職人コンビとオネェさんのコラボレーションです
何故か我らがオネェが生えました←
ミルレインとロイリスはどこで出店しているのだろうかと会場をうろうろしていた悠利は、思いもしなかった光景を見て思わず目を丸くした。ミルレインとロイリスの姿を見つけることは出来た。しかし、彼らがいるのは別の人の出店スペースだった。
てっきり、師事している工房のスペースに混ざっていると思っていた悠利は、ちょっぴり混乱した。ロイリスの関係者である細工師のスペースでも、ミルレインの関係者である鍛冶士のスペースでもない。そこは、悠利には顔馴染みの美貌のオネェ、調香師のレオポルドのスペースだった。
同行していたイレイシアも同じだったらしい。ミルレインとロイリスが合作で作った商品を出展する、というのは彼女も聞いていた。だから、悠利と二人で、鍛冶士や細工師が出品しているあたりに二人がいないかと探していたのだ。
そんな驚きの表情で固まっている二人に対して、販売場所の主である調香師のレオポルドは満面の笑みで手を振ってくれた
「はーい、ユーリちゃんにイレイスちゃん。いらっしゃい。その様子だと二人から説明は聞いてなかったみたいね」
「何も聞いてないです」
「どうしてレオーネさんがお二人と一緒にいらっしゃるのでしょうか?」
遠い目をする悠利と、素朴な疑問を投げかけるイレイシア。ちなみにロイリスとミルレインが二人の問いかけに答えないのは、彼らが絶賛接客中だからである。
彼らが作った品物に興味を持った人々に、丁寧に対応している姿は実に好ましい。どちらも自分たちの仕事をしっかり果たそうという真面目さがあるので、仲間への説明よりもお客様への説明が先になるのだろう。
そして、手の空いていたレオポルドが悠利とイレイシアの相手をしてくれている、というわけだ。
「まあ早い話が、あの子たちの合作にあたくしも一枚噛ませていただいたということよ」
「レオーネさんが噛む要素ありましたっけ?」
「ユーリちゃんが見た商品にはなかったけれど、あの後、皆で改良を施したのよ。ほら、見てごらんなさい」
そう言ってレオポルドが差し出したのは、悠利には見覚えのあるスマートフォンサイズぐらいの金属の板だ。ミルレインが作り、ロイリスがそこに花々の装飾を施した、いわば、小さな絵画のように飾れる金属板である。イメージ的には少し小ぶりのポストカードが近いだろうか。
そうして手渡された金属板を持ったユーリは、感触が違うことに気づいた。
「これ、板が二枚重ねてある……?」
絵が彫ってあるのは片面だけだ。表に当たる面には悠利が見たことのある金属板が使われており、その後ろにもう一枚金属板が取り付けられている。
何故と思った悠利は次の瞬間、ふわりと鼻孔をくすぐった柔らかな花の香りに目を見開いた。
「レオーネさんの香水?」
思わず呟いた悠利に、その通りよと言いたげにレオポルドはしっかりとうなずいてくれた。悠利の隣から金属板を覗き込んでいたイレイシアも、同じように衝撃を受けている。
綺麗な花模様を刻んだ金属板だと思っていたら、中から見事な香水の香りがしたのである。一体どういうことなのか。
「たまたま二人がこういうのを作っているっていうのを知ったから、もしよかったらあたくしの香水も使って全く別の商品にしてみないかっていう話を持ちかけたのよ」
「と、言いますと?」
「以前ロイリス君にハンドクリームの入れ物の装飾をお願いしたでしょ?あれと同じように、絵柄に合わせた匂いをこの中に仕込んだら飾りとして楽しいんじゃないかっていう話になったのよ」
楽しげに笑うレオポルドの説明を受けて、悠利はもう一度手にした金属板を二枚重ねた物体を見る。今の説明の通りだとすれば、どういう構造になっているのか何となく解ったのだ。
「あー、つまりアロマペンダントの時みたいに、この中に匂いを染み込ませた布が入ってるとかそういう感じですか?」
「正解。これね、簡単に開けられるようになっているのよ」
そう言ってレオポルドは悠利の手から金属板を取ると、側面の小さな留め金を外すようにしてパカリと開く。ロケットペンダントのように、あるいは折りたたみ式の写真立てのようにパカリと開いた。その金属板の内側には一枚の布が入れられており、そこにレオポルドの香水が染み込まされていたのだ。
「全く別のものになっちゃってる……」
自分が出したアイデアがさらにパワーアップしていることにユーリは驚いた。だが驚いただけで、その表情はキラキラと輝いていた。
