表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の鑑定士って誰のこと?~満腹ごはんで異世界生活~  作者: 港瀬つかさ
書籍23巻部分

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

420/450

お出汁で食べる明石焼き風たこ焼き

口は災いの元、もとい、いつもの様式美です。


 これは、うっかり口を滑らせてしまった自分が悪いのだ。そう、悠利(ゆうり)は思った。本当にうっかりだった。話の流れでついぽろっとこぼしてしまった。そんなことはよくあるが、今回の悠利の失敗を居合わせた仲間達はあちゃーという顔で見るだけで、誰も助けてはくれなかった。

 

「出汁、美味」


 悠利の前でマグはとても真剣な顔をしていた。これこそが世の真理だと言わんばかりの、とてもとても真剣な顔である。

 まあ、《真紅の山猫スカーレット・リンクス》ではよく見られる光景だった。いつの間にか出汁の旨味に魅了され、出汁の信者とか出汁魔神とか仲間達に言われるような状態のマグ。彼は、普段はそうでもないのに、出汁が絡んだときだけは暴走一直線になってしまうのだ。

 そして、そんなマグは今、悠利に己の意思を伝えると言わんばかりに出汁の美味しさを訴えていた。ものすごく圧がある。悠利は、そんなマグからそっと目をそらして「解ったから、ちょっと落ち着いて」とか細い声で呟いた。

 マグの圧に屈した悠利を見ていた仲間達は、まあ、仕方ないよなと言いたげな顔である。この出汁の信者の前で、うっかり今まで食べたことがない出汁を使った美味しい料理の話題を出した悠利が悪いのだ。食いつかないわけがないではないかと。

 ちなみに、悠利がうっかり口をすべらした料理とは、たこ焼きである。

 たこ焼き自体は、仲間達と一緒に作って食べたことがある。使わなくなったフライパンを、錬金釜に入れることでたこ焼きが作れる穴あきのフライパンへと改良したのだ。そして、普通にたこ焼きを作ったこともあるし、中身を色んなもので楽しむロシアンタコ焼きを楽しんだこともある。

 つまりは、《真紅の山猫スカーレット・リンクス》の仲間達にとって、たこ焼きがどういう料理かは既に浸透しているのだ。

 ころころとしたフォルムが可愛らしい丸い形に生地を焼き上げ、その中にタコを始めとした様々な食材を入れておく料理だ。悠利が作るときは生地に出汁と醤油でうっすらと味付けをしているので、基本的に中の具材の味でそのまま食べている。たこ焼きソースは用意できていないので、味が薄い場合は醤油をつけて食べてもらったりしている。

 そんなたこ焼きに、出汁をつけて食べるという方法があることを悠利は口にしてしまったのだ。

 本来、出汁につけて食べる丸い物体といえば明石焼きと呼ばれる料理の方が想像されことが多い。悠利としても、脳裏に先に浮かぶのは明石焼きの方だ。あちらはたこ焼きと違い、生地の配合が異なる。地元では玉子焼きと呼ばれる料理であることから想像できるように、粉よりも卵の量が多く、色も黄色でふわふわと柔らかい。たこ焼きよりは丸みが少ないが、似たような形状で具材は基本的にタコオンリー。そして、それをお出汁につけて食べるのだ。

 とても美味しい料理で、悠利は明石焼きもたこ焼きも大好きだ。そしてそんな明石焼きやたこ焼きが食べられている地域で、ごく普通のたこ焼きを、明石焼きのように出汁につけて食べるという方法がある。そのことをうっかり会話の流れで告げてしまったのだ。

 そうなればどうなるかといえば、出汁をこよなく愛するマグが食いつかないわけがない。是非ともそのとても美味しそうな料理を食べさせてくれ、という流れである。色々と観念した悠利は、はぁーとため息をついた後、口を開いた。


