ジューシー美味しいズッキーニのチーズ焼き
ズッキーニ、色んな食べ方があって美味しいですよね。
焼いたら柔らかくなるの好き。
電子書籍の特典について活動報告に書いてます。
ごろんごろんと転がされているそれを見て、カミールは首を傾げた。淡い黄緑色をした、丸形の大きな野菜だ。まるでスイカみたいな大きさだった。カミールには見慣れないもので、思わず悠利に問いかける。
「ユーリ、これなんだ?カボチャ?」
「惜しい。カボチャの親戚みたいなものだけど、これはズッキーニです」
「は……?ズッキーニって、あのキュウリの太いやつじゃねぇの!?」
「丸形のズッキーニもあるんだって」
「丸すぎるだろ!?」
衝撃を受けて叫んだカミールに、悠利は首を傾げた。そこで、悠利はカミールの勘違いを訂正するために説明を付け加えた。
「あのね、カミール。ズッキーニはキュウリの仲間じゃないんだよ」
「え?」
「ズッキーニは、カボチャの仲間なんだよ」
「は……?」
「だから、ズッキーニはカボチャの仲間なの。だから、丸い形のやつがあってもおかしくないの」
解った?と問いかける悠利に、返事はなかった。カミールは呆然と丸形のズッキーニを見ている。カボチャの親戚と悠利が説明したのは、何も例えではないのだ。実際に、ズッキーニはカボチャの仲間なのだから。
カボチャの仲間、と小さく呟くカミールの表情は強ばっていた。まだ少し信じられないらしい。まぁ、確かに普段見ているズッキーニは太くなったキュウリみたいな感じなので、仕方ない。
そんなカミールをそっちのけで、悠利は丸形ズッキーニを切り始める。まずはヘタとお尻の部分を切り落とす。次に、半分に切って、中の種の状態を確認する。種が薄い状態ならば火を入れてそのまま食べられるのだ。このズッキーニの種は食べられそうだったので、ワタを取らずにそのまま食べやすい大きさにカットしていく。
皮の部分は、特に汚れがなければそのままだ。傷があったり、汚れがある部分は包丁で丁寧に取り除く。皮は確かに分厚いのだが、このズッキーニはまだ若いので皮も問題なく食べられる。
「カミール、フライパンにオリーブオイル入れてー」
「お、おー」
悠利に声をかけられて我に返ったカミールは、言われるままにフライパンにオリーブオイルを入れる。くるんとフライパンを回して全体に行き渡ったのを確認すると、悠利を見る。
フライパンにオリーブオイルが入ったのを確認したら、悠利はそこにカットしたズッキーニを並べていく。敷き詰めるように並べると、フライパンをコンロの上に載せて、蓋をしてから火を点ける。
「蒸し焼きにすんの?」
「うん、その方が皮までしっかり火が通るからね」
「なるほど」
弱火から中火ぐらいの、強すぎない火で蒸し焼きにする。果肉の部分が少し透明になってきたらひっくり返して、反対側も焼く。火が通ったら、一つ取り出して皮の部分にぷすりとフォークを刺してみる。抵抗なく刺されば、問題なしだ。
本来なら固いはずの皮にぷすっとフォークが刺さり、悠利は満足そうに笑う。蒸し焼きにしたので、じっくりじわじわ火がきちんと通ったようだ。これならば、皮ごと食べても問題ない。
「ユーリ、これ、味付けは?」
「塩胡椒を軽くしてから、耐熱皿に入れて、チーズを載せて焼きます」
「チーズ……。美味そう」
「美味しいと思います」
悠利が真顔で告げれば、カミールは楽しそうに笑った。そして、悠利の指示に従ってフライパンの中のズッキーニに塩胡椒をする。壊さないように気をつけつつ混ぜ合わせ、耐熱皿に入れていく。
最後に、悠利は小さな耐熱皿にズッキーニを入れた。本当に小さな、小鉢と言うぐらいの耐熱皿だ。カミールが不思議そうに首を傾げるのに、悠利は笑った。
「味見用だよ。チーズは食べる直前に焼かないと美味しくないでしょ?」
「……なるほど!」
皆の分は後で焼くが、味見はその前に行うので、自分達の分だけ別に準備しているのだ。味見で美味しいものが食べられると、カミールの表情はうきうきだった。……割と普通に悠利に餌付けされているカミールである。