「いいですね。これ、お部屋に飾って可愛い上に匂いまで楽しめるなんて!」
「あら、ありがとうユーリちゃん。ちょうどね、あたくしも新商品をどうにかできないかと思っていたところもあったのよ。だから、二人が心よく協力してくれて助かってる」
どういう経緯でレオポルドが二人と一緒に商品を開発したかは理解できた。その上で、悠利は改めて質問を口にした。
「えっとレオーネさんの店舗でお披露目してるのは、中に香水が入っているのを知ってもらうためですか?」
「それもあるけれど、あの子たちの合作だと関係者の店舗で出すと客層に偏りが出そうだと思ったのよ」
「あー……」
レオポルドの言いたいことを、悠利は何となく理解した。ようは、客の興味関心がどこに向かうかという話だ。
鍛冶士関係の場所で出すと金属板の構造について、どんな金属を混ぜたのか、加工するときの温度はどのようなものなのかという方向に興味を持たれるだろう。細工師関連の場所で出せば、装飾の見事さについて興味を持つ者が多いだろう。
ただし、その理由を理解した上で疑問が残ったので、悠利は改めて問いかける。
「でもそれ言っちゃうと、レオーネさんの店舗だったらそれこそ、香水に惹かれてくる人しか来ないのでは?」
「逆にその方が、商品の出来映え自体は見てもらえるんじゃないかっていう発想になったのよ」
「はい?」
「早い話が、どちらかの関係者の店舗で商品を出してそこで好評価を得ても、片方側の評価だけで人気が出たんじゃないかみたいなことになりかねないってことよ」
「わー、面倒くさい」
思わず本音がこぼれた悠利だった。どこの世界にも、それぞれの縄張り意識みたいなものはあるのだろうか。二人に合作で商品を作れと言ったのに、判断基準が片方に寄るのはどうのこうのと言い出す関係者がいるらしい事実に、面倒だと思う悠利だった。
なお、その感想はレオポルドも同じだったらしい。美貌のオネェは茶目っ気たっぷりにウインクをして言葉を続けた。
「とても面倒くさいわよね。で、二人だけで店舗を取ろうと思ってたみたいなんだけれど、あの子たちってばまだ見習いだから、仮に場所が取れたとしても隅っこの方になっちゃうのよ」
「ほうほう」
「で、あたくしが一枚噛むことによってそれなりの場所で展示ができるということなの」
「一応、お互い利点はあったということですね」
「そりゃあもちろん、あたくし一方的に搾取する気はなくってよ」
「それはまあ、レオーネさんがそういう方だというのは知ってますよ」
説明を聞いて、何故レオポルドの店舗にロイリスとミルレインがいるのかは理解できた。二人も色々と考えて、自分たちの成果をお披露目するのに一番良い方法を選んだらしい。事情を知って良かったと思う悠利だった。
そんなことを思いつつ、悠利はもう一度二人の新作をしっかりと見る。飾りとして花の絵柄を刻んだ金属板であった時よりも、二枚重ねて香水の匂いを漂わせていると、なんというかずいぶんと高価に見える。
また、抜け目のない調香師のオネェさんは、ロイリスとミルレインが作った商品の側に自分の香水も並べている。
「あのレオーネさん、こちらの香水が隣に並べてあるということは、それが中に入っているということで良いんですか?」
「ええ、その通りよ。もちろん、中に入れる香水は自由にしていただいていいのだけれど、どうせならお花の絵柄と揃えた方が楽しいでしょ?」
そう言って、パチンとウインクをよこすレオポルド。そんな姿も様になるのがさすがである。
ちらりと悠利は接客をしている仲間二人へと視線を向ける。やはり、香水と花の絵柄という取り合わせから、ロイリスとミルレインに声をかけているのは女性が多く見える。ただ、ちらほらと男性の姿も見えるので、悠利ははてと言いだけに首をかしげた。どちらかというとこの手のものに興味を示すのは女性のような気がしていたからだ。
そんな悠利の疑問に答えるように、楽しげにレオポルドが笑った。
「あのね、ユーリちゃん。こういった新商品って、意中のあの子に対するプレゼントとして最適なのよ。あるいは奥様や恋人へのプレゼントとしてもね。周りがまだ知らないような新しい商品。それが自分の思い人、大切な人が好みそうなものだとしたら殿方だってこうして商品を検討するようになるわよ」
「あー、なるほど。贈り物ということですね」
「ユーリちゃんのことだから、自分が買うことしか考えてなかったんでしょう?」
「考えてなかったです」
