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最強の鑑定士って誰のこと?~満腹ごはんで異世界生活~  作者: 港瀬つかさ
書籍25巻分

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販売メニューの考案です

 お祭りに出店すると決まったならば、やらなければならないことがある。それは、何を出店するかを決めることだ。つまり、メニューの相談である。

 悠利に料理祭への参加を打診された仲間達は、意気揚々と相談に参加していた。なお、本格的に参加する若手と違って表だっては参加しない大人組は、打ち合わせをする若手の姿を微笑ましそうに見守っていた。視線が大変温かい。


「とりあえず、持ち帰りか食べ歩きが出来る感じの料理が良いとは思うんだよね」

「はいはい! オイラ、コロッケが良いと思う!」

「コロッケ……?」

「小さな紙袋に入れたら一つずつ持ち運べるし、その場で食べられるよ!」


 どういう料理が良いかのざっくりとしたアイデアを悠利(ゆうり)が告げると、ヤックが元気よく挙手をして意見を出してきた。名案だと思う! みたいな満面の笑みだ。ヤックはコロッケが大好きなのである。

 確かに、コロッケは食べ歩き料理としては現代日本でも定番ポジションを確保している。観光地や道の駅などに行くと、ご当地食材を使ったコロッケがばら売りされている。悠利もよく買っては熱々の揚げたてを堪能していた。

 そういう意味では確かに、コロッケは今回のテーマに合っているかもしれない。しかし、悠利は少し考えてから頭を振った。却下の意味を示す行動に、ヤックは何で!? と言いたげに驚いている。

 そんなヤックに、悠利は自分がどういう判断を下したのかを丁寧に説明する。


「確かにコロッケは持ち運びしやすいけれど、大量に作るとなると準備が大変だよ。お祭りの出店スペースで揚げ物を作るのも、周囲への影響が出ないようにしないとダメだし」

「……う」

「あと、コロッケってどうしても冷めちゃうと美味しくないってのもあると思うし、かといって熱々のままだと火傷の心配もあるしねぇ」

「……そっかぁ」


 しょんぼりと肩を落とすヤックと、慰める見習い組の姿があった。コロッケが美味しいのは彼らも知っている。紙袋に入れて渡せば、食器いらずでそのまま食べられるのも解っている。しかし、慣れないお祭りの会場でちゃんと作れるかと言われるとちょっと難しいのかと理解したのだ。

 とはいえ、ヤックの考え方は悪くない。手軽に食べられる料理という発想は間違っていないのだ。だから、悠利はその点はヤックを褒めた。


「コロッケでお店を出すのは僕らにはハードルが高かったけど、考え方そのものは悪くないと思うよ。手軽に持ち運んで食べ歩き出来そうって意味では間違ってないからね」

「ユーリ……」

「そういうわけで、提供するときに崩れやすそうなものや、汁気の多いものは避けた方が良いかなって僕は思うんだ。他に何かアイデアあるかな?」


 却下されたとはいえ、コロッケが食べ歩きに適した料理である理由を皆は理解した。ならば次は、そんな感じで手軽に食べられる料理を考えるまでである。

 なお、今の流れでスープ系が全滅したので、マグのやる気ゲージが一気に下がっていた。建国祭のときに行商人のハローズおじさんが味噌汁の屋台をやっていたので、自分達も出汁をふんだんに使った料理を提供すれば良いと思っていたらしい。

 ……ちなみに、基本的に無口で無表情なマグなので悠利達には何を考えているのか解らないが、彼がぼそりと呟いた「出汁……」という一言からその辺をくみ取ったらしいウルグスが小言を口にしたので皆にも通じたわけである。今日も通訳は手堅く仕事をしております。

 とりあえずマグは放っておこうと決めた皆は、何か良いアイデアはないものかと記憶を探る。なお、悠利も一生懸命考えている。悠利の場合は逆に、現代日本で色々と食べ歩きをした経験が邪魔をしている。あれもこれも湧いてきて、絞れないのだ。