カミールの場合、他の面々ほどこれといった好物があるわけではない。けれど、だからこそ、悠利が作るどんな料理でも美味しいと笑顔で食べている部分がある。好き嫌いが特にないので、悠利の料理の味付けなどが彼の好みに合致したのだろう。
小さな耐熱皿にズッキーニを入れて、悠利はそこにチーズをかける。ちょっとたっぷりめにしたのは、小さな贅沢だ。とろーっとチーズがたっぷり溶けるのが美味しそうなので。
チーズを載せた耐熱皿をオーブンに入れて、数分焼く。ズッキーニはしっかりと焼いてあるので、チーズが溶ければそれで良い。二人でオーブンの前で待ち、頃合いを見て中身を確認する。オーブンの扉を開けた瞬間、チーズの匂いがふわりと香った。
火傷をしないように鍋掴みで器を取り出すと、鍋敷きの上にそっと載せ、二人でじっと見る。チーズはとろとろに溶けていた。どう考えても熱いのだが、それを上回ってあまりある、美味しそうな匂いだった。
「美味そう」
「良い匂いだよね」
「うん」
こくんと頷くカミールに、悠利はそっとフォークを差し出した。さぁ食べようという意思表示だ。ぷすっとズッキーニにフォークをさせば、チーズが絡まったまま持ち上がる。熱々であることを証明するように湯気が立ち上っていた。
ふーふーと息を吹きかけて冷ましながら、口に運ぶ。最初に口に広がるのはチーズの旨み。次に、ズッキーニからじゅわりと旨みが溢れ出す。塩胡椒でシンプルに味付けただけだが、オリーブオイルとチーズとの合わせ技により、実に絶妙なバランスを保っている。
ズッキーニ単体はそこまで濃い味をしていない。水分が多いのか、果肉の部分は噛むと柔らかい。薄めの種を含んだワタの部分と皮も、蒸し焼きにされたことで柔らかくなっており、僅かな歯応えを残しているのが実に心地好かった。
端的に言えば、美味しい、だ。
「うわっ、これ美味いな」
「うーん、美味しいズッキーニだー」
にこにこ笑顔の悠利は、そこでふと思いついたようにカミールを見る。
「これ、今度はトマトソース作って、チーズの下にかけてから焼いてみようか」
「…………それは、どう考えても美味いやつだし、今言われると食べたくて凄く悲しい」
「……ごめん」
思いつきを口にした悠利と、悠利の発言からそれが今日は食べられないと理解したカミールの悲哀が重なった。悪気はなかったけれど、カミールをがっかりさせたことは解ったので、悠利は素直に謝った。別にどちらも悪くはないのだけれど。
しばらく無言でもぐもぐとズッキーニのチーズ焼きを食べた後、悠利は気を取り直したようにカミールに声をかけた。
「それじゃ、残りの献立も頑張って作ろうっか」
「了解」
一品出来ただけでは食事の支度は終わらない。悠利とカミールは顔を見合わせて、残りの仕事に取りかかるのだった。
そして、夕飯の時間だ。焼きたてのチーズの魅力に、皆の視線は大皿に釘付けだった。
仲間達の実に解りやすい反応に、悠利はにこにこ笑いながら説明を始める。見慣れない料理の場合、悠利の解説が付くのはお約束なのです。
「これは、ズッキーニのチーズ焼きです。皮やワタもありますが、ちゃんと食べられるのでそのままどうぞ」
こんな感じです、と悠利は見本のようにズッキーニを一つ箸で持ち上げた。種の付いたワタの部分と、皮が見えるようにする。チーズに隠れて解りにくかったが、一応伝わった。
「味は一応塩胡椒がしてあるので、そのままでお願いします。もし薄かった場合は、各自でマヨネーズやケチャップなどで調整してください」
ぺこりと頭を下げた悠利に、皆がこくこくと頷いた。説明は解ったから、早く食べたいと言いたげである。……まぁ、チーズは冷めると美味しくないので、彼らの気持ちは間違っていない。
なので、悠利はいつものように手を合わせて笑顔で食前の挨拶を口にした。
「それでは、いただきます」
「「いただきます」」
元気よく唱和して、皆は食事に取りかかる。やはり一番はズッキーニのチーズ焼きらしく、大皿から思い思いの分量を取り分けていた。
