形色々、フライドポテト
フライドポテトは、とても美味しいものである。付け合わせとしても、おやつとしても、軽食としても、おつまみとしても活躍できる、ポテンシャルの塊だ。カットしたジャガイモを油でカラッと揚げるただそれだけのシンプルな料理だが、だからこそ奥が深いとも言える。ジャガイモそのものの味が露骨に反映されるのだ。極端な話、美味しいジャガイモで作れば抜群に美味しく仕上がる。
またそれだけでなくジャガイモのカットの仕方一つで、味も食感も何もかもが変わる。そういう意味で結構奥が深いものだ、と悠利は思っている。
そんな風に奥が深いフライドポテト。実はいろんな形がありますというのを雑談で口にしてしまったのが、悪かった。普段食べ慣れているもの以外にもカットの仕方があって、それで味が大分変わるなどと聞いたらどうなるか。じゃあ、それを食べてみようということになるに決まっているのだ。何せ、《真紅の山猫》の仲間達は食べ盛りなので。
そんなわけで本日のおやつは、フライドポテトに決定した。下準備のジャガイモを洗って切る作業を見習い組と悠利で頑張って行い、あとは食べながら交代で揚げるという方法をとる。
なぜかといえば、やはりフライドポテトといえば、揚げたて熱々が一番美味しいからだ。冷めると美味しさは半減である。となれば、出来立てを食べられるように揚げながら食べる方がいいということになったのだ。
そんなわけで、食堂に集まった仲間達はわいわい言いながら、複数の皿に盛り付けられた、切り方の違うフライドポテトを面白そうにつまんでいる。
なお、公平を期すために、味付けは塩オンリーである。様々なディップを作ってその味で美味しく食べるパターンもあるが、今日はあくまでもカットによる違いを確かめることに意味があるので塩オンリーなのだ。
「切り方一つでここまで変わるんだな」
しみじみと感心したようにつぶやいたのはラジだった。甘いものが苦手なラジは、普段おやつの時間はそれほど積極的に顔を出さない。匂いだけでも胃もたれを起こしてしまうので、場合によっては飲み物を手に自室に引っ込んでいることもある。
しかし、悠利が用意するおやつには、時折こういうしょっぱい系、どちらかというと軽食に分類されそうなものが含まれることがある。なので、そういうときは特に気にせず普通に参加しているのだ。
出来立てホカホカで熱々のフライドポテトを、ラジは端から順番に異なるカットのものを一つずつ食べている。食べた結果のこういう感想なのだろう。
切ったジャガイモを揚げる。ただそれだけだが、切り方一つで食感が大いに異なる。食感が異なるだけで、全く違う何かを食べているような気になるのだから不思議だ。
ちなみに悠利達が用意したフライドポテトは五種類だ。皮付きのまま櫛切りにしたもの。スティック状のものは細いものと太いもの。少し厚みのある輪切りにしたもの。そして、小さなサイズのジャガイモを皮ごと半分に切ったもの。他にもいろいろと切り方はあるが、今日はひとまずこんな感じということで用意されていた。
この切り方一つで、ジャガイモの食感が随分と変わる。そもそもフライドポテトは、揚げられている表面はカリッとしていて、中の部分はホクホクしている。このバランスが、切り方で変わるのだ。
そして、そのバランスが変わるということは、食べたときに感じるジャガイモの旨味なども変わるわけである。そのため、各々自分好みのものはどれなのかという話をしながら食べている。
「どれも違ってどれも美味しいねぇ」
ニコニコ顔でフライドポテトを頬張っているのはレレイだった。彼女は猫舌なので、別に用意されたフライドポテトの皿を抱えている。一つの大皿の中に、色々な種類のフライドポテトが入っている特別仕様だ。
何せ、大皿で皆と争奪戦を繰り広げようにも、熱くて食べられないよぅ……という状態になってしまうからだ。流石にそれは可哀想だったので、レレイには専用の大皿を与えておくことになったのだ。これで、皆が食べる姿を恨めしげに見るレレイということにはならないので。
