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最強の鑑定士って誰のこと?~満腹ごはんで異世界生活~  作者: 港瀬つかさ
書籍26巻分

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課外授業はそれぞれで

 今日の皆の予定は、それぞれ異なっていた。各々、自分に必要な課外授業を受けるという感じになっているのだ。そうなるとどうなるかと言うと、悠利(ゆうり)が宙ぶらりんになってしまうのである。何せ、彼は家事担当であって、訓練を受けているわけではないからだ。


「それじゃあルーちゃん、皆が何をしているか見に行こうか?」

「キュイ!」


 足下のルークスに悠利は笑顔で言葉をかける。ルークスは了解というように元気に鳴いて、その場でぽよんと跳ねた。悠利が自由時間ならば、その悠利の護衛を自認しているルークスも自由時間なのである。

 勿論、皆の元を見て回る許可、領主館の敷地内をうろうろする許可は取ってある。使用人もたくさんいるので、その都度ちゃんと聞こうとは思っているが。

 ちなみにこの領主館の使用人は、ダンピールや人間をはじめとする日中普通に活動できる者達が多い。ヴァンパイアは領主夫妻の子供達や関係者がほとんどらしい。太陽の光に弱いヴァンパイア達は日中の活動を制限されがちなので、それを補える者達が働いているのだという。

 なお、領主館の使用人になるというのは厳しい審査を通過した証しと言うことで、一定期間務めてから結婚したり、別の職場に就職したりする者達もいるらしい。箔をつけるとか、ちょっと古い表現をするなら花嫁修業の行儀見習いというところだろうか。

 そんなわけなので、てくてくとルークスを連れて敷地内を歩く悠利は、すれ違う使用人の皆さんにペコペコと会釈をしている。これはもう条件反射みたいなものである。多分、日本人あるあるなのだろう。目が合ったのに何もしないで素通りするのは失礼に思えるので。


「とりあえず、最初は一番居場所が解ってる武闘派組のところに行ってみようねー」

「キュピ!」

「確か、演習場はあっちにあったと思うんだ」

「キュ!」


 相槌を打ってくれるルークスを従えて、悠利は記憶を頼りに敷地内を歩く。一通りの施設は案内されたのだが、何せ大変広いお家なので、まだ完全には覚えていないのだ。自分の部屋と食堂と厨房以外は若干あやふやである。興味がある部分が丸わかりだ。

 本格的に迷ったら使用人に声をかけて教えてもらおうと思っていたが、あやふやな記憶を頼りに歩いていたら、かけ声のようなものが聞こえてきた。目当ての演習場に違いないと、悠利とルークスはちょっと小走りで移動してみた。

 扉を開けて外に出ると、広い庭みたいな場所に出た。しかし、明らかに庭ではないと解る。周囲は大きな壁で囲われており、その壁には武器が立てかけられたりしている。また、遠距離攻撃用の的と思しき木の板も何個も立っていた。きっとここが演習場に違いない。

 さて仲間達はどこにいるだろうか……? とキョロキョロしながら移動した悠利は、先ほどまでは死角になっていた場所でぶつかり合っている沢山の人の姿を見た。


「あわわ……、乱闘?」

「キュキュー」


 荒事に慣れていない悠利の目には、とっても危ないもののように見えてしまった。武器は持っていないものの、皆が乱闘をしているようにしか見えなかったのだ。

 しかし、魔物であるルークスの感想は違うらしい。普段は愛らしい感じのルークスが妙に真面目な目をして、ふむふむと頷くように身体を上下に揺らしている。何というかこう、生徒が練習しているのを見て満足そうな部活の顧問とかコーチみたいな雰囲気だった。

 悠利もそれに気づいて、きょとんとした顔で可愛い可愛い従魔を呼んだ。


「ルーちゃん、どうしたの?」

「キュイ?」

「いや、何かこう、真面目な感じの顔してたから」

「キュピキュイ」

「……ごめんね、ちょっと解らないや……」

「キュウ……」


 一生懸命悠利に説明しようとしてくれたルークスなのだが、残念ながら悠利にはルークスの言葉は解らない。ここに魔物使いのアロールがいてくれたら通訳をしてくれただろうが、生憎と彼女はお留守番組である。万事休す。

 一人と一匹はしばし見つめ合う。目と目で通じ合うことが出来るなら良かったが、結局通じ合わなかったのでどちらも諦めた。気を取り直したように乱闘を繰り広げている一同へと視線を戻す。

