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最強の鑑定士って誰のこと?~満腹ごはんで異世界生活~  作者: 港瀬つかさ
書籍24巻分

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水の向こうの呼び声

 一通り調査訓練が終わったときのことだった。後片付けも終わり、調査訓練も終わり、後は来たときと同じように見習い組と訓練生が御者を交代しながら王都ドラヘルンへ帰るだけ。

 そんな状況で、不意にイレイシアが弾かれたように湖を振り返った。


「イレイスどうかしたの?」


 近くにいた悠利が声をかければ、イレイシアはどこか困惑したような表情でこう答えた。


「今、声が聞こえた気がしましたの」

「声?誰かに呼ばれたってこと?」

「はい。ですけれど、皆さんの声ではないのです。けれど、知らないはずですのに、まるで知っている何かであるような不思議な声でしたわ」

「うーん……。ねぇ皆、何か聞こえた?」


 イレイシアの発言を受けて、悠利は周囲の仲間達に問いかける。けれど、全員不思議そうな顔をして首を左右に振った。あいにくと、今日この場には五感に優れる獣人組はいないが、それでも近い場所にいてイレイシアだけが声を聞いたというのは不思議だ。


「ルーちゃん、何か聞こえた?」


 自分の足元でいつも通りぽよんぽよんと跳ねつつ、何かあったのと言わんばかりに見上げてくるルークスに、悠利はそう問いかけた。

 魔物であるルークスは、人間である悠利よりも色々と感覚が鋭い。また知能も高いので、何か声が聞こえたというのならそれを理解することも出来るだろう。しかしルークスは、悠利の問いかけにふるふると、否定の意を示すように左右に揺れた。

 なお、同じような行動をアロールもとっていた。己の首という定位置にいる相棒のナージャに、何か聞こえなかったかと問いかけているのだ。

 こちらもルークス同様高い知能と優れた能力を持つナージャであるが、その彼女も否定を示すようにパタリと尾を揺らす。この近距離にいて、本来ならばイレイシアよりも感覚の鋭いはずのルークスとナージャにすら何も聞こえなかった。

 何故そんなことがと、悠利は首をかしげる。


「気のせいじゃないんだよね?」

「少なくとも私は気のせいではないと思いましたわ」

「うん、イレイスがそう思ったんなら、気のせいっていう可能性は横に置いておくね。でも、だとしたら、イレイスにしか聞こえなかったっていうのが余計に謎だよね」

「そうですわね……」


 二人のやりとりを聞いていたフラウが、少しばかり真剣な空気を漂わせながらイレイシアに問いかけた。


「イレイス、その声はどのような状況で、どこから聞こえてきたか解るか?」

「湖の方からですわ。まるで呼び止めるように声をかけられたような、こう、待ってというような、呼んでいるような声を感じたと思います」

「ふむ……。可能性の一つとしてだが」


 そう呟いて、フラウは視線を湖の方へと向けた。彼女の眼差しが捉えているのは、湖の中央にうっすらと影が見えるダンジョンの中枢へ繋がる建造物である。水面には目印のような頭の部分が見えているだけで、実際の入り口は湖の中にあるのだという。そこを見つめながらフラウは静かに告げた。


「ダンジョンマスター、あるいはダンジョンコアがイレイスを呼んだという可能性はあるな」

「……!」

「フラウさん、それって危ないことですか?」


 驚愕するイレイシアの代わりに、悠利は半ば食い気味のような形で問うた。

 大事な仲間が危ない目に遭うのは困ると言わんばかりの悠利の姿に、フラウは解らないというように頭を振った。


「そういったケースがある、という噂を聞いたことがあるだけだ。波長の合う者がダンジョンコア、あるいはダンジョンマスターに呼ばれることがあると。ただ、それがどういうことに繋がるかは、私にも解らん」

「……それって何か、話に聞いてると危ない感じじゃないの……?」


 ぴったりとイレイシアにくっつきながら、ヘルミーネがそんなことを言う。


「ダメよ、イレイス、近づいちゃ。イレイスはそもそも戦えないんだから」

「ヘルミーネさん……」

「危ないことはしちゃダメ」

「ですが……。ですがその、何か困っているようでしたから……」

「ダメ」


 イレイシアに対して、ヘルミーネはむくれるように頬を膨らませた。ぎゅうっとイレイシアの腕にしがみついたまま、彼女が何かをしようとするのを必死に止めている。そう、ヘルミーネは必死だった。


