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植物の魔王、勇者になる  作者: 抹茶スライム
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冒険者ルテア②


 (ここが冒険者ギルド…)

 

 目の前には三階建ての大きな建物があった。

 扉の上に交差した剣と盾の紋章が飾られてある。

 この紋章が冒険者ギルドの証だ。

 

 「到着しました。ここが冒険者ギルドです」

 

 御者台から降りてきた兵士が案内をする。

 

 兵士は「少々お待ちください」とだけ言ってギルドの門を押し入る。

 その間に他の兵士達が他の女性達を馬車から降ろしていく。

 

 ルテアは自ら馬車を降り、ギルドを外から眺める。

 

 (昔と違って随分大きい…)

 

 100年前は大体が平屋の建物であった。

 だから比べて見ればギルドが昔より儲かっていることが分かる。

 

 ルテアがギルドを眺めてから暫く、門が内側から開かれる。

 

 「お待たせしました」

 

 話をつけてきたのだろう兵士がスキンヘッドで筋骨隆々な大男と共に出てきた。

 

 その大男はルテアに歩みより握手を求める。

 ルテアはそれに応える。

 

 「よく来たな。俺はルドルフ、ここのギルドマスターをやっている」

 

 「ルテアです。暫くお世話になります」

 

 ルテアは適当な言葉を返し、大男ルドルフを観察する。

 

 (…この人強い。Aランク…いや、Sはいっているかも)

 

 ルテアは感知のスキルと過去に戦った様々な強者の経験(データ)を元にルドルフの強さを測る。

 

 スッと握手していた手を離す。

 

 (この強さならオムニールを取り戻せたのでは…?)

 

 当然の疑問だ。

 事実、実力的に言えばルドルフがここの冒険者なり兵士なり引き連れれば占拠出来たであろう。

 しかし、それが出来ない理由があるから攻めあぐねていたのだ。

 

 (…まぁ、焦って聞くことではないね)

 

 

 ルドルフはしっかりした子だなぁなんておどけつつ優しく語りかけるように言う。

 

 「もう大丈夫。ここなら安全だ」

 

 続けざまに今度は仰々しく両手を広げ親しい友人が来たかの様な声をあげる。

 

 「そして、ドルイド砦街のギルド“ブレイブホース”へようこそ!」

 

 その時、ルドルフの頭がキラリと輝いた。

 

 

-----

 

 

 私がギルドへ来てから2日が経過した。

 私達はここの3階の宿を貸して貰っている。

 

 女性達はもう既に何人か家族や親族が引き取って行っていた。

 

 昨日の内にギルドが情報を広めたのだろう、直ぐに身内と名乗る人が顔を出していた。

 どうやらオムニール襲撃時にそこから逃げてきた人達、逃がされた人達がこのドルイド砦街に住み着いていたらしい。

 

 皆被害者に泣きながら謝罪の言葉を掛けていたことからして、当時彼女は置いていかれてしまったのだろう。

 

 それでも、生きているだけ儲けものだ。

 …きっと、そう思う。

 

 ちなみに私はここ2日間事情聴取されていた。

 勿論オムニールで起きたこととここに来るまでの事だ。

 

 私は自作物語を聞かせて真実をはぐらかした。

 

 謎の勇者のスキルなんて知らない、顔も知らない、ゴブリンも知らない、どうやってドルイドに来たかはその勇者のお陰とした。

 

 私自身についてはあまり記憶が無いことにしておいた。

 その方が非常識人だと見られないし、なにより根掘り葉掘り聞かれたくない。

 

 兎に角、ルドルフには信じて貰えたし、このギルドには半年は居てもいいと言われている。

 まぁ、タダ飯を食い続ける予定は無いけどね。

 

 

 そして今、私は何をしているのかと言うと。

 

 「あの、冒険者になりたいんですけど」

 

 「はい、新規登録ですね?ではこちらの用紙に必要事項をお書き下さい」

 

 ギルドのカウンターで冒険者登録の真っ最中だ。

 

 冒険者というのは、ギルドが斡旋した素材採取、捜索、捕獲、魔物討伐等の依頼をこなし報酬を得る職業だ。

 畑仕事や商売、学や知識が無くとも成れる職業でもある。


  

 これからの生活資金も必要だが、情報集めや世界中を見て回るには冒険者が一番なのだ。

 

 しかし、それには危険も伴う。

 魔物に食べられたり、滑落したりと様々だ。

 

 うん、私は平気そうだ。

 

 私は受け取った紙に氏名、年齢(虚偽)、出身地、戦闘方法、スキル(任意)を書き込んでいく。

 

 ん…。

 ハッカ村は多分もう無いよね…。

 

 …年齢は嘘を。16歳で。

 

 戦闘方法は魔法使い…でいいかな?