てへっと笑う悠利。もちろん誰かに贈り物をするという発想がないわけではない。ただ、この商品に関しては、そもそも自分が欲しいなと思って見に来たので、仲間の誰かに買ってあげようという発想はなかったのだ。
ただ言われてみれば、確かに贈り物としても最適なように思えた。ましてや、中に香水を入れることができるというのなら、ただ飾るだけではなくアロマディフューザーのような役目ができるということだ。
「それにね、ユーリちゃん。ここに描かれているのと同じ柄の香水をすでにお持ちなら、中身は買わなくてもいいのよ」
「はっ!家にある香水を有効活用できるってことですね!」
「そういうことよ」
悠利とレオポルドは何やら二人だけで分かり合って盛り上がっていた。それを見ていたイレイシアはよくわからないというように首をかしげ、その腕の中でルークスも同じようにコテンと体を傾けていた。どういうことだろうね、みたいなニュアンスである。
なお、悠利とレオポルドがここまで盛り上がっているのには理由があった。
香水は自分に吹きかけてお洒落として使うのが一般的だが、意外と使い切るのが難しいという側面もある。普段から香水を使っている人ならともかく、いい香りだったからと買っただけとか、たまのお出かけにという風に購入した人にとっては、一瓶を使い切るのはなかなか難しいのだ。
だが、そんな人たちにとってもこの商品は使い勝手がいい。飾りとして部屋に置くと同時に、素敵なお花の香りを部屋に漂わせてくれるのだ。……そう、家庭で眠っているであろう香水に、新しい可能性が開かれたわけである。
そんな風に雑談をしていると、接客を終えたらしいロイリスとミルレインがお待たせと悠利とイレイシアの元へやってきた。
「すみません、待たせてしまって」
「ううん大丈夫だよ。お客さんの相手、お疲れ様。反応、どんな感じ?」
「大成功だ。こういうのなら家に飾ってみたいって、もういくつか売れてるんだよ」
「そうなんだ。二人、頑張って作ってたもんね。おめでとう」
「ありがとう」
ミルレインの答えを聞いて、悠利は嬉しそうに笑った。イレイシアも笑顔で二人の労をねぎらっている。
初の合作ということで緊張もしていたのだろう。未だ見習いの立場である自分たちが作ったものが、きちんと売れるかどうか不安だったに違いない。しかしその不安は杞憂に終わり、好意的に品物を受け入れてもらえている。実に良いことだった。
「ところで、レオーネさんと協力するようになったって話を、僕は聞いてないんだけど……?」
首をかしげて悠利が問いかければ、ロイリスとミルレインは顔を見合わせた後、いたずらが成功したかのように笑った。二人のそんな態度は珍しいので、ぱちくりと瞬きを繰り返す悠利。そんな悠利に対して、ロイリスは笑顔で告げた。
「実は、ユーリくんを驚かせたくて」
「驚かせる?」
「ええ。商品のアイデアを出してくれたのはユーリくんですし、完成品も見せましたよね」
「でもその後、たまたまレオーネさんにいいアイディアをもらったから、それなら当日までユーリには内緒にしておこうと思って」
「何でまたそんな……」
二人が何故そんなことを考えたのかがさっぱり解らず、悠利は首を傾げる。イレイシアの腕の中のルークスは、主が気分を害しているかを確認して、別に悲しんではいないようだと理解したので大人しくなった。……悠利がもしも悲しんでいたならば、二人に対してちょっと威嚇をしようと思っていたのかもしれない。この愛らしいスライムは悠利至上主義なので。
そんな風に、自分たちがちょっぴり危ない橋をわたっていたとは知らない二人は、理由を説明していた。
「ユーリ、お祭り楽しみにしてただろ?」
「なので、当日に見知らぬ商品があったら楽しさが増えるかなと思ったんです」
「二人とも……」
どうやらサプライズで悠利を驚かせようと思ってくれたらしい。あくまでも善意だし、ユーリも驚いたとはいえ、それはこんな素敵なものになってるなんて!という方向の驚きだったので、特に気分を害した覚えはない。少しばかり水臭いなと思った気持ちはあるが、二人が何のために黙っていたのかを理解すればその気持ちも引っ込んだ。
けれど、悠利の口から出た言葉はそういうものではなかった。こぼれ落ちたのは、実に素直な感想だった。
「二人がそういうことを画策するのって珍しいよね」
「そうか?」
「そうですか?」
「そうだよ。そういうのって、ヘルミーネとかカミールとかがやりそうだもん」
「あー……」
「確かにそうですね」
悠利の言葉に、二人はそっと視線をそらした。否定する材料がどこにもなかったのだ。
