第九話 【声の残響】
あの声は消えた。
だが、その感覚はまだ残っている。
頭がおかしくなりかけているのか、あるいは過去の出来事がついに脳裏に浮かび始めたのかもしれない。
今回、あの声はかつての名前の一部を口にした。
過去の声?
そうではない気がする。
そう思えるかもしれないが、感覚は同じだ。
同時に、まったくの別物でもある。
前世では、元素が外側から語りかけてきた。
だがこの声は、骨が振動するような感覚を与えてくる。
元素は脳を通じて繋がっていたが、これは違う。
答えるためのものは、もう何も残されていない。
そしてあの声は現れ、何かを言って、消え去った。
答えがない以上、ただ別のことへと進むしかない。
---
授業はいつも通りに続いている。
今回は『世界について』と同じような本を読んでいるが、著者は違った。もはやC・Cでもなければ、匿名の著者でもない。
著者はラザム家のアルス。
アルス・ラザム。
どうやら、C・Cは本の中で間違いを犯しすぎたらしい。
あるいは、そのせいで検閲されたのかもしれない。
アルスのほうが嘘つきである可能性もあるが、確かなことはわからない。
「原初の海、その唯一の海は、大陸そのものよりもはるか昔から存在していました。それ以前にはムーセアノだけが存在し、さらにその前にはサクロがあったと言われています」
ルビーが話している間、周囲は完全に静まり返っている。
頭の中は真っ白だった。
面白いと感じていたから、一つ一つの言葉に頷いていた。
海について話した後、メンシェ大陸の話が続いた。
「遥か北の地では、厳しい寒さが続きます。そのため、人々はクリオヴァルの大都市の戦略的要衝に魔法陣を構築することになりました。その魔法陣は、その地で生命を維持するために不可欠なものでした。グリルベアの毛皮の主要な輸出都市として、そこには常に仕事の機会があります。だからこそ、一年中雪に覆われた都市であるにもかかわらず、人々は進んで嘆きの山を越えるのです。他にも様々な仕事が存在します」
ルビーが読み終える。
本を閉じ、膝の上に置いた。
「悪い評価をつけないでほしいわね……」
「悪い評価? どうして?」
「ふふっ、前のページで少し間違えちゃったのよ。こんなに長く声に出して読むことなんて、あまりないから」
「うまくやっていると思う。悪い評価をつける理由がない」
「そうね……」
ルビーは手の甲で額の汗を拭う。
「うう、ここは暑いわね……」
この世界での授業は、特に幼い子供たちにとっては九ヶ月間続く。
とはいえ、春も暑いことが多い。
ゼレニアは両方の気候のちょうどいい中間に位置しており、
環境の温度をうまく調整してくれる海があり、
そして市民を暑さから守る魔法陣がある。
まだ知らない、しかし知りたいと思う魔法陣だ。
俺は立ち上がり、チョークを手に取る。
「えっ? 何をしているの、ダリアン?」
「冷風の魔法を作る。必要だろ」
「でも……」
最後の点を繋ぎ、腕を伸ばす。
空気が循環し始め、ルビーは安堵の表情を見せた。
「あなたって……本当に助かるわ。その年齢でこんなに早く魔法陣を描けるなんて……これは評価を一つ上げないといけないわね」
「できる限り勉強してきた。そのせいじゃないか?」
「んー……そうかもね、たぶん。どうかしら? 冗談よ、きっとそうね」
ルビーは明るい女の子だ。
遠慮というものがない。
「悪い評価をつけないでほしい」と言っても、文字通りに受け取るべきではない。
変わっている、理解できない。
両親を失ったというのに、どうして幸せなままでいられるのか?