チーズの熱さに四苦八苦しながらも、皆は概ね喜んで食べている。味が薄いと感じる者はいなかったようで、悠利はホッと胸をなで下ろした。一安心だ。
「ユーリ」
「はい、何ですか、アリーさん」
「ズッキーニって言ってたが、これは、アレか?」
「……えーっと」
静かに問われた言葉に、悠利はしばらく考え込んで、そしてこくこくと頷いた。アリーの言う『アレ』が何であるのかを理解したからだ。
「色んな食材の詰め合わせで貰ったやつです」
「かなり大きかったアレだな」
「アレです」
「皮ごと食えたのか……」
もぐもぐとズッキーニのチーズ焼きを食べながら、アリーがしみじみと呟いた。見た目は頑丈そうな丸形のズッキーニだが、今回のものはじっくり火を通せば皮も種も食べられるのだ。残さず全部食べることが出来るというのは、良いことです。
ちなみに、悠利が口にした色んな食材の詰め合わせというのは、建国祭のときに知り合った少女からのお礼品のことだ。ドレスのリメイクを悠利が手がけたことに感謝した彼女は、ウルグスの助言に従って父親に頼んで様々な食材を届けてくれたのである。
その詰め合わせは、各地の特産品を詰め込んであったので、普段見かけない珍しい食材がいっぱいだった。この丸形のズッキーニもその一つだ。この辺りで出回っているズッキーニはキュウリの親戚みたいな形状なので。
「皆の口に合ったなら、買い付けが出来るか聞いてみても良いですよね」
「……別に、わざわざ遠方の珍しい食材を日常に使わなくて良いぞ」
「勿論、お値段はちゃんと確認しますよ」
大丈夫です!と拳を握る悠利。何だかんだで《真紅の山猫》の食費は悠利の管轄になりつつあるので。
正確には、アリーから渡される食費でどうやって上手にやりくりするかを日々考えている。勿論、足りなくなれば追加の資金は貰える。無理な節約はしなくても大丈夫だ。
それでも、出来る範囲の節約はせっせと行うし、よりお得な商品を求めて【神の瞳】で鑑定する悠利だ。値切り交渉や親しくなった店主からオマケを貰ったりするのも、腕の見せ所である。……そこ、何か違うとか言わない。当人は大真面目なのです。
「心配しなくても、お前が来てから食費で無駄は出てねぇよ」
「え?そうなんですか?」
「不必要に購入することも、食べきれない食材を無駄にすることもなくなったしな」
「それって基本中の基本じゃないんですか?」
「慣れてなきゃ出来ねぇよ」
不思議そうな顔をする悠利に、アリーは大真面目な顔で言い切った。それは間違いではない。食材を過不足なく購入し、きっちり使い切るのはなかなかに難しい。
何せ、料理に慣れていない人は、冷蔵庫の中身を確認して献立を考えるという行為が苦手だったりする。レシピにバリエーションがないので、作れる料理に必要な食材を買うところからスタートするのだ。料理が先か食材が先かという違いが出てしまう。
そういう意味では、悠利は手慣れていた。元々料理が好きで、冷蔵庫の残りもので何か美味しく作れないかなと考える性格だったのもあるだろう。……つまり、大所帯の料理番というのは彼にとってある意味天職だった。
「まぁ、基本的にお前の好きにすりゃ良いが、そこまで切り詰めなくて良いぞ」
「解りました。でも、別に切り詰めてはいないですよ」
「それなら良い」
にこにこ笑顔の悠利に、アリーは小さく頷いた。料理周りに関しては、悠利に委ねているアリーだ。適材適所だと思っている。悠利は悠利で、これが自分の仕事だと思っているし。
そんな風に雑談をしながら食事をしていた二人の耳に、ざわめきが届いた。面倒くさそうにアリーが、もごもごと口の中のズッキーニを咀嚼しながら悠利が、くるりと視線をそちらに向ける。
そこでは、ある意味お約束の光景が繰り広げられていた。
「レレイさん、猫舌だからって先に大量に確保するのはどうかと思うんですけど!」
「独り占め反対!」
「やだー!だって、取っておかないと皆が全部食べちゃうもん!」
