第二話 新しい始まり
思い立ったが吉日!
本日中にもう1話更新します!
「というわけで、無職なんだ」
外より幾分か湿気が強く、アルコールも混じった空気の中、僕はギルド職員の強面おじさんに話しかけた。
「良くここまで持ったな」
「いやほんと、僕もそう思うよ」
ここはいわゆる冒険者ギルド。
ついさっきジル達と別れたその足で向かってきた。
だって僕、無職だからね。
手に職なんかもちろんついてないし、今までしたことと言ったら冒険ばかり。
ああ、輝かしきあの日々。
山を登って、おんぶされ。
馬車に乗って、背中をさすはれ。
敵にあって、応援して。
あれ?冒険?
これは、護衛付きの世界巡りのような気がしてきた。
「といっても、お前なら蓄えた財産で一生暮らせるだろ。そんなでも元勇者パーティーだしよ」
「なんかそれって、世間体的にどう?」
「お前がそれ言うか?」
良いこと言うじゃん。
思わず鳩が豆鉄砲食らったような顔になっちゃったよ。
図星だったから。
僕は今まで、とんでもない役立たずなのになぜか勇者パーティーについて回ってた。
もちろん、やっかみや嫉妬だって飛んでくる。
ハゲ上がった大男に絡まれて、路地裏まで連れて行かれたこともあったさ。
怖くないかって?
怖くないわけないよ。
けどね、大丈夫。
僕のパーティーメンバーの方が強いから。
助けてジルえもん!なんて叫べば、次の瞬間には目の前にいるからね。
そんな後ろ姿ばかり見てるから、僕はもうすっかりお姫様気分だったよ。
「僕、今絡まれたらやばいかも」
「だから、大人しく隠居しとけ」
「でもなぁ」
だってさ、僕まだ若いんだよ?
そんな歳から寿命まで隠居してたら、もうなんで生まれたんだか分かんなくなるよ。
「僕には魔王討伐の使命があるから」
「いってらっしゃい」
「嘘だよ」
なんだよもう、僕の人生って思ったより選択肢ないじゃん。
まぁ、しょうがないか。
そもそもジルの旅についてこなければ、僕は一生、しがない小作人だったんだもんな。
「あ、冒険ギルドの職員になるとかどう?」
「倍率25倍」
「トレゾール音楽学校なみじゃん」
なんでそんなにギルド職員の壁が高いの?
あの超名門、男子禁制歌劇団の養育施設と同じくらいの倍率あるじゃん。
ほんとにそんな難易度あるの?
この顔面傷だらけの強面男が?
僕に新しい職業も紹介できないくせに?
「ちなみに俺は、軽い読心が使える」
「有能!天才!さすが選ばれしもの!」
「お客さんが一名お帰りだ!」
「許して!」
あれ?
いよいよ本当に隠居しか道がない?
まぁ、仕方ないか。
実は、こんな時のために、隠居地を虎視眈々と探していたんだ。
魔王討伐が無事終わって、色々とひと段落着いたらパーティーの皆んなと一緒にゆっくりしたかったからね。
やっぱり、なんと言ってもあそこが良いな。
背の高い木々と深い霧に包まれた、あの神秘的な湖。
もう3日も寝ずに歩き続けて、ようやく見つけたあの場所は、雪の降る音が聞こえるほど静謐だった。
ああ、思い出しただけで一生そのほとりに引きこもりたくなってきた。
うんうん、みんなより一足先に行って、立派な一軒家でも建てておいてあげよう。
暖炉なんか作って、湖と雪山を見ながらコーヒーを一杯。
ああ!最高じゃん!お金があって良かった!
隠居万歳!
勇者万歳!
