スイーツバイキング、リニューアル
試食会編、これにて完結でーす。
最後は皆で楽しくスイーツバイキング!
「わー、大盛況だねー」
「当たり前でしょー!」
賑わいを見せる店内を視界に収めて、順番待ちの長蛇の列を眺めて、悠利が能天気に呟いた。それにドヤ顔をして答えるのはヘルミーネだ。別に彼女が何かを頑張ったわけではないのだが、大事な友人が大成功しているのが嬉しいらしい。
試食会を経て、その後も改良を重ねて、ルシアは先日スイーツバイキングに新メニューを追加した。新しいスイーツが楽しめると聞いて、連日大盛況なのだ。
そして今日、悠利達も新作スイーツを楽しみにスイーツバイキングにやってきていた。
そんなわけで、悠利とヘルミーネは急ぎ足で長蛇の列の前方へと向かう。そこには、既に仲間達が待っていた。
「遅くなってすみません。まだ大丈夫でした?」
「あぁ、問題ない。二人とも、用事は終わったのか?」
「はい。家事の残りは見習い組の皆がやってくれることになりました」
「私もギルドへの報告終わりましたー」
「そうか。では、これで心置きなく堪能できるな」
「「はい!」」
その場にいた一同を代表して二人と言葉を交わしたのは、ブルックだった。悠利とヘルミーネの用事が終わったと聞いて、表情を綻ばせる。
ちなみに、順番待ちは別に全員が並んでいなくても良いということだったので、ブルックが代表して並んでくれていたのだ。周囲がほぼ女性という中に一人立たせるのはどうかと思ったが、彼が並ぶときに女性陣が「用事を済ませてくるのでよろしくお願いします」と一言添えたことで、周囲の目は優しくなった。
そう、ブルックは周囲の皆さんに、「連れの女性達に頼まれて順番待ちをさせられている不憫なお兄さん」として見られているのだ。実際は違うのだが。誰も順番待ちが出来ない場合は物凄く遅くなると理解して、自ら予定を調節してこの役を買って出たのだが。真実は知らぬが花だ。
なお、悠利は洗濯や買い出しという日々の家事があったので、出来る範囲で片付けてから合流したのだ。残りは見習い組が快く引き受けてくれた。悠利が今日のスイーツバイキングを楽しみにしていると知っていたので、お手伝いを申し出てくれたというわけだ。優しい仲間達だ。
悠利とヘルミーネ以外でこの場にいるのは、順番待ちをしていたブルック以外には、ティファーナ、フラウ、レレイ、イレイシア、アロールという女性陣だ。ミルレインとマリアの二人は、予定が合わなかったのでまたの機会ということになった。スイーツバイキングに向かう面々としては概ね妥当だろう。
ただ、いつもと違うところと言えば、仏頂面で佇むアリーと素敵な笑顔を浮かべるレオポルドがいることだろうか。この両名はブルックによって連れてこられていた。
「……ったく、このアホはともかく、何で俺まで……」
「あらー、たまには皆でお茶を楽しんだって良いじゃない。紅茶も絶品よ?」
「紅茶はともかく、俺は甘いもんにそこまで興味はねぇんだよ」
楽しそうなレオポルドに対して、アリーは面倒くさそうだった。何で自分がと言いたげな顔をしている。実際、口にしている通りにアリーは甘味にそこまでの欲求はない。
ブルックがアリー達を引っ張り込んだのは、そうすれば自分がいてもあまり目立たないと思ったからだ。美貌のオネェは今日も絶好調に目立つし、アリーはアリーでスキンヘッドに眼帯の強面ということで人目を引く。
特に、スイーツバイキングにいるという状況を考えれば、アリーの目立ちっぷりはブルックの比ではない。レオポルドは別の意味で目立つが、場所と状況を考えると意外と女性陣に溶け込んでしまうのでそこまで浮かない。
もっとも、理由がそんなくだらないもの一つきりだったならば、アリーは今ここにはいない。彼には、面倒くさがりつつもこの場に立っている理由があった。