「それじゃあ今日の晩御飯たこ焼きにする?」


 その一言に、ぱぁっとマグの顔が輝く。普段は無表情なくせに、出汁が絡んだときだけは色々と露骨に感情が見えるマグだった。

 そんなマグを横目に、悠利は献立どうしようかな、と考え込む。たこ焼きは、生地にキャベツを使うとはいえ、どちらかというと粉もんという属性である。となれば、これをご飯やパンの代わりという位置づけにして、他に何かおかずを用意するべきだろうか、と。

 たこ焼きをメインで楽しむというのは以前もやっているので、まぁ、食卓に出しても皆何も言わないだろう。タコが入っているので、これを主食兼主菜という位置づけにしようと悠利はおもった。

 しかし、ただ一つ問題があった。そう材料である。


「えーっとね、マグ。今日は別にたこ焼きをするつもりじゃなかったから、タコを買ってないんだよね」

 

 悠利の言葉に、ピタリとマグが動きを止めた。そしてそのまま、じーっと無言で見てくる。それが何だというのだ。だからどうしたのだ。そう言いたげな眼差しだった。

 

「えっと、追加で買い出しに行ってきてくれるなら、晩ご飯をたこ焼きにすることは出来るよ。タコが欲しいんだけど……」

「諾」


 悠利の言葉にマグはこくりとうなずき、買い物用の魔法鞄(マジックバッグ)と財布を手に飛び出していった。

 

「あいつほんと、出汁が絡んだときのフットワーク軽すぎねぇか?」

「今更だと思うなぁ、オイラ」

「っていうか出汁で食べるたこ焼きって美味いの?」

「僕は美味しいと思ってるよ。えーっと、焼いた状態で食べるたこ焼きって、表面がこうパリッとして中がふわとろって感じでしょ?だけど出汁につけると、全体がふわふわっと柔らかくなって、あの柔らかい生地に出汁が染み込むんだよね。生地の味付けにも出汁を使ってるから味の相性は悪くないし、出汁を吸い込んだたこ焼きを口の中で噛むとじゅわーっと旨味が広がってとっても美味しいよ」


 にこにこ笑顔で悠利が告げる言葉に、三人は静かに聞き入っている。食べたことのあるたこ焼きの味や食感を思い出して、悠利の説明にふむふむとうなずく姿はどこまでも真剣だった。……勉強をしているときよりも真剣かもしれない。

 そんな三人に、悠利はいつも通りののほほんとした口調で説明を続けた。

  

「あと、温かいたこ焼きを温かい出汁につけて食べるのも美味しいけど、焼きたての温かいたこ焼きを、少し冷めたお出汁につけるのも美味しいよ。ぬるくなってすぐに食べられるんだよね。まぁ、中身は熱いから気をつけなきゃいけないんだけど……。そうやってちょっぴり冷めると、中の熱々との対比が楽しいんだよね」

 

 こんな感じかな、と告げる悠利になるほどと見習い組達はうなずく。マグが一人暴走したような感じではあるが、話を聞いていると食べたくなってきたのだ。そんなわけで彼らは、本日のメニューがたこ焼き(出汁で食べる)に変更になったのを、やったねという気持ちで受け止めているのであった。



 

 そして夕飯の時間。各テーブルには卓上コンロが置かれ、たこ焼きが焼けるように改良されたフライパンがセッティングされている。そして、出汁を利かせたとろとろの生地、みじん切りにされたキャベツ、食べやすい大きさに切られたタコが並ぶ。また、各々の手元に、すまし汁の要領で作り、すまし汁よりはほんの少し味を濃いめに作ってあるお出汁があった。

 出汁のベースは和風出汁で、そこに塩と醤油で味付けをするという、いたってシンプルなものだ。今日は少し甘めに仕上げたかったので、酒ではなくみりんを入れている。とはいえ、いつもすまし汁で飲んでいるのに近い味付けなので、仲間達が困惑することはないだろう。

