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Precious Orb - 宝珠の庭 -  作者: 赤月はる
守るということ
98/103

心理魔法使いの葛藤 sideウゲツ

  





カイに担がれて猫の庭の空き部屋へと寝かされた男は、名前をギルベルト・スクワイア・蘇芳と言う。任侠組織スクワイア一家の跡取り息子であり、父のダライアス・スクワイア・蘇芳は、マザー(蘇芳分体)の第三の鍵を持つというダミー情報に利用されることを甘んじて受け、秘密裡にハイモ副知事と連携を取っていた。


蘇芳において任侠組織は非合法ではない。デミの犯罪組織とは違って、カーマイン西方軍がフォローしきれない民間レベルでの小競り合いや商売人たちの軋轢へ割って入って、その人柄でうまく治めることができるからだ。軍規でギチギチに縛られて不満や鬱屈をためやすい蘇芳一族のガス抜き役とでも言おうか。


だがギルベルトは、ダライアスが「ラウードはスパイかもしれん、手元に置いて様子を見るか」と思っている隙に、本気でラウードの強さに憧れてしまった。ラウードとしては願ったり叶ったりだっただろう。


鍵の有りかを探るためにスクワイア一家の様子見をしていたら小競り合いが起こった。その小競り合いを少々手荒に止めて目的のダライアスへ近づこうとしたら、息子が自分を憧れの目で見ている。


――こんなに自分への依存心を植え付けるのにうってつけの相手などいない。


洗脳準備薬から始まり、呪術を受け入れやすい構造をした琥珀のお守りを持たせ、自室から遠隔で呪術を送り込む。この方法であれば、マナに敏感なアルカンシエルの民に「蠱毒」の気配を悟らせることもない。


「ラウード師匠」のことをとにかく盲信するように。師匠の言うことは間違いがない、師匠のためならなんでもする、師匠を害する者は許さない。そんな風に「憧れ」を「心酔」や「盲信」というレベルへ上げる為に、ラウードはギルベルトへ呪術を使っていった。


当然自分の表層意識へも自己暗示をかけて、老大哥ラオダージェの記憶やスパイの目的に関することが必要な時以外には浮き上がらないようにする。


ラウードは、老大哥ラオダージェの中でも洗脳や心理操作のスペシャリストだった。


だがギルを使ってスクワイア一家の親分が「鍵」を持っているか探らせた時、ギルは事も無げに「それウソ情報っすよ師匠。師匠が知らないわけないじゃないっすか、からかってるんすか」と言った。


鍵のダミー情報が存在することを知ったラウードは標的を変えた。副知事かもしれないという噂の真偽を確かめて方針転換しなければならない。そのためラウードは、特殊部隊の臨時指南役を受けた。


この時点でラウードは、九割がたギルへの興味を失っていた。





*****





「ここまでがラウードに自白の魔法をかけた内容の総合報告だね」


僕がこう言うと、パパはむっつりと黙り込んだ。

本当は西方軍がラウードを尋問するから引き渡そうとしていたけど、レティの状況を聞いてからパパはラウードに自白魔法を使うよう僕へ要請してきた。当然最大出力でやってやったよ、やつは廃人の一歩手前になってるはずだ。


まあ自白内容と一緒に西方軍へは引き渡したし、何も問題はない。

でも問題はこのギルベルトとかいう阿呆の処遇だ。

人格者と名高い父を持ちながら、蘇芳一族という西方最前線の要塞都市にいながら、自らタンランのスパイの罠にかかった。挙句にそれを心配した僕の姉へ向かって暴言。こいつ、記憶をまっさらにした挙句に何か別のトラウマでも仕込んで一生淀んだ生き方でもさせてやろうか。


「ウゲツ、気持ちはよくわかるけど。彼は圧倒的な強さを見せられてラウードに憧れただけだ。そこは蘇芳の青年として特におかしい反応ではないよ。非道な真似をしたのはラウードで、ギルベルトは洗脳の影響で本来の良さを出せずにいただけだよ」


「わかってるよパパ。でもレティの心の傷は?こいつがうっかり洗脳なんてされたせいで、何の罪もないレティがなんであんなに……っ」


「……タイミングが悪かったんだよ。あれについてはカミルもルカも迂闊だったと反省している。西方軍を待つのは邸内でもよかったはずだ。単純にさっさと引き渡すなら外にいた方がいいと思ってしまったから、ギルに見られてしまったんだろう?それに、レティだってカミルやルカと接触する必要はなかったんだから。通信で話せばよかったんだよ。慎重さを欠いた結果なんだ」


「……わかった」


僕は正直言えば、カミルにもらったパンチ一発(しかも気絶させるためだけの軽いやつ)で許される予定のギルベルトが憎たらしくて仕方ない。気絶したまま洗脳解除をして、有害な記憶を封印して?こいつはレティを傷つけたことを忘れ去ったまま、のうのうと平和に暮らしていくのか。


「ウゲツ、気持ちはよくわかるって言っただろう?僕だって釈然としない気持ちはあるさ、娘に暴言を吐かれたわけだからね。でもよく考えてごらん、ギルも被害者に間違いはない。どうしても許せなくて心がささくれだったままなら、危ないと判断して記憶操作は許可できないよ」


確かにその通りだ。

心理魔法を得意とする僕は、客観的に見ても相当な「危険人物」だ。僕の自制心がどこまで強いか弱いかというだけの判断でしか、僕という人間が「心理魔法のスペシャリスト」なのか「洗脳集団で国家反逆を起こしかねない危険人物」なのかの判断はつかないんだ。


僕は深呼吸をして、パパへ提案した。


「パパ、クレアやレビと相談させてほしい。確かにいま僕は冷静さを欠いていて危険だ。だから僕が戻るまで、ギルベルトを眠ったままにさせてほしいんだ」


「――わかった、許可する。ノーラに睡眠効果の毒核をもらっておいで、僕が制御して見ていてあげるから」


「ありがとう。すぐ毒核をもらってくるよ」


キャリアーホールへ出て、「ヴェールマラン島」にある薬剤室へ向かった。ここには宝珠諸島の中で一番規模の大きな薬剤室がある。ニーナとノーラはたいていここへ籠ってヴェノムとキュアの研究をしているんだ。薬剤「室」っていうより、毒と血清の研究所って言った方がしっくりするけど。


事情を軽く話してノーラから睡眠効果のある毒核をもらって猫の庭へ帰還。パパへ渡してギルを眠り続けさせてもらってから、僕はクレアとレビがいるであろう「月白島」へ向かった。






  

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