水棲ダンジョンの困りごと
自己紹介とこのダンジョンの方針が解ったところで、本題であった。
「それでは改めて、今このダンジョンに何が起こっているのかを説明させていただきます」
そう告げて、ニコレットは話し始めた。なお、立ち話もなんだからということでテーブルと椅子を出してくれたので、悠利達はそこに腰掛けている。
「まず、ダンジョンそのものは特に不具合は発生していません。ご覧のように、ダンジョンコアの力も満ちていますし」
「そのようだな。その上で、呼ぶ対象にイレイシアを選んだことに理由があるとみたが?」
「私が助けを必要としているのは、海神様の加護を持つ人魚なのです」
「海神様の加護ですか?」
ニコレットの言葉に、イレイシアはこてんと首をかしげる。確かに彼女は人魚で、人魚には守護神とも言うべき海神の加護が与えられている。これは有名な話で、人魚に手を出せば海神より神罰が下るとまで言われるほどだ。
ニコレットも元人魚なので、イレイシアから海神の加護を感じたのかもしれない。悠利達にはさっぱり解らないものだが、同族なら感じる何かがあるのかもしれない。あるいは、ダンジョンマスターになったことで、そういった力に対して鋭い感覚を手に入れたのかもしれない。
とはいえ、理由は別にどちらでもよい。今重要なのは、ニコレットが必要としているのが物理的な何かではなく、海神様の加護ということだ。もしくは、加護を受けた存在か。
何やら話がちょっと不思議な方向に転がりそうだな、と悠利は思った。この場合、【神の瞳】さんのハイパーミラクルな鑑定を使って悠利がお手伝いできることが、少ない気がしてきた。もっと物理的な何かであったなら、【神の瞳】さんの力でババーンとお手伝いできるのだが。
じゃあ僕は待機組かーと思いながら、悠利は構ってと言わんばかりに腕の中に飛び込んできたルークスを抱き止めた。そのまま、なでなでと可愛いスライムをなでまわす。手持ちぶさたなので。
ちなみに話の内容的に自分は関係ないと理解したクーレッシュは、持参した地図と自分が歩いてきたルートを照らし合わせるようにして、新しい地図を書いている。別段古い地図が間違っているわけではない。今回は別に、特に拡張などはされていなかったらしい。
ただ、ナビゲーターというマッピングを生業とする職業に就こうとしているクーレッシュなので、これもまた練習の一つなのだ。自分が歩いてきたルートを、正しく地図に書き起こすというのはなかなかに難しい。
そんなクーレッシュの作業を、ラジが隣に座って見ている。相変わらず器用だなぁ、などと雑談をする二人。同い年の同性ということもあって、彼らは実に仲が良い。斥候を得手とするクーレッシュと、前衛を得手とするラジの二人だ。組んで依頼に出かけることもあり、そのときはとても仕事がやりやすいのだとか。適材適所の良い例だ。
「このダンジョンは水棲ダンジョンとして知られていますが、湖の水源を司る秘宝があるのです。そしてそれは、ダンジョンコアの力で生み出したものではありません」
「どういうことだ?」
「古い話です」
そう言って、ニコレットは説明を続けた。
それは、昔々の話だった。この辺りにまだこのダンジョンが存在しなかった頃、ウルム湖という湖もまた存在していなかった。そして、この辺りは水源を持たぬただの陸地であったという。
人々は、井戸を掘り、地下水をくみ上げることで何とか生きながらえていた。雨水が溜まる小さな池のようなものはあったが、大きな湖や川などという恒常的に水を補給できる場所がなかったのだ。
そんなあるとき、何かの力の影響によってこの地にダンジョンコアは生まれた。
ダンジョンコアの発生に関してはまだまだ未知なことが多く、どういった経緯で発生するかは誰にも解っていない。ただ解るのは、ここにダンジョンコアが生まれ、ダンジョンを作り始めたということだ。
そのとき、ダンジョンコアの傍らには海神の力を封じた秘宝、水を生み出す加護を与える宝玉があった。その宝玉の近くにダンジョンコアが生まれ、ダンジョンコアは宝玉を取り込む形でダンジョンを形成した。