そして、ちょうど僕の行き先が決まりかけた頃
「ん?ヒアンか?さっきジルの馬車と門前ですれ違ったが、大丈夫なのか?」
「おー、昨日ぶりだね」
ムキムキ紳士のギウンが話しかけてきた。
目の前のハゲと違って、冒険者とは思えないほどの清潔感がある。
昨日の酒場でも、ウェイトレスさんがキャアキャア言ってたよ。
どうもその太い腕がとても良いらしい。
僕の3本分ぐらいあるもんね。
強さで言えばそんなものでは済まないけど。
「ままま、まさか、あのいけすかないイケメンに黙って置いて行かれたのです!?ヒアン様!」
「落ち着いて、ナフ」
箒を荒々しく掲げたメイド服の少女が、深い藍色の髪を逆立てて声を張る。
怒り心頭って感じ。
そして、振り上げた箒の先には感情の高ぶりを表すかのように高速で周回する球。
赤、青、白、黄色、選り取り見取りで綺麗だけど絶対振り下ろさないでね、死ぬから。
「やあ、ヒアン。僕様とは久しぶりだね、オムライス」
「ひさしぶり、フラスコ。まだ呪い解けてないんだ」
今度は全身を奢侈な装飾品で着飾った青年が、独創的な語尾で話しかけてきた。
フラスコは、僕たちと出会った少し後に『ヘンゴビの呪い』を受けた。
この呪いには幾つか種類があるんだけど、フラスコが受けたのは食に関連するものだった。
そのせいで、語尾には絶対食べ物の名前が入る。
でもね、僕だけが知ってるんだ。フラスコの健気な努力を。
同じ語尾を二度は使いたくないと、食べ物の語彙を増やしていく貪欲さを。
そのガッツ、見習いたいよね。
「おお、銀狼じゃねぇか。ちょうど良かった、かくかくしかじかでな。どうだ、こいつのことパーティーに入れてみるなんて」
おいおい、全くこのハゲは余計なことを口走っちゃってくれてるね。
君は知らないかも知れないけど、僕今隠居に向けて心機一転したところなんだよ。
それに、ギウン率いる『銀狼』は、僕が脱退したばっかりのジル達のパーティーに勝るとも劣らない実力派。
ここにいる3人と、あと1人を加えた4人パーティーで普段から超高難易度クエストをこなしている。
そんな冒険に僕を連れて行けって?
焚火しか起こせません。見張りはするけど気付くの遅いです。たまに寝落ちします。
エントリーシートゴミじゃん。
断って!
当たり前のように断ってギウン!
「ああ、そうだったのか。ヒアンさえ良ければうちは歓迎するぞ」
「ヒアン様が銀狼に!?ななな、何という幸運!ナフはとても喜んでいるのです!」
「ヒアンが加われば、僕様達の冒険は更に彩られるだろうね。それはまるで、ローズマリーとステーキ」
「みんな目を覚まして」
ダメだって絶対。
銀狼ともあろう冒険者達が、なんでクソ雑魚なめくじをパーティーに入れようとしてるの?
役に立たないどころか、足引っ張っちゃうよ。
僕が起点になってパーティー内不和が生じるかも知れないよ。
ああ、せめて銀狼のブレインたる彼女がここに居てくれれば。
少しは損得勘定と言うものを持って判断してくれていたかもしれないのに。
いやいや、そんな他人頼りの考え方はダメだ。
僕はこれでも元勇者パーティーの一員。
こんなピンチの一つや二つ、幾度となくくぐり抜けてきたさ!ジルにおんぶされながら。
そもそも銀狼は決して悪いパーティーじゃない。純粋なんだ。
だから、僕がはっきりと辞退の意を示せば、きっと理解してくれるはずだ。
ああ、僕は馬鹿だな本当に。
無駄に良い面ばかり取り繕って、本心を伝える誠実さを忘れてしまってた。
銀狼なら、きっと笑って納得してくれるさ。
よーし、言うぞー。
実は隠居生活を送るつもりなのでこれ以上の冒険はお断りしますって絶対に…
「じゃ、そういうわけでパーティー登録しといたから、新たな旅を楽しんでくれよな!」
「んー?」
あっれれー?おっかしいぞー?
なんかハゲのギルド職員が勝手に話を進めてるぞー?
「ヒアン、お望みの新たな冒険だぜ!やったな!」
クソ野郎、そのサムズアップをやめてくれ。
馬鹿みたいにいい笑顔しちゃってさ。
隠居に心を躍らせた途端、更なる冒険に身を投じることになった僕の気持ちわかる?
銀狼のみんなもこれからよろしくな、みたいな目をしてるし、僕のタイニーハートで今更断るのなんて不可能だよ。
詰みました。ありがとうございました。
ほんとに、このハゲギルド職員はなんでこんなにも間が悪いんだろう。
こっちの気も知らないでさ、まったく。
あれ、まてよ。
そういえばこいつ、軽い読心が使えるって…
「じゃ、じゃあ、俺は昼飯食ってくるわ」
「おい待て!このハゲ!せめてパーティー加入をとりけ…」
必死に呼び止めようとするけどあと一歩遅くて
「ヒアン様と旅ができるようになって、ナフはとっても感動なのです!楽しみですね、ヒアン様!」
そして無邪気に輝く少女の目を見て
「うんうん、そうだね」
僕はそれしかいえなかった。
お読みいただきありがとうございます!
感想、評価のほど、なにとぞ、なにとぞ…




