幼なじみのロン
いつの頃からだろう、この世界がどこか既視感があると気づいたのは。
「ミカ、一緒に帰ろう」
職場を出ると、いつものように幼なじみのロンが声を掛けて来た。
「何度も言うけど、迎えに来なくていいのよ。私一人で帰れるし。やめて欲しいの」
「ミカが心配でならないんだ」
「何が心配なのよ。色々噂もされるし迷惑なのよ」
幼なじみのロンは、昔から私に夢中で、今でも毎日のように絡んでくる。
ロンの深いグレーの瞳、笑うとあどけない表情になる可愛らしさ、そのくせ均整がとれた男らしい体格、私だってロンには惹かれている。でもどうしてもロンの胸には飛び込めない。
「噂になりたいから来てる。昔みたいに俺に笑いかけてよ。結婚の約束だってしたろ?」
「あれは子どもの頃の話よ」
そう、子どもの頃の私達は仲良しで、私もロンと結婚すると信じて疑わなかった。14歳の夏、ロンと結婚の約束もしたし、初めての口づけもした。一度口づけを許すと、私に会うたびにロンは口づけをしたがり、その先にも進みたがっていたけど、口づけより先は怖くて断っていた。
海岸でロンとデートをしていて、いつものように岩場でロンに抱きしめられながら首筋や頬や唇に口づけをされていた時の事。ふと空を見上げると日が沈んできて月が出てきていた。もう帰らなきゃと思っていた時に私は気づいたのだ。
月が2つある。
何で今までおかしいと思わなかったのか。
私は思い出したのだ。
ここはゲームの世界。
弟とよくやっていたゲーム『選ばれし男─ロンの冒険─』の世界だ…。
そして目の前の少年が主人公のロンだと気付く。
ゲーム内の主人公ロンは、神託により勇者に選ばれ、世界の果てにいるという魔王を倒しに行くというもの。
よくあるストーリーだが、とにかく絵柄が綺麗で、絵柄の美しさに女性ファンも多かった。ハーレム要素もあり、旅先で出会う聖女や、王女、酒場の踊り子、男装の冒険者などなど、主人公の恋愛も盛りだくさんで、二次創作も盛んだった。弟なんか、エロ寄りの二次創作本を隠しもっていたのを私は知っている。
ミカはというと、故郷の幼なじみ兼恋人キャラで、最後に主人公がミカを選ばなけれぱ旅立ちの日にすがって泣いてその後は出てこないキャラだった。
こんな素敵なロンとこれ以上いると、私はどんどん好きになるだろう。一線なんて越えてしまったらロンなしではいられなくなってしまうに違いない。選ばれなかった時なんて考えたくもないし、きっと耐えられそうもない。もし選ばれなかった時、自分がどんな行動をしてしまうのか…。嫌だ…傷つきたくない。傷つくのが怖い…。
そうだ、今なら子ども時代の思い出で終われる…
私はそんな身勝手で子どもじみた理由から、翌日ロンに別れを告げた。
それなのに…
「ミカ、今度町まで遊びに行かないか?」
それなのに…ロンはずっと私を好きでいてくれている。ロンに優しくされるほど、自分の身勝手さが恥ずかしくなるのと罪悪感とで身動きが取れず、ロンと向き合わずに逃げることしかできないでいた。




