こった。
手の周りに風が渦巻く。
気流が圧縮され、自転するように渦を巻き、そして唐突として消え去った。
手のひらに、小さな炎が灯る。
あの船の時と、全く同じように。
「嘘だろ……」
感情に応えている。
これを制御するには、決して自分の感情から目を背けてはいけない。
驚きのあまりその場にへたり込み、星空を見上げた。
雲が速い速度で流れており、この空も長くはもたないだろう。
どうでもよかった。
最初の雨粒が落ちてきた時、髪に手をやった。
「風だけじゃない……火もなのか……」
どうか、かつてと同じではありませんようにと願うしかない。
この雨に打たれながら、心に残ったのは一つの思いだけだった。
なぜ、大勢の中で俺だったんだ?




