三十五話 今の所長と前の所長
セアレウスとエクシリユスの二人が騎士庁舎に辿り着いてからおよそ一時間の時が過ぎたころ。
セアレウスの姿は、騎士庁舎から少し離れた場所にあった。
そこは住宅街と呼ばれる区域の中。
区域の中にあるいくつかの通りが交わる小さな広場の隅、彼女はそこの隅に一人佇んでいた。
広場には食材や衣類など生活用品を取り扱う店が立ち並んでおり、今も多くの住民達で賑わっている。
この場所では観光客などの外からやってきた者はおろか、冒険者ですら特異な存在だと言える。
ましてや、今のセアレウスは自身の姿を隠すため、身に着けたローブで全身が覆われている状態だ。
そんなセアレウスの存在に気づいた者達は皆一様に、不審な目で彼女を見ていた。
そして、誰も彼女に話しかけようとはせず、一瞥するだけで通り過ぎてゆくのだった。
「お待たせしました」
そんな中、セアレウスに声をかける者がいた。
この広場で、もう一人の特異な存在であるエクシリユスである。
エクシリユスは声をかけた後、セアレウスの元に駆け寄ってゆく。
少し前まで二人は離れて行動をしていたようであった。
「お疲れ様です。早速ですが前の所長さんは、どのような人なのでしょうか? 」
駆け寄ってきてエクシリユスに対して、セアレウスがそう訊ねる。
離れて行動していた二人のうちエクシリユスがしていたことは、前騎士庁舎の所長についての調査である。
調査方法は住民達に聞き込み。
今のセアレウスの姿では不審がられるということでエクシリユス一人で聞き込みを行うことにしたのだ。
「人物としては仕事熱心。騎士としては指揮能力も高く、長い騎士人生の中でいくつかの武勇伝があるようで個人としてもなかなか強いようです」
「ほぉ、なるほどです」
「部下や住民達には優しく接していたようで、多くの人に慕われていたようです。その他多くの良い評判を聞きました」
「これは……期待しても良さそうですね」
フードから覗くセアレウスの口元が緩んでいた。
しかし――
「まあ、それらは所長および騎士を退職された一年ほど前の評判になるのですが」
「ええぇ……」
エクシリユスの言葉により、その口元から落胆の声が漏れだした。
「い、今はどうでしょうか? 」
「今……というか最近はほぼ毎日、騎士庁舎に怒鳴り込んでいるようで、所長を辞めてからおかしくなってしまったようで」
「怒鳴り込んでいる理由はなんでしょうか? 」
「それがはっきりとは分かりません。誰も理由を知らないようで、前所長の立場を利用して難癖をつけている印象が大半です」
「先ほど見かけた通りといったところですね……」
「ええ。現役の時の評判が良かった分、最近は見るに堪えないと言われるほど評判が落ちているようでした」
「そうですか……」
ローブのフードに覆われた中で、セアレウスは難しい顔をする。
「……それと現所長についてですが、特にこれといった話は聞きませんでした」
そんな彼女に、エクシリユスはそう告げた。
前所長に加えて、現所長についての聞き込みも行っていたのである。
この両者について調査する理由は、どちらを頼るべきかを決めるため。
イライザが騎士庁舎に連れ去られたことから、この町の騎士がグリーンローブと繋がっている可能性が僅かながら存在する。
明確な根拠はないが捨てきれない可能性だ。
故に、現所長を頼るのはリスクがあると考え、前所長を頼りにできないかと考えた結果、両者について調べることにしたのだ。
「特に……現所長さんについては、何か無いのですか? 」
先ほどのエクシリユスの報告で両者の調査結果が出たのだが、セアレウスはどちらを選ぶか判断できなかった。
エクシリユスの告げた現所長についての内容は、何も情報が無いと同等。
一方の情報が全く無いのでは、セアレウスとしては納得できる結果ではなかった。
「所長としては、可もなく不可もなくといったところです」
「人柄といいますか、どのような印象なのでしょうか? 」
「それが分かりませんでした。顔出す機会が滅多にないようで……」
「そう……ですか」
「対して、前所長の方はというと、パトロールがてらに住民達と挨拶や会話などの交流があったようで、前所長の方が良かったという声もありました」
「人柄的は前所長の方が良い……ということですか。しかし、それだけでは……うーん」
セアレウスは困った表情を浮かべる。
