具材色々コッペパンサンド
コッペパン良いですよね。ふわふわ食感楽しい。
バスケットの中にずらりと並んだコッペパンサンドに、一同は目を輝かせた。サンドイッチは食べ慣れているし、コッペパンサンドも食べたことはある。だがそれはそれ、これはこれだ。晴れやかな空の下、のどかな湖畔でピクニックと洒落込んで食べるお弁当が、様々な種類のコッペパンサンドというのが、妙にわくわく感を盛り上げていた。
「具材は色々なので、それぞれ好きなのを食べてください。あ、でも、お肉ばっかりとかお野菜ばっかりだと栄養が偏るので、そこは注意してください」
「「はーい」」
のほほんとしているが釘を刺すのは忘れない悠利の言葉に、元気な返事が響いた。何だかんだで常日頃から悠利に食事のバランスについて聞かされている仲間達なので、自分のお腹と相談しつつ食べる種類を考えるのは苦痛ではないのだ。
綺麗な湖を眺めながら、ピクニックシート(のような感じで使う敷布)の上に座ってのお昼ご飯。複数のコッペパンサンドから選ぶ楽しみというのもあいまって、皆の表情はうきうきわくわくしていた。
とりあえず無難にコレを食べようと、悠利はウインナーを挟んだパンを手に取った。キャベツの千切りとボイルしたウインナーを挟み、ウインナーの上にケチャップをかけただけのシンプルなものだ。……コッペパンサンドというか、ホットドッグである。
最初に何を作ろうか考えたときに、脳裏に浮かんだのがこれだったのだ。やはり見慣れた形状なのが強かったのだろう。なお、ケチャップのみなのは、悠利を含めて辛いものが苦手なお子様がいるからである。大人向けに作るならマスタードやからしがアクセントとして良い仕事をするはずだ。
「いただきます」
小さく呟いてから、悠利は口をあーんと開けてパンを囓った。コッペパンはふわふわとした柔らかな食感のパンで、だからこそ挟んだ具材を優しく包み込んでくれる。パンの柔らかさを感じたと思ったら、弾力があって食べ応えのあるウインナーがケチャップと共に存在を主張する。そして、その肉の旨みをまとって口の中を優しく満たすのが、キャベツの千切りだ。
ボイルしたウインナーは皮はパリッとしているが、中身はジューシーだ。ホットドッグを作るときに悠利が気にするポイントの一つが、ウインナーの種類だ。やはりこうやって食べるときには、肉汁がじゅわりと口の中に広がる、肉を食べていると解るようなインパクトのあるものが好ましく思うのだ。
噛めば噛むほどに肉の旨みが口の中に広がり、パンやキャベツに染み込んで何とも言えずに幸せな気持ちになる。ウインナーは肉々しくてパンチがあるけれど、キャベツの千切りがそれを包み込んで中和してくれるので、それほど負担に感じず食べることが出来る。
ケチャップ以外の味付けはしていないが、肉の旨みとケチャップだけで十二分に満足できる仕上がりだった。やっぱりホットドッグは美味しいなぁと思う悠利であった。
そんな悠利と同じように、仲間達も美味しそうにコッペパンサンドを食べている。今日は色々作りたいと思った気持ちのままに悠利が種類を増やしたので、どれを食べるか真剣に悩んでいる姿が微笑ましい。
「んー、これ、トマトがいっぱいで美味しいー」
幸せそうな顔でヘルミーネが食べているのは、野菜たっぷりのコッペパンサンドだ。具材は、レタスとキュウリ、トマトというシンプルな仕上がりなのだが、メイン食材として輪切りにしたトマトがいっぱい入っているのだ。
そして味付けは、野菜に合うこと間違いなしのマヨネーズ。ただし、普通のマヨネーズとはひと味違う。これは、バジルペーストを混ぜ込んだバジルマヨネーズなのだ。なので、普段のマヨネーズにバジルの風味が加わって、野菜だけでも満足できる味わいに仕上がっていた。
ヘルミーネは小食に分類される方で、肉や魚も食べるが野菜たっぷりの方が喜ぶタイプだった。なので、美味しそうな真っ赤なトマトが目を引くこの野菜たっぷりコッペパンサンドを手に取ったのだろう。生野菜の食感と風味を堪能しながら、ご満悦である。
その隣でアロールは、黙々と食事を続けていた。彼女が食べているのは、レタスとハム、そしてスライスしたチーズが入ったものだ。味付けはシンプルにマヨネーズだが、分量は控えめに仕上げて、ハムとチーズの味を堪能するように作ってある。
