試作品のミニアメリカンドッグ作りです
販売するメニューが決まったのならば、試作品を作らねばならない。当日までにブラッシュアップする必要があるし、何より作業に慣れるという重大な任務がある。失敗するわけにはいかないのだから。
特に、当日お祭り会場で実際に調理することになるミニアメリカンドッグは練習が必要だ。美味しく作れるようにというのもあるし、何より綺麗な形で作れるようにしなければならない。手順は簡単だが、回数をこなすことによって作業が順調に行えるという利点もあるので。
そんなわけで、本日は午後から皆でミニアメリカンドッグ作りである。
基本的に調理を担当するのは悠利と見習い組の予定ではあるのだが、他の若手達もやってみたいとのことで、皆でチャレンジすることになっている。確かに、メインで調理担当を決めておいたとしても、誰でも作れるようになっているのは当日のトラブルを避けることが出来そうだ。
また、調理そのものに参加しなくとも、全体の流れを把握できているとサポートもしやすい。特に用事のない参加者で試作品作りをするのには、ちゃんと意味があった。
「では、今日はミニアメリカンドッグの試作品作りをやってみましょう」
「「おー」」
「「はーい」」
悠利が元気よく音頭を取れば、同じぐらい元気な返事が響いた。まぁ、一種のレクリエーションみたいになっているのだ。普段、おやつというのは悠利が用意したものを食べるだけなので、こんな風に自分たちで作るというのが珍しいのだろう。
なお、ミニアメリカンドッグと言っているが、作るときに揚げはしない。フライパン型たこ焼き器を使うので、揚げずに焼くというのがポイントだ。揚げるよりはヘルシーな仕上がりになるだろうし、何よりも調理中の怪我が減る。どれほど気をつけても、揚げ物の油ハネを完全に防ぐのは難しいのである。
皆で作業をするということと、お祭り当日と出来るだけ同じ状況で作ると言うことで、台所ではなくリビングで作業をしている。持ち運びの出来る卓上コンロの上には、フライパン型たこ焼き器が置かれていた。
なお、人数が多いのでフライパン型たこ焼き器は三つ用意してある。いっぱい作っても皆のお腹に消えるので、どんどん試作品作りにチャレンジしようという感じである。……胃袋の大きな面々がいるので、食べきれないということはないだろう。多分。
「まず、ウインナーを一口サイズに切ります。あんまり大きいと生地の中に入らないので、欲張らないで一口サイズにしてください」
まな板と包丁、ボウルに入ったウインナーと空のボウルを前に、悠利はにこにことそんなことを告げた。その言葉に、若干名がバツが悪そうに視線を逸らした。具体的に言うと、お肉が大好きだったり、いっぱい食べるのが好きだったり、一口が大きかったりする面々である。
反対に、小食だったり一口が小さかったりする面々は、「具体的にどれぐらいの大きさだろう……?」みたいな反応だった。彼らは逆に、自分達の一口が小さいのを理解しているので。
そんな皆の前で、悠利は見本としてウインナーを少しだけ切った。ミニアメリカンドッグはフライパン型たこ焼き器で作ることから解るように、たこ焼きと同じぐらいの大きさに仕上がる。その中にきちんと入るぐらいの大きさだと考えて切れば問題ないのである。
悠利が作った見本を見て、大きさを確認した皆はそれぞれのテーブルでウインナーを切り出す。トントンと包丁がまな板に触れる軽やかな音が耳を打つ。
具材であるウインナーをカットする作業が順調に進んでいるのを見て、悠利は各テーブルに置いた粉の入ったボウルを示して口を開いた。
「このボウルの中の粉が、生地の元になります。既にこの段階で粉類は全部混ぜ合わせてあるので、味の心配はいらないです」
そんな悠利の言葉に、何人かがボウルの中の粉を見た。確かにそれは、普段見慣れている小麦粉とは少し違うように見えた。白い粉ではあるのだが、所々違う色の粒があるように見えたのだ。
どういうことなんだろうと首を傾げる仲間達。そんな彼らに、悠利は種明かしをするように説明を続けた。
「この生地の元になる粉は、実はルシアさんに頼んで配合をしてもらったものです」
「ルシアに? 何で?」
「僕達で一から生地の味まで考えてたら間に合わないと思ったから相談したんだよね。そうしたら、いい感じの配合にした粉をくれました」