己を守るために祠のような建造物を作り、周囲の者達が簡単には立ち入れないように湖を作った。それは、本来ならまだ力をほとんど蓄えていないダンジョンコアが生み出せるものではない。それでも難なく後にウルム湖と呼ばれる湖を生み出せたのは、海神の加護を宿した宝玉のおかげであった。
そして、その湖から枝分かれする形で川が生まれ、その川は周囲に住む人々の生活用水となった。宝玉の影響なのか、それともこのあたりの気質の影響なのか、ダンジョンコアは周囲の生き物達との共存を願った。
水がなく、生きるのが大変なこの土地に豊かな水を与えれば良いのだと。そして、そうやって水を与え続ける限り、ここに自分がいることが許されるであろうと。だからこそウルム湖の湖畔はとても穏やかで、悠利のような戦闘能力を持たない者もピクニックと称して足を踏み入れられるのだ。
また、この地が水棲ダンジョン豊水の源流と呼ばれるのではなく、ウルム湖やウルム湖周辺などと呼ばれるのにも理由があった。
ここはダンジョンだが、そうと知る者でなければダンジョンと認識はしない。観光マップみたいなものに、最後の注意書きとしてダンジョンと書かれる程度の、人々の生活の中ではあくまでも豊かな水を湛えた湖として認識されているのだ。
「そうして生まれたこのダンジョンは、ウルム湖周辺に訪れる人々や、湖から流れる川に触れる人々からエネルギーを貰うことで、今日まで生きながらえています。ダンジョンコアのエネルギーはそうして回収できても、始まりのとき、水の加護を与えてくれた宝玉に関してはそうではないのです」
そこで言葉を切って、ニコレットは静かな表情でイレイシアを見る。そこに宿るのは真剣な表情。彼女が何か覚悟を持っていると理解できるものだった。
「かつてこのダンジョンにいたダンジョンマスターは、ダンジョンコアが生み出したものでした。けれど、宝玉に力を注ぐことでその存在をすり減らし、新たなダンジョンマスターを求めることになりました。そして私は、この地へ召喚されたのです」
「では、コレットさんは二代目のダンジョンマスターということなのですか?」
「そうなります。当時の私は瀕死の重傷を負っており、ダンジョンコアによって命を救われた形になります。ダンジョンコアは海神様の加護を持つ私の力を必要とし、私はダンジョンコアによって命を救われたということです」
ニコレットの話は、悠利達にとってはにわかに信じ難いものだった。だが、彼女本人がそういう経緯でこのダンジョンに招かれたと言うのなら疑う理由はない。
そして、今困っているのがその秘宝の力がすり減っているからだということを理解した。だからこそ、人魚であるイレイシアの力を必要としているのだと。
……なお、悠利達に気を許しても良いと思ったのか、ニコレットは愛称のコレットで呼ぶことを許してくれた。アリーは本名で呼んでいるが、悠利やイレイシアなどは友好の証しとして彼女をコレットと呼ぶように心がけている。
そんな風に気を許してくれたニコレットの力になるべく、イレイシアは状況を確認するように口を開いた。
「それではわたくしは、その秘宝に力を与えるお手伝いをすれば良いということなのでしょうか?」
「そうなります」
そこで、イレイシアは困惑したような顔になる。ニコレットが秘宝に力を与えることが出来たのは、彼女がダンジョンマスターとなっていたからだろう。ダンジョンマスターとダンジョンコアは繋がっているので、ダンジョンコアが秘宝を取り込んでいるというのなら、そこを経由して力を流すことが出来る。
しかし、イレイシアは縁もゆかりもない別の存在だ。秘宝に対して、何一つパイプが存在しない。また、海神の加護が己にあることは知っていても、その加護を意思の力でどうにかして使うことなど考えたことはない。
そんなわけで、どうやって手助けをすればいいのかとイレイシアは困惑しているのだ。そしてそれは、ニコレットの方も同じだったらしい。
「来ていただいてこんなことを言うのはあれなのですが、貴方に与えられた海神様の加護は強く、その力を貸していただきたいとは思いましたけれど、どうすれば秘宝に力を注げるのかが私にも解りません」
「コレットさんにも解らないんですか?」
「ええ、勝手が違いすぎますから」
