表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の鑑定士って誰のこと?~満腹ごはんで異世界生活~  作者: 港瀬つかさ
書籍21巻部分

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

380/450

調度品は調度品……?

 ワーキャットの里に滞在して三日目。何やかんやでお勉強も兼ねてあちこちで交流に勤しんでいる皆と違って、単純にリディと遊ぶために来ている悠利(ゆうり)は自由だった。自由なので、本日はお勉強を免除されたリディの案内で屋敷の中をうろうろしている。

 勿論、本日も世話役のフィーア、護衛役のクレスト、学友のエトルの三人は一緒だ。後、悠利の頼れる従魔のルークスも。なので、屋敷の中をうろうろする一行はそれなりに目立ち、すれ違う人々に微笑ましく見守られているのであった。

 代々ワーキャットの里を背負ってきた里長の家ともなれば、置かれている調度品もなかなかのもの。歴史というのは、しっかりと受け継がれてこそ守られるのだ。そういう意味では、一族がしっかりと血を繋いで役職を背負ってきた里長の家系というのは素晴らしい。

 柱一つとっても、文様が刻まれていたりして美しい。お金持ちのお屋敷って細部まで色々丁寧に作ってあるよねぇ、と思う悠利だった。庶民代表の悠利としては、そんな風に感じてしまうのだ。

 そして、屋敷の中を案内していたリディが最後に悠利を連れてきたのは、宝物庫と呼ばれる場所だった。屋敷の一角にある部屋ではあるが、扉には他の部屋にはなかった頑丈な錠前が付けられていた。何か重要なものが置いてあると一目で解る。


「リディ、ここって入って良いの?」

「ぼくといっしょならだいじょうぶ」

「そうなの?っていうか、鍵は?」

「だから、ぼくがいる」

「へ?」


 リディが何を言っているのか解らずに首を傾げる悠利だが、リディは気にした風もなく錠前に手を伸ばした。子猫の小さな掌が、ぽふっと錠前に触れた。肉球を押し込むようにぐっと力を込めた瞬間だった。小さな音を立てて錠前が外れた。

 外れた錠前は、邪魔にならないようにフィーアが拾っている。特に何かをしたようには見えなかったが、先ほどまできっちり締まっていた錠前は外れている。


「えーっと、リディ、これ、何?」

「かぎをあけたから、はいろう」

「いやだから、今の何!?」


 驚愕のあまり声を荒らげてしまう悠利に、リディはぱちくりと瞬きを繰り返した。中に入るために鍵を開けただけなのに、何でそんなに騒いでいるんだと言いたげだ。若様には悠利の驚きは通じていなかった。

 そんな悠利の困惑を察してか、フィーアが詳細を説明してくれる。


「こちらの宝物庫の錠前は、里長の一族の方のみ開けられるようになっているのです」

「……つまり、リディが鍵ってことですか?」

「そうなります。直系の血筋の方に反応するようですので、現在は里長様、若様、それと引退された先代様となっております」

「……ってことは、先代様の頃だったら、里長様のご兄弟も可能だったってことですか?」

「はい、そうなります」

「わぁ……」


 思った以上に凄い錠前だった。しかも話を聞くと、物理で壊そうとしても壊れない錠前らしい。そして、錠前を付けていると扉の方にも何らかの保護がかかるらしく、扉を壊すのも不可能らしい。代々受け継がれてきた錠前らしく、構造はよく解っていないということだった。

 まるで指紋認証みたいなだなぁと思う悠利。ただし、現代日本の指紋認証は対象物に保護とか強化とかがかかるわけではないので、やっぱり異世界の不思議パワーが発動しているんだろうなと思った。

 ついでに、物理無効がどの程度まで効果があるんだろうか、とも考えた。極論、屋敷が火事になったときも扉が無事なのか。無事なのは錠前と扉だけなのか、部屋にも及ぶのか。ちょっと興味が湧いた。まぁ、そんな危ないことはしないけれど。

 恐らく、代替わりのときの儀式か何かで錠前の対象が変わるのだろう。その辺りのことも聞いてみたいなと思ったが、迂闊に話題に出してジェイクが食いついたら大変なことになりそうなので止めておこうと思った。学者先生は興味があることだと突っ走ってしまうので。


(せっかく誘って貰ってお邪魔してるのに、ご迷惑をかけちゃダメだよね……!)