「ここのダンジョンって安全は確認されてるんですよね?」

「一応安全は確認されてても水中だからな。よほどでない限り人が入らない。つまり」

「つまり?」

「内部の情報はそれほど頻繁に更新されてはいない」

「……あー、なるほど」


 フラウに問いかける悠利は、説明を聞いて何でヘルミーネがここまで必死に食い止めているのかを理解した。悠利達が今いる辺りは安全とはいえ、ダンジョンはダンジョン。中枢に近づけば危険があるかもしれないのも当然だ。

 その上、頻繁に情報が更新されるわけではないということは、内部の安全性が保証されないということだ。少なくともヘルミーネはそう思ったのだろう。


「ですがヘルミーネさん、わたくしは」

「イレイスが水の中に入れるのも、水の中で動けるのも知ってるわよ。でも、戦うのは苦手じゃない。危ない。絶対ダメ」

「ヘルミーネさん……」


 ヘルミーネの言い分に、異議無しと言いたげに見習い組もうなずいている。イレイシアはそんな中、困ったようにフラウを見ていた。

 彼女とて皆の言い分は解っている。危ないからやめろというのが、自分を心配してのことだということも把握している。その上で、それでも何かが気にかかるのだろう。

 滅多なことでは心配してくれる仲間の言い分を拒否するようなイレイシアではないのだが、今はなぜか妙に必死だった。その必死さが気になって、悠利は問いかける。


「イレイスはどういう感じで気になるの?」

「そうですわね。放っておけないという感じでしょうか」

「放っておけない?」

「例えばユーリは、困っている方が助けてほしいと声をかけてきたらどうしますか?」

「うーん。内容を聞いて、僕で手助けできそうだったらお手伝いするよ」


 悠利の返答を聞いて、イレイシアは困ったように微笑んだ。相変わらず腕にヘルミーネをしがみつかせたままだが、彼女は強い眼差しで自分の気持ちを伝える。


「わたくしもそういう気持ちなのです。誰かが助けてくれとわたくしに言っているような気がして、それを見捨てたくないと思ってしまうのです」

「うーん……。つまり、ダンジョンマスターがイレイスに助けてって呼んでると思ったってこと?」

「困っていると訴えかけるようなそんな響きを感じましたの。勿論、言葉が明確に聞こえたわけではありませんから、私の気のせいの可能性もありますけれど……」


 そう告げて、イレイシアは柔らかな笑みを浮かべる。自分を心配してくれる仲間達の言い分は理解できるだが、同時に当人にも解らないが放っておけないという焦燥感があるのだという。

 そして、イレイシアは意を決したようにフラウに向けて言葉を発した。


「ですので、少しだけ湖の中の様子を見てきてもよろしいでしょうか」

「イレイス!」


 イレイシアの腕にしがみついたままのヘルミーネは驚愕の声を上げ、見習い組も困惑を隠しきれない。どうしてそんな危ない橋を渡ろうとするんだと言いたげだ。

 そんな中、イレイシアの言葉を聞いたフラウはしばらく考え込んでから、こう答えた。


「そうだな。現状湖の中を調べられるのはイレイスだけだ。また声を聞いたのもイレイスだけだというなら、確認をするのもイレイスが適任だろう」

「フラウ!」


 その言葉に、ヘルミーネが焦ったように声を上げた。大事な友人、それも荒事には向かない友人を危険な目に合わせたくないと言いたげだ。

 そんなヘルミーネの言い分を理解して、それでもフラウはこう告げた。


「ヘルミーネ、イレイスを心配する気持ちは解る。私も同じだ。だが、同時に、もしこのダンジョンに何か異変が起きているのならば、きちんと精査してギルドに報告する義務がある」

「ぅ……」


 フラウの言葉に、ヘルミーネは言葉に詰まった。確かにその通りだということは彼女にも解っているのだ。

 彼らは冒険者だ。冒険者には、ダンジョンの異変や魔物の異変をギルドに報告するという義務がある。これは何も、誰かのためではない。自分のためでもある。どこかで誰かが異変に気づいて、それをしっかりと報告し、調査し、対処されることによって、秩序は保たれるのだ。

 勿論、無理をして大怪我を負ったり命を落としたりするのは、冒険者ギルドも推奨してはいない。だが、例えば異変の片鱗を感じ取ったのならば、どこで何が起きているか程度を確認するぐらいはするべきなのだ。

 そして現状、その役目が出来るのはイレイシアだけなのである。

 謎の声を聞いたのがイレイシアだということもあるが、そもそも湖内部の調査をするためには湖に潜らなければならない。だが、イレイシア以外の面々は、準備もなしに水の中に潜ってダンジョンの中へ入ることは出来ない。