 

 スキルは任意か…、まぁ任意なら書かない。

 

 後はギルドのルールとか規約に目を通す。

 

 

 つまんで話すと、先ず入会出来る年齢は12から。でも討伐とか危険が伴う依頼は15歳から。

 

 冒険者ランクはF~Sまで。

 Bランクから指名依頼なんかが来るらしい。

 それとCランクからランクアップ試験があるとか。

 

 …もう説明が面倒なので内容をばっと羅列する。

 

 ・クエスト連続失敗や1ヶ月間クエスト達成無しの場合、ランクが1つ下がる。この時、最低ランクのFランクであった場合除籍処分となる。


 ・ギルド内暴力、攻撃魔法使用、抜刀禁止。冒険者の責任はギルドは一切負わない。


 ・ギルド内には宿や酒場、武器や防具、道具屋それと鍛冶屋に調合所、換金場所、さらに治療施設もある場合がある。

この内、宿と換金施設は冒険者のみ利用可能。

冒険者割引がある場合がある。


 ・道具、素材、魔石換金において、手数料がかかる。手数料は全体の1割。


 ・ギルドは他冒険者ギルドと協力関係にある。敵国のギルドの場合は協力的ではないかもしれない。

また、商人ギルドと協力関係である。


 ・パーティーやクランの設定はギルドにて行う。

 

 …ふむふむ。後はこれに確認のサインっと。

 

 他は小難しい内容が続いていたから省略する。

 

 

 それよりどうしよう。

 

 ギルドに登録するには入会費と年会費が必要なのをすっかり忘れていた。

 年会費は別にいい。

 

 ただ、入会費銀貨1枚が無い…!

 むしろ銅貨すら無い…。

 

 私がペンを置いて頭を抱えていたら誰かが私に近付いてくる気配がした。

 

 そちらへ顔を上げて向くと、ギルドマスタールドルフが居た。

 

 「よぉ、職員に聞いたよ。ルテアちゃん冒険者になりたいんだってな」

 

 「…そう、です」

 

 「なんだぁ?随分辛気臭せぇ顔してんな」

 

 「うっ…じ、実は…」

 

 私は正直に話した。

 そしたらルドルフはガハハと豪快に笑いだした。

 

 少し不機嫌な顔をルドルフに向けていたら「ごめんごめん」と平謝りをしながら私に何かくれた。

 

 「…!…いいんですか?」

 

 「ああ、遠慮すんな!貰っておけ!」

 

 またガハハと笑いだすルドルフ。

 

 私が貰ったのは金色に光る硬貨。

 -金貨を1枚貰った。

 金貨は上から2番目に価値のある硬貨だ。

 

 ありがとうルドルフさん貴方のことはきっと忘れない…。

 

 

 「…ただ、この仕事は危険が付き物だ、命を落とすなんてザラに起こる。それでもなるか?」

 

 「大丈夫です。私、それなりに戦えますから」

 

 「…ああ、それは前に握手した時に感ずいていたよ。…その歳にしては普通じゃない魔力を微かに感じてね」

 

 あの時探りをいれていたのは向こうも同じだったとは知らなかったよ。

 

 しかも私の魔力に気付いたとなるとやっぱり相当な実力者だ。

 半端な人間には相手の魔力を感じとることが出来ない。

 

 具体的に言うと【魔力感知】のランクが高いということになる。

 私が魔力感知最高ランクのSを取得しているけど、それでもある程度しか強さが分からないのだ。

 大体Aランクかな?とかそのレベルだ。

 

 だから恐らくルドルフは魔力感知CかBランクだと思う。

 十分強い。

 

 

 「…そうでしたか、では冒険者になれますね」

 

 「ああ、だが無理はするなよ?」

 