 胸中で悠利はグッと拳を握った。ジェイク先生の暴走だけは防がなければならない。見習い組や訓練生が興味を持って質問するのと、有り余る知恵と知識を兼ね備え記憶力も優れた学者先生がハイテンションで質問攻めにするのは全然違うのだ。主にされる側の疲労が。


「ほら、ゆーり、なかにはいろう」

「あ、うん。……宝物庫ってことは、貴重なものがあるんだよね……?」

「せんぞだいだいのしなだって」

「そっかぁ……」


 若様は自分の家の珍しいものをお友達に見せたいだけなのだろう。うちにはこんなものがあるんだぞ!と教えたいだけなのかもしれない。しかし悠利はちょっと、いや、かなり緊張している。里長様の家に先祖代々伝わってる品とか、普通に家宝である。庶民が簡単に見たり触ったり出来るものではないはずだ。

 しかし、フィーアもクレストも特に何も言わない。宝物庫に入る許可と、悠利に見せる許可は取っているのかもしれない。破格の待遇である。

 壊したり汚さないように注意しよう。そう決意を固めて、悠利はリディに促されるままに宝物庫に足を踏み入れた。

 部屋自体はそれほど広くはなく、質の良い調度品に様々な品物が飾られていた。置物や武具、甲冑などもある。絵画や繊細な細工で作られた食器もあった。とりあえず高そうという感想が頭に浮かんだ悠利であった。


「このえは、しょだいさまのえ」

「初代様?」

「この地に里を作られた初代里長様ご夫妻の肖像画だと伝わっています」

「あ、なるほど」

「そう、そのしょだいさまのえ」


 えっへんと胸を張るリディと、その傍らで補足説明を担当したエトルの嘆息が見事な対比だった。若様も、多分それが初代様ご夫妻の肖像画だというのは解っている。解っているが、まだ人の言葉が上手に喋れないので、実に端的な説明になったのだ。

 その初代様ご夫妻の絵はというと、歳月が経過して多少色あせてはいるものの、美しさを残していた。額縁はシンプルながら繊細な文様が刻まれており、皆がこの肖像画を大切に思っていることが伝わってくる。ちなみに初代様と思しき男性の色彩は、リディと同じ金茶色だった。

 その後もリディは、室内にある品々の説明を続けた。舌っ足らずで言葉足らずな若様の説明を、エトルが丁寧に補足する。時折わちゃわちゃとしたやりとりを挟みつつも、楽しみながら過ごす悠利達。

 不意に、小さくルークスが鳴いた。視線を向ければ、愛らしいスライムはじぃっと悠利達を見上げている。


「ルーちゃん、どうしたの?」

「キュピ、キュピィ」

「え?何?隙間?」


 ちょろりと身体の一部を伸ばしたルークスは、すぃっと棚と棚の間の隙間を示した。そんな狭い隙間に何があるんだと、悠利とリディ、エトルの三人は視線を向ける。しかし、薄暗いので見てもよく解らない。

 そんな悠利達の目の前で、ルークスはにゅるんと細く伸ばした身体の一部を隙間に滑り込ませた。そのまま、うねうねと動かしているのが解る。


「……るーくす、なにやってるんだ?」

「キュピピ」


 怪訝そうなリディに、ルークスは何かを説明している。しかし、生憎と魔物の言葉は解らない。首を傾げるリディとエトル。背後のフィーアとクレストも意味が解らずに顔を見合わせている。

 その中で、悠利は一人、まさか……という顔をしていた。今のルークスの行動に、見覚えがあるのだ。伊達に一緒に生活してはいない。

 なので悠利は、もしかしてと思いつつもルークスに声をかけた。


「ルーちゃん、隙間の埃が気になるの?」

「キュ!」


 気付いてくれた!と言いたげにルークスが嬉しそうに鳴いた。何が?と不思議そうなワーキャット達をよそに、悠利とルークスの会話(?)は続く。


「つまり、ここのお掃除がしたいってことで良い?」

「キュイキュイ!」

「隙間とかの掃除がしにくくて埃が溜まる部分が気になると?」

「キュピ!」

「そっかぁ……」


 その通りだと言いたげにルークスはぽよんと跳ねた。お掃除大好きスライムは、汚れを見つけて気になってしまったらしい。安定のルークス。

 よそのお家なんだけどなぁと思いつつ、悠利はフィーアとクレストに向き直った。やる気に満ちたルークスなので、ここでダメと言うのは可哀想だ。それに、掃除をすること自体は悪いことではないので。