十歳児のアロールは口も小さいので、ちょっとずつはむはむと食べる姿がどこか微笑ましい。口の中に柔らかなコッペパンのふわふわとした食感と、シャキシャキとしたレタスと、しっかりとした弾力を感じさせるハムとチーズの存在感。それらが口の中で調和して、美味しさを伝えてくる。
「……美味しい」
ぽつりと小さく呟くアロール。その発言は小さくて、わいわいがやがやとしている見習い組の四人のあたりには届いていない。せいぜい、隣に座っている者にしか聞こえないだろう。だが、その方がこの場合は良かった。
色々とお年頃であるアロールは、からかわれるのが苦手だ。子供扱いされるのも得意ではない。それは、彼女の実家が完全なる実力主義で、まだ十歳児のアロールのことも一人前の魔物使いとして、大人と同じように対等に扱ってきたからだ。そういう環境で育っているので、アロールは微笑ましそうに見られることなどが苦手だった。
それが解っているので、両隣に座っている悠利とフラウは沈黙を守った。アロールが気に入ったコッペパンサンドを見つけて、幸せそうに食べているならそれに越したことはない。余計なことを口にして騒動の火種にするのは良くないので。
だから、フラウが口にしたのはアロールとは全然関係のない、自分自身の感想だった。
「ユーリ、このフライの入ったコッペパンサンドはとても美味しいが、こういう風に食べることはユーリの故郷では多いのか?」
「んー、そうですねー。ボリュームたっぷりのカツサンドは、働く人とかに人気のメニューだったりしますよ。後、これはオーク肉のフライですけど、他のお肉や野菜、魚で作ったものも人気ですね」
「なるほど」
いわゆるカツサンドと呼ばれるようなものを食べているフラウは、納得したというようにばくりと再びコッペパンサンドを囓った。彼女が食べているのはオーク肉のフライ、すなわちトンカツをイメージしたフライが挟んであるものだ。千切りにしたキャベツと、下味を付けたカツの風味が実に美味しい。
また、トンカツソースに類するものはまだ発見できていないし作れてもいないが、以前お好み焼きを食べるときにお好みソースっぽいものは作った悠利なので、今日はそれをカツにかけている。これはこれで、ほんのりとした甘みが優しくて肉の旨みを引き立ててくれるのだ。
……悠利の食生活のベースは関西風なので、ソースというものに対してちょびっとこだわりがある。具体的に言うと、トンカツに使うソースと、お好み焼きに使うソースと、たこ焼きに使うソースと、焼きそばに使うソースは、全部別である。混ぜて使うこともあるが、基本的にはそれらは全て違うソースなのだ。同じ日本人でもここが通じない場合はあるので、やはり土地柄というものがあるのだろう。
「ユーリ、このタルタルソース、いつもと少し違う気がするのですけれど……」
「ん?あぁ、それはねー、作るときにバジル風味に仕上げたタルタルソースだから。魚のフライに合うかなーと思って」
にへっと笑う悠利に、イレイシアはそうなんですねと感心したように手元の白身魚のフライを挟んだコッペパンサンドを見た。千切りのキャベツと白身魚のフライだけのシンプルなコッペパンサンドは、味付けのアクセントとしてバジルを利かせたタルタルソースを使っているのだ。
普段のタルタルソースでも十分に美味しいのだが、バジルの風味を追加することでちょっぴり上等になったような気がするのである。軽く塩胡椒で下味を付けた白身魚のフライは柔らかく、衣のサクサクとした食感と中身のふっくらとした食感の対比がとても楽しい。キャベツやパンとの相性も抜群で、たっぷり入ったバジル風味のタルタルソースのおかげで美味しく食べることが出来る。
イレイシアは肉よりも魚介を好むので、多分これを選ぶんだろうなと思っていた悠利の予想は当たっていた。当たっていたが、彼女が気づいていないかもしれないので、悠利はこそっと情報を伝えることにした。
「お代わりで食べられそうなら、あの端っこの赤と白の具材が挟まってるやつをおすすめしておくね」
「……それは、何ですか?」
「エビを刻んでマヨネーズと和えたエビマヨがたっぷり入ってます」
「必ずいただきますわ」
