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第八話 お魚

「ぎ、銀狼じゃありませんか!?」


「そうだが…どうした?」


ウォースタの冒険者ギルドに入るや否や、まだ遠くの受付嬢が声を出して立ち上がった。


はて、我らがリーダーギウンは、何かやらかしたんだろうか。


それとも熱烈なファンだろうか。


あの頬の紅潮、目の潤み、待ち人が現れたかのような表情。


うん、これは十中八九ファンだね。十中十と断言しても良いかもしれない。


受付嬢にまでファンがいるなんて、まったくけしからん男だな。


「待ってた!待ってたんです!早くこの異常気象を解決してください!」


イジョウキショウヲカイケツ?


「はぁ?一体どういう……。いや、イン、任せた」


「えぇ?うーん、あぁ、恐らくだけど、それは貴方の思い違いよ。受付嬢さん」


「へ?」


「私達がここに来たのは、ヒアンをパーティに加えたからであって、ギルド本部が手配したわけじゃない。おあいにく様だけど、私達に異常気象の原因なんてさっぱり分からないわ」


なんて話が早いんだ。


僕が頭にハテナマークを浮かべている間に話が終わってしまった。


つまり受付嬢さんは、この訳の分からない寒波を解決するのために、僕たちが派遣されたと思ってたわけだ。


それをインは、なんとなく感じ取って、察したんだろう。


インの推理には脱帽だけど、受付嬢さん、ギルド本部の気がそんなに効くわけないじゃん。


結構対応遅いよ?あの人たち。


僕にはちょっとした恨みがあるんだ。


「ともかく、私達の目的は観光なの。わざわざ謎解きなんてする予定ないから、貴方達でなんとか頑張って」


「そんなぁ」


インにばっさり切られた受付嬢さんは、眉をへの字にしてカウンターにしな垂れた。


長い髪が床までついて、ふぁさふぁさ揺れる。もう一人の受付嬢が片手ちりとりを持ってきて、そのまま掃き掃除を始めた。


最近の女性は自分の髪を大切にしないのかな?


見えてないから知らないかもしれないけど、カウンターの下結構汚いよ?


「はい、これ到着届ね。宿でも取りにいきましょ、リーダー」


「うーん、だがなぁ」


「いいのいいの。冒険者は、自由の仕事だから。気が向いたら助ける。それまでは観光!」


チラチラと申し訳なさそうに受付を見るギウンの手を、インが出口へ向けて引っ張る。


「僕様もその意見に賛成だね。ヒアンも入った事だし、たまにはみんなで羽を伸ばすのも悪くないんじゃないかい?おでん」


「ナフはどっちでも良いのです。それより、受付さん、この箒使うのです?」


「ウォースタなくなるからやめようね」


インの箒は超特別性だから、そんなもので掃除なんてしてしまったらどうなるか分からない。


運が良ければこの建物がなくなって、悪ければ人間の歴史はここまで。


なんてものを幼子に持たせてるんだよ、ナフのお師匠様は。


「はいぃ、到着届、受理しましたぁ。またのお越しをぉ」


相変わらず髪を箒代わりにしている受付嬢さんが、顔も上げずに定型文を言う。


そんなに解決して欲しかったなんて、彼女は寒いのがよっぽど苦手なんだろうね。


冬だって結構良いもんだよ?


雪降るし。


「まぁ、インの言う通りでも…あるな。なら、ヒアンの加入祝いもかねてぱぁっと観光するか。ということだ、悪いな、受付嬢さん」


「僕様の華麗なるツアーを楽しみにしておいてよ。きりたんぽ」


「ナフは結構お掃除得意なのです…」


「よーし、じゃあまずは、宿を見つけにレッツゴー!」


と、意気揚々インが両手を掲げていたのはここまで。


今では鼻息荒くして、大通りを大股で歩いている。


「まさか!魚が一匹も取れてないだなんて!」


「インが気が付かないなんて、珍しいこともあるもんだね。水炊き」


「海は初めてなの!分からないことだらけよ!」


荒れてる。ものすごくインが荒れてる。


もしかすると、この街で渦巻く大寒波より荒れてるかもしれない。


インの察しがいくら良いと言っても、知識が無ければ分からないことだって山ほどある。


今回の場合が、まさにそれだった。


今の時期ウォースタで獲れるはずの魚たちは猛烈な寒波のせいで逃げ惑い、ついには近海からほとんど姿を消してしまったらしい。


そんな話を宿の女将から聞いたインはその場で崩れ落ちて、一言、軟弱なっ、と言った。


魚からしたらたまったもんじゃない。


「生のお魚食べられないなんて、残念なのですぅ、ですぅ」


一方でナフは、深い藍色の髪を嬉しそうに跳ねさせながら、小躍り気味に歩いていた。


気持ちはよく分かる。


ナフ、生の魚食べるの嫌そうだったもんね。


僕だって、ピーマンを一生食べられない呪いにかかったときは小躍りしたことだよ。


まぁ、街についた瞬間エリルが解呪したけどね。


ピーマン食べたいのに残念だなぁ、食べたら死ぬからなぁ、とか言ってたから、その日の夕飯はピーマン尽くしだったけどね。


人の善意って怖いんだよ。


多分、エリル以外は悪意だったけど。


「私の予想を次々裏切るなんて、後悔させてやるわ大寒波。絶対!原因を突き止めてやる…」


「前みたいにナフが雲さん消しとばすです?」


「それだけはダメ。ウォースタも無くなるから、絶対ダメ」


イン達、前何したの?


もしかしてどこかの街一つ崩壊させてるの?


怖すぎるよ。どんなテロリスト集団なんだよ。


頼むから僕がいる間にそんなことしないでね。絶対僕も巻き込まれて死ぬから。


「と、も、か、く。私は本気で大寒波を終わらせに行くわ。それまでは各自、自由行動!リーダーも、それでいいわよね?」


「まったく、止めても聞く気なんてないだろうが。悪いな、ヒアン。一緒にヨルネちゃん抱き枕でも交換しに行くか?」


「別に気にしないでいいって。僕は冬の海でも見に行ってみるからさ。実は、結構寒いの好きなんだ」


こことは違う海の街に行ったこともあるけど、その時は夏だった。


冬好きな僕からしたら、雪と海の組み合わせも中々気になるもんだ。


むしろ、態々冬に海へ行くことなんてないから、ちょうどいい機会かもしれない。


この寒波をインが解決してくれれば、同時に春の海も見れるしね。


「そういうことなら、僕様は懐かしの学園へ行くことにしようかな。逢いたい人も何人かいるからね。ちゃんこ」


「ヒアン様、ヨルネちゃん抱き枕を手に入れたら、すぐにむかいますね!」


「ゆっくりでいいよ」


この異常気象はインに任せて、僕はのんびりしよう。


まぁ、最初から僕にできることなんてないけど。

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