 「ハイ!お金ありがとうございました!」

 

 優しいおじさんにニッコリと笑い、カウンターへと戻る。

 

 「お姉さん、お願いします」

 

 「はい、ありがとうございます。…うんうん。…はい!書類に不備は御座いません。後は入会費銀貨1枚を支払って頂ければ登録完了です」

 

 私は早速金貨を差し出す。

 お釣りは銀貨9枚。

 当分の資金としては申し分ない。

 

 

 そこでふとあることが気になったので聞いてみた。

 

 「…そう言えば、犯罪歴の確認はしないのですか?」

 

 私としては入会費の次に障害となる項目であったが、今までそれを確認する素振りは無かった。

 

 「あぁ…それは昔は行われていたのですが、今はこんな時代なので…」

 

 と、そこまで言って私の顔にお姉さんの顔が近づいてきた。

 お姉さんは周囲をチラチラ見ながら右手を口元に持っていき囁くようにして話し出す。

 

 「…正直なところ犯罪者の方でも力ある人材が必要なのです」

 

 「…大丈夫なの?」

 

 私も囁き返す。

 

 「その為にギルドでは責任を負いませんし、冒険者が犯罪を犯した場合厳しい処罰がありますので…」

 

 大丈夫ですと言わんばかりの笑顔を向けながら顔を離し、姿勢を正すお姉さん。

 

 …いや大丈夫じゃないでしょ。

 

 「まぁ分かりました。ありがとうございます」

 

 「はい、他にも質問があればいつでも聞きに来てくださいね」

 

 「はい」

 

 お姉さんは少々お待ちくださいと言い裏方へ行ってしまう。

 

 それから間もなくしてお姉さんが戻ってきた。

 

 「はい、これがあなたのギルドカードです!これにはあなたの個人情報が載っていますので、無くさないようにして下さいね。もし、無くされた場合再発行には銀貨3枚頂きますのでご注意を」

 

 私は金属製で灰色の長方形のカードを受け取った。

 表にはギルド共通のマークが彫られてあり、裏には先の書類に書いた内容が彫られていた。

 

 この灰色というのはランクを一目で分かるようにしたものだ。

 Fランクが灰色、Eランクが青色、Dランクが緑色、Cランクが黄色、Bランクが赤色、Aランクが黒色、Sランクが金縁の銀色だ。

 

 私は当然最低ランクの灰色のカード。

 

 「それでは、頑張って下さいね!」

 

 私はお姉さんにお礼を言ってカウンターを後にする。

 

 ちなみにルドルフは既に居ない。

 流石に暇では無さそうだ。

 

 私は2日間でドルイド砦街を探索してあるので街には行かない。図書館で少し情報を集めたし、服はギルドが何着かくれた。

 それより、冒険に必要な道具等を買いに行く。

 

 武器や防具等冒険者に必要な物は大体このギルド内で購入出来るので、そちらへ行く。

 

 場所はここの2階。

 ちなみに、1階が総合カウンターに酒場、換金所、解体所、調合所、治療施設があり、2階に武器、防具、道具等の店が並んでいる。3階には宿のみ。

 ちなみに鍛冶屋は近くの工房にある。

 

 もう、必要なものを全部詰め入れたようなギルドだ。

 その分とてつもなく広いけど…。

 

 けど、とても面白い。

 

 見かける人は皆活気に溢れていて、魔族の侵攻なんてへっちゃら!って感じがする。

 

 酒場で魔物の討伐自慢を語る人、カウンターのお姉さんをナンパする人、武器屋のおっちゃんに値引きを交渉する人。

 街では子供は元気に駆け回り、商人は大声で客引きをし、兵士は喧嘩を止めに入っている。

 

 本当に元気だ。

 けれど、暗い表情の人も居た。

 

 それは今でも見かける奴隷の人。

 やっぱりみすぼらしい格好に簡単な防具を着けさせて冒険者と共に行動をしている。

 

 助けたいとは思うけど、それを見て私は昔のように暴力的に、短絡的にならない。

  

 私も成長したのだ。

 

 もうかつての魔王ではない。

 

 生まれ変わった私は今日から“冒険者ルテア”だ。

 

 「ん。頑張ろう」

 

 小さく気合いを入れた。

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