あと一歩、あと一つ。イレイシアという協力を頼める相手は見つけたというのに、どうすればいいのかが解らない。その困惑をにじませるニコレット。彼女を見て、悠利は傍らのアリーを見た。
「アリーさん、あの僕」
「みなまで言うな」
「やりたいこと、ばれちゃってます?」
「この状況でお前が言い出すことぐらい見当がつく」
今までが今までだからなと言わんばかりのアリーに、悠利は小さく笑った。伝わっているなら話は早いのだ。そして、今の会話の流れでアリーは特に悠利を咎めなかった。それはつまりやってもいいということなのだ。
困っているニコレットを助けるお手伝いが出来る。それも保護者の許可取った上でだ。そうとなれば悠利に怖いものはない。悠利にとって怖いのは、うっかりやらかしてアリーに怒られることなので。
だから悠利は、神妙な顔になっているニコレットに向けて明るい口調で声をかけた。
「コレットさん、僕がお手伝いできるかもしれません。その秘宝を見せてもらうことは出来ますか」
「え?」
「僕とアリーさんは鑑定系の技能を持っているので、秘宝を確認することで、どうやればイレイスが力を注げるかが解るかもしれないんです」
「そんなことが可能なのでしょうか?」
「出来ると言い切れはしませんけど、可能性はあるかなと思います」
今までが今までなのでという言葉は、心の中で付け加えるだけに留めた悠利である。
なお、自分だけでなくアリーにも出来るということをアピールしたのは、自分の規格外っぷりをちょっとでも隠そうという気持ちがあるわけではない。単純に、ぽやぽやとした自分よりは、どっしり構えているクランのリーダーであるアリーの方が信頼されるだろうなという判断であった。
やっぱり悠利は相変わらず、自分のスペックが色々アレすぎるということも、やっていることがちょっと常識の斜め上の方向に突っ走ることも、理解できていない。安定すぎる。
とはいえ、ひとまず悠利の作戦は成功した。ニコレットは少し考えてから、悠利とアリーに向けて深々と頭を下げる。
「そういうことでしたら、是非お二方の力をお貸しください」
「はい」
「心得た」
「秘宝を持ってきますので、少々お待ちを」
二人の返事を聞くと、ニコレットはくるりと背を向けてダンジョンコアの方へと歩み寄る。ピカピカと美しく輝くダンジョンコアは、自分に向けてすっと手を差し伸べてきたニコレットに応えるように光を和らげる。
そして、その柔らかな光がゆるゆると収束したかと思うと、コアの中枢からふわりと、座に収められた宝玉が現れる。両手で抱えるような大きさのもので、その色は青だった。青い、青い、どこまでも深く澄み切った海の色をしている。
その宝玉を大事そうに抱えて、ニコレットは悠利達のもとへ戻ってくる。そっとテーブルの上に置かれた宝玉は、柔らかな光沢を放ち、吸い込まれそうなほどの美しさを持っていた。
だが、よく見ると端の方の色が抜けている。抜けるという表現はおかしいかもしれないが、青が薄くなっているのだ。
「これがその、水を生み出す宝玉ですか?」
「そうです。海神様の加護によって作られ、海神様の加護によって力を得る、いわば海の祝福を受けたものなのでしょう。ですが、残念ながらこの地は海からあまりにも遠すぎます。この湖から流れる川はやがて海へつながるということで接続は保たれていますが、それでもそこから海神様の加護を得るにはいたりません」
そう、ニコレットは告げた。
その話を聞いて、「この湖の先の川って海につながっているんだ-」と悠利はちょっとずれた感想を抱いた。何せ、王都ドラヘルンは内陸にあり、そこから馬車一時間にあるこのウルム湖も、立派に内陸にあるのだ。川はあるが、その川が海に至るまではそこそこの距離があるだろう。そこまで枯れることなくつながっているのは、川そのものの力が強いというよりは、川を大切にする周辺の人々の努力の賜物だろうなと思う。
早い話が、埋め立ててしまえば川はなくなるのである。そうせずに川を維持しているのは、それだけ水源として大切にされているからだろう。そんなことを思いつつ、悠利は美しい青の輝きを放つ宝玉を見る。アリーも見ている。そしてイレイシアはといえば、どこか懐かしげな眼差しでその宝玉を見ていた。