 困惑するとしたら、何故今日の夕飯はたこ焼きなのに、具のないお出汁が添えられているのだろうという方向に違いない。これでお出汁に具が入っていたら、そういうスープなんだなと皆は納得できるのだろうが。

 そんな仲間達の困惑を理解しているので、悠利は本日の夕飯の意図を説明する。


「今日のメインはたこ焼きなんですが、以前とは違ってその出汁につけて食べてもらおうと思います。それと、今日は暑いので、用意したお出汁は少し冷ましたものになります。また、冷蔵庫に冷たく冷やしたお出汁があるので、そちらの方がいい人はそちらに取り替えてください」


 言われて仲間達は、確かに手元にあるお出汁から湯気が出ていないことに気づいた。スープ類だった場合は、冷製スープでもなければ基本的に温かいまま提供されるのが常だ。そういうところにも違う部分があったかと言いたげである。


「それと、たこ焼きは以前同様、各テーブルで焼いてください。今日はたこ焼きの名の通りタコだけですが、お出汁には合うのでそれでよろしくお願いします。お代わりも用意してあるので、必要なら各自で対応してくださいね。あと、たこ焼きだけだと栄養が偏るので、皆さん用意してある冷しゃぶサラダはきっちり一皿は食べてくださいね」


 悠利が告げた通り、各自の前にはオーク肉の冷しゃぶサラダが置かれている。程々の分量の野菜と肉だ。たこ焼きで足りないと思われる栄養を、そちらで補いますと言う布陣である。


「勿論冷しゃぶサラダもお代わりは用意してあります。喧嘩にならないように食べてくださいね」

「「はーい」」


 悠利の説明に元気の良い返事が響く。説明が終われば、あとは各テーブルで頑張ってください状態だ。仲間達も、さあたこ焼きを焼くぞー!みたいな感じになっている。

 以前にもたこ焼きを作ったことがあるので、仲間達も細かい説明はされずとも各々で調理を開始してくれる。こういう感じの日はちょっと楽だなぁと思う悠利。悠利と見習い組だけで全員分を用意すると、料理によっては出来立てを提供するのはなかなか難しい。テーブルの上で各自で焼いて食べるというのは、出来立て熱々を食べてもらえるという利点があるのだ。卓上天ぷらとかもいいよねと思う悠利であった。

 たこ焼きの作り方は、温めて油をひいたフライパンのくぼみに生地を半分ほど入れる。そこへ刻んだキャベツを入れ、タコを一つ投入する。そしてその上から生地をかぶせ、フライパン全体にあふれるように入れる。ここで、くぼみの部分にきれいに収まるようにではなく、はみ出るように全体に広がるように入れるのがコツだ。焼けてきたときに丸めて固める場合、擦り切り状態の生地では、綺麗なまん丸にならないのである。余剰分を切り取って詰め込んで、初めてコロンとした丸に仕上がるのだ。

 ちなみに各テーブルでは、以前の経験を生かして作るのが上手な面々が焼きを担当しているようだった。なお、見習い組のテーブルでは全員それなりにコツを知っているので、交代で焼くことにしているらしい。

 そんな見習い組のテーブルでの一番手はマグ。やはりこう、本日のメニューをゴリ押しで決定させたとあって、他の三人とは意気込みが違った。フライパンの中のたこ焼きに火が入るのを、じーっと真剣な顔で見ている。

 そんなマグをそっちのけで他の三人は冷しゃぶサラダをもりもりと食べていた。各自ドレッシングやポン酢など好きな味付けで食べているのだが、柔らかなオーク肉の冷しゃぶと、シャキシャキとしたレタスを中心とした夏野菜のグリーンサラダが実に良いコラボレーションだ。

 単にサラダとなると野菜だけで物足りなく感じるが、冷しゃぶの肉が載っているので育ち盛り達の判定でもこれは立派な腹持ちの良いおかずである。今日はたこ焼きを大量に食べるつもりではいるが、他のおかずがあるとちょっと嬉しい。そんな気持ちで三人はたこ焼きが焼けるまでの間をサラダを食べることで時間を潰していた。


