第十八話 【祝福】
暁の目醒めの一件から一週間。ゼレニアの民は昼夜を問わず、盛大な宴を開いて祝っている。結局のところ、ヴァレリウスが危惧していたような恐怖は現実にならなかった。人間の誇りが勝ったのだ。
目醒めについて記されたあの本は、まだ渡されていない。
いくつか疑問がある。
王が恐れているということは、同じ時代に複数の暁の目醒めが存在し得るということだ。そして、他の目醒めを迎えた者たちが暗殺されてきた確率も高い。だがそれを裏付ける証拠はない。というより、証明のしようがない。
椅子から降り、本を一冊手に取って部屋を出た。
(エミリアのところへ行こう。こんな考えに没頭して、エミリアまで見失いたくはない)
◇ ◇ ◇
今日はとても重要な日になる。
念入りに計画を練った。実行は難しいが、試すだけなら簡単だ。
受け入れてもらえれば、前進できる。
「ネレアス。準備はできた?」
執務机の向かいに座り、そう尋ねる。
「ええ、すべて手配済みです。連絡も入れ、部屋も準備しました。あとは進めていただくだけです」
「ありがとう。何かあったら知らせるよ」
頷くのを見て、執務室を後にする。
階段を上る。
正確な言い回しをぶつぶつと練習した。
こんな事に関わるなんて思ってもみなかったが、やるしかない。
エミリアの部屋の前に着き、軽く扉をノックする。
「エミリア? 入ってもいい?」
「ええ、入って」
中に入ると、部屋の片付けをしているところだった。
ネレアスから少し聞いていた。他の者が片付けるのをエミリアが拒んだらしい。大きな進歩だ。
「えっと……少し汚れてるのが見えて。日の光が当たると、すごく目立っちゃって、それで……」
「うん。いいことだね。それで、準備はできてる?」
「え? うん、でも、何をするのか聞いてないけど……」
「ついてきて。きっと面白いから」
意図が伝わるように両手を差し出す。
箒を手放し、震える手で握り返してくる。
「あなたがいくなら、私もいく」エミリアはそう言って、手を握る力を強めた。
(きっとすぐに、一人でもできるようになる……)
【ああ、自分の部屋を片付けた時のように】
(お前か? また? ただの幻聴だと思ってたんだが)
【違う。嘘を吐かない俺の一部だ。奇妙だけど、あり得る話だろ】
「よし、行こう」
その声は無視することに決めた。
不思議そうに顔を覗き込んでいるのに気づく。
どうやらあの人格と話している間、表層の自分は完全にフリーズしてしまうらしい。
「ダリアン? 大丈夫?」
「うん、ただ……眠いんだ。すごく眠くて」
「そうね。時々、あなたが子供だってこと忘れちゃうわ」
「君だって子供じゃないか」
「もうすぐ十三歳だもの、子供じゃないわ」
今、唇を尖らせたか?