「……ルシア、人のことに構ってる場合なの……?」
あの子本当にお菓子作り好きなんだから、と呟くヘルミーネ。普段の業務をしつつ、自分も当日出店するというのに、悠利達の手助けまでしてくれるのだ。ルシアは優しい人だというのもあるが、彼女は本当にお菓子作りが大好きなのだ。
「あ、勿論ちゃんとルシアさんにはお礼というか代金を支払いますって言ってあるから。粉代に手間賃も上乗せするよ」
「それ、ルシアちゃんと受け取ると思う?」
「そこは受け取らせるのがこっちの誠意かなって思ってる」
「……ユーリらしくないわね?」
「前にダレイオスさんに、無償で仕事するなって言われたから……」
「なるほど……」
遠い目をする悠利に、ヘルミーネは納得したようだった。労働にはきちんと対価を支払うというのを悠利に叩き込んだのは、大衆食堂《木漏れ日亭》の店主であるダレイオスだ。親父殿は、放っておくと無償でお手伝いを続けそうな悠利に、本来なら賃金が発生するようなときはきちんと受け取れときつくお灸を据えてくれたのである。
ちなみにそれは、そうすることで他の誰かの領分を侵さないためである。誰かが賃金を受け取ってやっていることを、誰かは無料でやっているとなると、もめ事に発展する場合がある。また、労働力を搾取することにも繋がりかねないので、仕事として扱われる場合はちゃんと賃金を発生させろというのがダレイオスの主張である。
なので悠利も、あくまでも善意でお手伝いしてくれそうなルシアに対して、きちんと手間賃を支払うつもりでいる。親しき仲にも礼儀ありだ。堅苦しいと思われるかもしれないが、悠利達は今回お祭りに出店するので、そのあたりはきっちりしておくべきだという判断である。
「この粉に、牛乳と卵を加えて丁寧に混ぜます。卵は先に小さなボウルに割ってあるのでそれを入れてください。牛乳もはかってあるので全部入れて大丈夫です」
計量は出来る人間がやれば良いと悠利は思っているので、今回は少しだけ作業をショートカットしてある。なお、卵は直接粉の入ったボウルに割ると失敗したときが悲惨なので別のボウルに割ってあるだけである。
そして悠利は、牛乳の入った計量カップを持ち上げてこう告げた。
「卵はそのまま入れて大丈夫ですけど、牛乳は少しずつ入れてください。少し入れて全体を混ぜ合わせるというのを繰り返す感じでお願いします」
「何でー?」
「粉がダマにならないように混ぜたり、混ぜてるときに粉が飛んだりしないようにするためだよ。最終的にちゃんと混ざっていれば大丈夫だから、焦らずゆっくりやってね」
「解った!」
不思議そうに聞いてきたレレイは、悠利の説明で納得したように満面の笑みを浮かべた。……浮かべたが、彼女がいざ! と言いたげにヘラを手にしようとした瞬間、見事な反射神経でラジがそれを取り上げた。
「ラジ?」
「レレイは牛乳を少しずつ入れる係で頼む」
「そう?」
「うん。フルーツ飴のときは僕は参加出来ないかもしれないから、こっちはやってみたいんだ」
「そっか。解った!」
流れるようにレレイから生地を混ぜるという仕事を取り上げたラジの手腕に、悠利達は心の中でそっと拍手を送った。別にレレイが料理下手というわけではないのだが、繊細な気遣いが要求される作業はあまり向いていないのは誰の目にも明らかだった。なので、牛乳を入れる係という比較的簡単そうな役割に変更になったのだ。
そんな騒動を挟みつつも、各テーブルで生地を作る作業が始まった。粉の入ったボウルに卵を入れ、少しずつ牛乳を入れる。勢いよく入れると粉がぶわっと舞ってしまうことがあるので、ここでの作業も優しさが求められる。
そうして牛乳が入ったら、粉を少しずつ牛乳に溶かすように混ぜていく。最初は粉の部分が多いし、まとまってきてもぽろぽろとしているが、全ての牛乳を入れる頃にはとろりとしたなめらかな生地に近づいていく。ダマを潰すように言われたので、皆は丁寧に生地を混ぜてヘラの先でダマを潰していた。
……ちなみに、牛乳と卵を加えたことから想像できるように、ルシアが配合してくれたこの粉のイメージはホットケーキミックスである。ホットケーキミックスはいわゆるプレミックス、調整粉と呼ばれるものだ。その名称から解るように、小麦粉をベースにベーキングパウダーなどの色々なものが混ぜ合わされているものだ。つまりは、それだけである程度の味が保証されているという大変素晴らしい商品である。