もぐもぐと美味しそうにフライドポテトを食べるレレイの姿は、実に微笑ましい。というか、物凄く美味しそうに食べるので、見ているだけでそれは美味しいものなんだなと伝わってくる感じだった。
「ちなみにレレイのお気に入りはどれなの?」
「あたし? どれも全部美味しいけど、この半分に切ってあるやつがほくほくしてて好きだよ! 食べ応えもあるし」
ヘルミーネの問いかけに、レレイは満面の笑みで答えた。彼女が指で摘まんで見せたのは、小さなジャガイモを半分に切ったものだ。皮付きの食感がまた楽しく、ほくほくとした実が何ともいえず食べ応え満載である。
皮のパリッとした食感と、実の柔らかくほろほろと崩れる食感が何とも言えない。表面に付いた塩が全体の味を引き締め、ほくほくとしたジャガイモの旨味がふわりと口の中いっぱいに広がるのが良い。こればっかりは、薄切りや細切りでは味わえない満足感である。
「レレイらしいわねぇ」
「そういうヘルミーネは?」
「私? 私は、この輪切りにしてあるやつが好きよ。カリカリとほくほくが良い感じだもん」
「それも美味しいよねー」
輪切りにしたフライドポテトは、焼いて食べるときぐらいのほどよい厚みのものだ。表面はカリッと仕上がっているが、中身はほくほくとしているので違う食感を堪能できるところをヘルミーネは気に入っている。囓りやすい厚みだというのも高評価ポイントだ。
半分に切ったものよりは薄いが、それでもしっかりとした食べ応えはある。レレイほど大食いではないヘルミーネにとっては、これぐらいの厚みが丁度良いのだ。
二人で雑談をしながら美味しそうにフライドポテトを食べているレレイとヘルミーネ。その傍らでは、イレイシアとロイリスが、二人仲良くスティック状の細いフライドポテトを堪能していた。特にロイリスは、小さな口で食べる姿が何とも愛らしい。
「時々全体的にカリカリしたやつがあって楽しいですね」
「そうですわね。中身が柔らかいのも良いですけれど、カリカリに揚がっているものも美味しいですわ」
ロイリスが手にしたフライドポテトを示して笑えば、イレイシアも同意を示すように笑った。ロイリスが持っているのはスティック状に切られたフライドポテトの細い方だが、時折端っこなのかカリカリになったものがあるのだ。
ジャガイモのほくほくとした食感を楽しめるのも美味しいが、全体的に実が少なくカリカリに仕上がっているものもこれはこれで大変美味しいのである。数が少ないので、見つけるとちょっと嬉しくなるのだ。
小さな口でカリカリのフライドポテトを大事に囓っているロイリスの姿は、何とも言えず愛らしかった。内面はそれなりに成熟しているとはいえ、ハーフリング族のロイリスは実年齢十二歳に対して、外見は七、八歳ぐらいなのだ。なのでお子様に見えるのである。
当人もその辺は理解しているので、周囲から微笑ましい眼差しを向けられても別に怒ることはない。自分の容姿がお子様なのを彼はちゃんと理解しているので。
スティック状の細い方を美味しそうに食べている二人に対して、太い方を気に入って食べているのはリヒトだった。大柄な成人男性のお兄さんは、ばくばくと太めのフライドポテトを堪能している。
表面は確かにカリッとしているが、太く切られていることもあって柔らかな中身の部分の方が多く感じる。そのほくほくとしたジャガイモの柔らかな食感が、実に楽しいのだ。塩で引き出されるシンプルな旨味が、何とも言えず美味しい。
美味しいと思って食べているものの、皆で食べるものだと理解しているリヒトは、一人で食べ過ぎるようなことはしない。というか、交代で揚げながら食べている悠利と見習い組を気にかけてくれる程度には、優しかった。
「ユーリ」
「はい? どうかしましたか、リヒトさん」
「その、揚げるのは代わらなくて大丈夫か?」
「へ?」
今は悠利の順番なので慣れた手付きで次々とフライドポテトを揚げている悠利は、心配そうな顔で問われて不思議そうに首を傾げた。ちなみに、大量のフライドポテトを揚げなければいけないので、二つの油鍋を活用している。
揚げ物は油に投入したら揚がるまでは放置になるので、入れるタイミングをずらしたり、切り方で揚げ時間が変わるのを把握して投入すれば、一人で二つの油鍋を見るのもまぁ、出来なくはないのだ。