「マグ、とりあえずお前も食ったらどうだ?」


 ウルグスの問いかけにマグは返事をしなかった。じーっとフライパンを見ている。最適なタイミングを見逃してなるものかみたいな感じである。そこまで集中しなくていいだろうとぼやいたのはカミールだが、やはりその声にマグは反応しなかった。

 しばらくして、マグはすちゃっと千枚通しを手にしてフライパンの上の生地に切れ込みを入れ、慣れた手つきでぐいぐいとくぼみへと押し込んでいく。そうやって寄せて集めた生地の固まりを、くるりとひっくり返す。そうすることで、反対の面も焼くのだ。これを幾度か繰り返して、たこ焼きは完成する。

 冷しゃぶサラダを食べながら真剣な表情でたこ焼きを作るマグを見物している見習い組の三人。やる気に満ちているマグの邪魔をすることはない。……今日はきちんと、キャベツもタコも入れたたこ焼きを作っているので、ツッコミを入れる必要もないのだ。

 ちなみに、以前作ったときにマグは、出汁のたっぷり入った生地さえあれば十分といわんばかりに、何の具材も入れずに生地だけのまん丸の物体を作ろうとして、三人に止められていた。生地だけでも美味しいかもしれないが、それをたこ焼きとは言わない。そのことを覚えていたのか、今日のマグは大人しくスタンダードなたこ焼きを作っているのである。

 少しして、マグは綺麗なまん丸のたこ焼きを作り上げた。出来た瞬間、ひとまず自分の分を二つ確保するマグである。特に誰からも文句は出なかった。マグがどれだけお出汁で食べるたこ焼きを楽しみにしていたかを、彼らは知っているので。

 小皿にとったたこ焼きを、マグはそのまま一つ、とぷんとお出汁につけ込む。あつあつのたこ焼きがお出汁に入ることで、じゅわっと小さな音がする。そして、澄み切ったスープであったお出汁に、たこ焼きの油分が溶けだして薄い模様が現れる。それらを確認して、マグはそっと、箸でたこ焼きを半分に割った。

 半分に割ることで、中の生地にまでお出汁が染み込むようにしているのだ。またそれだけでなく、あつあつのたこ焼きの表面に冷まされたお出汁が触れることで、温度が下がるのを期待している。別にマグは猫舌ではないが、それでも焼きたてほかほかのたこ焼きは熱いので、少しでも食べやすくしようと思っているのだった。

 そして、たこ焼きが少しは冷めただろう頃合いで、マグは半分に割ったたこ焼きを口へと運んだ。表面はお出汁で冷やされてそれほど熱くはない。だが、内部に近い場所になればなるほどに、ふわふわとろとろの生地が熱を持っているのが解る。意を決してぎゅっと噛めば、生地に含まれた出汁と醤油の味に、少し甘めに仕上げられたお出汁の味わいがぶわりと広がる。生地の中にまで染み込んでいたそれが、一気に弾けたようですらあった。

 油が染み込んでフライパンに面してカリッと仕上がっていた表面も、お出汁を吸い込んで通常よりも柔らかい。柔らかな生地と甘めのお出汁が口の中で一緒に踊り、そこにタコが存在感を主張する。そのまま食べるたこ焼きも美味しかったが、こうやってお出汁につけて柔らかくなったたこ焼きもまた、絶品だった。

 マグは言葉を発さず、何かを噛みしめるようにもぐもぐと口を動かしていた。たこ焼き一つでそんな真剣な顔する?と同席者三人が思うほどに、マグは何かとてつもなく高級なものを咀嚼しているかのような雰囲気を出していた。

 まぁ、出汁が大好きなマグなので、その彼にとっては最高に美味しいすばらしい料理という判定になるのだろう。元々たこ焼きを気に入っていたところに、追い出汁という感じで更に美味しさが追加されているのだから。

