第十二話 祭り
「よし、祭りね」
ついにインの頭がおかしくなった。
インの言葉を聞いてフラスコはお腹を抱えて笑ってるし、ギウンは気の毒そうに首を横に振っていた。
ああ、イン、聡かった君の姿は僕が後世に伝えるから、安心して余生を過ごしてね。
大丈夫、僕おすすめのとびきり粋な隠居先を紹介するからさ。
「ヒアン、私に向かって手を擦り合わせるのはやめなさい。ちゃんとしてるの。私の案は、ちゃんとしてるの」
自分自身に信じ込ませるように、インが言葉を繰り返す。
その姿を見て、フラスコは一層おかしそうにしていた。
「けれど、いつものインに比べて随分突拍子も無い案に感じてしまうね。一体どういう風の吹き回しなんだい?ポン酢」
「自分でもちょっとおかしい事を言ってるのは分かるけど、別に考え方は単純よ。私達だけじゃ無理なんだから、皆んなを手伝わせれば良いの」
頬を少し赤らめながら、そっぽを向いて話を進める。
インも結構可愛らしい発想するんだね。
「だから、祭りか。俺はてっきり、もう力尽きたのかと思ったぞ」
「疲れてはいそうだけどね」
「お祭り、大好き、なのですぅ」
「うんうん、ナフもお疲れ様」
魔力を力一杯込め終わってぐったりしているナフの頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細める。
対してフラスコは、同じように目を細めていても顎に手を当てながら、思案げな顔をしたままだ。
「力を合わせるのはもっともだけど、イン、それは少し苦労するかも知れないよ。氷の魔力っていうのは、実はあまり簡単じゃなくてね。僕様でも、少しばかり難しい。醤油」
氷の魔力が難しいって話は、僕もブランから聞いたことがある。
なんでも、温めるのは簡単で、冷やすのは難しいんだとか。
まぁ、そんな事を言いながら暑がりなブランは氷の馬車を片手間で作ってたけどね。
口に出したことと行動は同じにして欲しいもんだよ、まったく。
「そこはほら、ナフに頑張ってもらうって感じで、どう?」
「それは、随分とスパルタだね。めんつゆ」
「スパルタだな」
「鬼ぃ」
「かわいそうに」
これからの重労働が確定したナフの頭を、再度優しく撫でる。
原理はよく分からないけど、人の魔力を受け取ってから、色んな種類に変換して出せるみたい。ブランが僕に魔法を教える時も良くやってたよ。
これって難しいのよ?って言いながらしてくれてた。
ブランの難しいはほんとに難しいから、ナフも頑張らなきゃね。
「ご、ごめんってなさいってばナフ。甘いものでも買ってくるから、ね?」
涙目で見上げられたことが効いたのか、インが慌てた様子で媚を売る。
なんて情けない姿なんだ。最初から甘やかしとけばいいのに。
「うぅ、リンゴジュースが良いのです」
「じゃ、俺は干し肉で頼む」
「僕様は何か適当なお菓子でもお願いしようかな。魚醤」
「それなら僕は…」
オレンジジュースを、という間も無く、インは人差し指を立てて、
「ちょっと、一人でそんなに持てるわけないでしょうが。ほら、誰かもう一人ついてきて」
僕達の前に突き出した。
確かに、よく考えればインの両手で持てる量超えてたや。
ナフは、ベッドに寝転びながらインの伸ばした指先を掴もうとしてる。
すごい元気だよね。
けど、もうちょっとだけ寝ておいたほうがいいと思うな。
ほら、気付いてないかも知れないけど、箒がカタカタ揺れてるよ?
ほんとおっかないから、もうちょっとおやすみ。
「なら、僕が行こうかな。適当に土産屋も売店も見てみたかったしさ」
ナフの伸ばした手を優しく下げて、代わりに僕が人差し指を掴む。
指先が暖かい。
外の寒さのせいか、いつもより熱く感じた。
「じゃ、いきましょっか。ついでにギルドも寄っていい?」
「天候種がいるとこ以外ならどこでも」
追加でパンも頼む、なんてギウンの声を背に、僕は部屋の扉を閉めた。
ーーー
「はぁ、祭りを…ですか…」
得心のいかない声で、受付嬢さんが返事をする。
わかる。わかるよその気持ち。いきなり問題解決のために祭りしますなんて言われても、意味わかんないよね。
「そっ。3日以内になんとかしないと貴方達死んじゃうから、そのつもりで頑張って」
あんまりな余命宣告だ。
あまりに素っ気なさすぎて、受付嬢さんも「はぁ、そうですか…」としかいえてないじゃん。
「ダメだよイン、ちゃんと説明してあげなきゃ」
「いいのいいの。説明すればどうせ、長ったらしい会議が始まるだけなんだから」
そういわれれば、そうだった。
冒険者ギルドなんて組織も、一枚岩じゃない。
だからというかなんというか、たまには僕達が強引にことを進めるのも大事なんだよね。
まあ、稀に過激派もいるから受付嬢さんには気の毒に思うけど。
「じゃ、そういうわけで、祭りの開催は今日の夜。三日三晩続けないとだから、頑張ってね」
「え?あの、お祭りの目的は…」
「氷の魔力を集めること。魔力変換はうちのナフがするから心配ご無用。集まりきらなければ死んじゃう。あと、魔力を渡してくれた人にあげる物も用意してて。それだけよ」
さらりと一口で言うにはいささか多い量の情報を受付嬢さんに浴びせて、インと僕はギルドをあとにする。
この作戦がうまく行くかどうかは3日後の僕か神様しかわからない。
けどまぁ、なんだかんだうまくいく気がするよ。
僕の冒険はそんな感じで成り立ってきたし、もしもの時は頑張って洞窟の龍と戦えば良いからさ。
多分、銀狼なら勝てると思うんだよね。
「勝てたとしても、私とヒアンは余波で死ぬわよ」
「今のうちから逃げとく?」
もう、インとの会話も慣れたもんだよ。
頭の中のセリフに返事をされても、なにも動揺しなくなった。
むしろ、超快適でありがたいや。
「さて、皆んなの欲しいものも買い終わったことだし、宿に戻りますか」
「そうだね」
両手にいっぱいの干し肉と、パンの紙袋を抱えて街を歩く。
いまだ散る雪は綿毛のようで、時折吹く風に揺られながら地面に落ちた。
夜から始まるお祭り騒ぎとは程遠い静けさ。
広場で固まった氷柱の噴水は、枝分かれした氷の先にこんもりと綿毛をつけていた。
春に味わう冬の寒さには、どこなくぎこちなさを感じてしまう。
「お祭り、結構楽しみかも」
「私も、実は楽しみ」
少し赤くなったインの頬は、すぐに外套の奥へ隠れた。
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