勿論、お店みたいに大量に作るとなると難しいかもしれないが。おやつに食べるために、出来上がった物から順番に出すという感じなら、あまり難しく考えずに油鍋と向き合うだけで大丈夫なのである。
話を戻そう。心配そうに問いかけてきたリヒトの言葉を、悠利は少しだけ考えてから理解した。何を言われているのか、を。
「大丈夫ですよ。僕一人で揚げてるわけじゃないですし、皆で交代してるので」
「そうか。大量にあるみたいだから、手伝いがいるなら言ってくれ」
「心配無用です。これも練習みたいなものなので」
「練習?」
悠利の言葉に、リヒトはきょとんとした顔をした。しかし、カウンター席で大皿に入れたフライドポテトを食べていた見習い組の四人は、うんうんと頷いている。彼らには、悠利が何を言いたいのかがよく解っていた。
揚げ物というのは、ある意味で感覚で覚えなければならないような料理である。勿論、目安として何度の油で何分揚げるみたいな指標はあるが、それでも目で見てしっかりと揚がっているのを確認する必要がある。その練習というわけだ。
「揚げ物は感覚で覚える感じなので、沢山揚げるときに練習してるんです」
「奥が深いんだな」
「揚げ方の上手い下手で味も変わりますからね」
えっへんと胸を張る悠利に、リヒトは笑った。そういうことなら、彼が手を出す必要はない。頑張ってくれと伝えるだけである。
カウンター席に座っていたカミールが、立ち去っていくリヒトを見送ってから口を開いた。
「リヒトさん、相変わらずこう、優しいよなぁ」
「解るー。細かいところまで気にしてくれるよね」
「体調不良とかにも気づいてくれるしな」
「目敏い」
「「……マグ」」
他に言い方はなかったのかと思わず名前を呼ぶ悠利、ヤック、カミールに対して、マグはどうかしたか? と言いたげな視線を向けている。そんな中、一人ツッコミ側に入らなかったウルグスが独り言のように呟く。
「だよなぁ。あんまり口に出さなかったり、顔にも出にくい相手の変化とかにも気づいてくれるもんなぁ」
「……えーっと、ウルグス?」
「ん? どうかしたか?」
「今のマグの一言って、そういう感じの内容だったりするの……?」
「あぁ。それがどうかしたか?」
問いかけてきた悠利に対して不思議そうに首を傾げるウルグス。二人の会話など興味はないと言うように、フライドポテトを食べているマグ。悠利と一緒に脱力するヤックとカミール。コントみたいな光景がそこにあった。
マグの発言の意味は本当に理解しにくい。いつも通りの淡々とした口調であんな風に言われたら、面倒くさがってるとかそういう方向かと思ってしまったのだ。しかし実際は、よく気がついてくれるという好意的な評価だったのだ。解りにくくて困る。
同時に、ウルグスには是非とも、そこまできっちり理解出来るのは自分だけだというのを、もう少し自覚してもらいたいと悠利達は思うのだ。通訳扱いを許容している割りに、ウルグスはその辺の理解が足りないのである。
「まぁ、マグに言っても今更だし、ウルグスに言っても今更だよなぁ」
「そう、今更だよ、カミール。あ、オイラその皮付きのやつ食べたい」
「はいよ」
色々と諦めに入ったカミールとヤックは、仲良くフライドポテトを食べることにしたらしい。ヤックは皮付きくし切りのフライドポテトに手を伸ばし、ひょいっと口へと運ぶ。
ほどよい厚みがほくほくとした食感をきちんと残していて、皮が付いていることで実の部分全てが柔らかく仕上がっている。皮は揚がっているので簡単に噛み切れて、塩味が優しく口の中に広がる。
「どれもこれも美味しいけど、オイラはこの皮付きのやつがやっぱり好きかも」
「俺は細切りの太い方かなぁ」
「ユーリは?」
「僕? 僕は、細く切ってるやつか、半分のやつ」
そう言いながら、悠利は揚がったばかりのフライドポテトを引き上げる。慣れた手付きで塩を振り、そのうちの一つをそっと摘まんで食べる。火傷しそうな程に熱いが、その熱々からしか得られない美味しさがあるので。