 よく見てみると、乱闘の中心には誰かが立っている。その誰かに向かって周囲から攻撃をしに行っているという構図だ。普通ならその一人がフルボッコにされるのだろうが、特に問題なく一人ずつ捌いて転がしてしのいでいる。


「……マリアさん?」


 じっと見ていて気づいたが、その中心にいる人物はマリアだった。実に楽しそうに笑いながら、次から次へとやってくる相手を遠慮なく迎撃している。結構容赦なく迎撃しているが、皆タフなのかすぐに復活して戦線復帰している。

 どうやら、一人対多数の組み手みたいなことをしているようだ。それが鍛錬としてどれぐらいの意味を持つのかは、武術の心得なんてさっぱりの悠利には解らない。解らないが、一つだけ思うことがあった。


「マリアさん、物凄く楽しそうだねぇ……」

「キュイキュイー」


 悠利のつぶやきに、ルークスは同感だと言いたげに鳴いた。ヴァンパイアの戦闘本能を受け継ぐダンピールであるマリアは、戦うことが大好きだ。大好きで片付けて良いのかちょっと解らない。頭に血が上ると戦うことしか考えられなくなるタイプなのだ。職業(ジョブ)が狂戦士の段階で色々と察してほしい。

 そんな彼女なので、遠慮なしに暴れられるという感じなのだろうか。まぁ一応、理性を失っている感じはしないので、楽しんで鍛錬をしているというレベルだろうが。これがスイッチが入るぐらいにまで行っちゃうと、周囲の制止が聞こえないままに相手を攻撃する感じになるらしい。大変物騒だ。

 流石に実家の兵士の皆さんというところなのだろう。マリアがどういう性質の持ち主なのかも理解しているようで、互いに声を掛け合って一矢報いようとしている。よく見てみると、マリアとやり合っているのは若手ばかりだ。お嬢様にお相手をしてもらっている、みたいな構図なのだろうか。

 そこまで考えて、恐らくこの場に引っ張り込まれているだろうレレイとラジの二人はどこにいるんだろうと悠利は周囲を見渡す。マリアの判断で、普段手合わせ出来ないような相手と鍛錬できるからという理由で選ばれたのがその二人なのである。絶対にこの場所にいるはずなのだが。


「うーん、どこにいるんだろう……?」

「キュイ?」

「あ、あのね、ルーちゃん。レレイやラジがどこにいるか解る?」

「キュ!」


 仲間を見つけられなくて困っていた悠利は、心配そうに見上げてくるルークスに問いかけた。賢いスライムは、その言葉を聞いて任せろと言いたげにぽよんと跳ねた。そうして、大きな瞳でじぃっと演習場全体を見渡している。

 少しして、ルークスは身体の一部をちょろりと伸ばして、悠利にある方向を示した。こっちだよ、というように。悠利はルークスの示す方向に素直に視線を向けた。するとそこには、年嵩と思しき兵士達と一対一で組み手をしているレレイとラジの姿が見えた。

 拳と拳を打ち付け合う音が、容赦なく繰り出される蹴りが同じように繰り出された蹴りとぶつかる音が、その激しい動きを物語るように聞こえてくる。あまりにも白熱したそのやりとりに、悠利は思わず息を飲んだ。

 戦闘力皆無の悠利には、それがどれほどの技量を示すものなのかは解らない。解るのは、レレイもラジも真剣な顔でその組み手を行っているということだ。身内以外を相手にしているからか、表情も空気感も普段とは全く違って真剣そのものだった。

 その気迫に飲まれるように、悠利はゴクリと生唾を飲んだ。いつも気楽に接している仲間達が、その実とても強いと言うことを再確認した気持ちなのだ。

 そんな悠利に気づいたらしい男性が一人、近寄ってくる。


「何かありましたか?」

「あ、いえ。どうしてるかなと思って見に来ただけなので、大丈夫です」

「お望みでしたら、見学出来るように場所を準備しますが」

「いえ、そこまでお手数はおかけできません。お気遣いありがとうございます」


 男性の申し出に、悠利はぺこりと頭を下げた。隅っこでこそっとのぞき見るぐらいで十分だった。見学席みたいなものを用意され、皆の視線を浴びながら見学するのはちょっと荷が重い。