「イレイス、どうかしたの?」
「いえその、この宝玉が海神様ゆかりのものだというのは確かだと思ったのです。懐かしいというか、……どう言えばいいのでしょうか?ひどく安心する気配がしますわ」
正真正銘の人魚である彼女の言葉に、それなら海神の加護が影響しているのは事実なんだなと悠利は思った。何せ元人魚で現ダンジョンマスターのニコレットより、生粋の人魚であるイレイシアの方がそのあたりは敏感そうだ。
何より、イレイシア自身は気づいていないが、彼女は凄まじいまでの海神の加護を受けている。今は一族にかけられた呪いを肩代わりしている結果として並の人魚程度の加護しか残っていないのだが、一族全てに及ぶ呪いを引き取ってなお加護が残る程度には、彼女は守護神である海神に愛された子供なのである。
アリーもその辺の事情は知っているので、この宝玉が海神ゆかりであるということは素直に信じた。まあ、もともと疑う理由などどこにもなかったのだが。
「それでは、ちょっと鑑定させていただきますね。ね、アリーさん」
「ああ」
そして、目と目で会話をする悠利とアリー。鑑定はどちらも行うが、この状況を打開できるであろう何かは、悠利の方が引っ張り出すに違いないという確信が二人にはあった。何せ、アリーの持つ【魔眼】と悠利の持つ【神の瞳】では、【神の瞳】の方が圧倒的に性能が上なのだ。
この世の全てを見抜くと言われる【神の瞳】は、早い話が隠し事も偽りも何一つ見逃さず、ただただ真実を見抜くのだ。持ち主が悠利なおかげで平和的に活用されているだけの、まあ早い話がやりようによっては世界を取れる能力である。悠利はそんなことに微塵も興味がないので取らないが。
そうして悠利は、目の前の美しい宝玉をじっと見つめる。考えるのは、どうすればイレイシアが力を注げるか、という点である。宝玉の由来だの、構造だの、能力だの、そんなものはどうでも良かった。そして、【神の瞳】さんは持ち主に合わせてアップデートされる能力である。悠利が必要な情報だけを引き出してくれるに違いない。
果たして、【神の瞳】さんの鑑定結果はというと――。
――水の宝玉
海神の力の一欠片を封じた水を生み出す力を持つ宝玉。
ただし、今は豊水の源流のダンジョンコアと融合しており、ここから持ち出してしまうとその能力を失う。
ダンジョンコアより与えられるエネルギーでも稼働することは可能だが、海神の加護により与えられた水を生み出す力の源は徐々にすり減っており、現在はダンジョンコアから通常以上のエネルギーを送らねばならなくなっている。
今はまだ少しエネルギー効率が悪い程度で済んでいますが、加護の力が全て失われてしまうと水を生み出す力は失われ、湖の維持に支障を生じるでしょう。
海神の加護を分け与えれば回復するので、加護の力を伝染させることが必要です。
なお方法としては、加護を持つ人魚の音楽を聴かせることで吸収することが可能です。
相変わらず、悠利用にとても解りやすく親切な鑑定結果である。細かいことはスルーして悠利が確認したのは、音楽を聴かせれば加護を移すことが出来るという点である。人魚は音楽に秀でた者が多い種族と聞くが、海神の加護もその辺りに由来しているのかもしれない。
細かいことは悠利には解らない。しかし、今重要なのはただ一つである。
「あの、加護を持っている人が音楽を聴かせたら、その音楽から加護を吸収できるみたいです」
「音楽から?」
大真面目な顔で告げる悠利に、どういうことかと言いたげな顔をするニコレット。そんなことでいいんですかと言いたげなイレイシア。そして、そんな二人の横で悠利の鑑定結果を聞いた後、まだ真剣に宝玉を見ていたアリーがゆっくりと口を開いた。
「恐らく、海神の加護が人魚の奏でる音楽に宿るんだろう。なので、ただイレイシアが音楽を聴かせるだけじゃなくアンタも一緒にやれば、それがパイプになってより簡単に吸収できると思う」
「そうなんですか?」
「そこまで調べてないのか?」
「音楽を聴かせればいいっていうところまでしか見てなくて……」