 何せこの湖の水深はかなり深く、ダンジョンの中枢に通じているであろう祠のような建造物の入り口にたどり着くには、深く深く潜らなければならないのだ。湖畔の辺りはユーリ達が水遊びが出来る程度には浅いが、中央へ向かうにつれて徐々に深くなるすり鉢状の構造で、中央の深さはもはや何の道具もなしに素潜りで到達できるようなものではない。

 だからこそ、適材適所でイレイシアに調査を任せる、というフラウの意見も解らなくはないのだ。ただ友達を危ない目に合わせたくないヘルミーネが、少しばかりダダをこねているだけで。

 だがこの場合、誰より現状を確認したいと思っているのがイレイシアである。自分に聞こえた謎の呼び声。その正体を彼女は確かめたいと思っているのだから。

 そのとき、静かに成り行きを見守っていたアロールが、自分の首に巻きついたまま我関せずという態度をとっているナージャに声をかけた。


「ナージャ、少しぐらいならイレイスにつき添える?」


 その言葉に、アロールに忠実な……だけというわけではないがとても甘い、いわゆる過保護な保護者のようなポジションにあるナージャは、面倒くさそうに上下に頭を動かした。あまり気は進まないと言わんばかりの態度だが、一応は了承のような仕草だった。

 アロールはそんなやる気のないナージャには構わず、口を開いた。


「出来るんだね。じゃあ、少しでいいから、イレイスに付き添ってあげて」

「あのアロール、わたくしは……」

「いいの。これはこっちでも対処した方がいいことだから。ナージャは僕らよりも息が長く続くはずだから一緒に行けると思うし。もし魔物が襲ってきたら守ってくれると思うから」


 そう言ってアロールは、自分の首に巻きついている相棒をイレイシアの腕にくるくると巻きつけた。ナージャも特にあらがってはいないので、一応アロールの言うことを聞くという感じなのだろう。


「あの、本当によろしいんでしょうか?」

「いいんだよ。異変を調べるのは冒険者の仕事だし、それはつまりは僕らの仕事でもある。でも僕はいけないから、僕の従魔のナージャに行ってもらう。それだけの話だよ」

「ありがとうございます、アロール、ナージャ」


 どこか素直じゃない言い方のアロールに、それでもイレイシアは嬉しそうに微笑んだ。ナージャはやれやれと言いたげな空気を出している。これは面倒くさい仕事を押し付けられたことに対してなのか、それとも素直にイレイシアが心配だからと言えないアロールの意地っ張りな性格に対してなのか、彼らのやりとりを見ていた悠利には判別がつかなかった。

 ナージャの息が長く続くというのを聞いて、悠利はちらりとルークスを見る。愛らしいスライムは、悠利の視線を受けて身体を傾けた。なぁに?と言いたげである。


「ルーちゃんも水の中で息が長く出来るの?」

「キュイ?」


 そんな悠利の問いかけに、ルークスはさぁ?と言いたげに身体を傾けた。まるで小首を傾げるような仕草である。よく解らないと言いたげな反応だった。

 そこで悠利は思い出した。この愛らしいスライムは、水に浮くのである。一緒に温泉に入ったときも、海で遊んだときも、それはもう浮き輪か水遊び用のボールかのようにぷかぷかと水に浮かんでいた。

 逆を言うと、ルークスは潜れない。頑張って潜ろうとしても浮力に敗北して水面に押しやられてしまうのだ。


「そういえばルーちゃん、水に浮いちゃうから潜れないんだっけ」

「キュー」


 悠利の言葉に、その通りだと言いたげにルークスは鳴いた。少なくとも、自力で潜ることは出来ない。恐らくは悠利が抱えて共に潜ろうとしても、浮力と力比べをする羽目になるのだろう。力自慢達なら水の中に引きずりこむようにして共に連れて行くことが出来るだろうが、それはちょっと絵面的にアレすぎる。

 つまりは、ルークスは今回お手伝いが出来ないということだ。

 先輩が仕事をしに行くのに、自分は何も手伝えない。状況を理解したルークスは、そのことをちょっぴり不甲斐ないと思っているような雰囲気を醸し出していた。ルークスは先輩従魔のナージャを尊敬しており、一緒に作業が出来ると物凄く張り切るぐらいにはなついているのだ。