「すみません、アリーさん。新作の感想が聞きたいってルシアさんが言ってたので……」
「それは解ったが、何で俺なんだ。試食会に連れて行ったラジでも良かっただろうが」
「……えーっと、ラジはですね」
「何だ?」
「……短期間に大量のスイーツを見るのは、胸焼けがするから無理だと言いました」
「……なるほど」
遠い目をした悠利の返答に、アリーは静かに納得した。彼はそこまで欲求がないだけで、食べられないわけではないのだ。甘味の苦手レベルでいうと、ラジの方が上になる。それだけに、ラジが胸焼けを起こしたと聞くと同情しか出来ないのだ。
アリーがこの場にいる理由、それは、ルシアが新作に幾つか甘さ控えめのスイーツを作ったからに他ならない。その感想を複数人から聞きたいという彼女の希望だった。
「ラジも一応、試食会に付き合ったので自分が食べようと思ってたらしいんです」
「……」
「でも、食べるのがスイーツバイキングの場だと聞いたら、無理だって言われちゃいまして……」
「同席者が甘い物を大量に持ち込むのが解ってる空間だからな。無理もない」
「そんなわけで、アリーさんにお願いしました」
ぺこりと頭を下げる悠利。ブルックとレオポルドに誘われ、悠利にお願いされ、アリーはこの場に来ている。どちらか片方だったら来ていないかもしれない。両腕を引っ張られているような感じだ。
悠利だって、忙しいアリーに頼もうとは思っていなかった。しかし、何だかんだでアジトにいる男性陣は、普通に甘味は食べるのだ。ラジがほぼ唯一ぐらいで甘味を苦手にしているのだ。アリーは好んで大量に食べないだけで、食べるのは食べる。
「堅苦しく考えなくても良いじゃないのぉ。美人の集団とお茶出来るなんて、幸せよ?」
「生憎と、見た目に騙されてやれるほど初心じゃねぇんだよ」
「相変わらずの憎まれ口ねぇ。ちょっとブルック、この男どうにかならないのかしらぁ?」
「知らん」
楽しげにからかうレオポルドにアリーは面倒くさそうに答え、その返答に美貌のオネェは不服そうに傍らの友人に声をかける。しかし、二人のやりとりに興味が無いのか、ブルックの返答はそっけなかった。
「……いつも以上にそっけないんだけど、こいつ」
「気持ちが食うことに向かってんだろ」
「現金ねぇ……」
愛想のあの字も存在しないブルックに、レオポルドはため息を一つ。そんな彼にアリーは端的に答えた。同感だったので、悠利もこくこくと頷いておく。スイーツに情熱を傾けるときのブルックは、色んな意味でポンコツなのだ。
勿論、付き合いの長いレオポルドはその辺りのことは解っている。解っているが、あまりにも安定すぎたのでぼやいてしまうのだった。
そんな風に雑談をしていると、座席が空いたのか案内役のウェイターが彼らを呼んだ。ぞろぞろと集団で中に入るが、流石に全員同じ席というわけにはいかなかったらしい。それでも、近い場所に座れるようにしてもらえたのは、ありがたい。
丸テーブルに五人ずつ座る形で、二つのテーブルを占拠する形になる。内訳は、ティファーナ、フラウ、レレイ、ヘルミーネ、イレイシアで一つ、悠利、アリー、ブルック、レオポルド、アロールで一つだ。図らずも男性が一つのテーブルに集まる形になった。
「アロール、こっちで良かったの?」
「こっちの方が絶対に平和だからこっちが良い」
「え」
「僕は静かに食べたいんだ」
「そっかぁ……」
女子組の方が良かったんじゃないかと悠利が問いかければ、十歳児の僕っ娘は物凄く正直に自分の気持ちを口にした。今日もアロールは容赦がなかった。女子組の一部が騒々しくなることを理解した上での発言なのだ。
勿論、こちらのテーブルが物静かかと言われれば、全然そうではない。今日も絶好調のオネェはコミュ力の塊であるし、無愛想な友人二人をおちょくることにかけては他の追随を許さない。元パーティーメンバーということもあって、彼らの会話は遠慮が存在しない。