「……すみません。もう少し時間をもらっても良いでしょうか? 私の聞き方が甘かったのかもしれません……」
そう言ってエクシリユスは、苦々しい顔をする。
彼女自身、現所長についての調査結果に納得はしていなかった。
「……いえ、充分です。ありがとうございます」
セアレウスの言葉を聞き、エクシリユスは踵を返そうとした足を止める。
ならば、どうするのか。
そう訊ねようとエクシリユスが口を開くよりも前に――
「もう直接話を聞きにいきましょうか」
セアレウスは、そう答えた。
「直接……前所長にですか? 」
このエクシリユスの問いかけに対して、セアレウスはコクリと頷いた。
「退職されたのならば、グリーンローブとの繋がりは低いと考えられます。それに、今のライウォールの騎士と現所長について何を思っているのか気になります」
セアレウスの意見に、エクシリユスは素直に頷いた。
しかし、一つだけ気になることがあった。
「会いに行くことには賛成なのですが、肝心の前所長の居場所を探さなくてはなりませんね」
それは、前所長の居場所が分からないことであるのだが――
「いえ、その必要はありません。場所はすでに把握しています」
杞憂であった。
実は、エクシリユスが前所長と現所長の調査を行っている一方で、セアレウスは前所長を尾行していたのだ。
結果、前所長の住居を突き止め、今もそこにいるとのこと。
(尾行していたのですか……流石とは思いますが、その恰好では目立つというか怪しまれるというか)
全身ローブの人物が特定の人物を尾行する様は、怪しいの一言に尽きるだろう。
セアレウスであればそこのところはうまくやっているとは思いつつも、エクシリユスの心境は微妙なものであった。
「わ、分かりました、では、その場所を教えてください。私が会いに行ってきますので」
「いえ、二人で行きましょう」
「……へ? 」
ほんの一瞬の間の後、エクシリユスの口から間の抜けた声が漏れだした。
彼女はセアレウスの発言が理解できなかった。
「何のつもり……いや、まさか」
しかし、すぐセアレウスのやろうとしていることを理解した。
「はい。前所長さんの前に正真正銘のセアレウスとして、青い髪の女の子として会いにいきます」
現状、目立つ行動は控えるべきであり、セアレウスはその青い髪を隠すべきである。
これがエクシリユスの持つ前提というべき考えだ。
故に「分かりました」の一言を言い出せずにいた。
前所長がグリーンローブとの関係がなかったにせよ、セアレウスを冒険者ギルドに引き渡さないとは限らない。
冒険者ギルドに引き渡されたとしたら、恐らくは関係者によって、グリーンローブの元へ引き渡されてしまうだろう。
そうなれば、まずセアレウスは殺害されてしまうだろう。
「いや……危険です。私一人で会いにいくべきです」
エクシリユスとしては、いくらセアレウスの提案だとしても、なかなか受け入れられるものではなかった。
「協力者となりえるのであれば、わたしの存在も隠すべきではないと思います。それにわたしの姿を見たとしてもギルドに引き渡すとは限りません」
前所長は今は一般の町の住民。
冒険者ではないが、青い髪の少女としてセアレウスを冒険者ギルドに引き渡せば少なからず報酬が貰える可能性がある。
しかし、セアレウスは引き渡さない可能性に賭けていた。
根拠はない。
ただ、そうかもしれないという曖昧な勘を頼りにしたものだ。
「そ、そんなこと……あなたのやろうとしていることが、一か八かの賭けであることを理解していますか? 」
「承知の上です。危険な行動は控えるべきなのも分かっています。でも、場合によっては危険を冒さなければ成せないこともあるはずです」
「それが今……」
エクシリユスの呟きような小さな声に、セアレウスは頷いた。
それからエクシリユスは口を閉ざして考える。
(……どう考えたって、私一人で会いに行った方がいい……はず)
何事も確実性を重視し、慎重に行動するエクシリユスにとって、結果が運に左右される賭けなど理解し難いことだ。
未だにセアレウスの提案に否定的であった。
しかし、彼女の意志は揺らいでいた。
それは目の前のセアレウスが自分を負かした相手であることが起因する。
エクシリユスは、セアレウスの実力を認めつつも、あの時どうすれば勝てたかを考えることがあった。
未だにその答えは、見つからないままである。
セアレウスとエクシリユスの二人は前所長の住居に辿り着いた。
「……なんだ」
