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調香師とアロマペンダント。

香水がなかなか売れなくて困ってるらしいオネェさん。



「どうしても香水って手にとって貰いにくいのよねぇ…」


 しみじみと呟いたレオポルドの言葉に、へぇーと暢気な相槌を打つのは悠利(ゆうり)であった。仕方ない、と言いたげな顔をしているのは、レレイとティファーナの二人だった。本日、遊びに来たレオポルドは悠利を拉致して、アジトの庭先でティータイムと洒落込んでいた。…昼食の献立を話し合っていた最中にかっ攫われたので、拉致で多分間違いない。

 その時のレオポルドの言い分は、「毎日毎日ユーリちゃんにご飯作らせてんじゃないわよ!たまには貴方たちだけで作って楽をさせてあげなさいな!」ということであった。よく考えたら、アジトに来てから悠利はずっと食事当番をしていたのである。本人が喜んでいるのでスルーしていたが、確かに、休みが無かった。

 …なお、アリーが休ませようとしたときもあるのだが、「…僕、邪魔ですか?」と小動物のような上目遣いで半分以上泣きそうになられたので、そのまま手伝いを続行させたという経緯がある。乙男(オトメン)にとって、大好きな家事を奪われるのは、泣きたくなるぐらい辛いことらしい。…多分、子供がゲームを取り上げられて嘆くのと同じレベルである。


「そもそも、香水ってだけで気後れするのに、レオーネさんのお値段良いんだもん…」

「レレイちゃん、意味無く高いわけじゃないのよ?あたくしのは素材を厳選して、香りもきっちり選び抜かれているし」

「それはわかってますけど、駆け出しには手が届きませんってば~」

「…だから、普通のお店では売ってないような、小さな瓶でも売ってるじゃないのぉ」


 困ったように笑うレレイに対して、レオポルドはちょっと拗ねたように呟いた。

 実際、彼が作る香水は上物として知られている。ただし、原価の割には良心的な価格で売られている。質の良い香水であることも間違いではなく、愛用者は王都ドラヘルンでも多々いる。中には、自分専用の、オリジナルの調合を求めて買いに来る人間もいる。それぐらいの凄腕であるのに、驕ったところも無いレオポルドは、ある意味称賛されてしかるべき職人なのである。


 

 ただし、天下無敵のオネェさんという性質のため、それに耐えられる人間しか寄ってこないが。



 そもそもが、一般人はあまり香水を使わない。正確には、使い方をよくわかっていない。ちょっとお洒落な人ならばつけるが、それ以外の一般人は香水を使わない。もとい、使えない。そして、この場にいる冒険者の面々なんて、匂いを気にして使わない。

 そこに、レオポルドは常々文句を言っている。曰く、彼が作る香水は、体臭を消すためにも使える。また、特定の魔物が忌避する香りの組み合わせも存在する。活用方法は多々あるはずだと主張しても、使い勝手と値段の関係で、誰も頷いてくれないのである。

 そういった愚痴をいつものごとく零すレオポルド。宥めるティファーナ。困ったように笑いつつお茶を飲むレレイ。そんな女性三人を見つめながら、悠利はぽつんと呟いた。



「アロマペンダント使えば良いんじゃないですか?」



「「……はい?」」


 目を点にする三人に対し、悠利はもう一度、アロマペンダント、と繰り返した。

 アロマペンダント。それは、香水の香りを楽しむためのアクセサリーだ。金属の器部分をペンダントトップに付け、その中に香水を染みこませた布を入れる。器部分は布が落ちないように、また染みこませた香水が落ちないように封をされているが、同時に香りが出てくるように穴が開いている。構造自体はそこまで難しくはないし、最近では手作りされてもいる。

 悠利は使うことは無かったが、家族の女性陣が嬉々として買い求め、自分で改良し、色々な香水を使って楽しんでいたのは覚えている。なお、悠利は普通にアロマキャンドルとかが好きだった。暗い部屋でキャンドルの明かりが灯るのとか。余談である。


「…ユーリちゃん、それはどういうモノかしら?」

「金属の器の付いたペンダントで、その器の中に香水を染みこませた布を入れます。そしたら、数滴で香りが持続し」

「ちょっと今すぐ職人工房に行くわよ!」

「ほえ?」


 がしっとレオポルドは悠利の腕を引っ掴んだ。そのまま、ひょいっと引っ張り上げる。外見は麗しの、男性にしては華奢で麗しい美貌のレオポルドであるが、歴とした男なので、小柄でひょろひょろの悠利一人ぐらい楽に引っ張り上げられる。…もとい、かつては冒険者として名を知られた彼の人にとって、こんなもやしっ子は背負って走るのも簡単なようだ。流石にそこまではしないようだが。


「レオーネさん、落ち着いて、落ち着いて!」

「レオーネ、ユーリが驚いています。せめて説明してから移動したらいかがですか?」


 二人に言われて、我に返るレオポルド。悠利にもたらされた情報に取り乱していたらしい。ごめんなさいねぇ、といつもの笑顔で謝罪してから、悠利を座らせる。その顔はもういつものレオポルドだった。