「たこ焼きとか面白そうだとは思うんだけどなー」

「へ?」

「いや、中身はタコじゃなくて良いんだけど」


 唐突にカミールが告げた言葉に、悠利は目を点にした。何で今の流れでたこ焼きが出てくるのかが解らない。いや、確かにたこ焼きは食べ歩きや持ち帰りの存在する料理ではあるのだが。

 そんなカミールに、コロッケにダメ出しをされたヤックが真顔で告げる。


「でもカミール、たこ焼き運ぶの大変じゃない?」

「何かこう、小さな紙箱みたいなのに入れたらどうかなって」

「でも、串で食べるの難しいよ、たこ焼き」

「うぐ……」


 ヤックのツッコミに、カミールは言葉に詰まる。聞いていた仲間達も、その通りだと言いたげに頷いていた。たこ焼きは美味しいし、物珍しさで売れるかもしれないが、食べるための道具が難しい。

 箸やフォークで食べるならまだしも、持ち帰りを想定するなら串を付けることになるので、食べにくいのではという意見である。現代日本でもたこ焼きは爪楊枝が添えられていることが多いが、意外とアレ食べにくいんだよなぁと思う悠利であった。上手にバランスを取らないと、すぐに落ちてしまう。

 そもそも、たこ焼きも冷めてしまうとあんまり美味しくない料理である。熱々を提供するにはその場で調理をする必要があるだろう。まぁ、そちらに関しては揚げ物よりはハードルは低いだろうが。

 悠利が気になったのは、カミールがそのあたりの事情を考えていないとは思えなかったからだ。普段はともかく、商売が絡んだときのこの少年の頭の回転は目を見張るものがある。実家が商家であり、門前の小僧状態でずっと育ってきた彼には商売に関する嗅覚みたいなものもあるのだ。

 だから、悠利は素直にカミールに理由を問うた。何故たこ焼きを出してきたのか、と。


「カミールはどういう理由でたこ焼きを選んだの?」

「え?」

「串じゃ食べにくいとか、熱々を提供しないとあんまり美味しくないとかは、カミールなら解ってるよね。それなのに、どうして?」

「えーっと……」


 悠利に静かに問われて、カミールは視線をきょろきょろとさまよわせた。……それというのも、仲間達の視線が一心に注がれているからだ。それまでざわざわしていた雑談すらも消えてしまい、皆がカミールの発言に注目している。

 そんな風に見るなよぉ! みたいな表情をしつつも、カミールは自分が考えたことを口にする。


「いやその、俺はさ、目の前で調理してたら客引きになるかなーって思ったんだよ」

「はい?」

「たこ焼きを作るあの穴の開いたフライパンって、面白い形してるだろ? で、それで見たこともないものを作ってるってなったら、お客さんを呼び込めるかなって……」

「……」

「あと、やっぱりほら、焼いてる匂いとかでこう、客寄せになるかなぁ……って」


 皆の視線が突き刺さるので、最後の方はぼそぼそっとした言葉になっていた。それでも言いたいことは言ったのか、カミールはそれ以上は言葉を重ねることはなかった。

 カミールの発言をしばらく噛みしめていた周囲は、次の瞬間盛大にため息をついた。お前さぁ、と声に出したのはウルグスだったが、皆が似たような表情をしていた。


「な、何だよ、ウルグス……」

「いやお前、それもう完全に考え方が商人……」

「出店するって言ってんだから、間違ってないじゃん!」

「間違ってないけど、そこまで考えてんのすげーとは思うけど、お前本当に何なんだよ」

「トレジャーハンター目指してる見習いだよ」

「説得力ねぇんだよ!」


 ウルグスのツッコミに、皆は確かにと言いたげに頷いた。この状況ではとても頼りになるアイデアの出し方なのだが、どう考えても思考回路が商人のそれである。俺は別に商人を目指してるわけじゃないしとカミールはうそぶいているが、やっていることは完全に商人のそれである。

 そんな二人のやりとりを見ながら、悠利は考えていた。カミールの言うことにも一理ある。やはりこう、目の前で調理していると人は興味を引かれるものである。普段食べているものでも、屋台で調理しているとついつい欲しくなってしまうあの気持ちだ。