早速、ドアをノックしてみると開かれたドアから、不機嫌そうな声と共に初老の男性が顔を出した。
騎士庁舎の前で見覚えのある顔である。
この初老の男性が前所長で間違いはないだろう。
そう確信したセアレウスは口を開く。
「こんにちは。騎士庁舎の室長について聞きたいことがありまして参りました」
「なに? 怪しいやつめ……」
前所長は険しい表情で、セアレウスを睨む。
疑うまでもなく怪しんでいる様子であった。
全身をローブに身を包んだ素性も分からない者が訊ねきたら誰であれ怪しむのは当然と言えるだろう。
恐らく、次に前所長が口にする言葉は「帰ってくれ」あたりになるだろう。
「ああ、失礼しました」
それを予期してかセアレウスはおもむろに頭に手を伸ばすと、フードを取り払った。
前所長に自分の顔を晒そうというのだ。
そんなセアレウスの横で、エクシリユスは平然とした表情でただ立っている。
どっしりと構えている様子ではあるが、セアレウスがフードに手をかけた瞬間にゴクリと喉を鳴らしていた。
「む……その髪」
一瞬、前所長の目は見開いた。
それから彼は口を閉ざして、セアレウスの顔を見つめる。
「……中へ入ってくれ」
しばらくした後、前所長は背を向けて家の中へと戻ってゆく。
ドアは開かれたままであった。
「や、やった……! あ、いえ! 」
エクシリユスは思わず、安堵の声を口にしていた。
そして、すぐに自分の口を手で押さえた。
軽率な発言、あるいは気が緩んだ証であると彼女は自分を恥じたのだ。
「ふ、ふぅ~まずはなんとかなりましたね~よかったよかった」
そんな彼女の隣から、気の抜けたような声が聞こえてきた。
チラリとそちらに目をやると、そこには額の汗を拭うような仕草をするセアレウスの姿があった。
顔を見ると目は閉じているかのように細く、緩んだ表情をしている。
一仕事終えたと言わんばかりの態度である。
確認するまでもなく気が緩み切っていた。
「ん、どうしました? 勝負はこれからです。さ、早く中に入りますよ」
「あ、はい」
そんなセアレウスに対して、エクシリユスは何も言うことはなかった。
前所長に案内され、二人は家の一室に入る。
その部屋にあるのは、机と椅子くらいなもの。
どうやら客室のような場所であった。
二人横に並んで椅子に座ると、対面に座った前所長の口が開かれる。
「君達が何者なのか。最初にそれを聞かせてくれないか? 」
「はい。まずはこのバッジを見てください」
「これは王家の……」
セアレウスが机の上に置いたバッジを見て、再び前所長は目を見開いた。
彼のその反応から、バッジの価値を理解しているようであった。
それから、セアレウスは自分達がレナウスの協力者であることを伝えた。
バッジを所持していたこともあり、前所長に疑うような様子は見られなかった。
「なるほど、やはりこの国はおかしなことになっていたのか」
「やはりとは? 」
セアレウスが訊ねた。
「ああ、まさしく君のことだ」
前所長は頷いて、セアレウスに視線を向けた。
そして、深いため息をついた後、彼は口を開いた。
「ここ最近、冒険者共……失礼。彼らが躍起になって、君のような青い髪の少女を探し回っているのは知っているだろう? 」
「ええ、まあ……」
「高い報酬に釣られて多くの冒険者がその依頼を受けているのだ。本来受けるべき依頼は放置してな。おかげで外の魔物の数も町でトラブルを起こす冒険者も増えた」
話している最中の前所長の顔は、歪んでいると見れるほどひきつっていた。
目に見えて青い少女を探し回る冒険者に対して強い嫌悪感を抱いている様子である。
冒険者の身であるセアレウスとっては、居心地が悪い話である。
「……君も冒険者か? 失礼、気分を悪くさせたな。ちゃんと真っ当な依頼を受けている冒険者の存在もいる。すべての冒険者が悪いわけではない」
そんな心中を察してか前所長は、セアレウスに気遣うような言葉を口にした。
「いえ、気にしないでください」
「その話の続きですが……」
恐縮するセアレウスの横から、エクシリユスが前所長へ話を続きを促した。
それに答えるように、前所長は咳払いをした後、再び口を開き始める。
「それでだ。多くの冒険者が本来の仕事をこなしていないとなると、どこにそのしわ寄せが来ると思うかね? 」
「騎士……ですね」
「おうとも。その通り」
セアレウスの答えに対して、前所長は大きく頷いた。
