日常×技能=レベルアップ?
当人が忘れてたレベルとか技能レベルとかのお話です。
だって悠利には必要なかったんだもん←
その日、悠利はふと思った。そういえば僕、レベルとか技能レベルってどうなってるんだろう、と。
はいそこ、何を今更なことを言っているんだとツッコミ入れたい気持ちは解りますが、こらえてください。これが、異世界転移でレベルが存在することは解っていても、普段戦闘もしなければ、レベルの確認が必要になるようなこともしていない悠利なのである。今の今まで、自分にレベルがあることすら忘れていたぐらいだ。諦めて欲しい。
そんなわけで、自分のレベルや技能の状態が気になった悠利は、とりあえず確認してみようと【神の瞳】を発動させた。じーっと自分の掌を見詰めれば、目の前に毎度お馴染みになりつつある(ただし使い方は大体間違っている)鑑定画面が現れる。
――名前:ユーリ・クギミヤ
性別:男
種族:人間
職業:探求者、主夫、錬金術師
状態:健康
レベル:5
HP:25
力:12
早さ:10
技:13
守り:10
運:∞
技能:【神の瞳】レベル∞
【料理】レベル65
【裁縫】レベル55
【調合】レベル52
【鍛冶】レベル52
【錬金】レベル∞
備考:従魔ルークス(エンシェントスライム変異種、名前持ち)
「アレ?レベルも技能レベルも上がってる?」
不思議そうに悠利は呟いた。そう、レベルが、上がっていた。レベルが上がりそうなことは全然していないので、何となく鑑定してみただけだった悠利は、素直に驚いている。
とはいえ、技能がレベルアップしているのは、何となく解ってはいたから、まだ良いのだ。周囲の話を聞く限り、技能は使えば使うほどに経験が蓄積されて成長するのだという。だから、元々所持している技能が家庭的なことだった悠利にしてみれば、日常生活をしていれば技能レベルが上がるのは納得できることだった。
問題は、レベルがどうやって上がったのか、である。
世間一般的に経験値稼ぎに該当するような行動を、悠利は一切行っていない。魔物の相手なんて御法度である。むしろ、運∞というステータスのおかげで、どこにいても危ないことは自然回避されている節がある。
とはいえ、使えば技能がレベルアップするのならば、技能を使うことで経験値が入ることもあるかもしれない、と悠利は思った。サブカルになじみのある現代っ子なので、その辺りは柔軟に判断できる。
むしろ、目を背けることが出来ない問題は、増えた職業と増えた技能にあると言えた。
「主夫って職業なのかな……。あと、何で錬金の技能レベルが∞なんだろう……」
錬金の技能と錬金術師という職業が増えていることに関しては、文句は無かった。調合と鍛冶の二つの技能を使うことによって、悠利は錬金の技能を覚えた。そうして、錬金釜を(斜め上の方向に突っ走っているとはいえ)使いこなしている。それを考えれば、錬金術師という職業を手に入れていてもおかしくはない。
だがしかし、主夫が職業扱いだというのがよく解らなかった。もしかしたら、専業主婦の皆さんには、主婦という職業があるのかもしれない。異世界の職業って不思議だなぁと悠利は暢気に思った。……あまり深く考えないのは彼の美点だ。多分。
しかし、その程度で済ませられる問題とは異なり、錬金の技能レベルが∞なところはツッコミ満載だった。自分で自分の鑑定結果にツッコミを入れなくてはならないのが、悠利の現状だった。
そもそも、∞とは何ぞや?という状態である。【神の瞳】さんだけならば、これが特殊な技能だからだと納得できたのだ。それが何故か、この世界の人たちが普通に手にしている錬金の技能にも適応されたら、どう反応すれば良いのか解らないのである。これならいっそ、技能レベルがMAXだった方がよっぽどマシだった悠利である。
というか、最初に錬金釜を使えるようになったとき、悠利の職業に錬金術師はなかったし、錬金の技能は普通にレベル1だった記憶がある。技能が無ければ錬金釜が使えないので、そこはちゃんと確認したのだ。それなのに何故今こうなっているのかが、全然解らなかった。なお、その時には職業と技能しか確認しなかった悠利である。