 それに、確かにこの世界においてフライパン型たこ焼き器の存在は珍しいだろう。何せ、悠利が錬金釜に使わないフライパンをぶち込んで作った特注品である。《真紅の山猫スカーレット・リンクス》の仲間達以外は存在すら知らない一品だ。

 お店を出すと言うことは、良いものを作って売るだけでは終わらない。マーケティングは大事である。いかにして客を呼び寄せるかは大変重要なことなので、そういう意味でも実演販売っぽくその場で作るのは有効だろう。

 問題は、たこ焼きは(中身をタコ以外の皆が食べやすい食材に変えたとしても)食べにくそうだということである。コスト面を考えても、串ならともかく箸やフォークを提供するのは赤字が怖い。どれだけ売れるかも解らないし。

 うんうん唸りながら、悠利は記憶の中のレシピやら何やらを一生懸命思い出していた。たこ焼き器で作れるものは意外と色々あるのだが、お手軽に作れて持ち運びできるものというので頑張って考えているのだ。とりあえず、シュウマイは違うと自分にツッコミを入れておく。

 少し考えてから、悠利は一つ使えそうなレシピを思い出した。たこ焼き器で作るというパフォーマンスが出来て、持ち運びが簡単で、串で食べやすくて、少しぐらい冷めても大丈夫そうな料理だ。


「ミニアメリカンドッグっていう料理があるんだけど、それなら出来るかもしれない」

「ミニ、何て……?」


 聞き慣れない名称に、クーレッシュが眉を寄せながら問い返す。そんな彼に悠利は詳しい説明を始めた。……どうか誰も、アメリカンという部分にツッコミを入れないでね、と思いながら。異世界にアメリカはないので。


「アメリカンドッグっていう、甘めの生地で作った衣の中にウインナーとかを入れた軽食があるんだよ。それは揚げて作るんだけど、家庭で簡単に一口サイズで作るときは揚げずにたこ焼き器で焼いたりするアレンジがあるんだ」

「はい! それはご飯ですか!」

「食事かお菓子かって言われると区分はお菓子だと思うけど、スイーツっていうよりは小腹を満たす軽食の方が近いと思うよ」

「なるほど。ウインナーだもんね!」


 悠利の説明を聞いていたレレイが元気よく挙手をして質問をし、悠利はその意図をくんできちんと答えてあげた。その返答に満足したのか、レレイは美味しそうだね! と満面の笑みを浮かべている。ウインナーはお肉なので、肉食系の大食い娘の心の琴線に触れたらしい。

 皆に説明した通り、本来のアメリカンドッグは串に刺したウインナーなどに甘めの味のする衣を付けて揚げた料理だ。ご家庭でも揚げて作る場合はあるが、たこ焼き器を使って作る場合は揚げずに焼くのである。というか、作り方はほぼたこ焼きと同じである。

 悠利がこのミニアメリカンドッグを提案したのは、たこ焼きなら皆が作れるからというのもある。また、比較的柔らかく崩れやすいたこ焼きに比べて、生地が硬めなので作りやすいというのもあった。

 とりあえず悠利の説明を聞いた皆は、そういう料理もあるのかとふむふむと頷いている。そこへ更に、何故コレを選んだかの詳細を伝える悠利。


「固めのパンケーキとかみたいな食感だから、串で食べやすいと思うんだよね。一口サイズだから幾つかを紙袋に入れて、串を一本刺して渡したらちょうど良いかなって思うんだ」

「流石ユーリ! 俺の考えたことも拾ってくれて助かる!」

「カミールの視点は、出店するって考えたらとってもありがたかったからねー。おかげで僕も思い出せたし」


 やったー、メニュー決まったー! みたいな感じでハイタッチをする悠利とカミール。つまり軽食系で行くんだな、と大多数は納得したようだった。たこ焼き器で作るのも楽しそうだなという雰囲気が広がっている。

 これで一安心だと思った悠利であったが、そうは問屋が卸さなかった。もとい、納得していないお人がいた。


「ちょっと待って! それじゃあ、食事系だけになっちゃうじゃない!」

「「……え?」」


 異議あり! と言わんばかりに声を上げたのは、ヘルミーネだった。スイーツをこよなく愛する羽根人の美少女は、憤懣やるかたないといわんばかりの表情で悠利を見ていた。何やら背後に炎が燃えている。満足していないのが丸わかりだ。