「しわ寄せは騎士達に来るはずなのだ。外の魔物の討伐と町の治安維持の両方を以前よりも多くやらねばならんのだからな。だが、奴らは冒険者達を咎めるようなことは一切せんのだ! 」
この時、前所長の顔はさらに険しいものとなっていた。
冒険者の話では嫌悪感が伝わってきたものだが、騎士の話になってからは怒りの感情も込められているようであった。
「住民に対して説明はおろか、対策をしている行動すら見られない。冒険者も騎士も異常だ。この町だけではないのだろう? これをおかしいと思わないわけがない」
「それで……あなたはどうにかしようと騎士庁舎に足を運んでいるということですか」
エクシリユスの言葉に、前所長はゆっくりと頷いた。
「そう。この町の騎士団の前所長として、所長に抗議するべき……なのだが、追い返される一方で顔を見ることすら叶わん」
先ほどまでフルフルと体を震わせて怒りを顕にしていた前所長。
「引退したとして、わしは騎士なのだ。国が……この町がこんな有り様になってしまったのは、何も出来なかったわしの責任でもある。情けない……」
しかし、今はその震えは止まっており、顔は俯き気味になっていた。
今の彼は、自分が口にしていた情けないという言葉を体現している様であった。
誰かが何とかしなければいけない中、自分が何もできないことが余程悔しいのだろう。
そんな彼に対して、セアレウスもエクシリユスもかける言葉が見つからなかった。
「……確か聞きたいことがあると言ってたな。しかし、その前にこの一件で君達の知っていることを教えてほしい」
しばらく陰鬱とした空気が漂う中、前所長がおもむろに口を開いた。
それから、セアレウスは現状の王国が抱える問題の元凶となるグリーンローブについて知っていることを話した。
「なるほど、グリーンローブという輩のせいでこのようなことが……」
話を終えた後、前所長は彼女の話した内容を噛みしめるように静かにそう呟いた。
悔しさで意気消沈していた彼だが今はその面影は見られなかった。
「うむ、そうか! そやつらが関わっているのは充分ありえるな。とすれば、手段は選んでいる場合ではない! 」
前所長は勢いよく椅子から立ち上がった。
そんな彼に、セアレウスとエクシリユスは目を丸くする。
元気になったことは察していたが、想像以上であったのだ。
二人が見る彼の目は、キラキラと輝きつつもメラメラと炎のように燃えているようであった。
恐らく、諸悪の根源の正体をしれたこと、そして――
「騎士庁舎に忍び込むとしよう」
何よりは自分が王国を救う一環となれることが嬉しいのだろう。
前所長はやる気に満ち溢れていた。
「忍び込む……そう来ましたか。実力行使ということでしょうか? 」
「うむ。奴ら……いや、奴らの中に何か悪しきことをしている輩がいるのは明白。聞いてもダメなら暴きに行くまでよ」
セアレウスの問いかけに、前所長は答えた。
ここに来た結果、騎士庁舎へ侵入するという話が出ることはセアレウスの考えにないことではなかった。
しかし、あくまで最終手段としてである。
他の方法がある期待を捨てきれずにはいられなかった。
「バッジを見せても効果はないのでしょうか? それで今の所長さんに話を聞いてもらってみたりなど」
前所長は首を横に振るった。
「かなり危険だ」
「今の所長もグリーンローブの関与があるということでしょうか? 」
「……難しいところだ。わしも奴に顔を合わせたことすらない。故に判断できかねる」
前所長は考え込むように渋い顔をしながら答えた。
「そう……ですか……」
セアレウスの発した声には、落胆の色が混じっていた。
彼女が前所長に聞きたかったことの一つは、現所長についての話であった。
「……ひょっとして、今の所長の話が聞きたかったことであったか? 」
「はい。どのような人物か気になりまして」
「残念ながらそれはわしも知る由もないことだ。なにしろ、急な引退だったのでな。任期中に顔合わせすら出来なんだ。名前すら知らん」
「え……? 急な引退とは? 」
怪訝な表情を浮かべながらセアレウスが訊ねた。
前所長は見た目は初老の男性だ。
老人にしては若く見えるが年齢を理由に引退していても不思議ではないだろう。
故に、セアレウスは定年による引退だと思い込んでいたのだ。
しかし、前所長の話を聞けば、それ以外の理由である雰囲気があった。