キリッとした顔で告げた悠利に、イレイシアもキリッとした顔で答えた。大きなエビが丸ごと入っているわけではなかったので、何が挟んであるのか解らなかったのだろう。食べやすさを優先して玉子フィリングやツナマヨみたいなノリでエビマヨを作った悠利なので、一番食べてほしいと思っているイレイシアに伝えておこうと考えたのだ。
そんな二人の会話を聞いていたフラウが、念のためというように口を挟んだ。
「二人とも、食べたいものがあるのならば、あらかじめ確保しておいた方が良いんじゃないか?」
「へ?」
「え?」
「確かに今日は大食らいはウルグスぐらいだが、それでも、食べたいものが残っているとは限らないぞ」
そう告げてフラウが示したのは、美味い美味いと言いながらコッペパンサンドを頬張っている見習い組の四人の姿だった。確かに、元気にもりもり食べている彼らの食事スピードは、悠利達より随分と速かった。
……ここに来るまでにやったことは御者の訓練なので、身体はそこまで動かしていないはずなのだが、それでもやはり食べ盛りの少年達ということだろうか。後は、心地よい空気の中で普段と違うお昼ご飯というのでテンションが上がっている可能性もある。
何はともあれ、フラウが言いたいことを悠利とイレイシアは理解した。顔を見合わせてこくりと頷き合うと、二人は自分達が食べたいコッペパンサンドの確保に動いた。……なお、フラウの発言に一理あると思ったのか、ヘルミーネとアロールも同じように動いていた。
何故彼らがこんな行動に出ているかというと、食べたいものが食べられないのが悲しいというよりは、具沢山のコッペパンサンドは二つ食べるのが精一杯だからだ。どうせならより自分が気に入ったものを食べたいという考えになるのだろう。
各々、お代わりで食べる分のコッペパンサンドを確保して、ほっと一息つく悠利達だった。
自分達の食欲がそんな風に警戒されているなんて思いもしていない見習い組の四人は、いつものようにあーだーこーだと雑談しながらコッペパンサンドを食べている。彼らの好みはバラバラだが、だからこそお互いの気に入った食べ物についての感想を聞くのを楽しんでいる節があった。仲良しなのである。
「どれ食べても美味いっていうのが反則なんだよなぁ……」
「っていうか、食パンとはまた違う感じだよね、コレ」
「中身がこぼれなくて良いんじゃね?」
「それはそう」
カミールとヤックの会話はのほほんとしているが、いつもの二枚の食パンで作るサンドイッチとの違いをしっかり分析していた。パンそのものの味わいも違うが、何より形状の違いが大きい。コッペパンサンドの場合、よほど変な角度で持たない限り、中身がこぼれる可能性は低いのだ。
なお、カミールが食べているのはスライストマトとツナマヨを挟んだもので、トマトの瑞々しさとツナマヨのしっとりさがいい感じのバランスに仕上がっている。両サイドにレタスが入っているのもまた、食感の違いが良いアクセントになっている。
そもそも、この三つが合わないわけがないので、そりゃ美味しいに決まってるよな、という気持ちになっているカミールだ。柔らかなコッペパンのふわふわが、具材の旨みを吸い込んで口の中でまとめてくれる。元々ツナマヨが好きなのもあって、思わず表情が緩むほどにご満悦のカミールである。
「玉子フィリングのサンドイッチも美味しいけど、ゆで玉子を切ったやつも美味しいなんて思わなかったなぁ」
しみじみと呟くヤック。彼が食べているのは、発言通りスライスしたゆで玉子をたっぷり贅沢に挟んだサンドイッチである。他の具材はスライスしたキュウリと千切りにしたタマネギだ。野菜への味付けとしてマヨネーズがあるのだが、ゆで玉子には全体に塩味がついているのでそのままでも十分美味しい。
このゆで玉子は、皮をむいた後に塩水に漬け込んだものだ。そうすることで全体に塩味がつくので、どこを食べてもゆで玉子が美味しいというわけである。気持ち半熟という感じの、少しだけ柔らかい黄身のとろりとした食感が何とも言えない。黄身とマヨネーズが絡んだ部分など、濃厚な旨みで口の中が幸せになるほどだ。
「つーか、何でこんな色んな種類作ってんだって話だろ」
「……まぁ、ユーリだし」