「あの、部屋の掃除ってやっても大丈夫です?」

「掃除、ですか……?」

「ルーちゃんはアジトでも掃除を担当しているんですが、こういう掃除用具の入らないような隙間の埃が気になって仕方がないみたいで……」

「はぁ……」


 何を言っているのか良く解らないという返事をするフィーア。彼女は悪くない。普通のスライムはそんな風に掃除に情熱を燃やさないのだ。

 それでも、ルークスのキラキラとした眼差しと、悠利の伺うような表情を見て、彼等は結論を下してくれた。


「掃除そのものは怒られないと思います」

「宝物庫の品に触れなければ、問題はないかと」

「ありがとうございます。ルーちゃん、そういうことらしいから、品物には触っちゃダメだよ」

「キュキュー!」


 解ったー!とでも言いたげにルークスは元気よく跳ねた。跳ねて、そして部屋の隅っこの方へと移動し出す。そちらの方が埃が多いらしい。


「……るーくすは、あれがたのしいのか?」

「楽しいらしいよ」

「そうか……」


 かわってるな、と若様は実に正直に告げた。それでもルークスが楽しいなら良いかと思ったらしく、気を取り直したように悠利の腕を引いて次のお宝へと移動する。

 続いてリディが悠利に見せたのは、丁寧な細工の置き時計だった。コチコチと時を刻む音がする。本体は木で作られているのだが、繊細な細工で彫りが施されており、大樹をイメージした形に森が刻まれている。


「この時計は?」

「それは、さいしょのとけい」

「里で木工細工を外部向けの商品として作り出したときの、最初の商品の一つだそうです」

「なるほどー。歴史的に重要な価値があるから保管してるって感じかな?」

「そう聞いてます」

「ふるいけど、まだちゃんとうごくとけい!」

「ちゃんと動くのは丁寧に保管してるからだろうね」

「うん」


 最初の時計ってなんだろう?と思った悠利は、すぐさまエトルが解説を加えてくれて助かった。若様は本当に、ざっくりとした説明しかしてくれない。人の言葉で長く喋るのはやりにくいのだろう。気を抜くと語尾がにゃーにゃーしてしまうので。

 ……なお、それもエトルに言わせれば「若様が勉強をサボっているからです」になるのだろうが。ワーキャット間は猫の言葉で話が通じるので、そこまで積極的に人の言葉を練習していなかったのだ。お友達の悠利と喋りたい一心で、最近やっと喋れるようになった若様なのである。

 それにしても、説明を聞くとかなり古そうな時計だが、とてもそうは見えない。確かに年代物には見えるのだが、見た目も美しく、また時計としてもしっかりと機能している。よほど保存と手入れがきちんとしているのだろう。もしかしたら宝物庫の担当者がいるのかもしれない。

 その時計の隣に、一際目を引く品物があった。金色の輝きを放つ、多種多様な細やかな宝石が埋め込まれたそれは、ゴブレットと言われるグラスに見えた。深めの大きなグラスだ。装飾も美しく、それだけでなく何とも高貴な気配が感じられる。

 悠利の視線に気付いたらしいリディが、そのゴブレットを真剣な目で見つめて告げた。


「それは、ぎしきのごぶれっと」

「儀式?」

「さとおさがやるぎしきのときにつかう、だいじなごぶれっと」

「……つまり、家宝?」

「たぶん、そう」

「こんな無防備に置いといて良いの!?」


 確かに棚の中に収まってはいるが、それだけだ。宝物庫の他の品々と同じように、簡単に手に取れる。家宝というなら、金庫とかせめて鍵付きの棚の中とかに片付けるものではないのかと悠利は思った。

 しかし、そもそもこの宝物庫への出入りが簡単には出来ないので、あまり気にしていないらしい。変なところで大らかだなぁ……と思う悠利だった。


「里長の代替わりの際や、後継を定める儀式、或いは里長の子が生まれたときなどは、こちらのゴブレットを使用されます。また、祭事などにおいても同様です。里長の象徴のようなものですね」

「聞けば聞くほど凄く大事そうな品なのに、こんな置き方で良いんですね……」


 フィーアの説明を聞いた悠利は、がっくりと肩を落とす。大事な品物のはずなのに、保管方法がちょっと雑じゃないかと思えてしまう。それだけ宝物庫のセキュリティに自信があるのかもしれないが。