「あ、ああ、所長と騎士の任期はまだ一年残っていたのだが、新人騎士の教官が足りないと引退を早める話が来てな」
「それで今は新人騎士の教官に……」
「いや、やっていない」
再びセアレウスは、怪訝な表情を浮かべた。
今度は、隣に座るエクシリユスも同様である。
「話はちょくちょく来るのだが、延期の連絡ばかりでな……うむ、どこの騎士団もグリーンローブの件で手を焼いていてそれどころではないのだろう」
「……何か怪しくありませんか? 」
エクシリユスが口を開いた。
「む? 」
その言葉に疑問の声を出したのは、この場で前所長一人のみであった。
「作為的なものを感じます。今の所長にするために引退させられた……そういうふうにも考えられないでしょうか? 」
「む……」
前所長は口を閉ざして押し黙った。
エクシリユスの意見が最もである。
そう納得した雰囲気は見られず、どこか怒っているような様子が見られた。
しかし、ほどなくして朗らかに笑い出す。
「いやぁ、はっはっは! 怪しくはないと思うぞ! 今の所長になったのは偶然か他の要因に違いない」
「失礼かと存じますが、その根拠は一体……」
セアレウスが訊ねると、前所長は――
「何しろあのアスペル様の直々のお達しだからだ。今のこの国で、レナウス様と並ぶ数少ない信頼できる御仁よ」
と答えた。
セアレウスとエクシリユスはそれ以上話を追及することはなかった。
アスペル――
その名を聞き、その人物の素性を知る二人も前所長と同意見だったからだ。
「さて、話を戻そうか。騎士庁舎へ忍び込むぞ! 」
「やはり、それ以外の方法はありませんか? 」
セアレウスが前所長に訊ねた。
「うむ。悔しいことに奴らのほうが上手だ。それを覆すには悪事を白日の下に晒す……いや、それは後の話か。まずは根源を絶たねばなるまいて」
「……分かりました」
騎士庁舎への侵入。
セアレウスは、イライザの救出と合わせて、この町の騎士団に秘められた謎を解明する手段とすることに決めた。
エクシリユスに視線を向けると、目が僅かに泳いでいるものの頷いた。
不安や心配事があるものの一応は賛成していることを示したのだろう。
「……わ、分かりました。今夜でしょうか? 」
エクシリユスは、セアレウスの顔から視線を外しつつ前所長に訊ねた。
「いや、今だ」
「はい、では今……い、今!? ちょ、ちょっと待ってください! 」
前所長の発言に、エクシリユスは目に見えて動揺していた。
侵入するにしても夜が基本だろうか。
彼女の持つそのような常識が打ち崩されたのだ。
「裏口から入れば問題なかろう。なに、元職場だ。場所は知っておるよ」
「い、いや……中に入れたとして、見回りの騎士もいるはずですし、せめて今夜……いえ、見回りの騎士の行動を観察して交代の時間を狙うとか……」
「君達の大切な人が捕まっているのだろう? そんな悠長なことをしているな場合ではなかろうて。安心せい。もちろん戦いとなれば、わしも戦うぞい。今までの鬱憤……いや、レナウス様ひいては王国を守る戦いじゃ。腕が鳴るわい、ガハハ! 」
高らかに笑い声をあげる前所長。
そんな彼に対して、何を言えば自分の話を聞いてもらえるかを考え、あわあわと口を開閉させるエクシリユス。
助けを求めてセアレウスに視線を向けると、彼女は困った表情を浮かべながら笑っていた。
「よし! ちょっと支度というか愛剣を取りに行ってくる! すぐだから君達は家の外で待っていてくれい! 」
そう言って、前所長は勇み足で部屋から出て行ってしまった。
「ちょ、ちょっと! 行くにしてもまだ作戦というか話が詰め切れてないと思いますが!? 」
エクシリユスがまだ早いと引き留めようとしたが意味を成さなかった。
「セ、セアレウスさん~」
縋るよう情けない声を出すエクシリユス。
「こうなったら、わたし達でフォローしながら行くしかないでしょう。多少のことは目を瞑りましょう」
「そ、そんな~」
エクシリユスは小さく悲鳴ような声を上げた。
それから二人は家の外に出て、前所長の準備を待った。
ほどなくして、前所長がやってきた後、セアレウスとエクシリユスは意気揚々と歩く彼の後ろをついてゆくのだった。
2021年5月16日 誤字修正
先ほどのエクシリスの報告で両者の調査結果が出たのだが、セアレウスはどちらを選ぶか判断できなかった。
↓
先ほどのエクシリユスの報告で両者の調査結果が出たのだが、セアレウスはどちらを選ぶか判断できなかった。