よく分からないが、そんな気がした。
その後、二人で部屋を出た。
「ここだよ」
急に立ち止まる。
エミリアは危うく通り過ぎそうになった。
「ここ?」
頷いて、扉を開ける。
中には大勢の子供たちがいた。
年齢は様々で、皆大きな絨毯の上に座り込んでいる。
「何……? だ、ダリアン? これは一体……?」
「無垢な精神だよ。今の君に欠けているものだ」
エミリアは数歩後ずさった。
即座に拒絶されることは分かっていた。
「私……やっぱり戻る」
踵を返したが、立ち去る前に何かがドレスの裾を引っ張った。
「ほんとのお姫さまなの!?」
幼い少女だった。その瞳はきらきらと輝いている。
「お、お姫様じゃないわ。エミリアよ……」
再び身構えようとしたが、別の声が出鼻を挫いた。
「エミリア姫だ! おとぎ話のやつ! ダリアンくんが教えてくれたやつ!」
別の少女だ。
クレヨンで絵を描いていた子だった。
軽く咳払いをして、口を開いた。
「見て、エミリア。無垢な心は決して人を裁いたりしない。ただ学ぶんだ。もし君が、彼らに与えられなかった優しさを教えれば、彼らはその優しさを他人に与えることを学ぶ。彼らの境遇を気にする必要はないよ。確かに孤児だけど、ここはゼレニアだからね。信じていい、彼らには沢山の機会が用意されてる。でも、良い機会があるからといって、良い経験が不要になるわけじゃない。子供に悪事を教えれば、自然と悪事に手を染めるようになる。もちろん例外はあるけれど……」
何人かの子供たちへ視線を向ける。
紙切れや、その辺に転がっていたぬいぐるみで遊んでいる。
「……純真さは変わるものじゃない。ただ、終わるだけだ。だから、もし少しでも気が楽になるなら、自分が手に入れられなかったものを他の誰かに与えてあげてほしい」
それを学ぶのに二つの人生を費やした。自分にそんなことを言う権利はないが、それでも口にしてしまう。止められなかった。
「……分かったわ」ただ一言、そう応えた。
「それなら、本を読んであげる準備はいい?」
大げさに唾を飲み込み、本を胸に抱き寄せるのが見えた。
初めて俺の前で朗読した時も同じだった。だが、ひとたび読み始めれば……もう止まらなくなる。
「髪が太陽みたいに光ってる……」
「すっごくかわいい……お姫様みたい! 金色の髪の毛!」
「歌ったら髪が光るの……?」
少女たちが口々に言う。
「おれは女神さまだと思う」
「ぼくの未来のお嫁さんだよ」
「おい、おれの未来のお嫁さんだぞ!」
「お前、お嫁さんがなにか分かってないだろ!」
「お前だって分かってないだろ!」
少年たちが言い争いを始めた。
エミリアは硬直していた。子供たちの言葉に反応できず、微動だにしない。
強く手を叩いた。少し強すぎたかもしれない。
「みんな。彼女は俺の友達なんだ。おとぎ話を読んでくれるから、静かに聞いてくれるかな?」
その拍手に、ざわめきがピタリと止んだ。
「エミリア、行こう。席が待ってるよ。いいかい、もし声が出なくなったら、その時はそのまま出てくればいいから」
「もう一回やれって言われても、絶対にやらないからね……」
輪の中心にある椅子へと導く。
「座って」
エミリアが腰を下ろした。
震える手でドレスの皺を伸ばす。
そして、ゆっくりと本を開いた。
十四対の瞳が、じっと見つめている。
「す、すべては……その、始まったの……」
一番遠くにいた少年が身を乗り出した。
そこまで遠いわけではないが、こういう子は必ず一人はいるものだ。
「え? 聞こえなーい……」
エミリアが凍りついた。再びパニックに陥り、部屋中に視線を巡らせて俺を探す。
何も言わなかった。
ただ、頷くだけに留めた。
俺にやった時のように、やってみて。俺にやってくれたように……そして、俺が君にしたように。そう視線で伝えた。
目を閉じ、深く深呼吸をする。再び目を開けた時、そこにいた怯える少女の姿は消え去っていた。……一時的にだが。
「すべては、一人の若き農夫が……!」
力強い声が響く。
「フィリップ王子に、神秘的な水晶の島の話をしたことから始まりました……」
こうして、朗読の時間が幕を開けた。
一人に任せることにし、部屋を出て床に座り込む。そびえ立つ重厚な壁を見上げた。