悪気はないが他人を驚かせるところのある小悪魔ちっくな美少女ヘルミーネと、分かった上で色々やっている情報通の少年カミール。確かに、《真紅の山猫》のサプライズ担当はあの辺かもしれないなと思う一同であった。なお、どちらも妙に憎めないので、そのことで仲間達に怒られることはあまりない。せいぜいツッコミを入れられる程度だ。
「ところでこれ、香水を入れるやつだけ作ったの?」
「いえ、そちらにすると金属板が二枚必要になるので、少し値段が上がるんです。なので、ユーリくんのアイデア通り、一枚の金属板に絵を彫っただけのものもありますよ」
「あーなるほど。価格帯の調整は大事だよね」
「あと、シンプルに絵を飾りたいというだけの方もいると思ったので」
にこりと微笑んだロイリスの言葉に、確かにその通りだなと悠利は思った。顧客のニーズを満たすのはとても大事なことだ。よく似た商品でも、用途が違えば客層が変わる。香水に興味がない人も、金属板に綺麗な絵が刻まれている商品をほしがってくれるかもしれない。そう考えた二人に、ちゃんとしてるなぁと思う悠利だった。
そんな悠利たちに、ミルレインは元気いっぱいに声をかけた。
「まだいっぱい残ってるからな。ユーリたちも見てくれ。アタイとロイリスの力作がいっぱいだぞ」
「それでは、拝見させていただきます」
「見させていただきますわ」
満面の笑みのミルレインに、悠利はちょっぴりおどけるようにかしこまった口調でお辞儀をした。その隣でイレイシアは、いつも通りの柔らかな微笑みを浮かべている。どんな絵柄があるのか、実はわくわくしているのだ。
ミルレインが力作と告げた通り、並べられている品々はどれも見事な出来栄えだった。鋼の良し悪しなどよくわからないユーリとイレイシアから見ても、ミルレインが丁寧に作ったとわかる金属板はどれもこれも美しかった。まず、艶と光沢が大変素晴らしい。長方形の形をした金属板だが、手に持っても引っかかることがなく、角は優しい丸みを帯びて加工されている。光にかざすと色味が変化するものもあり、試行錯誤しながら色々な種類の金属板を作ったのだということがよくわかる。
刻まれている模様に関しても、素人の二人から見ても実に美しいものだということがわかる。何より、実際の花を見て描いたかのような美しさかと思えば、可愛らしくデフォルメされた花々の並ぶものもある。おそらくそのあたりは、買い手の好みに合わせられるようにロイリスが考えたのだろう。どちらにせよ、まるで花をスケッチして切り取ったかのような彫金の腕は見事である。彫りの深さと浅さで色味を調整しているようにも見え、線の細さ、太さで強弱をつけている。
見事な仕上がりの商品からは、普段から二人が己の仕事に熱心に取り組んでいることがよくわかる。そして、そのお互いの技量を最高に生かし合った一品が出来ているのだ。
「うーん、うーん、悩むなー」
「あら、何を悩んでいるのユーリちゃん?」
「あ、いえ、これだけいっぱいあると、どの柄にしようかなって真剣に悩んじゃって」
「なるほど」
「それに、香水を入れられるやつもいいんですけど、金属板だけのものも捨てがたいと思って」
「ずいぶん真剣に悩むのねぇ」
「そりゃ悩みますよ。さすがに全部買い占めるわけにはいきませんし」
大真面目な顔で告げた悠利に、レオポルドはパチクリと瞬きを繰り返した。
「……買い占める?」
思わずこぼれたといわんばかりのレオポルドの呟きに、悠利はこくりとうなずいた。そうこれだけの良い品なのだ。自分だけで楽しんでは、勿体ない。それが悠利の本音なのである。
なお、お財布的には複数買ったところでちっとも痛くないのだが、やはり仲間達の頑張りを他の人々にも知ってもらいたいと悠利は思うのだ。だからこそ、何を買うかを真剣に吟味しているのである。イレイシアの方はお財布と相談した上で、気に入ったものを買おうという感じで物色しているのだが、悠利の方はお財布の心配は特にないのだ。
しかし、それを知らないレオポルドは、心配そうに悠利に問いかけた。
「ユーリちゃん、貴方お財布の心配は?」
「お財布の心配は、実はあんまりなかったりします。というかむしろ、たくさん金を使ってこいと皆に言われました」
しょぼんと肩を落とす悠利。何それと言いたげなレオポルドに、ロイリスとミルレインが横から説明を始める。
「レオーネさん、レオーネさん。ユーリのやつ、生産ギルドに色々登録してるからなんだかんだで収入あるんですよ」