「……えーっと、ヘルミーネ? どういうこと?」

「せっかくお店を出すのよ? 食べ物なのよ?」

「うん、そうだね。だからこうしてメニューを皆で考えて……」

「新しいお菓子が食べられるって思ってたのに!!」

「そこぉ!?」


 ひどいひどいと訴えるヘルミーネに、悠利は思わず素っ頓狂な声で叫んでしまった。いや、悠利でなくてもそんな反応になるだろう。完全に私利私欲優先だった。

 ぷぅと頬を膨らませるヘルミーネ。何もそんなにムキにならなくても……と思っていた悠利は、そんな彼女の背後に同意見だと言うようにちらほらと佇む仲間達の姿を確認した。何で? と思わず変な声が出る。

 ふてくされているヘルミーネに変わって口を開いたのは、申し訳なさそうな顔をしたロイリスだった。実に珍しい。普段基本的に控えめに騒動に加わらずに生きているハーフリング族の細工師の少年がこんな行動に出るなんて、明日は雨だろうかと思ってしまう悠利だった。


「えっと……、別にヘルミーネさんに便乗するわけじゃないんですけど、僕も食事系じゃなくてお菓子系かなって思ってたので……」

「そのミニアメリカンドッグっていうのも美味しそうだとは思うけど、もうちょっと軽く食べられるやつが良いんじゃないかって僕も思う」

「そう! その通りよ、二人とも! 良いこと言うじゃない!」

「うわぁ……」


 ロイリスの発言を補足するように口を挟んできたアロールの姿に、その二人の意見に我が意を得たりとばかりに威張るヘルミーネの姿に、悠利は思わず遠い目になった。クール系十歳児の僕っ娘は普段こういうときに口を挟まないのに、どういう心境の変化だろうか。しかも、口は挟んでいないが、イレイシアやマリアも同感らしい。どうやら軽食系だけではダメなようだった。

 別にミニアメリカンドッグだけで良くない? みたいな反応をしているのは、男性陣を中心としたメンバーだった。ウインナーが入っていて、一口サイズで、衣がついていて食べ応えもある。何か問題あるんだろうかと言いたげである。

 そんな中、妙に神妙な雰囲気で「なるほど……」と静かに呟いた人物がいた。カミールである。


「……カミール?」

「確かに、食事系だけだと客層がそっちだけになるもんな。どうせなら、別の客層も引き込めるような軽く食べられる甘いものがあっても良いかもしれない」

「……あの、カミール?」

「片方だけだと集客に不安があっても、両方あればどちらかで客を呼んで、ついでにもう片方も買ってもらうことも可能かもしれないもんな。客への説明文句を考えないと……」

「カミール、とりあえず落ち着いて」

「俺は落ち着いてるぞ? ヘルミーネさんと違って」

「……そうだね」


 落ち着いた上で、どうすればよりよく集客できるかを考えているだけである。商人の息子の性が遺憾なく発揮されていた。お前普段よりやる気満々じゃね……? というウルグスのツッコミは届いていない。

 こうなると、何かもう一つメニューを考えなければならないらしい、と悠利も腹をくくった。ただし、既に決定しているミニアメリカンドッグの邪魔にならないようにしなければならない。

 どういうことかと言うと、あちらをお祭り会場で調理すると決めている以上、もう一つは作り置きが出来るものである方が望ましいのだ。二種類の調理をしようと思うと場所の確保も大変だし、何より作業する人手も必要になる。その手間は省きたいのだ。

 幸い、お菓子系のものは作り置きが可能な場合が多い。前日までにアジトで作り上げ、

包装も済ませておけば、当日は販売するだけで良い。自分達でも簡単に作れて、大量に仕込めるもので、ヘルミーネを満足させられるような何か。悠利は必死に脳内のレシピを検索していた。

 勿論、手軽に持ち運べるもの、食べ歩きに適しているものであるというのは大前提だ。まぁ、作り置きが出来るお菓子の場合は、この手の条件を満たせることが多いので問題はないだろう。