(やり遂げた)
両手を後頭部で組んだ。
(本当に、やり遂げたんだ)
「ダリアン坊ちゃま?」
フレデオだった。
「おはよう、フレデオ。どうかした?」
「いえ、ただ、あの声は……」
扉の方へ視線を向ける。
「そして彼は、王国を救うため宝を探す旅に出る決意をしたのです……たとえ、家族をすべて失うことになろうとも。根拠も地図もない旅。あるのは希望だけ。それでも、彼は旅立ったのです……」
フレデオが再びこちらを見た。
「本当に、エミリア様が朗読を……? これは……」
「素晴らしい?」
「間違いございません! ネレアス様もどれほどお喜びになることか!」
「大声は出さない方がいいよ。エミリアは上手くやってるんだから」
「も、申し訳ございません。つい興奮してしまい……」
二人の間に、わずかな沈黙が降りる。
エミリアの語る物語に、じっと耳を傾けた。
やがて、フレデオが穏やかな声で口を開いた。
「ご存知ですか、ダリアン坊ちゃま。あの声を聞くと、お嬢様がまだ幼かった頃を思い出すのです。蝶を捕まえようと屋敷の廊下を走り回り、いつも床を泥や草だらけにしておられました」
短く間を置く。
「あの事件の後……床は常に磨き上げられたままになりました。床掃除の手間がなくなることが、これほどまでに寂しいものだとは思いもしませんでしたよ」
何も返さず、ただその言葉を噛み締めた。
「そして一週間前、坊ちゃまがあの雨を降らせた時、床は再び泥だらけになりました……あれは一種の兆しではないでしょうか?」
「兆し?」
天井を見上げる。
兆しか……。
「そうかもしれないね」
それ以上は言葉を継がなかった。
必要がなかった。
床から立ち上がる。
「フレデオ。ひとつお願いしてもいい?」
「もちろんでございます。坊ちゃまには多大な恩がございますゆえ」
「これから訓練に行かなきゃならないんだ。用事ができたって、エミリアに伝えてもらえる?」
「承知いたしました。元々、今日は非番でしたのにわざわざお越しいただいたのですからね」
「うん、そう伝えて。彼女なら分かってくれる。俺はエミリアを信じてるから」
そう言い残し、出口へと向かった。
◇ ◇ ◇
訓練場にいた。
木剣を握り、アレクシオの斬撃を躱していく。
突きを回避し、カウンターの斬撃を返す。
アレクシオは目を見開いたが、彼を出し抜くには至らなかった。
内部魔力に意識を集中させる。
蟻が……這う感覚を……。
来た!
ブゥンッ!
鋭い斬撃を放つ。アレクシオはそれを逸らすため、手首を叩き、そのまま手を押さえつけざるを得なかった。
「よし、今日はここまでだ」
「上手くできた?」
「上手く、だと? 坊主、危うく俺の目を抉るところだったぞ……上出来以上だ。だがな、頭で考えている間に、とうに攻撃は仕掛けられていたはずだ」
「分かってる。どうしても考えすぎちゃうんだ」
「問題は、動きながら考えていることだ。動く前に考えろ。頭の中で全ての計画を練り上げ、一気に解放しろ。そうして初めて、お前の真の力が引き出されるんだ」
「分かった」
「分かるだけじゃ駄目だ。やってみせろ、ダリアン」
言葉少なに、再び内部魔力の訓練を続けた。
少しずつ、内部魔力の出力を上げていく。
絶え間ない放出。
重々しい斬撃を宙に放つ。
ただの木剣だが、内部魔力を纏わせることで、冗談抜きで剣が重くなるのだ。
その時、あることに気がついた。
内部魔力を行使したまま、原点に至ったらどうなる?
原理上は何も起きないはずだ。だが、原点は比喩的な概念ではない。文字通り、到達すべき魔法の領域なのだ。
目を閉じ、魔法を発動する時のあの感覚を呼び起こす。
無であり、同時に全である感覚。
己の血が巡る音だけが響く静寂。
再び目を開いた。
「これは……」
剣がこれ以上重く感じない。それどころか、基礎筋力に完全に釣り合った、理想的な重さになっている。
「順調に進歩してるな、ダリアン。よくやった」
そういうことか。これを示す必要があったのか。
原点と同じ原理を、剣に応用する。
発動する前に思考を完了させる。
だが、案の定、多量の魔力を注ぎ込んだ時ほどの威力は出ない。
何度も反復すれば、アレクシオのように本能だけで扱えるようになるだろうか?