 そんな悠利の気持ちが伝わったのか、相手はそうですかと頷いてくれた。ただ、ちょうど良いと思ったので、悠利は目の前の男性に質問を投げかけてみた。


「あの、僕は戦いのことはさっぱりなんですけど、うちの皆って強い方なんですか?」

「それはもう。マリアお嬢様は幼い頃からお強い方でしたが、磨きがかかっておられます。残りのお二人も、実に見事な身体の使い方をしておられますよ」

「そうですか」


 仲間達が褒められるのは悠利も嬉しいので、思わず笑顔になった。そんな悠利の足下で、ルークスもご機嫌でぽよんぽよんと小刻みに飛び跳ねている。大好きなご主人様である悠利の大事な仲間達が褒められているのは、ルークスにとっても嬉しいことらしい。

 そんなルークスの行動に、男性は驚いたように目を見張る。悠利も仲間達もうっかり忘れているが、本来ルークスと同じぐらいのサイズのスライムにはこれほどの知性は存在しない。敵味方の見分けがつくとか、主人とそうでない相手の見分けがつくとかぐらいだ。喜怒哀楽はあるかもしれないが、複雑な人間関係など把握できない。

 しかし、悠利にとってルークスはこういうものであり、ルークス当人にしてみたら自然体にすぎない。相手が驚いていることなんて気づきもしないで、鍛錬をする仲間達の姿を見て「皆凄いねー」「キュー」なんて会話を繰り広げているだけだ。

 そんな風にしばらく鍛錬の様子を眺めていると、休憩に入ったらしいレレイが走ってきた。


「ユーリー! ルークスー! どうしたのー!」

「レレイ、鍛錬お疲れ様」

「キュキュー!!」

「わっ!」


 物凄い勢いで走ってきて悠利に飛びつこうとしたレレイ。悠利は普通に挨拶をしているが、それは、悠利の前でぽよんと跳ねたルークスがガードするみたいにレレイの動きを止めてくれたからである。護衛の役目はきちんと果たされていた。


「もー、ルークス何するのー?」

「ルークス、よく止めた。レレイ、その勢いで飛びついたらユーリは怪我をするぞ」

「へ? はっ! ご、ごめんね、ユーリ! ありがとう、ルークス!」

「キュピ!」


 レレイを追いかけてやってきたラジに事情を説明されて、レレイはすぐさま反省したように一人と一匹に謝罪とお礼を口にした。ぺこぺこと頭を下げるレレイと、相変わらずのレレイに笑っている悠利と、呆れ顔のラジと、一仕事を終えたのでドヤ顔っぽくなっているルークスである。愉快な光景である。


「鍛錬に混ぜてもらってたの、どんな感じ?」

「結構楽しいな。普段の手合わせが悪いとは言わないが、相手が変わると動きが変わるから、良い経験になるよ」

「そっか。良かったね。レレイは?」

「超楽しい! 全力でやっても良いんだって!」

「……そっかー。器物破損はしちゃダメだよー?」

「うん!」


 無邪気な子供の笑顔で笑うレレイ。悠利の言葉の意味を正しく理解しているのかはちょっと怪しい。勢い余ってはレレイのデフォルトである。

 とはいえ、二人の反応が好感触なので良かったなぁと悠利は思う。遠路はるばる(旅路は色々と規格外で快適だったが)やってきたので、ちゃんと経験になるのは良いことだ。


「それじゃあ、鍛錬の続き頑張ってね」

「ユーリは何してるの?」

「やることないから、皆が何をしてるのか順番に見に行こうと思って」

「そっかー。後でどうだったか教えてね」

「了解ー」


 笑顔でそんなやりとりを交わし、悠利はルークスを伴って演習場を後にする。立ち去る直前にマリアはどうしているのかを見たら、まだ乱闘をやっていた。元気すぎるお姉様である。

 続いての目的地は、領主館内の芸術ゾーンである。この名称は悠利が勝手に脳内でつけているだけなのだが、絵画や彫刻、宝飾品が展示されているフロアがあるのだ。ヴァンパイアの領主様のお屋敷らしく、長い年月をかけて集められた品々がそこにある。博物館みたいなものだ。

 そこを目指すのは、恐らくはロイリスやミルレイン、イレイシアはそういった場所にいるだろうと思ったからだ。技術職系に分類される彼らは、よその土地に赴くとその土地の文化に興味を示すので。

 ルークスと二人でてくてくと広い広いお屋敷の中を歩く。幸いなことに、芸術ゾーンには迷わずに辿り着けた。のほほんと歩く悠利と、同じくのほほんと跳ねるルークスという一人と一匹の姿は、すれ違う使用人達に優しい眼差しで見守られていた。微笑ましいのだろう。