 うんうんと唸る悠利。その周囲で仲間達も同じように考え込んでいた。美味しいお菓子は色々と知っているが、自分達でも作れて、お祭りで出せるようなものは何かあっただろうかという雰囲気だ。やはり、自分達で作るというのがネックになっている。

 そんな中、思いついたと言いたげに手を上げたのはレレイだった。一応自分のポジションは護衛担当だと理解しているが、それはそれとして参加者として一生懸命考えていたらしい。


「はいはい! 建国祭のときに売ってたフルーツ串はどうかな! アレならいっぱい作れるし、色んな種類で選ぶ楽しみあるし!」

「フルーツ串? 何で?」

「だって、アレなら簡単に作れそうだから!」

「……それは確かに」


 元気印のお嬢さんは今日も元気いっぱいだった。満面の笑みでレレイが告げる言葉に、確かにそれはそうだと悠利は頷く。悠利以外の面々も一理あると言いたげな雰囲気になっていた。

 ちなみに、建国祭のときに売っていたフルーツ串というのは、食べやすい大きさにカットした果物を串に刺したものだ。手軽に食べられるし、水分補給にもなるし、レレイが言ったように選ぶ楽しみもあってわくわくしたのを悠利も覚えている。

 ただ一つひっかかるとすれば、独創性がないところだろうか。果物を切って串に刺すだけというシンプルさであるからこそ、客を呼び込めるようなインパクトが見当たらない。もしかしたら他にも同じものを提供するお店があるかもしれないし。

 そんな風に考え込んでいる悠利をそっちのけで、ヘルミーネが別方向からストップをかけた。


「確かにフルーツ串は美味しいけど、お菓子じゃないじゃない!」

「でも果物はおやつになるよ!」

「そうだけど、そうだけど、物足りないじゃない!」

「ヘルミーネ、わがまま!」

「わがままじゃないわよ!」


 ぎゃーぎゃーと言い合うヘルミーネとレレイ。騒々しいお嬢さん二人を、クーレッシュとラジが慣れた様子で部屋の端の方へと誘導していた。喧嘩するならそっちでやってくれと言わんばかりの行動である。手慣れているのが微妙にもの悲しい。

 とりあえず悠利は、ヘルミーネの言い分を吟味した。確かにフルーツ串は美味しいが、彩り鮮やかで見栄えもするが、お菓子かと言われると多分分類は違う。おやつではあるけれど。ヘルミーネが求めているのはお菓子なのである。


「けどまぁ、フルーツ串のアイデアは悪くないよな。確か、ユーリの手持ちに収穫の箱庭の果物いっぱいあるんだろ?」

「え? あ、うん。定期的に皆で食べてるけど、まだ在庫はあるね」

「ダンジョン食材の果物で作るってなると、それだけでも美味しいのは約束されてるよな。オマケにユーリが貰ってくるやつとなると、更に美味いし」

「あははは……」


 ウルグスの言葉に、悠利は困ったように笑った。確かにその通りだった。食材が色々と手に入る採取系ダンジョン収穫の箱庭のダンジョンマスター・マギサは、友人である悠利にお土産として色々な野菜や果物をプレゼントしてくれるのだ。そしてそれが、ただでさえ普通のものより美味しいダンジョン食材の、更に上澄みと言える大変美味しいものばかりなのだ。

 ぶっちゃけ、下手に加工しなくともそのまま食べるだけで極上の味わいである。ルシアのような一流のパティシエさんならば、更に美味しく仕上げることが出来るだろうが。素人の場合は、特にいじることもなく素材の味をそのまま提供するだけで絶品になるという素晴らしい食材だ。

 そう、このアドバンテージを生かすことが出来れば、他との差別化は図れるはずだ。しかし、フルーツ串では今ひとつお菓子としての魅力に欠けるというヘルミーネの言い分も解る。そこをどうにか出来ないだろうかと悠利は記憶を探る。

 探って、そして、一つの答えにたどり着いた。


「そっか。フルーツ飴にすれば良いんだ」

「フルーツ飴? 何だそれ」

「串に刺した果物を飴でコーティングするお菓子だよ。パリパリした薄い飴に包まれた果物を楽しむ感じの」

「作り方は?」

「串に刺した果物に、鍋で作った飴を絡めて冷やして固めるだけ。作り置きも出来るし、販売するときもそのまま渡せば良いよ。包装が必要な人にはその場で袋に入れれば良いし」