それこそが、アレクシオが恐るべき手練れである理由だ。
唯一無二ではないにせよ、極めて希少な、本能のみで戦う能力を持っている。
思考は不可欠だが、脳からの指令が肉体に伝わるまでには僅かなタイムラグが生じる。内部魔力でその反応を底上げするか、あるいは全く別のアプローチを取るかだ。それが本能だ。
完璧ではないが、その直感に幾度となく命を救われることになる。
「よし」
アレクシオが鋭い声で言った。
「なら、手を止めるな」
そして、こちらへ向かって突進してきた。
- - -
訓練の後は、恒例のチョコレートの午後が待っていた。
母さんはいつもそうだ。腹を空かせて帰ってくるのを見るや否や、瞬く間にホットチョコレートを作ってくれる。
「はいどうぞ、私の天使」
「ありがとう、母さん」
そして、自室へ持ち帰る盆の上には、一冊の本が添えられていた。
『天恵者、目醒め、ならびに暁の目醒めに関する僅かな考察について』
「母さん、これは……」
「ええ。それが、私たちがあなたに話せるすべてのことよ」
「ありがとう。読んでみるよ」
「ちゃんと飲むのよ。後で様子を見に行って、チョコレートが冷めていたら」
「お仕置きだね。分かってるよ、母さん。そんなことにはならないから」
「ふふっ、よろしい。じゃあ、いってらっしゃい」
自室へ上がる。コービンが盆を運んでくれた。
ひとまず、その本に意識を向けることにした。
始める前に。
父親として、お前に謝罪しなければならない。本来なら、もっと早くこの話をするべきだった。だが、いくつかの事情があり、また神官たちの助言もあって、お前が十歳を迎えるまで待つのが賢明だと判断したのだ。
これまで伏せていたのは怠慢からではなく、明確な決断によるものだ。お前に理解し始めてもらうために、この時を選んだ。
まず大前提として、天恵者は祝福者ほど稀有な存在ではない。
母が残したその手紙を退け、本を読み始めた。
序文
人類の黎明期より、女神はその子らに光を与え給うた。
天恵として知られるこの光は、神と人との直接的な干渉を意味する。
その性質、多様性、そして目的については現在も研究が続けられている。その影響、恩恵、そして危険性が、この世界を形作ってきた歴史そのものだからだ。
光?
あの光の存在にはずっと付き纏われてきた。
今、それは現実のものとなった。手に触れられる事実として。
2.天恵とは何か?
天恵とは、人間の魂に宿る小さな欠片であると記されている。
どのような状況であれ、それは様々な形で顕現し、常人には到底不可能な固有の能力、肉体的な変異、あるいは魔法への親和性を宿主に与えるのだという。
なるほど。原点と魔法について触れられていたのはこれのことか。
天恵者が特別な存在だということは知っていた。偉大なる竜を討伐できたのも伊達ではない。
待てよ……。
固有の能力?
具体的に何を指しているのかは書かれていないが、魔法陣に関わるものかもしれない。例えば、魔法陣を直接顕現させるとか。
天恵は、主に発現する年齢によって分類される。
年齢で分類?
王の勅令で七歳未満に天恵を受けた者の処刑が命じられているなら、それはつまり、若くして受けるほど強力になるということだ。
かつてないほどの集中力で、さらに先を読み進めた。
2.1 年齢による分類
暁の目醒め、一歳から七歳。
上位天恵、八歳から十一歳。
中位天恵、十二歳から十五歳。
遅延天恵、十六歳以降。
暁の目醒めと上位天恵の違いは何だ?