ウルグスのツッコミに、ヤックはそっと目をそらした。確かにピクニックにわくわくしていたが、作る側の手間を考えたら、三種類ぐらいを幾つも作るとかの方が楽なのでは?と思ってしまうのだ。いや、彼らも手伝ってはいるのだが。
せっかくのピクニックなんだからと、悠利が作りたいコッペパンサンドを全部作った結果の、これである。まぁ、そのおかげで美味しいご飯にありつけているので、文句を言うのもアレではあるのだが。
「美味いんだけどな。このバイソン肉の焼き肉挟んでるやつ」
「バイソン肉ってところがポイントだよな。ちょっと奮発してある」
「薄く切ってあるから噛みやすいのも良い」
もぐもぐと手にしたコッペパンサンドを食べながら、ウルグスはそんなことを告げた。彼が食べているのは、薄切りのバイソン肉を甘辛く焼いたものをたっぷりのレタスと共に挟んだコッペパンサンドだ。バイソン肉と共にタマネギも焼いてあるので、レタスのシャキシャキ食感と、火が通ったタマネギの柔らかい食感の両方が楽しめる。
塩胡椒でも醤油だけでもない、照り焼きのように甘辛い味付けで焼かれたバイソン肉は存在感があり、レタスが多少の自己主張をしたところでインパクトで負けることはない。薄く切った肉なので他の具材と共に簡単に噛み切れて、口の中でバラバラにならないのもポイントが高い。
……なお、薄切りなのはそういう風にカットしてあるのを買ってきたわけなのだが、いわゆる切り落としに該当するものなのでちょっとお安かったのだ。そのあたりは抜け目がない悠利である。個人的に食べるための食材なら自腹でお財布の紐も緩むのだが、クランの食費という意味では無駄遣いはしないように気をつけているのである。
そんな会話をしている三人を完全にスルーして、マグは黙々とコッペパンサンドを食べていた。元々口数が少ないマグは、よほど自己主張したいことがない限りは自分から積極的に会話に入ってこない。なので、他の三人も特に気にしてはいない。
マグが食べているのは、先ほど悠利がイレイシアに食べるように伝えたエビマヨのコッペパンサンドだ。食べやすいように小さく切ったエビをマヨネーズで和えているのだが、実はそこに隠し味として出汁醤油が使われている。……そう、ほんのわずかだが、このエビマヨには出汁が入っているのだ。
相変わらず何か謎のセンサーでも搭載されているのか、ちょびっとしか入っていないはずの和風出汁の気配を感じ取ったらしいマグは、黙々とエビマヨのコッペパンサンドを食べていた。……先に確保した方が良いというフラウの言葉は、正しかった。
マグは出汁関係になると一人でいっぱい食べるようになってしまうが、それでも以前に比べれば幾ばくか落ち着いてはいる。一人で全部抱え込んではいけないというのを、少しずつ学習したらしい。……まぁ、相手がウルグスの場合は遠慮なく取りにかかるのだが。
「……美味」
満足そうにマグは呟く。隠し味に出汁醤油を使った、ほんのり和風のエビマヨのコッペパンサンド。他の具材はスライスしたキュウリのみなのだが、このキュウリとエビマヨの相性が抜群だった。そもそも、マヨネーズとキュウリが合わないわけがないので、エビマヨとキュウリが合わないわけもなかった。
口の中にエビの旨みとマヨネーズの風味がぶわりと広がり、その奥にほんのりと出汁醤油の優しい味が控えている。キュウリの水分とシャキシャキとした食感もまたアクセントとなり、コッペパンのふわふわとした柔らかさが全てを包み込む。じっくり味わって食べながら、マグは美味しそうに口元を緩めていた。
その他にも、定番のツナマヨだったり、玉子フィリングだったり、ハムはハムでも分厚く切ったハムステーキが挟んであったりと、実によりどりみどりなコッペパンサンド。それぞれ気に入ったものを食べながら、仲間達は思った。美味しかったやつは、サンドイッチの定番に入れてもらおう、と。
そんな風に皆が考えているなんてつゆ知らず、悠利はのんびりとお代わりのコッペパンサンドを食べているのでありました。まぁ、いつものことです。
のんびりまったり楽しいピクニックは、選ぶ楽しみが付加されたコッペパンサンドで更に楽しくなりました。
普通のサンドイッチも好きなんですが、コッペパンサンドも好きです。
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