 そんなやりとりをしている間に、準備を整えたらしいイレイシアがいた。ナージャもスタンバイ完了と言う感じだった。


「それでは、行ってまいります」


 護衛代わりのナージャを腕に巻きつけて、イレイシアはぺこりと頭を下げた。そしてそのまま、湖畔に向けて足を進めた。そして、湖に近づくと一瞬で頭まで潜ったかと思うと、次の瞬間、皆の視界に入ったのはパシャンと水面を叩く鮮やかな尾びれの動きであった。

 そのままイレイシアは、ぐんぐんと下へ潜っていっているのだろう。水面を動かしたのは一瞬で、すぐに湖面は穏やかさを取り戻し、時折イレイシアの動きを伝えるようにわずかな波紋が広がるだけだ。

 水中の様子を伺うことは出来ないし、声も届かない。皆はただ何事もないようにと祈るだけだ。


「それにしてもイレイスにだけ聞こえたっていうのがやっぱり謎だね」

「アロール、何か気になることでも?」

「気になることっていうかさ、ナージャにもルークスにも聞こえなくて、イレイスにだけ聞こえたってことは、確実にイレイスを呼んでるってことだろう?じゃあ誰が何のためにイレイスを呼んでるんだろうって思うわけで」

「まあねえ。ダンジョンコアかダンジョンマスターが呼んでるっていうのが一番可能性高いよね」

「それが本当だとしたら、ちょっと厄介なことだよ」

「そうだねえ、大変なことだよねえ」


 心配そうに湖を見つめながら悠利はそんな風に呟いた。

 思いっきり他人事のような悠利であるが、アロールはジト目で彼を見ている。その視線に気づいた悠利が、パチクリと瞬きをしながら何?と首をかしげる。


「いや、別にまあ、今回は君は何もしてないもんね」

「今もしかして僕が疑われてた感じ……?」

「疑ったわけじゃないよ。ただまあ、何かのきっかけにはなってるのかなって一瞬思っただけで」

「それを疑ってるって言うよね、アロール」

「気のせいだよ」

「気のせいじゃないよ!」


 何で皆して、そういう風に言うかなー、とふてくされる悠利。別に何も悪いことしてないのにと言いたげである。しかしまあ、悠利の言い分がそうであったとしても、仲間達の言い分は違う。仲間達の中で悠利はトラブルメーカーという認識なのだ。

 ただし、本人に悪気のないという注釈がつく。

 そう悠利に悪気が一切ないことぐらい、仲間達も解ってくれている。だが、悪気があろうがなかろうが、何かのきっかけになってしまうというのが悠利であった。

 僕じゃないもんとふてくされる悠利に、はいはいとアロールは気のない返事をする。あまりにも雑に扱われたので、悠利は助けを求めるように見習い組のもとへ駆け寄る。


「聞いてよ皆、アロールがひどいんだよ。僕は何もしてないのに、まるで僕が悪いみたいに言うんだ」


 必死に訴える悠利。その話を聞いた。見習い組の反応はといえば……。


「まあ、普段が普段だから」

「今までが今までだしな」

「ましてやダンジョン絡みだろ」

「……同意」

「誰も味方になってくれない!」


 ひどいよと訴える悠利だが、見習い組の四人はそんな悠利の必死の訴えを無視するように「だって、今までが今までだから」と繰り返す。彼らの発言にも一理あるのだ。

 そもそも悠利は、初めて自発的に足を踏み入れたダンジョンである収穫の箱庭にてダンジョンマスターであるマギサの興味を引き、お友達になってしまった。それだけならいざ知らず、そのマギサの後輩という位置づけである、無明の採掘場及び数多の歓待場のダンジョンマスターであるウォルナデットともお友達になった。

 まあ、ウォルナデットの場合は元人間のダンジョンマスターということもあって、思考回路その他は人間と変わりはないのだが。だからといって、遊びに行ったダンジョンでダンジョンマスターと友達になり、調査に行ったダンジョンでまたしてもダンジョンマスターと友達になるという、イレギュラーにイレギュラーを重ねてきた悠利である。

 悠利がダンジョンに関わるとなんか起こるんだな、と見習い組だけでなく他の仲間達が思っても仕方がないのであった。

 そんな風にガヤガヤと過ごしていると、しばらくして湖の状況を確認したイレイシアが戻ってきた。


「お待たせいたしました」

「イレイス。大丈夫?」

「お疲れ、ナージャ、何もなかった?」

「シャー」


 いの一番に駆け寄るヘルミーネは、イレイシアに怪我がないかを確認していた。実にかいがいしい。ヘルミーネは特にイレイシアを大切なか弱い友人だと思っているので、気が気じゃなかったのだろう。