しかし、大人組三人が口論していようが、何だろうが、同じテーブルにいる悠利やアロールに飛び火する可能性はほぼない。その辺りの匙加減が解っているから、大人組なのだ。
「……まぁ、あっちだと騒々しいって言うのは納得出来るけど」
「ユーリも時々はっきり言うよな」
「僕はいつでも正直だよ」
「知ってる」
暢気な会話を悠利とアロールがしている間に、大人組は食べる準備を始めていた。レオポルドはブルックを伴ってさっさとスイーツを取りに行ってしまったし、アリーは飲み物を取りに行っている。
全員同時に席を離れるのは良くないと思った悠利は、アロールを促した。
「僕が待ってるから、アロール取りに行ってきて良いよ」
「そう?じゃあ、手早く選んで戻ってくるよ」
「そんなに急がなくても良いよ」
アリーはともかく、ブルックとレオポルドがなかなか戻ってこないだろうことを考慮してのアロールの発言だった。多分間違っていない。
普段なら、ブルックは自分でスイーツを選びに行ったりはしない。女性ばかりの空間へ、威圧感のある自分が行けば邪魔になると考えているからだ。後、隠れ甘党なので、他人の目がある場所で嬉々として選べないというもある。
しかし、今日はレオポルドが一緒だ。
細かいことを気にさせない、独特の雰囲気のオネェは無敵である。ブルックを伴い、アレが美味しそう、これが美味しそうなどと会話をしながら、二人でスイーツを選んでいる。傍目には、強引なレオポルドに連れてこられているように見えるだろう。実際は二人して嬉々としているのだが。
……その辺りも解った上で、レオポルドはブルックを伴っている。自分がある種の防波堤になれることを理解しているのだ。仲間は優しいのだ。
「店内も賑わってるし、新作スイーツも上手くいったんだろうなー」
何がメニューに追加されたんだろうかと、悠利はうきうきしている。今日は女子組とテーブルが別なので、自分で選びに行けそうだなというのも含めて。最初に来たときなど、気を利かせた皆が悠利とブルックの分も運んでくれたおかげで、ほぼ席を立たずに終わったのだ。
勿論その優しさは嬉しかった。嬉しかったが、せっかくなので自分の目で見て選びたいなぁという気持ちもあったのだ。
誰かが戻ってきたら自分も選びに行こうと心に決める悠利。多分、飲み物を取りに行ったアリーが一番早いだろうと思っていた。
思っていたの、だが――。
「ユーリ、これね、残り二つだったから一緒に貰ってきたよ」
「あ、ありがとう」
レレイが笑顔で差し出したのは、小さな器に入ったゼリーだった。多分後から追加分が出てくるだろうが、目の前でラスト二つだったので悠利の分も持ってきてくれたのだ。優しい。とても優しかった。
「ユーリ、焼きたてが出てきたところだったので、一緒に貰ってきましたよ。どうぞ」
「ありがとうございます」
ティファーナが差し出してきたのは、熱々ふわふわの小さなパンケーキだった。バターと蜂蜜というシンプルなものだ。確かに焼きたては美味しそうだったので、悠利はありがたく受け取った。
「ユーリ、ルシアがこれ食べて欲しいって言ってたから、貰ってきたわよー!」
「……ありがとう、ヘルミーネ」
ご機嫌のヘルミーネが持ってきてくれたのは、レモンの輪切りが輝くチーズケーキだった。美味しそうなのは確かだ。ルシアが食べて欲しいというのなら、彼女の自信作か、感想が聞きたい新作なのだろう。食べるのはやぶさかではない。
「ユーリ、甘い物ばかりではなんだろうから、スープを貰ってきたぞ」
「お気遣いありがとうございます、フラウさん」
コトンとテーブルの上に置かれたのは、ベーコンと野菜のスープだった。甘いスイーツばかりでは口の中が落ち着かないだろうという気遣いだ。その気持ちはありがたいのだけれど、ちょっとしょんぼりしてしまう悠利だった。