「ユーリちゃんは、そのアロマペンダントを使ったことがあるのかしらぁ?」

「僕はないです。でも、使っているのを見たことはあります」

「構造は解るのかしら?」

「特に難しい構造はしてなかったです。極端な話、香水を染みこませた布を入れておけるペンダントトップが作れれば、それで」

「なるほど」


 にこやかに微笑むレオポルド。あ、これ拉致られるな、とレレイとティファーナは思った。悠利は気づいていない。可哀想に、悠利のために昼食を一生懸命作っている見習達の努力が、報われないかも知れない。…なお、本日の食事当番はカミールだったのだが、悠利に日頃の恩返しということで、四人全員で頑張っている。その努力が無に帰すかも知れない可能性は、あまりにも哀れであった。

 だがしかし、気合い十分のレオポルドを止められるかと聞かれたら、否としか答えられないのだが。


「それじゃあ、その説明を職人にして頂戴ねぇ?」

「……はい?」

「さ、行くわよ、ユーリちゃん!」

「え、あの、レオーネさ…???」


 困惑している間に、悠利はレオポルドに引きずられていった。抗わずに、とりあえず大人しくてけてけと付いていく辺り、天然である。レレイとティファーナは、そんな悠利を手を振って見送った。やる気になったレオポルドを止められないことを、彼らはちゃんと知っているのだから。

 かくして、悠利はレオポルドに拉致された。行き先は、レオポルドがお世話になっているアクセサリー職人さんである。彼が身につけている装飾品は一点物が多い。こだわりの強いオネェさんにとっては、趣味に合わない装飾品なんて許せないのだ。


「ほうほう、つまり、ペンダントの先に、入れ物を作るってことだな?」

「そうなります~」


 アクセサリー職人の名前は、ブライト。まだ若い、駆け出しの職人である。ただし、元々金属加工を得手とする職人の息子として生まれたので、幼少時から細々したモノを作っていたらしい。そして、どちらかというと芸術家肌だった。量産品を店舗に卸すだけでなく、細々とした要望を詰め込んだ一点物も作っている。レオポルドとは、お互いのその、妥協しないこだわりという部分で共感したらしい。

 なお、レオポルドがオネェさんだろうが気にしない、男前な部分がある。…もとい、仕事の依頼を持ってきてくれる仲間として認識しているので、それ以外の属性は排除している。職人には良くあることだ。


「んじゃぁ、筒状か?」

「別に筒じゃなくても、こう、ぱかっとした…」

「ぱかっとした?」

「えーっと…」


 何とか身振り手振りで、悠利は自分のイメージを伝えた。ようは、ロケットペンダントのような感じである。筒状にして蓋を付けるというデザイン以外にも、ハート型にして、上蓋が開くようにすれば、そこから布を入れることが出来る。そういった形状が作れれば、デザインも多種多様になるだろう。

 ブライトは新しいアクセサリーの開発として喜んでいる。レオポルドは、これで香水が活用されることになるかも知れないと。試験的に作成したら、商品はレオポルドの店で取り扱うことになった。そもそもが、中に入れる香水が重要なのだ。アロマペンダントはただの飾りでは無い。香水の香りを楽しむためのアイテムなのだから。

 とりあえず、悠利が一通り説明をしたら、二人は嬉々としてペンダントのデザインを話し合っている。どんな材質を使うのか、どんなデザインが使いやすいのか。大盛り上がりである。悠利をそっちのけであった。

 そっちのけにされて暇だった悠利は、勝手に動くことにした。何をするかと言えば、勝手に掃除を始めた。一応ブライトに聞いてみたら、話半分ながらも許可は貰った。なので、いつも持っている学生鞄の中から掃除用具一式を取り出して、工房内の掃除を始めた。人様の職場だろうが関係無いのだ。掃除が出来るならば楽しいのだ。それが乙男(オトメン)の生きる道である。



 かくして、盛り上がっていた二人が一息つこうとしたときには。



「……なぁ、俺の工房、こんなに綺麗だったか?」

「……ユーリちゃん、貴方ね?たまにはお休みしなさいって言ったのに、何で掃除しちゃってるのよぉ」

「え?だって、ブライトさん掃除しても良いって言ったので」

「貴方、言ったの?」

「いや、覚えてない」

「言いましたよ」


 にこにこ笑う悠利に文句など言えず、とりあえずお礼を言うブライト。レオポルドは頭を抱えていた。ある意味で仕事大好き人間のように認識されているのだろう。だがしかし、違う。悠利は仕事が好きなわけではなく、家事が大好きなのだ。彼にとって家事は遊びと同じである。趣味なのだ。

 その後、悠利が入れた紅茶を飲みながら、アロマペンダントの試作品についての話は続く。主に話すのはレオポルドとブライトで、悠利は時々意見を求められるので答えるぐらいだ。…なお、悠利は、何でこんなに盛り上がってるんだろう?ぐらいの認識なのだが、それを口に出さない程度には空気は読めた。



 後日、できあがった試作品を持ってレオポルドがアジトを訪れ、悠利にもきちんと一つ進呈されるのであった。



哀れ、悠利のためにお昼ご飯を作った見習い四人は、悠利が拉致られたために、自分たちで実食しました。

なお、悠利はレオポルドとブライトに連れられて、《木漏れ日亭》でご飯食べました。

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