 皆はどこにいるかなと耳を澄ませていると、宝飾品が展示されている部屋から話し声が聞こえてきた。


「つまり、このブレスレットに刻まれている模様は、数百年前から今も変わらず使用されているということなんですね?」

「その通りです」


 どうやら、細工師の本領発揮と言わんばかりに、ロイリスが案内役の使用人に色々と質問しているのだろう。その声には興奮が隠しきれていなかった。

 真剣な顔で話しているロイリスと使用人の邪魔をするのはあれなので、悠利は二人の話に耳を傾けているらしいイレイシアに声をかけた。


「イレイス、イレイス、今どういう話をしてるの?」

「まぁ、ユーリ。どうしましたの?」

「皆が何をしてるのか気になって、あちこち見て回ってるんだー」

「そうでしたか」


 突然現れた悠利に驚いた顔をしたイレイシアだが、理由を聞くと優しく微笑んだ。悠利らしいと思ってくれたのかもしれない。家事担当である悠利に修業などというものは存在しないので、持て余した時間をこうして過ごしていると説明されたら納得できるのだろう。


「今は、ロイリスが装飾品に使われている模様について説明を聞いているのですわ」

「装飾品の模様?」

「えぇ。模様には流行というものがありますから、それを知るのも細工師としての勉強になるそうです」

「なるほどー」


 洋服に流行があるように、装飾品のデザインや模様にも流行があるというのは、悠利にも解る感覚だ。悠利はどちらかというと流行よりも自分の好みを優先して判断するタイプだが、雑誌やテレビが流行情報を発信していたのを知っているので。

 そういう流行には年代や地域性が影響することが大きいらしく、細工師としては良い勉強になるのだという。しかし、それにしては随分と興奮しているなぁと悠利は思う。何がそこまでロイリスの気持ちを高ぶらせているのかさっぱりだ。

 解らなかったので、説明が一段落したっぽいのを見計らってロイリスに声をかけることにした。……なお、ロイリスから解放された使用人は、次はミルレインに掴まって装飾品に使われている金属についてアレコレ質問されていた。頑張って貰いたい。


「ねぇロイリス、聞いても良い?」

「あ、ユーリくん。何ですか?」

「何だか凄く興奮してるみたいだけど、何があったの?」

「あぁ、そのことですか」


 悠利の質問に、ロイリスは照れたように頬を掻いた。柄にもなく興奮してしまったことを恥じているようだった。しかし、普段は落ち着きのあるロイリスがあんな風に興奮するほどの何かがあったのは事実である。

 そしてロイリスは、自分が何に感動していたのかを説明してくれた。


「このブレスレットに刻まれている模様は、数百年前から今も変わらずずっと使用されているものなんです」

「それって珍しいの?」

「はい。例えば、古い品物を大事に受け継いで使うというのは珍しいことではないです。でも、今も変わらず新しい品物に同じ模様が刻まれているのは珍しいです」


 それでもイマイチ実感の湧かなかった悠利に、ロイリスは事細かに説明をしてくれた。早い話が、今も変わらず同じ模様で新商品が作られているのが凄いという話なのだ。それは、その模様が流行で変わるものではなく、当たり前のものとして浸透しているからだ。

 その理由の一端は、ここがヴァンパイアが治める領地だからというのがあるらしい。長命種であるヴァンパイア達が普通の感覚で同じ物を愛好しているだけだが、経過する時間はかなりのものだ。そして、ヴァンパイア達が愛するものを他の種族達も愛するので、定着するのだという。

 古い品物が大事に受け継がれるのも素晴らしいが、変わらず愛されるデザインがあるというのも素晴らしい。その部分にロイリスは感動していたらしい。

 彼がそんな風に感動するのには、理由があった。


「僕達ハーフリング族は寿命が短いので、どうしても同じものを引き継ぐのが難しいんです」

「そうなの?」

「えぇ、どこかで途切れることもありますから」


 ロイリスは柔らかな笑みを浮かべて告げているが、内容はなかなかに重い。人間よりも更に寿命の短いハーフリング族には、彼らなりの苦労があるのだろう。

 そして、だからこそロイリスは長命種であるヴァンパイアが長く愛する模様に、それを受け入れるこの土地の風土に、感銘を受けているらしい。着眼点は人それぞれだ。

 なるほどなぁと感心している悠利の耳に、興奮している別の声が聞こえた。視線を向けると、金属について説明を受けていたらしいミルレインが顔をキラキラと輝かせていた。……どうやらあちらも、感動するようなことがあったらしい。