悠利は色々と便利な現代日本の恩恵にあずかった状態でお料理をしてきた少年なので、本格的なお菓子作りなどはやったことがない。悠利のお菓子作りの心の友はホットケーキミックスだった。今回ルシアにこういう感じの生地を作るにはどうしたら良いかと相談したら、いい感じにホットケーキミックスっぽいものを作ってくれてとても助かった。
そのおかげで、悠利以上にお菓子作りに関しては素人な仲間達でも、特に味に不安を感じることなくミニアメリカンドッグを作れそうなのだ。生地を混ぜる仲間達の姿を見ながら悠利がにこにこしてしまうのも、そんな理由からだった。
特に不安点がないので、悠利の気持ちもレクリエーションみたいになっているのである。
「生地を混ぜ終わったら、温めておいたフライパンに油を塗ります」
そう言うと、悠利は油引きを使ってフライパン全体に丁寧に油を塗っていく。今回使うのはオリーブオイルだ。あくまでも何となくなのだが、オリーブオイルでやる方が美味しく仕上がるような気がしたのである。
フライパン型たこ焼き器なので、穴の部分にも丁寧に塗り込んでいく。むしろここに塗るのが大切だ。塗りが甘いと生地に火が通ってもくっついてしまって上手に取り出すことが出来ないので。
そんな悠利の作業を見て、仲間達もせっせとフライパンに油を塗っていく。その作業が一段落したのを確認して、悠利は生地の入ったボウルとお玉を手にした。
「ここから先はたこ焼きのときとほとんど同じで、まずは穴の半分ぐらいに生地が入るように全体に生地を入れます」
悠利は手にしたお玉で生地を満遍なくフライパン型たこ焼き器に流し込んでいく。半分ぐらいと言ったのにはちゃんと理由がある。生地を入れ終えた悠利はボウルとお玉を一度置くと、ウインナーの入ったボウルを手に取った。
「ウインナーはそれぞれの穴に一つずつ入れます。なるべく真ん中に入れるようにすると仕上がりが綺麗です」
ぽとんぽとんと悠利は一口サイズに切られたウインナーを生地の中へ投入していく。雑に入れているように見えて、穴からはみ出したりしないようにしているのは慣れのようなものだろうか。おおーと仲間達から感嘆の声が上がる。
「ウインナーを入れ終えたら蓋をするように生地を入れて、後は焼けるのをしばらく待ちます」
くるりとウインナーがきちんと隠れるように生地を流し入れる悠利。穴だけでなくフライパン全体に生地が広がるように入れるのもポイントだ。このはみ出た部分を寄せ集めることでいい感じの丸になるので。
「と、いうわけなので、ここまでお願いします」
「「はーい」」
生地に火が通るまでは暇なので、その間に皆に自分と同じ作業をやってもらおうという悠利である。元気な返事の後、残りのフライパンでも同じように生地を流し入れる作業とウインナーを入れる作業が行われた。
悠利は見本として一人でやったが、仲間達は皆で協力している。ボウルを持つ者、お玉を使って生地を流し入れる者、ウインナーを入れる者、そして、全体を確認して生地の多い少ないを伝える者。何だかんだで良い感じのチームワークで作業が行われている。
まぁそもそも、《真紅の山猫》の仲間達はたこ焼き経験者である。自分達で作って食べてをやっているので、ほぼ同じ作業と言われたらそこまで迷うことなく出来るのだ。
勿論、厳密にはたこ焼きとミニアメリカンドッグの作業には違う部分もある。それでも、生地を半分入れてから具材を入れるとか、穴だけに生地を入れずに全体に広がるように入れるとかは共通していることだ。なので、その辺の説明が少なくても誰も何も言わないのである。
そうこうしている間に、悠利が担当しているフライパンの生地にぷつぷつと穴が開いてきた。ホットケーキを作るときの目安と言われる、火が通ってきた証明だ。それを見て、悠利はすちゃっと千枚通しを手にした。
「こんな感じで生地に気泡が出来てきたら火が通ってきた証拠なので、たこ焼きのときと同じように広がってる分に切り込みを入れていきます」
悠利は慣れた手つきで、テキパキと穴の周囲の部分を十字に切るようにしていく。それぞれの穴の周りにぴろんと端っこが出来るような感じだ。切り分けたら次はその端っこの部分を穴の中にたたむようにして押し込んでいく。押し込んだ後、ぐるんと生地をひっくり返す。