自分の分を取りに行った隣のテーブルの女子組が、何故か悠利の分も持ってきてくれるのだ。意味が解らない。
唯一イレイシアだけは持ってこなかったが、その彼女は席に戻る前にどこの何が美味しそうだったかを伝えてくれた。むしろ悠利が欲しかったのはそういう情報であって、持ってきてくれなくても良かったのだ。
しかし、皆の優しさが解っているので言えなかった。テーブルの上に並ぶスイーツとスープを見て、がっくりと肩を落としてしまう。目の前の料理は美味しそうだけれど、「違う、そうじゃない」と言いたい悠利だった。言わないけれど。
「……いっぱいになっちゃった」
「どうした、ユーリ」
「……アリーさぁん……」
「何だその顔は」
眉を寄せて物凄く微妙な表情を作っている悠利に、アリーは呆れ顔になった。ぺしんと額を一つ叩かれて、悠利はしょぼんと肩を落としたまま説明をした。
「皆が、僕の分まで持ってきてくれたんです」
「……そうか」
「……僕も並んでるの見て選びたかった……」
「食べ終わってから行ってこい」
「……同じことが繰り返される気がするんです」
「あー……」
あくまでも皆が好意でやってくれているのが解るだけに、悠利も頭から拒絶は出来ないのだ。残り少なかったり、逆に出来たてが出てきたりとしていたら、運んでくれるのは嬉しい。だから、その行動自体はありがたいのだ。
ただ、単純に、「よーし、今からどんなスイーツがあるか見に行くぞー!」と盛り上がっていた気持ちに水を差された感じになるだけだ。誰も悪くない。強いて言うなら、タイミングが悪い。
「何なら、皆が持ってきた分はブルックに回せ。あいつの胃袋ならいくらでも入るだろ」
「そうですね。そうします」
メニュー全制覇を余裕でやってのけるブルックならば、悠利が横流しをしたとしても喜んで食べてくれるだろう。バイキングで一番元を取っているのは確実にブルックなので。
「ところでアリーさん、そのケーキ」
「甘さ控えめって札が置いてあったから持ってきた」
「あぁ、じゃあきっと、それがルシアさんが食べて欲しいって言ってた分だと思います」
「なるほど」
アリーの手元にあるケーキを見て、悠利は小さく笑った。それはパウンドケーキのように見えた。断面に明るいオレンジ色が見えて、それは何だろうと悠利は思う。アリーが食べたら感想を聞いてみようと決意した。
とりあえず、自分の手元にあるスイーツを食べようとフォークを手に取る。まず最初に手を付けるのは、ティファーナが持ってきてくれたパンケーキだ。焼きたてだと言われたので、美味しい間に食べなければと思ったのである。
上に載っていたバターも溶けて、とろりとパンケーキの表面を彩っている。蜂蜜とバターの香りが合わさって、ふわんと鼻腔をくすぐる。なんとも言えず食欲をそそる匂いだ。
やや小振りに作ってあるので、フォークで四つほどに切ってしまえば一口で食べられそうな大きさだ。四つに切った一つを悠利はそのまま口へと運ぶ。ふわふわと柔らかいパンケーキが、バターの塩味と蜂蜜の甘さでコーティングされて絶妙だ。
噛んだ瞬間に感じるのは、柔らかな食感。続いて、熱々のパンケーキに染みこんだバターと蜂蜜の旨味が口の中にじゅわっと広がる。やや甘塩っぱい味になるが、それが癖になること間違いなしだ。
「んー、柔らかくて美味しいー」
「あらユーリちゃん、良いのを食べてるわねぇ」
「あ、レオーネさん、お帰りなさい」
「はい、ただいま」
大きな皿に大量のスイーツを載せて戻ってきたレオポルドは、楽しそうに笑いながらパンケーキを食べる悠利を見ている。席についてフォークを手にする姿は妙に絵になった。仕草一つ一つが奇妙に人目を引くオネェである。