「なるほどなぁ。そういうお菓子あるのか」


 感心しているウルグスに、悠利はにこにこ笑って「僕の故郷だとお祭りの定番だったりするよ」と告げた。昔は大きなリンゴ飴しか見かけなかったが、最近は色々な果物の飴が売っていて、何があるかを選ぶのが楽しいのだ。一口サイズで食べやすいものもあった。

 そんな風にのほほんとしていると、突然がしりと肩をつかまれた。何事かと思って悠利が振り返ると、真剣な顔をしたヘルミーネがそこにいた。……どうやら、レレイとの口論中にフルーツ飴という単語を聞きつけたらしい。お菓子が絡むと地獄耳すぎる。


「そのフルーツ飴って美味しいの?」

「……えーっと、飴と果物の味を堪能するシンプルなお菓子なので……」

「美味しいの?」

「……とりあえず、使うのがマギサの果物なら、そこの味は保証されます」

「じゃあ、それも作りましょう!」

「……あ、はい」


 俄然乗り気になったヘルミーネに押されつつ、悠利は仲間達にそれで良い? と視線で問いかける。別に良いんじゃないかという感じの雰囲気になったので、ほっと一安心だった。

 一応これで、食事系とお菓子系の二種類の料理を作ることが決定した。当日はミニアメリカンドッグの調理を行い、フルーツ飴は前日に大量に作っておく。売れ残った分は皆のおやつにしてしまえば良いので、そこまで気負う必要はないだろう。


「って感じだけど、カミールはどう思う?」

「いいと思う。ミニアメリカンドッグの調理で物珍しさや匂いで客を呼んで、フルーツ飴の見栄えの良さで別の客層を引き込めると思う。食事系と甘いものの二種類なら、上手に接客したら両方買ってもらえるかもしれないしな」

「……やる気満々だねぇ、カミール……」

「やるからには黒字を目指そうな、ユーリ!」


 それはもうやる気に満ちた煌びやかな笑顔を向けてくるカミール。そんな彼の姿を見て、やっぱり商人なんだよなぁ、と思う悠利達だった。もはや染みついているので今更どうにもならないのかもしれない。三つ子の魂百までである。

 ……ちなみに、仲良く相談をしている悠利達は知らなかったが、フルーツ飴の話題が出た瞬間にガタッと立ち上がったブルックは、近くにいたアリーとヤクモに肩を押さえられて座らされていた。安定の甘味が大好きな剣士殿である。




 メニューが決まり、お祭り参加に向けてやる気満々になる悠利達なのでした。皆で協力して頑張ります!





ご意見、ご感想、お待ちしております。

なお、感想返信は基本「読んだよ!」のご挨拶だけですが、余力のあるときに時々個別でお返事もします。全部ありがたく読ませて頂いております!

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クロスオーバー始めました。「異世界満腹おもてなしご飯~最強の鑑定士サイド~
ヒトを勝手に参謀にするんじゃない、この覇王。~ゲーム世界に放り込まれたオタクの苦労~
こちらもよろしくお願いします。ゲーム世界に入り込んだゲーオタ腐女子が参謀やってる話です。
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「最強の鑑定士って誰のこと?~満腹ごはんで異世界生活~」カドカワBOOKS様書籍紹介ページ
1~24巻発売中!25巻10月10日発売。コミックス1~11巻発売中。電子書籍もあります。よろしくお願いします。
最強の鑑定士って誰のこと?特設サイト
作品の特設サイトを作って頂きました。CM動画やレタス倶楽部さんのレシピなどもあります。

cont_access.php?citi_cont_id=66137467&si
― 新着の感想 ―
ベビーカステラとか出来るんじゃね?ってちょっと思ってしまった 錬金釜さんなら鉄の塊とたこ焼きフライパン突っ込めば作ってくれそう
更新お疲れ様です。 出汁を使いたいなら出汁巻き卵や焼きおにぎりでアピールしていこう
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