 ロイリスとイレイシアもミルレインが何にそこまで感動しているのかは気になったらしく、顔見合わせた後にポンポンとミルレインの肩を左右から叩いた。二人に呼ばれたミルレインは、くるりと振り返る。その顔には、感激の名残が残っていた。


「何だ? どうかしたか?」

「いえ、ミリーが何に感動しているのか気になったんです」

「よろしければ、教えていただけますか?」

「あぁ、そんなことか。良いぞ。聞いてくれ」


 そう言って、ミルレインは満面の笑みを浮かべて説明を始めた。丁度良いので悠利も一緒に話を聞かせて貰うことにした。なお、そんな悠利の足下でルークスも話を聞く姿勢という感じで、ピシッと大人しくしていた。


「アタイが驚いてたのは、ここに並んでる装飾品に使われている金属の配合が、珍しいものだったからなんだ。いや、この辺りでは普通なんだけど、アタイ達は知らないやつだったから」

「それってそんなに凄いことなの?」

「凄いっていうか、土地柄が出るんだよ。手に入る鉱石の違いで」


 悠利の素朴な疑問に、ミルレインは端的に答えてくれた。その答えを聞いて、なるほどなぁと悠利は思った。何かを作るときに重要なのは、材料の確保である。手に入りやすいもので作るというのは基本中の基本なのかもしれない。

 ミルレイン曰く、この辺りで産出される鉱石自体は決して珍しいものではないが、その配合比率などが他の地域とは違うらしい。彼女がよく知っている鉱石を用いて、全く知らない配合をしているのが感動だったらしい。

 その辺りの感動については、悠利達にはさっぱり解らない。専門分野すぎるからだ。ただ、遠方にやってきて、ミルレインが新しい情報を得られて嬉しそうにしているのは伝わってきたので、良かったなぁと思うだけだ。

 ただ、装飾品に細工を施す細工師でもあるロイリスは、金属について多少は話が解ることもあるらしい。ので、ミルレインと二人で色合いがどうの、手触りがどうのという話をしていた。

 吟遊詩人のイレイシアは、そういったロイリスやミルレインの反応も勉強の一つになっているらしく、柔らかな微笑みを浮かべながら二人の会話を聞いている。人間観察は大事な修行の一つらしい。

 そんな仲間達の姿に満足そうに頷くと、悠利はルークスを伴ってその場を離れた。勿論、ちゃんと立ち去る旨は伝えてからだ。ルークスも行儀良くお辞儀をしてからという完璧さである。大変可愛い。

 次は誰の所に行こうかなーとルークスと歩いていた悠利は、聞き慣れた声が聞こえて視線をそちらに向けた。応接室っぽいところから声が聞こえてくる。一人と一匹は顔を見合わせてから、近づいてみた。

 応接室の扉は開かれていて、ひょこっと彼らが中を覗き込むと、そこにはデュークとジェイク、そしてティファーナの姿があった。何か用事を言われたときに対応するためなのか、部屋の片隅に使用人は控えているがじっと立っているだけだ。

 中を覗き込んでいる悠利に最初に気づいたのは、デュークだった。同じような表情で見ている悠利とルークスに、次期領主殿は花が開くような微笑みを浮かべて声をかけた。


「おや少年達。どうしたんだね?」

「皆の様子を見て回ってます」

「キュピ!」

「それは楽しそうだねぇ。良かったらおいで」

「お邪魔します」

「キュ!」


 お誘いを受けたので、一人と一匹はうきうきで室内へ入った。豪華な応接室であるが、デュークを含め三人が醸し出しているのは普段通りのゆるっとした雰囲気だった。場所とテンションが合ってないように見える。

 まぁ、デュークにとっては自宅の一室にすぎないし、ジェイクはジェイクで細かいことは気にしないだろう。ティファーナがどう考えているのかは解らないが、前辺境伯様と親しく付き合っているのでこういう部屋にも馴染みがあるのかもしれない。悠利は深く考えるのを止めた。

 誘われるままに皆が座っているソファにちょこんと座る悠利。ルークスは、いつもなら悠利の膝の上に座るのだけれど、今日は何故か悠利の隣に座っていた。気持ちキリッとした表情をしている。お出かけモードみたいな感じだろうか。