ああ……この下に続きがある。
集中しろ、ダリアン。
2.2 恩恵と代償
本によれば、天恵者は常人よりも遥かに多くのエネルギーを必要とするらしい。光の欠片を宿しているとはいえ、肉体がエネルギーを必要とすることに変わりはなく、生命を維持するためには通常の倍近い食事を摂らなければならない。
諸刃の剣というわけか。
『天恵者』は『祝福者』ほど稀な存在ではないとはいえ、誰もがそうなるわけではない。
暁の目醒めは、目に見える代償が存在しない唯一の天恵である。
唯一の代償は、倍の食事を必要とすることだけ。
しかし、その能力を考慮すれば、彼らにとってそれほどの食料を調達することは決して困難な作業ではない。
天恵者はその階級に応じて、常人とは一線を画す超人的な特質を獲得する。
記録には、固有の能力、寿命の延長、病に対する免疫、毒素への耐性などが挙げられている。そして全員が、例外なく治癒の恩恵を受ける。
『光の変容の過程で、肉体は修復され新生し、新たな色に染まる』本の一節には、そんなひどく詩的な表現で書かれていた。
光は、一度きりの絶対的な治癒をもたらす。
肉体がどれほど損傷していようとも、光が届けば完全に回復し、新たな体を手に入れる。外見こそ以前と同じだが、その本質は全くの別物だ。
四肢を失っていようと、死の淵に立たされていようと、体は完全な状態へと回帰する。
ただし、与えられる治癒は一度のみ。その後で傷を負えば、二度と癒えることはない。
その力はさらに先へ及ぶ。
古傷や新しい病、ありふれた病気から不治の病に至るまで、あらゆる疾患を消し去る。先天性の奇形や肉体の欠損、臓器の不全すらも正す。何も後には残さない。
(奇跡の治癒?)
【興味深いな】
どうして今までこんなことを知らなかったんだ?
隠されていたのは分かるが、これほど重要なことになぜ今まで気づかなかったのか不思議でならない。
ルビーも俺に言うのを避けていたのか?
そこで悟った。暁の目醒めは決してありふれたものではない。いや、それはとうに分かっていたことだ……だが、織り手の糸の一部に組み込まれない限り、誰も目醒めを迎えることはないのだ。
本にはまだ続きがあった。
天恵とその階級について書かれている。
遅延天恵について。
これを受けた者は寿命も延びず、免疫も毒への耐性も得られない。ただ一つの能力を得るだけだ。しかも、その能力は限定的であることが多い。
大抵の場合、単一の機能しか果たせず、それ以外の用途には応用が利かない。
俺の視点から言わせてもらえば、これは呪いに近い。実質的な恩恵がないにもかかわらず、無駄に莫大なエネルギーの消費を強いてくるのだから。
中位天恵。
これが最も一般的な天恵だ。
宿主の平均寿命は百二十年ほど。
病に対しては高い抵抗力を持つが、毒に対する耐性はない。
得られる能力は有用だが、上位天恵を持つ者ほどの凄まじさはない。
上位天恵。
上位天恵を受けた者は敬意を集めそして恐れられる。
唯一無二の、破壊的な能力を授かる。
寿命はおよそ二百年まで延びる。
病に対する完全な免疫と、あらゆる毒への極めて高い耐性を持ち、ポーションを服用した際の回復力も格段に高くなる。
本文はそこで終わっていた。
暁の目醒めに関する記述は何もなかった。
本から手を放し、ベッドに仰向けになる。
今読んだばかりの内容を頭の中で分析した。
祝福者。
天恵者。
暁の目醒め。
なぜ、今までこれを知らなかった?
すべて辻褄が合う。竜を打ち倒すことができたのも頷けるし、その後魔法の進化が止まったのも納得がいく。
内部魔力だけでなく、人々の中にはすでに固有の能力が存在していたのだ。戦争のためにわざわざ魔法を発達させる必要がどこにある?
そんなことをすれば、『祝福者』や『天恵者』は戦車や戦闘機のような、ただの戦争兵器になり果ててしまう。
だからこそ、そうならないよう魔法の発達に意図的なブレーキがかけられたのだ。
額に手を当て、そのまま髪を掻きむしった。
もし暁の目醒めがそれほど危険なものならこれは本当に深刻な事態だ。
王子や、かつてのセレナが辿った道は、遊び半分で関われるものじゃない。
もし、彼が悪人だったらどうなる?
分からない。
だが、それを考えると、家族の身に何かが起きるのではないかと恐ろしくなる……。