 そんなことを思っていると、リディがぽつりと呟いた。


「ほんとうは、ぎんのごぶれっとといっしょだった」

「銀のゴブレット?」

「これと、もうひとつ。いっついだったってきいてる」

「言い伝えでは、金と銀の一対のゴブレットとなっているのですが、いつ頃からか銀のゴブレットは行方不明だそうです」

「あー……、年月が経つとそういうこともあるかー」

「みたいです」


 エトルの説明に、悠利は遠い目になった。紛失したのか、壊れたのか、誰かが盗んだのか。長い歴史の中では、どこかで情報が途切れて在りかが解らなくなるものが沢山ある。この金のゴブレットの対である銀のゴブレットも、そういうことなのだろう。

 不意に、リディがゴブレットを手にしていた。ぎょっとする悠利に構わず、ほら、と差し出してくる。


「いやリディ、それ、僕が触って良いものじゃ……」

「もったほうがよくみえるかとおもった」

「……うん、大丈夫。見てるだけで良いよ」

「わかった」


 調子に乗りやすい若様だが、ゴブレットが大事な家宝であるというのは理解しているのだろう。丁寧に扱っているし、危ない動きもしていない。悠利が丁重にお断りをすると、棚にそっと戻していた。

 心臓に悪いなぁと思いながら、悠利は改めて宝物庫の中を見渡す。置かれている品々が高そうなのでうっかりしがちだが、この部屋も調度品が見事だった。

 悠利は綺麗なものや可愛いものが好きなタイプだが、アンティークな家具も好きである。庶民にはなかなか手が出ないので、ドラマやドキュメンタリーなどのテレビで見ては楽しんでいた。なので今、実は地味に調度品を見てうきうきもしている。

 ふと、壁に備え付けられている棚が目に入った。小物入れなのだろうか、小さなステンドグラスが扉のように幾つも並んでいる。室内の光を反射して輝くステンドグラスは大変美しい。


「リディ、この棚って開けて良いのかな?」

「だいじょうぶ」

「ありがとう」


 どういう仕組みか気になってステンドグラスに触れると、端の方につまみがあるのが解った。そこを引っ張ることで開けられるようになっている。開けてみると中にはワーキャットを模した人形が入っている。石を削って作られたような人形で、デフォルメされていて妙に可愛い。


「可愛いね、これ」

「こうげいひんのひとつ」

「こういうのも作って販売してるんだ?」

「そう。ねこずきににんきだって」

「そちらは、初代様の時代の名工の手によるものと言われています」

「……丁寧に扱いますー」


 可愛いお人形だけど、これも立派にお宝なんだなぁと思う悠利だった。他の部分も開けてみると、同じように石の人形が入っている。デザインが少しずつ違うので、老若男女多種多様で楽しい。

 名工の作と言うだけあって、まるで今にも動きだしそうだ。凄いなぁと思っていた悠利は、ふと、視界の端で何かが光るのを見た。正確には、技能(スキル)による「ここに何かあるよ」という情報だと気付いた。

 色は青だ。なので、危ないものではないことは理解できた。何だろうと視線を向けてみると、人形が入っていた棚の奥の方に、小さな小さなボタンが見える。それも複数。ボタンのある棚と、ない棚があるのが不思議だが、光っているのはその内の一つだった。


「……何コレ?」


 首を傾げる悠利の視界に、ぶぉんっと鑑定画面が表れた。悠利が認識したので詳細を出してくれたらしい。今日も安定の出来る技能(スキル)【神の瞳】さんである。……普通の技能(スキル)はこんなことはないのだが、悠利にとってはいつものことである。




――隠し通路の起動装置。

  この宝物庫から地下の遺跡に続く隠し通路を起動させる装置です。

  順番通りにボタンを押すと、隠し通路へ続く扉が表れます。

  長らく使われていなかったようですが、装置自体は問題なく動くのでご安心ください。

  光っている順番に押せば装置が起動します。




「うわぁ……」


 安定の【神の瞳】さんであった。説明が大変解りやすい。ありがたい。しかし、内容は色々とぶっ飛んでいるので、悠利は遠い目をした。

 そもそも、隠し通路って何?である。更に言えば、地下の遺跡って何!?である。里長様のお屋敷なので、脱出用の隠し通路などがあっても納得はするが、遺跡に続く隠し通路って何なの!?となるのだ。

 突然悠利が頭を抱えたので、リディは心配そうに悠利を見上げる。掃除をしていたルークスも悠利の異変に気付いて、ぽよんぽよんと跳ねて近寄ってくる。どうしたの?と言いたげに左右から覗き込まれて、悠利はあははと渇いた笑いを浮かべた。