ただし、当人は何も気にしていないので、目の前の美味しそうなスイーツに釘付けだ。彼もまたルシアのスイーツの大ファンなので、新作スイーツを楽しみにしていたのだろう。
そんなレオポルドが最初に手を付けたのは、オレンジのタルトだった。鮮やかなオレンジ色が眩しい。艶々と光っているのは、ジャムだろう。悠利達が試食したタルトと同じように見えた。
フォークで食べやすい大きさに切ると、上品に口を開けてぱくりと食べる。タルトの破片が落ちないように片手で受ける姿も、実に上品だ。美貌のオネェは仕事の関係で御貴族様と食事をすることもあるので、食べ方も美しいのだ。
口の中では、タルトのサクサクとした食感と、カスタードの滑らかさが調和する。オレンジに含まれる仄かな酸味がカスタードの濃さを中和してくれるのか、後味はカスタードの濃厚さに反してすっきりしていた。
「流石ルシアちゃんのスイーツねぇ。クリームも生地も何もかも絶品だわ」
「そのタルトが美味いのは解っている」
「何でドヤ顔なのよ、アンタ」
両手に大皿を持って戻ってきたブルックが、美味しさを噛みしめているレオポルド相手に自信満々に言い切った。自分が試食会で食べたタルトなので、美味しいのは解っていると言いたいのだろう。
ただ、何故そこでドヤ顔になるのかは誰にも解らない。安定の、甘味が絡むと色々とポンコツになるブルックだった。ギャップが悲しい。
「そのアホは放っておけ。大方、試食したやつだったんだろ」
「よく解ったな」
「解らいでか」
相棒の考えていることはよく解るのか、アリーが疲れたような顔で言い切る。それもそうねと同意を示し、レオポルドは食事に戻った。ポンコツになっている剣士殿の相手をするより、美味しいスイーツを食べる方が重要だと思ったのだろう。間違ってない。
大人組がそんな風にわいわいと騒ぎながら食べていると、アロールがしれっと戻ってきていた。元々口数が多い方でもないので、静かだった。
「アロール、何取ってきたの?」
「小さなかき氷が置いてあったから、とりあえず貰ってきた」
「かき氷、置いてあったんだ」
「うん。係員がいて、この器に入れてくれた。トッピングは自分でしてくださいって言われたけど」
そう言ってアロールが見せたのは、茶碗ぐらいの大きさの器だった。そこにかき氷が上品に入っている。赤いソースはイチゴだろう。トッピングされているのは柔らかそうなクッキーだった。
かき氷がスイーツバイキングに追加されているとは思っていなかった悠利は、ぱぁっと顔を輝かせた。自分で好きな味付けに出来るというのは、かなり魅力的だ。
もしかしたら、悠利とヘルミーネが告げた「色んな味のかき氷が食べたい」という意見を反映させてくれたのかも知れない。忙しいだろうルシアに確認することは出来ないが、多分そうなんだろうなと思うことにした悠利だ。
「トッピングも色々置いてあったから、後で行ってきたら?」
「うん、そうする」
スプーンでかき氷を食べるアロールが、悠利にそう伝えてくれる。ソースやフルーツ、焼き菓子も置いてあったと聞かされたら、うきうきが止まらない悠利だ。
「うん、美味しい」
「アロール、かき氷好きだっけ?」
「自分で甘さを調整出来るって、ありがたいと思うけど」
「なるほど」
アロールの言い分も一理あったので、悠利は素直に納得した。通常メニューとして提供されるかき氷だと、ソースの分量は店員にお任せだ。
けれど、スイーツバイキングならばそれらは全て自分で選べる。好きな味を、好きなだけ。トッピングも選べる。そういう意味で、アロールはこの小さなかき氷を好んでいるらしい。
普段あまり甘味に興味を示しているように見えないアロールだが、彼女もちゃんと楽しんでいるのが解って悠利はホッとした。何せ、ご機嫌状態のレレイに腕を引っ張られて歩いて行く姿を見送った記憶があるので。