「でもユーリくんは僕らと違って装備品を整える必要がないので、ほぼほぼ自分のためにお金を使わないんです」
「何ですって?」
「時折珍しい食材を買ってくることはあっても、それ以外でユーリが散財しているのはアタイは知らないな。そもそも珍しい食材に関しても、知り合った相手からもらう場合が多くて、自分で買っているのはあんまりないよな」
「ありませんね」
普段の悠利の行動をよく知る二人は、そんな風に顔を見合わせて告げている。レオポルドはその内容を色々と吟味して、額に掌を押し当てた。思わずと言いたげに、盛大にため息をがこぼれる。悠利という少年がどういう人物かを、今さらながらに思い出したのだろう。
悠利は可愛いものや綺麗なものは大好きだが、自分自身を着飾ることにはものすごく無頓着だ。無頓着というよりは、当人的には似合う似合わないで分類した場合、自分にはあまり似合わないと思っているし、見て楽しむ方が好きなのだ。早い話が、他人が着飾っているのを見てキャッキャするのはいいが、自分が同じように着飾ろうとは思わないタイプである。
部屋の小物などには多少なりとも趣味を反映させることもあるが、だからといって何でもかんでも買い求めるというわけでもない。《真紅の山猫》の仲間たちならば、装備品や日用品により良い品を買い求めるのだが、基本的にアジトから出ず家事ばかりやっている悠利にとっては、そんな風に買い求めるものが存在しない。
しかし困ったことに、悠利がなんやかんやで生産ギルドに登録しているものは多いのだ。その結果どうなるかといえば、金が貯まる。膨大なというほどではないが、こういった時に気にせずパーッと買い物をしても問題ない程度にはお金は貯まっている。要は経済を回していないのである。
「なるほどね。それじゃあ、他の店でも色々買い物しなさいね、ユーリちゃん」
「欲しいなと思ったものは遠慮なく買う気ではいますよ」
「で、うちではどうするの?」
「とりあえず、香水入れられるやつを一つと、金属板だけのやつを一つ買おうかなと思って物色中です」
「そうだったら香水もセットで買ってちょうだい」
「レオーネさんの商売上手ー」
「そりゃあ、お仕事ですもの」
悠利の言葉に、レオポルドは楽しげに笑った。そんな風に喋っていると、また新たに客がやってくる。これはどういう商品ですかと聞いてくる客に、ロイリスとミルレインは自分たちの力作を説明している。
段々と人が集まってきて、二人では接客の手が足りなさそうになっているので、悠利とイレイシアは自分たちのことはいいからとレオポルドにも接客に回るようにと促した。ゆっくり選んでちょうだいねと二人に告げて、美貌のオネェも接客に回る。
それを見ながら、悠利は傍らのイレイシアに小声でささやいた。
「大人気だね」
「大人気ですわね」
まるで悪戯が成功した子供みたいに、楽しげな顔をして二人は笑う。大切な仲間が一生懸命頑張って作った商品が、こんな風にたくさんの人に注目されているのはとても嬉しいのだ。なんだか、自分のことのように誇らしいのだ。
「キュピー」
「ルーちゃん、どうかした?」
イレイシアに抱えられていたルークスは、興味を示したかのようにちょろりと体の一部を伸ばす。ルークスが触れたのは、花とともにオレンジの果実を描いた金属板だった。これも香水が入れられるように加工してある方だ。それをルークスは、興味深そうにツンツンと触っている。
「どうしたのルーちゃん?これが気になるの?」
「キュー」
その通りだと言いたげに愛らしいスライムはうなずく。スライムに嗅覚があるのかどうかはわからないが、何かを感じ取っているらしい。
「うーん、じゃあ、ルーちゃんが気に入ったのならこれにしよっか。お花と柑橘系の果物を使ってある香りかな?うん、爽やかでいい感じ。あとでレオーネさんに、これと香水も一緒に買わせてもらおうね」
「キュピ」
自分が気に入ったものを悠利が手に取ってくれたことが嬉しかったのだろう。ルークスはとてもとても幸せそうに鳴いたのだった。
なお、お祭り終了後に確認したところ、ロイリスとミルレインの力作は全て売り切れたらしい。また、レオポルドとのコラボレーションが功を奏し、数量限定ながら美貌の調香師のお店で販売することも決定したらしい。お仕事もゲットです。
ご意見、ご感想、お待ちしております。
なお、感想返信は基本「読んだよ!」のご挨拶だけですが、余力のあるときに時々個別でお返事もします。全部ありがたく読ませて頂いております!