原因その他は、考えても考えても解らなかった。そして、悠利は一つの結論を出した。
「アリーさんに相談しよう」
困ったときは、頼れる保護者に相談しようというのが、彼の通常運転だった。自分のステータスについて話が出来るのは、アリーだけである。何しろ、伝説の職業である探求者や、神に与えられたと言われる最強チート技能な【神の瞳】を持っていることだとかを、全て余さず伝えている相手はアリーだけなのだから。
というか、他の面々に伝えたら固まるに違いない。……約一名、知的好奇心が爆発しそうな学者先生を除いて。
そんなわけで、悠利は思い立ったが吉日と、アリーが書類仕事をしているだろう彼の部屋へと足を運んだ。コンコンとノックをすれば、誰何の声が返ってきた。
「誰だ?」
「アリーさん、ユーリです。ちょっと聞きたいことがあるんですけど、良いですか?」
「……今度は何をやらかすつもりだ」
がちゃりと開いたドアの向こうから現れたアリーは、物凄く胡乱げな顔で悠利を見下ろしていた。別に何もやらかすつもりなどない悠利は、困ったように眉をハの字にする。その顔を見てため息をつきながら、アリーは悠利を室内へと誘導した。
アリーがそんな反応をしてしまうのも、無理はないことだった。というのも、悠利にそのつもりはなくとも、アリーに質問して色々情報を手に入れた後に、八割ぐらいは何かをやらかしているのだ。悪気は一切無いが、とりあえず、予想の斜め上に突っ走るのはお約束だったりするのである。
「それで、何が聞きたいんだ?」
「実は僕、さっき自分のステータスを確認したんです」
「……で?」
「レベルがちょっと上がってたんですけど、戦闘してないのにどうしてレベル上がったのかなーと思って」
「……」
のほほんと悠利が問い掛けた質問に、アリーは目を点にした。そんなことか?と彼の顔が雄弁に物語っている。もっと斜めにぶっ飛んだ何かを聞かれる可能性を考えていたらしい。……その勘は別に外れてはいない。悠利は順番に聞こうと思っているだけで、最終的には斜めにぶっ飛んだ事実を伝えてくるのだから。
とはいえ、現段階でアリーに投げかけられた質問は、普通の範囲内だった。なので、自然と答える彼の表情も柔らかくなる。
「確かに戦闘で相手を倒すとレベルが一番上がりやすいが、技能を使っていれば少しずつ経験値は貯まる。お前の場合、技能の使用で経験値が入ったんだろう」
「なるほど。だから、料理技能とかがレベルアップしてたんですね」
「……50以上の技能レベルを上げるのには、時間がかかるのが通例だがな」
「え?」
「気にするな。お前に普通は期待していない」
「アリーさん、それちょっとひどいです」
「規格外が何言ってやがる」
端的な説明は実にありがたかった。悠利は素直に納得して、にこにこと笑っている。しかし、そんな彼に伝えられた新事実。技能レベルは最大で100で、99の次はMAXと表示されることになる。そして、レベルが上がるにつれて必要とする経験も増えていくというお約束に則って、技能レベルは50を越えると極端に上がりにくくなるのであった。
しかし、悠利はその常識の外側にいるらしかった。どこかで増量補正でもかかっているのか、本来なら殆ど技能レベルが上がらないであろう50スタートだというのに、割と普通に成長しているのだ。一番よく使っている料理技能など、65レベルに到達してしまっている。不思議を通り越して、悠利だからで片付けられそうな案件だった。
拗ねたように唇を尖らせる悠利であるが、アリーの返答は素っ気なかった。だがしかし、この場合はアリーが正しい。存在自体が規格外と呼べる悠利である。本人がほわほわしていようと、手にした能力は世界最強のチート様なのだから。……当人にそれを活用するつもりがまったくないのが、実に悠利らしいと言えるが。
「じゃあ、次の質問良いですか?」
「まだあるのか」
「はい。僕、職業に主夫と錬金術師が増えてたんですけど、主夫って職業なんですか?」
「そんな珍妙な職業は聞いたことがねぇよ」
「えー……」
「……職業を鑑定してみろ」
「はーい」