「ところで、ジェイクさんは何をしてたんですか?」

「時間があると言うことなので、ヴァンパイアについてや、この地の歴史などについて色々とお話を伺っていたんですよ」

「……あー、知的好奇心の暴走ってやつですね」

「まだ暴走はしてないですよ?」


 にこにこ笑顔のジェイクは、悠利のちょっぴり棘の出ている発言にもご機嫌だった。まぁ、自分が知的好奇心で暴走するタイプだという自覚はあるので、あまりダメージはないのだろう。自覚があってもブレーキを踏まないところが、彼らしいのだが。

 まぁ、ジェイクの行動はある意味で想像通りだった。そもそも、そのために今回の旅行にくっ付いてきたと言っても過言ではない。しかもデュークはフレンドリーで協力的なのだ。嬉々としてお話をしていても仕方ない。

 そこで悠利は、静かにソファに座って紅茶を飲んでいるティファーナに視線を向けた。デュークとジェイクが一緒にいるのは理解したが、ならば何故彼女がここにいるのだろうと思ったのだ。

 そんな悠利の視線に気づいたティファーナは、カップをテーブルの上に戻してにこりと微笑んだ。麗しのお姉様の柔らかな微笑み、プライスレス。相変わらず素晴らしい目の保養である。


「私は、いざというときにジェイクを止める担当ですよ」

「……子守的な?」

「そんなところです。アリーに頼まれたんです」

「あー、なるほどー」


 いくらデューク本人が問題ないと言っていても、相手は次期領主様である。ジェイクは興味がある分野に突っ走った場合、礼儀とか作法とか相手の事情とかを一切考慮しないし、空気を読んだ発言などは出来ないタイプの猪突猛進になる。なので、アリーが色々と心配して対策を立てたのだろう。

 アリーさんも大変だなぁ、と悠利は思う。勿論、ジェイクの見張り役を仰せつかったティファーナも大変だとは思うのだ。けれど、そんな風に色々と考えなければならないアリーがもっと大変だろうと思うだけである。

 どれほど好意的に迎えて貰っても、クランメンバーの実家であり血縁者であろうとも、最低限の礼儀は必要だと考えるのは当然だ。しかも、相手は領主様というお偉い血筋に対して、こちらは庶民の集まりである。万が一のことがあっては困るのだ。

 気を遣いすぎているとデュークには言われそうだが、偉い人を相手にするときの処世術としては間違っていない。そして、この場をティファーナに任せたということは、彼女はそういうときの立ち回りも出来ると判断されているのだろう。流石である。


「ジェイクさん、デュークさんにあんまり迷惑かけないでくださいね。ほどほどですよ?」

「ははは、迷惑などかけられていないよ、少年。実に楽しい時間だからね」

「ほらこう言っておられますし、大丈夫ですよ」


 デュークもジェイクもニコニコしているだけだった。案外この二人の相性は良いのかもしれない。細かいことを気にしないところと、突っ走るときに人の話を聞かないところは似ている気がするが。


「ユーリは自由に過ごして大丈夫ですよ」


 何かを言いたげだった悠利に、ティファーナはそう告げた。ぱちくりと瞬きをした悠利は、次いで破顔する。優しいお姉様の言葉には、ありがたく甘えることにした。

 使用人が用意してくれた紅茶を美味しくいただいてから、楽しそうに話し込んでいる二人に退室を告げて応接室を出る。次は誰の所へ行こうかなと考えながら、まったり時間はすぎていくのであった。




 なお、夕方になると仲間達がそれぞれの用事を終えて戻ってきて、悠利にその日の報告会を開いてくれるのでした。仲良しです。 



こうやってみると、やはり多種多様な愉快な仲間達ですねぇ。

ご意見、ご感想、お待ちしております。

なお、感想返信は基本「読んだよ!」のご挨拶だけですが、余力のあるときに時々個別でお返事もします。全部ありがたく読ませて頂いております!

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ヒトを勝手に参謀にするんじゃない、この覇王。~ゲーム世界に放り込まれたオタクの苦労~
こちらもよろしくお願いします。ゲーム世界に入り込んだゲーオタ腐女子が参謀やってる話です。
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最強の鑑定士って誰のこと?特設サイト
作品の特設サイトを作って頂きました。CM動画やレタス倶楽部さんのレシピなどもあります。

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― 新着の感想 ―
それぞれ異なった種族・ジョブ・考えを持つ人が集まるクランなんだなーって言うのを改めて実感しました
暇になったら厨房に突撃するかと思ってました
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