てれてれと頭をかく悠利。ちょっと失敗しちゃった、みたいな雰囲気だった。別に失敗はしていないのだが。
このあたり、【神の瞳】さんは優秀だが、悠利が求めている情報しか出してこないという点が問題なのかもしれない。いや、たまにファインプレイをしてくれることもあるのだが。
そしてアリーの方は、【魔眼】の扱いに慣れているし、必要な情報を引き出すということにも慣れている。その結果が、二人が手にした情報の差異なのだろう。多分。
まあ問題はない。結論は変わらないのだ。イレイシアとニコレットが宝玉に音楽を聴かせればいいという、実に平和的な方法。力を移すというから、血を与えたり命を削るような、何か大変なことがあるのかと思っていた悠利なので、音楽を聴かせるだけなら簡単でよかったと思っている。
なお悠利はそんな風に思っているのだが、イレイシアは少し固まっていた。どうしようと言いたげな顔である。
「イレイス、どうしたの?」
「いえ……。音楽を聴かせると言いましたわね、ユーリ」
「うん」
「わたくし、その……」
そこでイレイシアは言葉を切った。元人魚であるニコレットの前で告げるには、少々苦しかったのかもしれない。
そう、彼女は史上初と言われる音痴な人魚である。なお、イレイシア本人は知らないが、それは一族にかけられた声を奪う呪いを、たった一人で引き受けているが故の弊害である。
なお、一族から声を奪うような恐ろしい呪いを一人で引き受けたのに、ちょっと音痴になるレベルで終わっているのだから、イレイシアに与えられた海神の加護がどれだけ凄まじいかがよく解る。
しかし、それはイレイシア本人には言ってはいけないことなので、悠利はキュッと唇を閉じた。僕、何も言いませんという意思表示だ。そんな悠利の頭を、アリーはポンポンと撫でてくれた。よしよし、よく黙っていられたな、偉いぞと言わんばかりのアレである。
そんなやりとりを挟みつつ、アリーはどうしようかと悩んでいるイレイシアに声をかけた。
「イレイシア、楽器は持ってきているのか?」
「はい、小型のハープを持ってきておりますわ」
「ニコレット、イレイシアの演奏であんたが歌うという形でもいいだろうか?」
「私はどのような形でも。ダンジョンマスターとなったこの身の歌にどこまで力があるかは知りませんが」
「それでも、他の誰かが歌うよりはいいだろう。あと、今その宝玉はダンジョンコアと繋がっているなら、ダンジョンコアと一心同体であるダンジョンマスターのアンタの歌は、間違いなく繋ぎになるはずだ」
「解りました。よろしくお願いします、イレイス」
「よろしくお願いします、コレットさん」
歌わなくていい方向に話が進んだので、イレイシアは幾分気楽に構えることが出来たのだろう。ニコレットと握手を交わす姿は、どこか落ち着いている。
そんな美女と美少女のやりとりを眺めながら、クーレッシュがぼそりとつぶやく。
「イレイスと元人魚のダンジョンマスターさんの演奏とか、めちゃくちゃ贅沢なのでは?」
「それは確かに」
クーレッシュの言葉にラジも同意する。イレイシアの演奏はそもそも、お金を取って聞かせるような完璧なものだ。そして、元人魚のお姉さんの歌が下手だとは彼らは思わない。
ということは、これから彼らを待っているのは、美少女が演奏するハープに、美女が美しい声で歌うという、目にも耳にもありがたい素晴らしい光景ということである。ちょっと得した気分になるのであった。
それは悠利も同じで、だよねだよねと言いたげな空気を醸し出している。悠利は音楽に造詣は深くないが、綺麗な演奏や綺麗な歌は大好きだ。おまけにここは、三面すべてが湖の景色が映る場所である。まるで水中コンサートのようではないか。
そんな風に、ちょっと役得なんじゃないか?みたいな気持ちになる悠利達なのでありました。
一応演奏は宝玉に加護を移すためという重大な任務なのですが、この緩さが彼らということでありましょう。
困りごとはお手伝いしないといけませんよね☆
ご意見、ご感想、お待ちしております。
なお、感想返信は基本「読んだよ!」のご挨拶だけですが、余力のあるときに時々個別でお返事もします。全部ありがたく読ませて頂いております!