その一連の作業を見ていた誰かが「たこ焼きと完全に同じだ……」と呟く声が聞こえた。まさにその通りなので、悠利は別に何も言わなかった。そのまま、他の部分も同じように端を押し込んでから生地をひっくり返していく。
「こんな感じでひっくり返したら焼けるのを待って、焼けてきたら状態を確認しつつコロコロ転がして綺麗な形にします」
「全部綺麗に焼けたらおしまい?」
「うん。焼き上がったらお皿に取り出してね」
「解った!」
それなら自分達でも問題なく出来るな、みたいな雰囲気のヤックに皆がつられたように笑った。何ともほっこりする光景である。
そこから先は、フライパンの状態を確認しながら皆でせっせとミニアメリカンドッグを作っていく。やはりどうせなら綺麗に仕上げたいという気持ちがあるのか、全体がきちんと焼けるように転がす姿は実に真剣であった。
場所によって火の通り具合も異なるので、よく焼ける場所の分が完成したら火の通りが悪そうな場所のをそこへ引っ越すという作業のオマケ付きだ。そのあたりもたこ焼きで慣れているので、特に悠利に説明されずともやってのける仲間達であった。
しばらくして、全てのミニアメリカンドッグが完成したので、ひとまず味見、実食のターンである。三枚のフライパンで作ったので全員に行き渡るだけの量が作れている。
熱いのが平気な面々は串に突き刺してそのままで。熱いのが苦手な面々は小皿にとって串で。全員の手元にミニアメリカンドッグが行き渡ったのを見てから、悠利は笑顔で告げた。
「それじゃあ、ひとまず何も付けずに味見をお願いします。火傷に気をつけてくださいね」
その言葉に皆はこくりと頷いて、思い思いにミニアメリカンドッグを口に運んだ。悠利もフーフーと息を吹きかけて少し冷ましてからそっと囓る。
最初に感じるのは、しっかりと焼いた生地のさくりとした食感だ。固いと言うほどではない。しかし、確かにサクッという感じがあった。次に伝わるのは中の生地の柔らかさだ。ふわふわとした柔らかさではないが、外側に比べると明らかに柔らかく簡単に歯が沈んだ。
最後に、一口サイズにカットされたウインナーが満を持して登場する。皮が薄めのものを選んだので、簡単に噛める。噛んだ瞬間にじゅわりと肉汁が口の中に広がって、それが生地にも伝わって調和する。
生地はホットケーキミックスっぽいものを作ってもらったおかげもあって、ほんのりと甘い。物凄く甘いわけではないが、上品で落ち着いた優しい甘さが口の中に広がる。その甘さとウインナーが伝えてくる肉の存在感がいい感じに調和してくれるのだ。甘塩っぱいに近いかもしれない。
悠利の記憶している揚げたアメリカンドッグとは少し違うが、これも間違いなく美味しい。ルシアの凄さを悠利は噛みしめる。悠利がふわっと伝えただけでホットケーキミックスのような粉を配合してくれたのだから、実にありがたい。
(上手に出来たから、ルシアさんにも食べてもらおうっと)
うんうんと一人満足そうにしている悠利。そんな悠利以外の仲間達も、満足そうにミニアメリカンドッグを食べていた。
「あー、これは軽食。紛れもなく食事」
「でも何かこう、生地が甘いからおやつ感もある」
「とりあえず、まとめてたくさん食いたくなるな」
「「解る」」
わいわい言いながら食べているのは見習い組の四人だ。なお、マグは一人無言で黙々と食べているが、気に入ってはいるらしい。その証拠に、皆が味見を終えて残っているミニアメリカンドッグに手を伸ばして、ちゃっかり二つ目を食べている。抜け目がない。
彼らが言うように、食べ応えのある生地と肉の存在感を伝えてくるウインナーのおかげで軽食の印象が強い。小腹が空いたときに食べたいな、みたいな感じだ。けれど、ホットケーキミックスっぽい粉で作ったことにより生地がほんのり甘く、その優しい甘さが単なる食事系というにはおやつに通じる何かを感じさせるのだ。分類が難しい。
とはいえ、細かいことはどうでも良いのだ。美味しく仕上がっているということ、それが大事なのである。
「これ、小腹空いたとき用の携帯食に良さそう」
「腹持ちはそれなりに良さそうだよな」
「ラジさんもそう思います?」
「あぁ。パンとケーキの間みたいな感じだから、お腹は膨れそうじゃないか?」