 とりあえずマグが満足そうに食べているのを確認した三人は、自分達もお出汁につけてたこ焼きを食べてみることにした。カリカリが減るのはもったいないような気がしたが、口に運んだ瞬間その感想は吹っ飛んだ。これは、別の料理として楽しめば良いのだという気持ちだった。


「これ、ふわふわの生地が更にふわふわになった感じがあるな」

「しばらくつけて置いてから食べると、柔らかくなって中までお出汁が染み込んで美味しい」

「たこ焼きの旨味が染み込んでんのか、これ、お出汁の方もどんどん美味くなってねぇか?」

「「それだ」」


 ウルグスのコメントに、カミールとヤックは即座に食いついた。一つ目よりも二つ目を食べたときの方が、何やら美味しくなっているような気がしたのだ。気のせいかと思ったが、自分の手元のお出汁を見れば、たこ焼きの油や生地が溶けだして、最初とは雰囲気が変わっている。

 そんなことを思っていたら、ずずーという音が聞こえる。視線を向ければ、たこ焼き二個を食べきったらしいマグが、お出汁の入った器を両手で持ってごくごくと中身を飲み干していた。……フライパンの上には、次のたこ焼きが準備されているのだが。


「……マグ、一応聞くが、何やってんだ?」

「美味」

「そうだな。生地の旨味とか色々溶けてるから、美味いよな。それは解るけど、まだ食事は始まったばかりだぞ?」

「お代わり」

「たこ焼き二つ食べて全部飲み干してお代わりすんのを繰り返したら、他の人の分がなくなるんだよ!」


 ちっとは考えろ、とウルグスがツッコミを入れる。マグはその発言に不機嫌そうに眉を寄せた。美味しいお出汁を堪能して何が悪いのだ、とでも言いたげである。そんなマグに、お前だけのものじゃねぇんだよというウルグスからのツッコミが飛ぶ。やはりマグはふてぶてしい態度を崩さない。

 いつも通りのやりとりを繰り広げる二人の姿を見て、カミールとヤックは顔を見合わせて呟いた。


「とりあえず、次はカミールが焼く?」

「おう。その次はヤックで」

「了解」


 ウルグスはしばらくマグへのツッコミで忙しそうだから、自分達がたこ焼きを焼く係を担当しよう、みたいになっていた。色々と慣れすぎている。今更かもしれないが。

 見習い組のテーブルはそんな感じで少々ざわざわしているが、他のテーブルは穏やかに食事が進んでいる。たこ焼きを焼きながらなので、いつもよりも空気がどこか楽しそうだ。やはり、自分で作って食べるというのはまた趣が違うのだろう。

 そんな仲間達を眺めつつ、悠利もたこ焼きを口へと運んだ。ありがたいことに、焼くのは同席者のロイリスが担当してくれている。手先が器用な細工師の少年は、たこ焼きを焼くのも上手だった。


「普通のたこ焼きも美味しいけど、お出汁で食べるのはまた違って良いなぁ」


 口の中にじゅわっと広がるお出汁の美味しさを堪能しながら、悠利はそんなことを呟いた。生地も上手に作れたし、キャベツの甘さも加わって良い仕上がりだった。お出汁を少し甘めにしたおかげで、たこ焼きの風味に負けることもない。また、中に入れているタコもしっかりとした弾力を残し、旨味がたっぷり詰まっている。

 焼きたてなので少し熱いのが難点だが、それも冷めたお出汁につけることでどうにかなる。そんな悠利の目の前では、冷蔵庫できっちり冷やした冷たいお出汁にたこ焼きを入れて食べているミルレインの姿があった。


「ミリーは冷たいお出汁の方がよかった?」

「いや、違うのがあるなら両方試してみようと思って」

「なるほど」


 今のやりとりから解るように、ミルレインはお出汁をお代わりしていた。とはいえ、マグのようにぐびっと飲んだわけではない。両方を試すために、最初に器に入っていた冷ましたお出汁を控えめな量にしてから食べたのだ。