その公式を知りたい。いや、公式ではないか。
ルビーが本を片付けようとしたとき、頭を横に振った。
別のことを考えたほうがいい。
ルビーはエルピダという村の出身だ。
そこに住んでいない人々は、そこを「希望の樫」を意味するオーキボと呼ぶ。
村の近くには樫の木が生い茂る巨大な森があり、十分な食糧源となっている。クレアストス家のおかげで、ゼレニアが食糧面で最も価値ある地域であることに変わりはないが、エルピダもより良い指導者がいれば、素晴らしい居住地になることは間違いない。
「ダリアン……ありがとう」
ルビーは魔法陣のそばに座ったままだった。
「ありがとう? どうして礼を言うんだ?」
「あなたが私の一番の生徒だったからよ」
ルビーは床に座り直しながら答える。
「まあ、今まで生徒は三人しかいなかったけど……あなたに教えるのは本当に楽しかったわ。また来年も会えるといいわね」
「どうして永遠の別れみたいに言うんだ? この家にはまだあんたの部屋があるんだから……」
「あ、ごめんなさい。私って結構大げさなところがあるから、よく言われるのよね……でも、私の気持ちは本当よ。ありがとう」
「気にするな、助けてくれたのはそっちだ。その……そういうことだ」
ルビーは首を横に振り、肩を落とした。
「自分の歩みを否定しないで。常に自分の足跡を見るべきよ」
「どんな足跡だ、先生? 全部消えるだろ」
「いいえ、消えないわ。そして道も……」
ルビーはそう答えた。
消えない、か。
そんなことはない。
いつだって消える。
いくら努力しようと、過去や足跡を消し去るものは必ず存在する。
雨もその一つだ。
「道は消えないわ。人が絶えず歩み続けることで道は切り拓かれ、使われ続けることで時間を超えて維持されるのよ」
「そう、その通り。消えないの。それは私たちの行動も同じ。あなたはもうすぐ六歳になる。立派な剣士であり、偉大な魔術師であり、優秀な生徒で、気高い少年だわ。それが水で洗い流されると思う? 海の中のどんなに見つけにくい足跡だって見つけることはできる……あるいは岩を砕いた跡だってそう。常にそこにあるのに、あなたが見ようとしないだけよ」
……何と答えればいいのかわからない。
言葉は口から出る前に死んだ。
これがニヒリズムというやつか?
いつだってそうだった。
「聞いて、ダリアン。道というのは絶え間ない歩みだけでできるのではなく、皆がそこを通ろうと決めたからこそ形成されるの。良い道は活かされるべきだし、良い運命には平穏に辿り着くべきだわ。一つ聞くけど、魔法や剣を学ぶのは幸せだった?」
運命……その言葉。
ずっと拒絶してきた忌々しい言葉が、今になって文字通りの意味を持ち始めている気がする。
ヴァレリウスの長男として生まれた。
予知ができる祝福者の祖母からは、役に立つだろうと言われた。そして今、その言葉が戻ってきた。
「幸せ? 満たされているとか、嬉しいとか、満足しているとか、楽しいとか……それなら、ああ、満足している。その意味では、俺は幸せだった。ただ、幸せというものを正確に定義することはできない」
何なんだ?
母さんのチョコレート、ヴァレリアと過ごす午後、アレクシオとの訓練。父さんがどんなに疲れていても、必ず部屋のドアをしっかり閉めてくれるのを見ること。
その中のどれかが幸せなのか?
「そうね、いつかそれが何か分かるといいわね」
ルビーは微笑みながら締めくくる。
驚いたことに、俺もそうなることを望んでいた。
---
授業が終わった。
「ルビーさん? 行っちゃうの?」
ジュリエットが言う。緊張しているのがわかる。愛着が湧いていたのだろうか?
「ええ、でも長くはかからないわ。海へ行くの。それに、ギルドへ行って、妹に私の分の仕送りを送りたいから」
母さんは微笑み、ルビーを抱きしめる。ルビーは目を丸くして輝かせ、その抱擁を返した。
「ごめんなさいね、ルビーさん。私っていつもこうなの……突発的で、自分の行動をよく考えてないのよ」
「き、気にしないでください。私にも……そういうのが必要だったんです。あの……この家では本当の家族のように感じていました。まだ九ヶ月しか経っていないのに」
「これからまだまだ続くわよ」
最後にジュリエットが付け加える。
「あ、ルビーさん、私たちの海へ行かないかしら? 静かだし、食事もあるし、何より安全よ。それに、あなたを送るのも難しくないわ」
「で、でも、あそこはセラフェル家の海でしょ……一番プライベートな……」
「だからこそよ、ルビーさん。あそこは今退屈すぎるから、少し活気が必要なの。それに、私たちが行くのは夏が始まるとき、つまりダリアンが六歳になるときよ」
こうして、ルビーは別れを告げた。どうして行ってほしくなかったのだろうか?
奇妙なことだが、俺の一部はルビーを姉のように見ていた。
もう一つの部分、ヒカリは、情を移すべきではないと告げている。
---
「ダリくん、海はすごく綺麗だって言ってるよ、私たちも行くのっ?」
ヴァレリアが隣に寝そべっている。
木陰の下にいた。
両手を後頭部で組み、ヴァレリアを見る。
「母さんが、俺が六歳になったら二週間海に行くって言ってた。来たければ、お前も来ていいぞ」
ヴァレリアの目がぱっと輝く。
「ほんとにっ!?」
「家族だろ。来る権利はある。それに……どうせジュリエットが誘うに決まってる。実際のところ、みんなのこともな。だから問題ない」
「んー、ダリくんも私に来てほしいって、どうして素直に言わないのかなーっ?」
「お前が行けば、退屈にはならない。それが俺の答えだ」
強く抱きついてきて、急いで兄弟たちに教えに行った。
(ヴァレリア、お前のことも理解できないな。俺の何がいいんだ?)