「アタイもそう思います」
味見用のミニアメリカンドッグを食べ終えたミルレインが呟けば、ラジがそれに賛同する。同意してもらえたのが嬉しかったのか、ミルレインは満面の笑みでラジと向かい合っていた。
鍛冶士は身体が資本な体力仕事なので、ミルレインがおやつに求めるのはボリュームだったりするのだ。お菓子が食べたいという気持ちより、夕飯までにお腹が持たないので何かを食べたいという感じである。
そして、ラジもまた身体を動かす前衛職というのもあって、食べ応えとか腹持ちという部分に意識が向くらしい。まぁ、彼の場合は甘いものが苦手なので、元々お菓子を食べるというのにそこまで興味はないのだが。お腹がすくので軽食に何かをつまむ、の方が多いのだ。
そんな彼らの傍らでは、ロイリスは皆が一口で食べるミニアメリカンドッグを二口ほどに分けて食べていた。種族特性で外見が幼いロイリスは口も小さいので、ちょっとずつ食べるのである。その彼にしても、小さくて食べやすいミニアメリカンドッグはお気に召したようだった。
「甘い生地とウインナーの組み合わせってどうなのかと思いましたけど、食べてみると美味しいですね」
「そうねぇ。甘いのと塩気があるものの組み合わせって、意外と美味しいのね」
ロイリスの隣でそんなことを言っているのはマリアだった。彼女は作り手としては参加していないが、作業の流れを確認するためにこの場にいたのである。妖艶美女のお姉様は体力勝負の前衛職なので、流れるように残っていたミニアメリカンドッグに手を伸ばしていた。そんな姿も妙に艶めかしいのがマリアである。
今作っている分は居合わせた面々のおやつも兼ねているので、残りに手を出しても誰にも怒られない。それに、生地もウインナーもまだたっぷりと残っている。練習をしなければいけないので、食べる分はこれからいっぱい作られるだろう。
そんな中、とても元気な声が響いた。レレイだった。
「お代わり、お代わり作ろう!」
「レレイ、お代わりを作るのが目的じゃなくて、作る練習するのが目的なんだぞ?」
「解ってるよ。でも、作ったら食べるでしょ?」
「それはそうだけどな……」
うきうきでフライパンを温め、油を塗り、新しい生地を流し込んでいるレレイ。やる気に満ちているのは良いのだが、やる気の方向性が違うんじゃないか? みたいな顔をしているクーレッシュだった。安定のレレイ。
レレイに触発されたわけではあるまいが、他の面々も続きを作る準備に取りかかっていた。役割を交代し、先ほどと違う作業をやってみるようにしている者達もいる。本番当日までにきっちり綺麗に作れるようにならなければいけないからだ。
そんな風に準備にいそしむ仲間達を横目に、悠利はお代わり分はケチャップ付けてみようかな? と考えるのでありました。ついでにマスタードも用意して、欲しい人には試してもらおうと思った。アメリカンドッグというと、このあたりが塗られているイメージがあるので。
とはいえ、何も付けずに食べても問題なく美味しかったので、当日はそのままで販売しようと決意した。一口サイズのミニアメリカンドッグを紙袋に入れて提供するのを考えると、ケチャップやマスタードを付けるとべちゃっとなってしまうからだ。持ち帰りのお客様に、家で食べるならそういうものを付けても美味しいですよとご案内するにとどめようというのが結論である。
テイクアウトとなると色々考えなきゃいけないなぁと思う悠利だった。お店をやるって大変だ、と。まぁ、それでも皆と色々出来るのが楽しくて仕方ないのだけれど。
「油を塗るのだけは忘れないでくださいねー」
「「解ってるー」」
「「はーい」」
頑張って練習に励む仲間達に、悠利が注意点を告げれば、元気な返事が響いた。出店に向けての練習と、自分達でおやつを作るレクリエーションとが混ざったような状況を楽しんでいる仲間達。その姿に、悠利も自然と笑みを浮かべるのでした。
なお、ケチャップやマスタードを付けると雰囲気が変わると言うことで、そちらも皆に好評でした。美味しいの可能性はいっぱいです。
ご意見、ご感想、お待ちしております。
なお、感想返信は基本「読んだよ!」のご挨拶だけですが、余力のあるときに時々個別でお返事もします。全部ありがたく読ませて頂いております!