「あのねぇ、リディ。この部屋、隠し通路あるんだって」

「え?」

「この壁に備え付けられている棚にね、ボタンがあるんだけど。それを押したら隠し通路が出てくるらしいんだけど、知ってる?」

「なにそれ、しらない!やろう!」

「決断が早いね!?」


 そんなものは知らなかった。うちにそんな面白そうなものがあるなんて。さぁやろう、今すぐやろう!みたいなテンションになるリディ。好奇心旺盛な若様は、面白いことに即座に飛びついた。

 対して、エトル、フィーア、クレストは衝撃で固まっていた。長年この里で生活しているし、若様と共に宝物庫に入ったこともあるが、隠し通路の存在など彼等は知らなかったのだ。若様みたいに楽観的に考えることは出来ない。


「あの、とりあえず起動するかどうか確かめても良いですか?それで動いたら、里長さんに話をする感じで……」

「そう、ですね。我々には動かし方も解りませんし、ひとまずお願いします」

「若様はこちらにいてください。動いてはダメです」

「なんで!?」

「「邪魔になるからです」」

「りふじんだ!」


 クレストにがっしりと確保されて、リディは思わず叫んだ。しかし、隠し通路にテンションが上がっている若様が暴走する可能性を考えたら、確保しておくのは当然だ。大人二人に大人しくしていろという圧をかけられて、リディはふてくされながらもそれに従った。

 なお、そんな若様を宥めるようにエトルが隣で手を握り、ルークスがなでなでと伸ばした身体の一部でリディの頭を撫でていた。それでちょっと機嫌が直る若様であった。割とチョロい。


「それじゃ、やってみます」


 悠利は青い光が示す順番に、ぽちぽちとボタンを押していく。長年使われていなかったとあって少し固かったが、それでも問題なくボタンは押せた。一つ押すとカチリと何かが動く音がするので解りやすい。

 そうして順番通りに幾つかのボタンを押し終えたら、鈍い音がして飾り棚が付けられている部分の壁が下がった。後ろに下がり、そして床下へと消える。消えた先には、何やら頑丈そうな石造りの扉が表れていた。


「……隠し通路の扉みたいです」

「……そのよう、ですね」

「かくしつうろ!」

「若様、ダメです。お父上に報告してからです!」

「なんで!?」


 扉が出てきたなら開けるべきだ!みたいなテンションの若様は、エトルに即座にツッコミを入れられてガーンと言う顔をしていた。この先に楽しいものが待っているはずなのに、何でお預けなんだと言いたげである。

 しかし、やはり里長様に報告して然るべき案件である。ぶちぶち文句を言うリディをなだめすかして、一同は宝物庫から外へと出るのだった。




 ……なお、「またやらかしたのか!?」というアリーの叫びを聞くはめになった悠利は、「わざとじゃないんですぅ……」とぼそぼそと言い訳するのであった。いつものことです。





何も起こらず終わるわけがなかったんや……という感じで。

ご意見、ご感想、お待ちしております。

なお、感想返信は基本「読んだよ!」のご挨拶だけですが、余力のあるときに時々個別でお返事もします。全部ありがたく読ませて頂いております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誤字脱字報告は、ページ下部の専用箇所をご利用下さい。なお、あくまでも「誤字脱字」のみでお願いします。文章表現、句読点などは反映しません。ルビ記号は「|《》」を使用しているので修正不要です。

小ネタ置き場作りました。
最強の鑑定士って誰のこと?小ネタ置き場
クロスオーバー始めました。「異世界満腹おもてなしご飯~最強の鑑定士サイド~
ヒトを勝手に参謀にするんじゃない、この覇王。~ゲーム世界に放り込まれたオタクの苦労~
こちらもよろしくお願いします。ゲーム世界に入り込んだゲーオタ腐女子が参謀やってる話です。
32bh8geiini83ux3eruugef7m4y8_bj5_is_rs_7
「最強の鑑定士って誰のこと?~満腹ごはんで異世界生活~」カドカワBOOKS様書籍紹介ページ
1~24巻発売中!25巻10月10日発売。コミックス1~11巻発売中。電子書籍もあります。よろしくお願いします。
最強の鑑定士って誰のこと?特設サイト
作品の特設サイトを作って頂きました。CM動画やレタス倶楽部さんのレシピなどもあります。

cont_access.php?citi_cont_id=66137467&si
― 新着の感想 ―
[一言] 続きが楽しみすぎる! 「「邪魔になるからです」」のとこ好きです笑 更新ありがとうございます。
[一言] 隠し通路の先に行方不明のゴブレットがあるに1票(。・ω・)ノ゛はぃ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