【閑話】紅玉考察
閑話もう一回すみません(´∀`)
実際に「噴火」を見た蘇芳部隊長が抱いた感想と、紫紺の長の考えを入れてます。
この作戦は対外的に「紅玉」が出動したことになっているがゆえの考察でございます。
「敵性大型魚殲滅ミッション」のためにアルカンシエル南岸へ展開していた部隊のうち、馬車ではなく十数騎で先駆けをしていた蘇芳兵士はその災害を目撃することになった。
「な…!」
「くそ、長官の仰っていたことが当たった!通信兵、クルト長官へ緊急連絡だ!白縹領海よりもかなり先の外洋で海底火山噴火発生、敵性大型魚が潜伏している座標にかなり近いと伝えろ!ブラボー隊、チャーリー隊、先行して沿岸の被害状況を確認!アルファ隊はこの場でいったん待機、長官の指示を仰いで後続隊への中継基地になれ」
自然災害に備えよという指示が事前にあってよかったと、隊長は思った。
あの火柱は…あれは、遠目にも恐ろしいものだった。
あれが明日の十時以降に発生していたらと思うと冷や汗が出る。今回の適性大型魚殲滅指令には、紅玉が出動すると聞いていた。いくら白縹の生体兵器とは言え、敵にやられるようなことはなくとも自然災害に勝てるものではない。
この国は一歩間違えたら「今世紀最強の魔法使い」を失うところだったのだ。
……若い頃はその不安定さでろくに使い物にならなかった紅玉だが、緑玉と結婚する直前あたりからは安定した「殲滅級戦力」となっている。彼が出た戦場は当然のように常勝無敗であるし、安定した後ほんの数年で無謀な侵攻をしてくる敵性国家がナリを潜めるようになってきていた。
おかげで無駄死にする蘇芳も少なくなり、各部族の街への警備を手厚くできている。十数年前に比べたら、治安の良さは国全体で高水準となっているのだ。まあいまだにコソコソと蠢くテロリストたちがいるから、今回のような大規模作戦も発生する訳だが。
何にせよ、これは天の配剤だ。
「隊長!クルト長官より『予定通りに展開し、ヴァイスによる敵性大型魚の所在が確認されるまで作戦続行せよ。海底火山噴火の騒ぎに惑わされて外患を見逃すことのないように』とのことです」
「ご苦労。ブラボー・チャーリー隊と後続隊への連絡を終えたら出発する!」
再度馬を走らせて、所定の地点への露払いの任に着く。
あれで上陸しようとしていたテロリストどもも一掃されていればいいのにな、と蘇芳の隊長らしからぬ希望的観測で、もうもうと海に立ち昇る噴煙のような水蒸気の雲を見ていた。
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「っはぁ?海底火山が噴火しただと?敵性大型魚がいるあたりの海域でか?」
紫紺の長ヒエロニムスは、七十五歳とは思えない壮健さだ。相変わらず気を許した者以外へは厳しい態度を崩さず、去年ジギスムント翁が高齢による体調不良で引退してからはその厳しさに拍車がかかっていた。
だがあまりにもこちらに都合のいいような自然災害が起こり、素っ頓狂な声があがるのを押さえられていないという珍しい事態になっていた。
「――ユリウスを呼べ」
ジギスムントが引退した後、もっぱらヒエロニムスの手足となって動いているのは若手のユリウス議員だった。だが、いまヒエロニムスの胸中ではとんでもない予測…というには決定打が無さすぎる、妄想とでもいうしかない考えが渦巻いていた。
ユリウスが議会を抜けだしてくるまで少々時間がある。
ヒエロニムスよりも六歳年上のジギスムントだが、こういう時は彼に助けてもらいたい。「精霊が必要なら必ず連絡しろ」と言われている言葉に甘えて、マザー端末で呼び出した。
『…海底火山の件か』
「お見通しか。俺の特技を取るなよジギー」
『あれは海底火山ではない』
「やっぱりか。精霊は何と?」
『儂の精霊も萎縮していて、詳細はわからん。だが萎縮するということは、もちろん緑玉の娘だな。あの座標へ向けて精霊を放ってあったが、たぶん噴火があったのと同時刻に地脈が支配された感覚があった。これでその敵性大型魚が噴火に巻き込まれて全滅していたとでも報告が入ったら、その時はお前の考えが正しいと証明されたようなものだ、ヒロ』
「そうか、助かったよジギー。……具合はどうだ?」
『ふん、いいわけないだろうが。結局ユリウス議員を矯正できないまま引退など、慙愧の念に堪えん。今頃ようやくあのトボけた男のバックボーンがわかるとはな』
「くく…まあ隠さざるを得ないだろうよ。大規模魔法を自在に操る一族との癒着なんぞ、国家反逆罪にしかならん」
『…これがそのへんの紫紺だの露草だのなら、単なる友人で済む。あの一族は…憐れだ。紫紺に魅入られなければこんな不遇を託つこともなかったろう』
「ふん、ジギーもヤキが回ったか?憐れまれるような可愛い男か、あの紅玉は。俺にはな、頑丈な首輪と鎖に繋がれて見える紅玉が、とっくのとうにその首輪を砂糖菓子にでも替えて平然としているように見えるぞ」
『お前にそう「見える」のなら、そうなのだろうよ。まったく、愉快だな、ヒロ』
「ぶっはっはっは!ほーんとだよな!俺とお前の張った網を軽々とすり抜けやがってな?ぶぅっくっく…いいのが育ったなあ」
『まったくだ。ペトロへいい冥途の土産ができた』
「……そうか。ひと段落ついたら行くよ」
『来んでええわ。仕事せい』
通信を切ったヒエロニムスは、側近が案内して中庭へ歩いてくるお気に入りの若手議員を眺めていた。まったく、破天荒な議員だ。クランはまったく正体不明、派閥を単独で大きくしていき、ほぼ確定事項で次代の長となるだろう。
妻はデミ出身の美女、同盟関係にある白縹の中心人物たち。
「お前の目には、この虹の国がどう見えてるんだろうなあ?」
小さくつぶやくと、ヒエロニムスは頭を切り替えて「海底火山噴火」についての報告を聞く姿勢になった。
※ジギスムント翁が言った「ペトロ」とは、可愛がっていた末の息子の名です。
ハンジンという小国の過激派テロの犠牲になって亡くなっています。