はふはふしながらフライドポテトを食べて、悠利は笑う。今食べたのは細切りのフライドポテトで、某ファストフード店のシンプルな塩味のフライドポテトのイメージだ。色々な切り方があるのは知っているが、やはりこのシンプルなやつが悠利は好きだった。飽きが来ないので。
それと同時に、小さなジャガイモを半分に切ったやつは、なかなか食べる機会がないので貴重な気がして好きだった。ほくほく感が増しているのも好きポイントだ。
この半分に切ったフライドポテトを作ろうと思うと、わざわざ小さな小さなジャガイモを探さなければならないのだ。間違ってもスーパーで売っているものでは手に入らない。畑をやっている知り合いからのお裾分けとかで手に入る、悠利にとってはちょっと贅沢な逸品なのである。
ちなみに、この小さなジャガイモはヤックが手に入れてきた。市場の皆さんに可愛がられているヤックは、ちょこちょこ売り物ではない野菜を貰ってくるのだ。ありがたいことである。
そんな中、黙々とフライドポテトを食べていたマグが、悠利をじっと見つめて言葉を発した。
「輪切り」
「え?」
「輪切りのやつのお代わりが欲しいってよ。揚がってるか?」
「あぁうん、揚がってるよ。マグはこれが気に入ったの?」
「美味」
悠利の問いかけに、マグはこくんと頷いた。差し出された大皿に出来たての輪切りのフライドポテトを載せてやれば、マグはぺこりと頭を下げた。熱々のフライドポテトを摘まんで、そろそろと囓っている。小さな口で囓る姿は、ちょっと小動物っぽかった。……言うと怒りそうなので沈黙を守る皆である。
マグの食べる姿にちょっとほっこりしつつ、悠利は視線をウルグスへと向けた。
「ウルグスの好みは?」
「正直なところ、選べない」
「選べないって……」
大真面目な顔で言われて、悠利は思わず苦笑した。そこまで気負わなくても良いのにと告げるも、ウルグスは頭を振った。別に真面目に考えすぎて選べないとかではないのだ。
どのフライドポテトも、美味しいのである。優劣を付けられないのだ。どれを食べても美味しいと思ってしまう。特にどれが好みかという感想が出てこない。皆違って皆良い、みたいな感じになっているのだ。
そんなウルグスを、マグはじっと見つめた。カミールとヤックもウルグスを見つめているが、マグの視線は二人のそれよりも強い意志を宿していた。そして、一言告げる。
「優柔不断」
「お前は何でそういう憎まれ口しか叩けねぇんだろうなぁあああああ!?」
「ウルグス、大きな声出さないで。皆がビックリしちゃうから」
即座にマグの発言に怒鳴るウルグスに、悠利はいつものようにツッコミを口にした。マグの方はどこ吹く風という感じで、フライドポテトを食べている。ウルグスに怒鳴られようが、自分が言いたいことを言ってしまえば後はどうでも良いのだ。マグなので。
ギャーギャーとマグに文句を言うウルグスと、しばらくは放置していたが次第に鬱陶しくなったのか面倒くさそうに隣に座るウルグスの足を蹴るマグ。ウルグスの大声を咎め、足が出たマグを叱る悠利。そんな見慣れた、あまりにもいつも通りのやりとりをみて、カミールは隣のヤックに言葉をかけた。
「うちはおやつの時間も賑やかだよな」
「賑やかにしてる人がいるからだとオイラは思う」
「確かに」
自分達は平和にやろうな、と言う感じで意気投合する二人。隣で揉めるウルグスとマグを放置し、背後で争奪戦まではいかないものの賑やかにわいわい言いながらフライドポテトを食べている仲間達の気配を感じながら、目の前の皿からフライドポテトを摘まんで堪能するのだった。……割りと図太い二人なのです。
なお、色々と作ったフライドポテトであるが、どれか一つの切り方が特別人気というわけでもなかったので、その時々のリクエストに応じて切り方を変えて作ろうか、ということで落ち着くのでした。どれも美味しいので仕方ないですね。
フライドポテト、美味しいですよね。
全部違って、全部良い……。
ご意見、ご感想、お待ちしております。
なお、感想返信は基本「読んだよ!」のご挨拶だけですが、余力のあるときに時々個別でお返事もします。全部ありがたく読ませて頂いております!