「だからって取り過ぎですってば……!」
カミールとヤックがレレイに訴える姿と、そんな二人にやだやだと駄々をこねるように叫ぶレレイ。レレイが抱え込んだ皿を奪い取ろうとしているウルグスだが、半分猫獣人であるレレイの力と食欲には勝てないのか、うぎぎと唸っていた。
「…………何をやってるんだ、あいつらは」
「…………わぁ、いつもの光景」
期待を裏切らないやりとりに、アリーがこめかみを押さえながら呻く。悠利は笑うしかないという感じでそれを見ていた。
レレイは猫舌なので、ズッキーニのチーズ焼きをなかなか食べられない。好評だったので、皆がどんどんお代わりをする姿に、焦ったのだろう。自分の皿にがばっと料理を取って確保してしまったのだ。
そして、そんなレレイに独り占め反対と見習い組が抗議をしているのだ。普段は別に喧嘩などしないが、美味しいご飯のときは争奪戦が起きるのが日常茶飯事。レレイが大人げなく、己の食欲に忠実に生きるのも、いつものことだった。
アリーがあまりにも喧しい一同を黙らせようと立ち上がった瞬間、レレイの背後に影が差した。
「はいはーい、ちょっと待ちなさいねぇ~。分量確認するから~」
「ふにゃ……!?マリアさん、あたしのお皿……!」
「確認するから待っててちょうだいね~」
ウルグスと反対側から手を伸ばしたマリアが、あっさりとレレイから皿を奪い取った。ダンピールとしての身体能力と怪力を誇る彼女は、レレイが相手でも腕力で負けない数少ない存在だった。
マリアが何をするんだろうと見ていた一同。マリアはその前で大皿と、レレイの皿とを見比べてにっこりと笑った。
「取り過ぎだわ~。はい、ちょっと没収~」
「あたしのー!」
「お料理は皆でちゃあんと分け合わないとダメよぉ」
ね?と艶やかに微笑みながら、マリアは容赦なくレレイの皿からズッキーニのチーズ焼きを大皿に戻した。……猫舌のレレイはまだ料理に手を付けていないので、大皿に戻したところで問題はないのです。
ぽかんとしている見習い組を見て、ひどいひどいと訴えているレレイを見て、マリアはやっぱり笑顔を浮かべながら言い放った。
「料理は仲良く食べなくちゃダメよぉ。……でないと、もうそろそろ雷が落ちちゃうところだったわよ~?」
「「……はっ!」」
くすくすと楽しそうなマリアの一言に、一同の視線がぐるんとアリーに向いた。立ち上がったままのリーダー様は、騒動の中心人物達の視線を受けて、仏頂面で頷いた。その通りだと、マリアの発言を肯定するように。
実際、肯定している。あと一歩マリアの行動が遅ければ、特大の雷がどかんと落ちていたはずだ。自分達の置かれた状況を理解したらしい彼らは、ごめんなさいと素直に謝って、大人しく食事に戻った。
それを見届けて、マリアは席に戻り、アリーも座る。ため息をつくアリーを見ながら、悠利は小さく問いかけた
「マリアさん、たまに仲裁役してくれますよね」
「たまにな」
「はい。本当にたまーにですけど」
「どっちかというと、あいつが仲裁されることの方が多いからな」
「あはははは……」
頭に血が上ると人の話を聞かなくなるマリアなので、否定出来ない悠利だった。それでも、珍しい光景が見られたので、ちょっと得した気分の悠利だった。
平和な平和なテーブルで、悠利はズッキーニのチーズ焼きを堪能する。声音こそ小さくなったが、相変わらずわいわい言いながら食べているレレイ達のテーブルを時々見ながら。皆元気だなぁと暢気に呟く悠利に、アリーが色々と諦めたようにため息をつくのであった。
なお、後日トマトソースを追加したバージョンを作ったところ皆に大変好評で、大きな大きなズッキーニは順調に消費されていくのでした。
何だかんだでわちゃわちゃするのがお約束でした。
マリアさん、たまには年長者らしいこともする。
そしてレレイは安定のレレイ。
知ってた。
ご意見、ご感想、お待ちしております。
なお、お返事は遅くなっておりますが、地道にちまちま行いますので、お待ちください。