スイーツバイキングそのものは楽しみにしていたらしいアロールなので、静かなこちらのテーブルで堪能しているようだ。何せ、隣のテーブルは賑やかなので。
「ヘルミーネ、ヘルミーネ!これ凄く美味しい!」
「え?それ何!?私、見てない!」
「えへへー、今追加されてた分」
「そうなの!?」
取りに行かなくちゃ、と立ち上がろうとしたヘルミーネの皿に、レレイは持ってきた小さなプリンを載せた。きょとんとするヘルミーネに、笑顔で告げる。
「きっとヘルミーネも食べたいと思って、持ってきたよ!食べてなかったの知ってるから」
「レレイ……!」
「いっぱい食べようねー!」
「そうね!」
大食いのレレイと、スイーツに関しては胃袋がお化けになるヘルミーネの二人は、仲良くご機嫌だった。彼女達が少々騒がしくしても、同席者は特に咎めない。あまりにも楽しそうだからだ。
レレイが持ってきたプリンを食べてご満悦のヘルミーネ。ぷるんとした滑らかな食感と、濃厚な玉子の旨みが口の中に広がるのが良いのだろう。うっかり羽根を出しそうなレベルで大喜びしている。
「あっち、賑やかだなぁ……」
「こっちも別の意味で賑やかだけどね」
「あはは……」
隣り合って座る悠利とアロールが比較的静かに食べているのに対して、大人三人は何だかんだと会話が弾んでいた。その邪魔をしないように大人しくしている二人なのである。
「ところでアリー、それ何かしらぁ?」
「甘さ控えめって札の所にあった。人参の味がする」
「人参のケーキ?あらやだ、新作だわ。一口頂戴」
「何でだよ」
「俺も」
「聞けよ!」
自分に合ったスイーツを選んで食べていたアリーだが、それが新作だと知った二人に詰め寄られている。アリーのツッコミも何のその、レオポルドもブルックも、当たり前みたいにフォークでパウンドケーキに手を出していた。元仲間は容赦がなかった。
舌打ちをして友人二人の暴挙に文句を口にしているアリーだが、店だというのも考慮してか怒鳴ることも手が出ることもなかった。或いは、スイーツに反応する二人に呆れているのか。
とはいえ、そんな光景は滅多に見られるものではなく、悠利とアロールは顔を見合わせて小さく笑った。
「リーダーも、あの二人相手じゃ形無しだ」
「アリーさん達、仲良しだよね」
「仲は良いだろうけど、腐れ縁って感じ」
「アロールは相変わらず、ズバズバ言うなぁ」
容赦のない発言をする十歳児に、悠利は苦笑する。彼女はいつでも本心を隠さない。そういうところが魅力的なのだが。
そんな風に言われたアロールは、目を細めて告げる。彼女の偽らざる本心を。
「ユーリにだけは言われたくないけどね」
「え?そう?」
「そう」
そうかなぁ?と首を傾げる悠利に、解らなくて良いよとアロールは言い切った。悠利は悠利だと思っているので、今さら何かが変わるとも思っていない。
なお、悠利がズバズバ言うのは相手によるので、別に誰彼構わず喧嘩を売るようなことにはなっていない。あと、客観的に見てとても正しいことしか言わないので。
主な矛先はダメ人間代表、《真紅の山猫》における反面教師、指導係である学者のジェイク先生だと言えば、お解りいただけるだろう。
「ユーリ」
「何?」
「食べて美味しいのあったら、教えて」
「解った。アロールも教えてね」
「了解」
共に胃袋はそれほど大きくない二人は、同盟を結んだ。何だかんだで、彼らもスイーツバイキングを楽しむ気満々なのだった。
賑やかな休日の一コマは、美味しいスイーツと楽しい仲間と一緒に、まだまだ続くのでした。
呼んでないのに湧いて出たレオーネさんに、乾杯。
レオーネさんが出てくると、アリーさんがコント要員になり、ブルックさんがお茶目になる罠。
まぁ、大人組のわちゃわちゃも楽しいので良いと思います。
ご意見、ご感想、お待ちしております。
なお、お返事は遅くなっておりますが、地道にちまちま行いますので、お待ちください。





