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8歳、まぁこんなことも……あるか?





私は8歳になった。

急に赤ちゃんだったから、急に元の28歳に戻ることもあるのかなぁ、なんていう心のどっかにあった懸念は、5歳を過ぎるとすっぱり無くなった。ので、私はリーリアとして、新しい生を満喫していた。


この日、父は私の部屋へ来るなり、仰々しい封筒(開封済み)を私に渡したが、手紙を取り出して読んでみても、私にはちゃんとは読めないわけで。

こくっ?と首を傾げると、父は丁寧に教えてくれた。

いわく。


「王家の、お茶会?」

「そうだ」


で、でたーっ。

この国がヨーロッパ風だったときから思ってはいた。舞踏会とか、それこそお茶会とか。あるんだろうなーって。だって、貴族だもん。

だけど、8歳でなんて思ってもみなかった。こういう貴族社会では、高校卒業くらいで、社交界デビュー。つまり、成人!みたいに思ってたから。

でも、話をよくよく聞いてみると、私はやっぱり、本来なら社交界に出るにはまだ早いんだけど、王家主宰の、しかもお茶会なら話は別らしい。

私と同じ年くらいの男の子や女の子が、デビュー前の練習、みたいな感じで集まるんだ、と父は続けた。しかも、御歳10歳の皇太子様も参加するという。


(うわ……)


それってあれじゃない?一種のお見合いパーティー、みたいな。

こういう国の人たちは、幼い頃から婚約者がいるのが当たり前っちゃ当たり前みたいだし。皇太子ともなればなおさらだろう。

うちの今世の両親だって(サーシャが言うには)18歳くらいで結婚したらしいし。でも。


「……」


(こんな歳からお見合いパーティーしなきゃいけないなんて……)


元28歳婚活女的には、この歳から結婚のことを気にしなきゃいけないのは嫌すぎた。

だって、婚活の間ずっと結婚のことを考えてたのだ。せっかく生まれ変わったのだから、もう少し休みたい。子どものままでいたい。

私がなんとなーく嫌そうな顔をしたのがバレたらしい。父は少しだけ困ったように笑った。


「嫌かい?リーアと同じくらいの歳の子たちばかりだから、親しいお友だちが出来るんじゃないか、と思ったんだが……」

「!」


そうか、そういう目的もあるんだ。

貴族のご令嬢は基本的にデビュー前はおいそれ出歩いたり出来ない。だけど、お茶会で友だちが出来れば、家に招いたり招かれたり出来る訳だ。


「そうよね!ありがとう、お父さま!私、友だち100人作るわね!」

「そりゃ無理だろ」


父の後ろから兄が言った。

いつの間に私の部屋に入ってきたんだろう。いや、それより、話に加わるなり、妹の夢を壊す発言をするなんて。


「お兄さま!でも、やってみないと分からないではありませんか!」

「いや、そもそも貴族の子どもは100人もいない」

「そのくらいの意気込み、ということですわ!」

「……リーア。分かってるだろうが、茶会で変なことやらかすなよ。お前はただでさえ悪目立ちするかもしれないんだから」

「まぁ、なんてことおっしゃるんです!そもそも、家族の中でも、一番ふつうな私が、そんな目立つわけないでしょう?」

「……なにをもってしてそんなに自信満々に自分を「一番ふつう」と言い切るのか分からないが、普通の令嬢は、兄の家庭教師を言い負かしたりしない」

「……っ!あれは、あの先生がわるいんです!」


それは二週間前のことだ。

新しく雇われた兄の家庭教師に挨拶に行ったときのこと。

28歳日本人の記憶がある私が、7歳になったんだから勉強しなきゃ、となるのも無理はなく。

私は父に、兄の授業を度々見学する許可をもらっていた。まぁ、三歳差のある兄の勉強についていけるとは思ってないが、ないよりましだと思って。

でも、その家庭教師は、会ってびっくり。女とはいえ、雇い主の娘である私を分かりやすく見下していたのだ。

というのも、この国の令嬢はそもそも男の人と同じほど勉強をしないらしく、小さい頃から勉強しては、嫁の貰い手がなくなる、と見られるらしい。

家庭教師はすっごく遠回しに、丁寧に、そんなようなことを教えてくれた。なんじゃそれ。

というわけで、私はこてんぱんに論破した。そりゃもう、容赦も情けもなく。女とか関係あるかい。私は雇い主の子どもやぞ。といった感じで。

結果、その家庭教師は解雇されたわけだ。


兄が言うのはその時のことだろう。

論破してたときも、父から家庭教師の解雇が告げられたときも兄は何を言うわけでもなく、ずっと笑っていただけだったが、ちょっとは根に持っていたんだろうか。

まぁその間勉強が止まったわけだし、しょうがないかもしれないけど。私はやっぱり、悪くないと思う。


「お兄さまも、分かってるくせに」

「……まぁなぁ」


恨みがましい顔でぼやくと、兄は呆れたような顔で、私のおでこにでこぴんをした。

なんとも優しい加減で、だったけど。


「……」

「分かっている。まあ、その話はともかく、茶会で変なことはするなよってことだ。兄さまからのアドバイス。嬉しいだろう?」

「……お兄さまはいじわるですわ」

「はいはい。兄さまは意地悪だな~。茶会ではその兄さまがエスコートするわけだが、まあ、せいぜい我慢するんだな~」

「えっ、お兄さまがエスコートしてくださるのですか?」

「そりゃまぁ。お前の兄さまだから?」

「……」


エスコートって、あのエスコート?舞踏会とかで、王子様とかがお手をどうぞ?とかやる、あの?

私が目を見開いて驚いていると、兄は怪訝そうに私を睨む。


「……なんだよ?」


そんな顔しても駄目。エスコートなんて、そんなの……そんなの。


「すてきっ!」

「は?」


私は目を輝かせて兄の手を握った。


「お兄さま!エスコートしてくださるって、私聞きましたからね!あとになって、できないなんて言わないでくださいね!」

「……なんだそれは」

「ね?」

「いや……別に言わないが」


やったー!

おっと、両手を上げて万歳するところだった。危ない。

さすがに、8歳とはいえ、伯爵令嬢だ。そんなお行儀の悪いことは出来ない。


「ふふっ。楽しみです!」

「……お前は本当に。大人のような面を見せたかと思えば、急に年相応の乙女みたいにはしゃぐよな」

「あら?私は年相応の女の子以外になったつもりはありませんわよ、お兄さま!」

「……そういうところだよ」


兄は呆れたようにため息をついた。よく分からないけど心外!




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