 そして、アロールに問われたナージャは何もないというように小さく鳴いた。そうして、するするとイレイシアの腕から離れ、アロールの元へと帰る。役目を果たしたということなのだろう。


「それでイレイス、状況はどうだった?」


 静かにフラウが問いかける。それに対してイレイシアは、困ったような顔で言葉を発した。


「状況は奇妙としか言いようがありませんでした。本来、ダンジョンの中枢であるあの祠へ近づけば魔物達が何らかの行動を起こしてくるはずなのですが……」

「うむ。それを警戒して、アロールがナージャを同行させたわけだからな」

「ですけれど、魔物がわたくしを襲ってくる気配はなく、それどころかむしろ歓迎するように道を譲るのです」

「つまり、イレイスを呼んでいたのがダンジョンマスターかダンジョンコアかは解らんが、そこに関係のあるものであるのは間違いないということだな」

「恐らくは。ですが、流石にわたくし一人でダンジョンの中に入るのは現実的ではありませんから、こうして戻ってきました」

「良い判断だ。無理をする必要はないからな。ひとまず、こういった現象が起きているとアリーに報告しよう」


 何せ、今日はここにピクニックに来たのだから、ダンジョン探索の準備はしていない。そもそも中に入るためには色々と用意を調えなければならない。それが解っているので、フラウの言葉にイレイシアはこくりとうなずいた。

 何かが起こっているのは解ったが、ひとまずは帰還して、準備を整えた上で調査を続けるべきだろう。たとえこのダンジョンの危険度が低かろうが、ダンジョンはダンジョンなのだから。

 そんな二人の話が終わったのを見計らって、ヘルミーネがイレイシアに飛びついた。一応は、報告が終わるまでは自重していたというところだろうか。


「イレイス。怪我はない?本当に大丈夫?」

「ヘルミーネさん、大丈夫ですわ。ご心配おかけしました」

「まったくもう……!普段はそうでもないのに、たまに物凄く強情なんだから」


 頬を膨らませる勢いでそんなことを言って、ヘルミーネはイレイシアに抱きついた腕の力を強める。何だかんだでヘルミーネはイレイシアのことが気に入っているので、大事な友達が心配だったのだろう。口をこそ怒っているようだが、そこにはイレイシアを心配する響きしかない。

 そんな少女二人のやりとりを微笑ましそうに見つめつつ、ちょっと大変なことになりそうだなぁとのんきに思う悠利なのでありました。




 ひとまずアジトに戻って保護者に報告です。報連相はとても大事なので。





何も起こらずに終わるはずがなかった、という声が聞こえそうな予感。

まぁ、お約束なのでぇ……。

ご意見、ご感想、お待ちしております。

なお、感想返信は基本「読んだよ!」のご挨拶だけですが、余力のあるときに時々個別でお返事もします。全部ありがたく読ませて頂いております!

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小ネタ置き場作りました。
最強の鑑定士って誰のこと?小ネタ置き場
クロスオーバー始めました。「異世界満腹おもてなしご飯~最強の鑑定士サイド~
ヒトを勝手に参謀にするんじゃない、この覇王。~ゲーム世界に放り込まれたオタクの苦労~
こちらもよろしくお願いします。ゲーム世界に入り込んだゲーオタ腐女子が参謀やってる話です。
32bh8geiini83ux3eruugef7m4y8_bj5_is_rs_7
「最強の鑑定士って誰のこと?~満腹ごはんで異世界生活~」カドカワBOOKS様書籍紹介ページ
1~24巻発売中!25巻10月10日発売。コミックス1~11巻発売中。電子書籍もあります。よろしくお願いします。
最強の鑑定士って誰のこと?特設サイト
作品の特設サイトを作って頂きました。CM動画やレタス倶楽部さんのレシピなどもあります。

cont_access.php?citi_cont_id=66137467&si
― 新着の感想 ―
悠利に悪いところがあるとするなら仲間が危ないかもしれない時にすら神の瞳を使わない事だろう。 というかウサギとの話や水中の魔物の動きも考えれば魔物にダンジョンマスターの意向は伝わっているのだから、魔物を…
神の瞳さんで湖ごと鑑定は出来なかったのかな?
この世界には人の情やら心の隙を突いたり幻惑するようなダンジョントラップは無いって判明してるのかな? 指導員のフラウがその辺に一切疑惑を持ってないのが気になる。一人だけに聞こえた声が呼んでるとか怪しさて…
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