 冷蔵庫で冷やしたお出汁にたこ焼きをどぼんと入れれば、一気にたこ焼きが冷やされる。少なくとも表面はあっという間に冷える。だが中はまだまだ熱いので、ミルレインはたこ焼きを半分に割ってお出汁が染み込むようにしている。そうするとひんやりとしたお出汁が生地に入り込み、その熱をそっと下げてくれるのだ。

 そのおかげで、焼きたての柔らかさを残しながらも冷たくなったたこ焼きを、一気にばくっと食べることが出来るのだ。こちらはこちらで時折残る温かさを感じる楽しみがある。つまりは、どちらのお出汁でも美味しいということだ。


「なぁ、ユーリ」

「なぁに、ミリー」

「これ、別にタコじゃなくても美味しいとアタイは思うんだけど」

「まぁ、それはそうかな。今日はシンプルにタコにしたけど」


 そもそも、以前ロシアンたこ焼きをやったので、たこ焼きの生地にタコ以外の具材を入れるのは経験済みだ。それが美味しかったのは皆が知っている。ただ、今日はお出汁で食べるので、一番イメージ通りのタコを使っただけである。

 そんな悠利に、ミルレインは真顔で告げた。


「この間のみたいに、色んな具材のやつもお出汁で食べてみたい」

「……ミリーがそういうこと言うの、珍しいよね」

「熱々を冷たいお出汁に入れて食べるのが、すごく美味しい」

「うん、気に入ってくれて何よりです。また機会があればね」

「よろしく」


 この手の欲求を伝えてくる人選に入ってないミルレインの行動に、悠利はちょっと驚いた。驚いたが、それだけ気に入ってくれたというのなら、ありがたい。今すぐというわけにはいかないが、いつか出すメニューの一つにしておいても良いかなと思うのだった。




 なお、ミルレインの提案は他の仲間達にも支持されて、後日様々な具材で作ったたこ焼きをお出汁で食べることに決定したのでした。美味しいの可能性は無限大です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。

なお、感想返信は基本「読んだよ!」のご挨拶だけですが、余力のあるときに時々個別でお返事もします。全部ありがたく読ませて頂いております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誤字脱字報告は、ページ下部の専用箇所をご利用下さい。なお、あくまでも「誤字脱字」のみでお願いします。文章表現、句読点などは反映しません。ルビ記号は「|《》」を使用しているので修正不要です。

小ネタ置き場作りました。
最強の鑑定士って誰のこと?小ネタ置き場
クロスオーバー始めました。「異世界満腹おもてなしご飯~最強の鑑定士サイド~
ヒトを勝手に参謀にするんじゃない、この覇王。~ゲーム世界に放り込まれたオタクの苦労~
こちらもよろしくお願いします。ゲーム世界に入り込んだゲーオタ腐女子が参謀やってる話です。
32bh8geiini83ux3eruugef7m4y8_bj5_is_rs_7
「最強の鑑定士って誰のこと?~満腹ごはんで異世界生活~」カドカワBOOKS様書籍紹介ページ
1~24巻発売中!25巻10月10日発売。コミックス1~11巻発売中。電子書籍もあります。よろしくお願いします。
最強の鑑定士って誰のこと?特設サイト
作品の特設サイトを作って頂きました。CM動画やレタス倶楽部さんのレシピなどもあります。

cont_access.php?citi_cont_id=66137467&si
― 新着の感想 ―
出汁の信者、大歓喜。 猫舌な元気娘も冷たい出汁で喜んでそうな姿が目に浮かぶ。
いつも楽しく拝見しています。 少し気になったので一言… 基本的にたこ焼きにはキャベツは入りません。 入れるのは一部の地域で関西では入れないのが主流です… 入れてはいけないというものではないですが、入っ…
明石焼き、美味しいですよね(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