面倒そうなアリーに促され、悠利は自分のステータスを確認し、鑑定画面の職業部分へと視線を向ける。そして、他の二つである探求者と錬金術師ではなく、主夫の部分をじーっと見詰めた。パソコンの画面をクリックするように、新しい鑑定画面が開かれる。
――主夫
家事全般を行う男性のこと。主婦の対義語。
この職業を保持している者には、家事において補正が入る。
なお、釘宮悠利専用のユニーク職業です。
「……アリーさん、ユニーク職業って何ですか」
「特定の条件を満たした者が手にする専用職だ」
「……主夫、僕の専用ユニーク職業らしいです」
「……そうか」
ツッコミを入れるのに疲れたらしいアリーが、良かったなと全然気持ちのこもってない声で告げた。悠利もそれを半ば上の空で聞いていた。というのも、二人の脳裏を占めたのは「探求者に続いてまた専用職業出てきた」という考えだったからだ。探求者は別に悠利専用ではないが、現時点でこの世界に探求者は悠利一人なので、ほぼほぼ専用職業で間違いがない。
主夫という、別に特殊でも何でもなさそうな部分すら、ユニーク職業になってしまっている現実に、頭が痛くなる二人だった。主婦は普通に汎用職業っぽいのに、何故主夫になるとユニーク職業なのか、二人には全然解らなかった。
解らなかったが、考えても答えなど出てこないし、頭が痛くなるだけなので、彼らはそれを忘れることにした。ユニーク職業とはいえ、主夫の特色は家事がはかどることぐらいのようなので、大きな問題はないだろうと思ったのだ。……人、それを現実逃避と言う。しかし、それぐらい許されたい二人だった。
「アリーさん、実はもう一つ質問があるんです」
「……今度は何だ」
「実は、僕の錬金の技能、最初は普通に1だったのに、今見たら、∞なんです……」
「……は?」
「MAXとかじゃなくて、∞なんです」
「…………またか!」
そろーっとアリーの顔色をうかがうようにして悠利が呟くと、アリーは一瞬呆気にとられた顔をして、次の瞬間天を仰いで絶叫した。なんてこったい再びだ。
だがしかし、別にこの件に関しては、悠利が何かをしたわけではない。悠利だって理由が知りたいくらいだ。普通にレベル1だったはずの錬金技能が、気付いたら∞になっていたなんて、どんな冗談だと言いたいのである。
そもそも、技能レベルに∞などという奇妙奇天烈な表記があるのは、悠利だけである。転移者補正なのか、チート的な何かなのかは解らない。どんな基準で∞というレベルが存在するのか、教えて欲しいぐらいだった。
「……心当たりは?」
「ないです」
「鑑定してみた結果は?」
「……無限の可能性を秘めています、って書いてあるんです」
「レベルの説明じゃねぇ……!」
「僕もそう思います……」
二人揃って脱力した。何故そうなったと全力でツッコミを入れたいぐらいだ。だがしかし、そうなっているのだから仕方ない。
そして、彼らが出した結論は、「とりあえず放置しよう」であった。口外しなければ良いだけの話だ、ということで落ち着いた。というか、考えてもどうにもならなかったのだ。
幸いと言って良いのか解らないが、鑑定系の技能は自分より上位者を鑑定することは出来ない。つまり、この世界最強の鑑定チート様である【神の瞳】さんを保持した悠利を鑑定できる存在は、どこにもいない。口にしなければ、誰にも知られることはない秘密なのである。
「何でお前は次々面倒なことばっかり起こすんだ」
「僕何もしてないです」
「意識的か無意識かの差だけだろうが」
「えぇえええ……」
そんなことないのになぁ、と悠利が呟く。アリーがそれに対して、嘘つけと小言を口にする。そんないつも通りのやりとりを続ける二人なのでありました。
とはいえ、日々頑張れば多少はレベルアップすると知った悠利は、うきうきしながら毎日の家事を頑張るのでありました。なお、能力値の低さは特に気にしていない悠利だった。
やっぱり普通では終わらなかった悠利でした。
でも、チートだろうが規格外だろうが、悠利のやることは変わらないんですけどね!
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